さあ、夏も本番。
高らかに、テンションを上げて、夏を乗り切りますよ!
これを読んで下さった皆様も、体調に気を付けて、夏を無事乗り切りましょう!
夏季特別企画一話 秋夏祭り
赤い一十百の事をどうするか決める話し合いから数日が経った。
あれ以来、赤い一十百は現れていない。
一十百も無事に回復し、話し合いの次の日から、いつものように家事全般をこなしていた。
博麗霊夢をはじめとする幻想郷の住人はいつも通りの日々に戻りつつあった。
そんな中、何でもない秋の夜空を一十百が見上げた。
静かな夜空に、星々が瞬いている。
その星々を見て、何かを思いついたのか、一十百はポンと手を打った。
「そうだ、アレをやりましょう!」
そして、次の日。
一十百がいつものように朝食を作り、配る。
今日の朝食は霊夢と魔理沙、萃香に加えて、レミリア、咲夜、幽々子、そして紫がお邪魔している。
「……ねえ、いつから私の神社は食堂になったのかしら?」
「気にしないほうがいいぜ」
腹を立てるだけ無駄だとわかってきたのか、霊夢も朝食を食べることに専念するようにしたようだ。
「やっぱり、一十百の料理はおいしいわね。もう、一年くらいになるのに、まったく飽きないわ」
「一十の料理を一年間も……。う、うらやましいぜ」
「魔理沙だって朝食はほぼ毎朝来てるじゃない」
「それはそうだけど、夕食とかはほとんど食べたことがないぜ」
川魚の塩焼きをつまみながら魔理沙が羨ましそうに霊夢を見た。
朝食が進んだ頃を見計らって、一十百が博麗霊夢に話しかける。
「霊夢さん。そう言えば、一つ提案があるんでした」
そう言ってにっこりと微笑む。
その微笑みを見て、博麗霊夢は何か直感的なものが働いた。
なにやら、面倒事の気配がするわね……。
そう思った霊夢は、コホンと一度咳払いをする。
「提案? まあ、聞くだけは聞いてあげるけど、面倒事なら却下するわよ」
「はい!」
一十百が一度頷く。
そして、一言。
「夏祭りを博麗神社でやりましょう!」
その一言を聞いて、一瞬、霊夢が止まる。
「はい?」
「夏祭りですよ。縁日みたいなものです」
「な、なんで博麗神社でやるの? ……と言うよりも、もう秋なんだけど」
「この前は肝試しをやりましたし、それにこの頃、秋なのに暖かいじゃないですか」
もうすぐ冬に差し掛かる幻想郷。
しかし、いまだ夏の名残でもあると言うのか、いまだに暑い日々が続いている。
寝苦しい夜が続いて困っているくらいだ。
「確かに暑いのは認めるわ。でも、夏祭りをやる必要はないと思うわよ。それに、わざわざ博麗神社でやらなくたっていいじゃない」
準備や片付け、機材の運搬……その他もろもろ。
明らかに面倒よ。
なるべくそう言うのは避けたいわ。
一十百だって、そのくらいは分かっていると思うんだけど……。
なにか、私が納得する理由でもあるのかしら?
そんなことを、心の中で強く思う。
思うだけで口に出さないのは、主に一十百の口調に惑わされないようにするためだ。
どこぞのスキマ妖怪は、すでに二度ほど一十百の口車に乗せられ、大結界内に巨大建造物(都市一つ分)建築と、強力なスペルカードの使用を認めてしまっている。
一十百は霊夢があまりいい表情をしていないのを見て少し考える。
そして、朝食に集まっている人を一度見まわしてから、そっと博麗霊夢に耳打ちする。
「その、確かにいろいろ用意があって、ちょっと面倒かもしれませんけど……。神社でお祭りをすれば、人里の方がいらして、賽銭が次々と入るかもしれないじゃないですか」
「!!」
その一言を聞いて、霊夢は一十百の事を見る。
そして、大きく頷いた。
「そ、そうね。まあ、ほら、たまにはいいじゃない。夏祭り」
「え? 面倒って断るかと思ったのに、どうしたんだぜ?」
霊夢があっさりと承諾したのを見て、魔理沙が驚く。
「別にほら、祭りも宴会と変わらないもの。せっかくの夏祭りなんだし、楽しめればいいわ」
こうして、一十百の提案は、博麗霊夢の承諾を得て実現することになった。
「で、いつやるの?」
「えっ? 今日ですよ」
「「「「「「「今日!?」」」」」」」
何を当たり前なことを、といった風に、一十百があっさり今日と答えたので、朝食を食べていた全員が聞き返した。
見事なほど息がぴったりだった。
後に、博麗神社名物“一十百の常識はずれの回答に対する総つっこみ”の片鱗が現れていた。
「急すぎるわよ! 祭りっていうくらいだから、露店とかもあるだろうし、せめて提灯くらい飾りつけないと、祭りって感じが……」
そこまで言った時、何やら嫌な予感がしたのか、霊夢は外を眺める。
そこにはいつもの神社の景観から一変して、露店が数軒並び、木から木へと提灯がつり下げてられていた。
小さいながらも祭りの前の広場がそこにはあった。
「もう準備できてる――――!!!」
そう一声叫ぶと、霊夢はそのまま固まってしまった。
口から煙のようなものが立ちのぼっているように見えるが、気のせいだろう。
「えと、それじゃみなさん、今夜を楽しみにしていてください」
朝食を終えて帰るときに、一十百が“夏祭りにふさわしい格好、出来れば浴衣に着替えてきてください”といったので、来ていた人たちは各々の家へと戻っていった。
「さてと、僕は露店の事と、あとは……アレの用意をしないといけませんね」
そう言うと一十百は博麗神社を飛び出していった。
まず、一十百が向かったのは霧の湖。
太陽も真上に上がりかけて、真夏の日差しとも思える日差しが照りつける。
霧の湖はその光を浴びてキラキラと輝いていた。
「チルノ~、いる~?」
霧の湖に到着した一十百はチルノに呼びかける。
すると……。
「十百~。あたいに何かよう?」
「ええっ?」
湖の中からチルノが顔を出した。
しっかりと服を着たまま潜っている。
「な、なんで、水の中に?」
「こうでもしないと、暑くて、身体が溶けるんだ」
比喩的な表現ではなく、チルノは文字通り身体が溶けてしまう事が多々ある。
一年前に氷室を作った頃も、夏の暑さで溶けかけていたのを思い出す。
「暑くて辛かったら、氷室を使ってもいいよ?」
「ひむろ? ……なんだっけ?」
「この前、鼠妖怪を保存しておいた場所だよ」
「あっ! あの涼しいところか! 行く!」
ざばっとチルノが湖から上がる。
びしょびしょになってるのかと思い、一十百がタオルを取り出す。
しかし、その心配はなかったようだ。
湖から上がった途端、チルノの身体や服の水滴が一瞬で凍りつき、そのまま消えていった。
チルノの身体も氷に近い物でできているので、氷と同化したのだろう。
「やっぱり、