東方お仕事記   作:TomomonD

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六十七仕事目 紫の提案と、赤の譲歩

満月が沈み、幻想郷に朝がやってきた。

肝試しは、とある事情により、急遽中止となった。

その事情とは……。

 

「え~と、それじゃ、何かわかる人から説明してくれる? 特に、レミリアと魅魔、あとそこの……うどん、と妹紅だっけ?」

霊夢が一人ずつ指差しながら名前を挙げていった。

「ちょっ、私は鈴仙・優曇華院・イナバです! うどんでも、小娘でもありません。呼ぶときはせめて鈴仙と……」

「はいはい。とにかく、何かわかる人、しっかりと発言を求めるわ」

お茶を飲み、コトンと湯呑みを机に置かれた。

 

 

今、博麗神社には、かなりの人数が集まりつつあった。

まず、霊夢、一十百、魔理沙、萃香、のいつものメンツ。

これに加えて、紫、レミリア、咲夜、魅魔、の朝食に度々くるメンツ。

さらに、妖夢、アリス、鈴仙、妹紅、と総計十二人が博麗神社にいる。

そのうちの十一人は、机を囲んで話し合いを始めようとしている。

 

話し合いに参加できていないのは、一十百。

今日はまだ起きてこない。

誰よりも早起きの一十百が起きてこないのは、確実に何かあった証拠だ。

そして、集まった人の大半はその“何か”に心当たりがあった。

赤い光を揺らめかせた一十百と、幻想郷の一角が破壊され、完全に修復した異変である。

 

 

一体何がなんなのか、それをはっきりさせるために、急遽話し合いが行われたのだった。

議題は言うまでもなく、赤い一十百の事についてだ。

 

「じゃあ、私から話させてもらうわ」

スッとレミリアが手を挙げる。

「私が言えることは、一つ」

集まった人がレミリアの発言に期待する。

なにせ、あの肝試しの時、最も長い時間一緒にいたのはレミリアだからだ。

レミリアは手を顎の下に置き、目を細めた。

そして一言。

 

「怖かったわ」

 

ズダーンとほぼ全員が滑った。

咲夜だけが、ハンカチを片手に、お疲れ様ですお嬢様と涙を拭いていた。

 

「アンタの感想を聞いてるんじゃないのよ!!」

「仕方ないじゃない! 怖かったの! いつもの霊夢の何倍も怖かったわ」

「それはどういう意味かしら? まず夢想封印してから色々と聞いてあげる」

霊夢がスペルカードを構えようとする。

それを、横にいた魔理沙とアリスが止めにかかる。

「ま、まあ待つんだぜ。とにかく今はダメだ」

「そうよ。せっかくの話し合いなんだから、話し合い(物理)である必要はないわ」

「……わかったわ」

ふぅ、と霊夢が一息ついた。

 

 

「それで、もっとマシな意見を聞きたいんだけど」

「じゃ、私と、そこのうど……え~鈴仙だったけか? まあ、説明しようじゃないか」

魅魔が軽く手を挙げて発言する。

鈴仙も頷いた。

 

「この前の満月が欠けたときも、一度、一十百が赤い光を揺らめかせたことがあった」

「あの時は、私が彼の波長を狂わせてしまったから、ああなってしまったんだと思ったんだけれど……」

「……それって、後遺症が残ったんじゃないの?」

アリスの一言で、鈴仙に冷や汗が流れる。

「い、いや、そんなことは、たぶんないと思いますけど……」

「考えてみれば、昨晩も満月だったし。私の瞳の色は赤だからなぁ」

話し合いに参加していた妹紅もちょっと考えてそう言った。

霊夢がうんうんと頷く。

 

「なるほど……。紫、鍋を一つ用意してくれないかしら?」

「ちょっとぉ! それ、ぜったいに私を兎鍋にするつもりじゃないですか!」

「安心しなさい、うどんと一緒に茹でられれば本望でしょ?」

「なんでそれが本望になるんですか!」

半泣き状態の鈴仙が慌てて逃げようとするが、妖夢の楼観剣に足を引っ掛けて転んでしまった。

足を引っ掛けた衝撃で、妖夢がコテンと横に倒れた。

「ふぎゃ!」

「みょん!」

「何遊んでるのよ……」

横から見ていたアリスがため息を吐いた。

 

 

「さてと、とにかく原因分かったわけだけど……。解決策が見つからないわね」

「放っておいても大丈夫だと思うぜ。ちょっと捻くれてたけど、一十だったし」

「そういうわけにはいかないわ。あれだけ強力な力を持ってる存在を、放っておくわけにもいかない」

八雲紫が少し悲しげな表情を浮かべながら静かにそう言った。

「紫、どうするつもり?」

「幻想郷から追放するわけにもいかないから、良くて宵闇のルーミアのように封印。最悪の場合は……」

「さすがに、それは承諾しかねるわよ」

霊夢がトンと机を軽くたたいて、そう言った。

少し重い空気が部屋の中に漂う。

 

そんな空気の中、八雲紫が口を開いた。

「……私だって、正直こんなことはしたくないわ。けれど、幻想郷を守るため、秤にかけないといけないことだってあるのよ。たとえ、その選択で幻想郷中から恨まれることがあってもね」

「紫……」

「悪いけど私は反対だ」

くいっと瓢箪の酒を飲んで萃香がそう言った。

いつものような酒に酔っているような表情ではなく、真面目な表情を浮かべている。

 

「仮に十百を封印するとして、誰がその役目をやるんだい? まさか、紫一人でどうにかなると思ってるわけじゃないだろう」

「それは……」

「誰もが、紫みたいに考えられるとは思えないからね。そうなると、手伝ってる人に一生その重みを背負わせることになるんだよ。それも込みで、秤にかけたわけではないだろう」

「………」

萃香の話を聞いて、八雲紫が軽く目を伏せる。

今回の事で幻想郷の住人になるべく被害を出したくない八雲紫は、どうしたものかと考え込んでしまったようだ。

 

そんなやり取りを見て、霊夢が驚いたような声を上げる。

「萃香が真面目なことを言ってる……」

「えぇ~。霊夢、今そこでその発言をするのか。私の今までの言葉が台無しだよ」

がっかりしたのか、萃香が机に項垂れてしまった。

 

 

「結局、どうするつもりなのかしら?」

レミリアがキラリと光る瞳で八雲紫の事を見る。

八雲紫は目を閉じ考えていたが、何かを思いついたのか、ポンと手を打った。

「封印も無理、追放も不可、退治……は論外。なら、後は……」

「後は?」

「説得するしかないわね」

「説得って……まさか、赤い方の一十百を説得するつもり!?」

レミリアが首を大きく横に振る。

「無理。無理よ!」

「やってみなければ分からないわよ?」

「……それは、赤い一十百に会ってないから言えるのよ」

レミリアの一言に同意するように、うんうんと、魅魔、鈴仙、妹紅が頷く。

赤い一十百に面識のあるメンツは、説得は無理と考えているようだ。

霧雨魔理沙を除いてだが……。

 

「あら? 魔理沙は大丈夫だと思うの?」

「話くらいは聞いてくれると思うぜ。まあ、くだらん、とか言われて、話し合いにならない可能性があるけどな」

「それは、説得できないっていうのと同じなんじゃないの?」

「それもそうだな」

魔理沙の一言に、やれやれと霊夢が額に手を当てた。

 

「ねえ、紫。一十百の事を放置って訳にはいかないの?」

「さすがにそれは危険よ。この前みたいな弾幕勝負があったら大変じゃない」

「そのことなんだけど、紫は青い方の一十百も封印するつもりだったの?」

「え? 赤い方の一十百君を封印するから、その過程でもしかしたら……ってことはあるけど。青い方……つまりいつもの一十百君にはなるべく被害を与えないつもりよ」

そこでちょっと霊夢が考える。

 

確かに、昨晩の弾幕はすごかったわね。

途中で思考が停止したけど、すごく強力なものだったのは覚えてるわ。

でも、それってつまり……。

 

「紫。覚えてないのかもしれないけど、いつもの一十百だって十分すぎるほど強力なスペルカードを使うわよ。宵闇のルーミアとの勝負を忘れたの?」

「そ、それは……。確かに、あの時の事は覚えてるわ」

「今回の弾幕勝負とこの前の弾幕勝負。それほど大差ないんじゃないの? もし、強力無比なスペルカードを使う事が危険で、封印するって言うなら、いつもの一十百も封印することになるわよね」

「……そうなるわね」

「悪いけど、もしいつもの方の一十百にまで被害が行くようなら、紫が相手でも本気で止めさせてもらうわよ」

「ちょ、ちょっと……。霊夢……」

 

困ったように八雲紫が頭を抱えてしまった。

威力の違いはあれども、確かに一十百(青)が使ったスペルカードも危険と言えば危険なものがあった。

そう考えると、一十百そのものを封印せざる得ないのだが……。

 

流石にそれは反対されるわよね……。

現に、霊夢は反対してるし。

こうなったら……。

 

「もう、ゆかりん、し~らない」

「おい、スキマ。聴いていれば随分と身勝手を言ってくれるな」

「え?」

襖の向こうから眠っているはずの一十百の声が響く。

しかし、いつものような柔らかい声ではなく、どこか威厳の漂うような、深い声だ。

 

その声を聞いて、レミリア、鈴仙が震え始める。

「さ、ささ、咲夜! 帰るわ! 今すぐ、帰るわよ!」

「はい。では皆様、後の事は任せました」

カチリと時計の針の音が鳴ると、レミリアと咲夜の姿は忽然と消えていた。

「えっと、それじゃ、後は……まかせました――!!」

文字通り脱兎のごとく鈴仙も逃げていった。

 

 

「まったく、人が休んでいると言うのに……」

ダンと襖が開き、一十百が姿を現した。

予想していた通り、赤いゆらめきを身に宿しているようだ。

「初めまして。八雲紫ですわ」

「話しは聞いていた。貴様らが言ういつもの一十百が起きる前に、手短に用件を言え。此方はなるべく休養を取りたいのだからな」

「ならお言葉に甘えて手短に言わせてもらうわ。今の状態の……」

「ことわる」

ピキッと八雲紫の眉が動く。

 

「まだ内容も言ってないのに、いきなり却下されれば誰でも腹を立てますわよ」

「大方、弾幕勝負を控えろ、とでも言うつもりだったのだろう」

「察しがいいわね。正確には、その状態ではスペルカードを使わないでほしいと言うつもりだったわ」

「それは断られて当然ね」

「まったくだぜ」

霊夢と魔理沙が同時にうなずく。

 

スペルカードが使えないとなると、弾幕勝負がほぼ不可能になる。

幻想郷でのルールにおいて、これはかなり厳しい。

却下されて当たり前と言えば当たり前だ。

 

「とはいえ、スキマ妖怪。貴様の言いたいことは分かる。幻想郷を守るため考えがあってのことだろう」

一十百が何かをじっと考えるように視線を下に移す。

そして、八雲紫に視線を戻した。

「貴様の提案をすべて却下するつもりはない。かといって、すべて受け入れるつもりもない。故に次の条件が最大限の譲歩だ」

「……聞かせていただけるかしら?」

「貴様らが言う元の一十百の変化する前のスペルカードのみ使用を認める。これが条件だ」

 

その提案を八雲紫はよく吟味する。

ここで条件を飲まないと、確実に今回の説得は破綻するわね。

それに、この条件なら、安全ね。

八雲紫は大きく頷いた。

「わかったわ。その条件で手を打ちましょう」

「要件はそれだけだな。ならば眠らせてもらうぞ」

ニヤリと一十百は笑うと、そのまま襖を開け寝室に戻る。

 

その時、一度足を止めると、振り返らないまま一言告げた。

「その条件、努々忘れぬことだ」

「えっ?」

ぱたんと襖が閉まる。

 

 

「この展開、どっかで見た気がするぜ」

「ゆ~か~り……」

「え? ええっ? な、何か間違ったかしら?」

「あからさまにマズイわよ! どうするのよ」

「……し~らない!」

そう言って八雲紫はスキマの中に消えていった。

「え~と、説得は上手くいった、でいいのか?」

「いいわけないでしょ――――!!」

博麗神社に霊夢の声が響き渡った。

 

 

「頼むから、静かに休ませろ……」




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

一十百の条件:幻想郷を守るために、封印か退治か説得……。まあ、今回は説得という形をとったわ。赤いときの一十百君の時は、変化する前のスペルカードのみ使用可能という事で手を打ったのだけれど……。失策だったかしら……。by紫  また厄介事が増えたわね……。by霊夢  条件は守ってやる。安心しているといい。by一十百(赤)
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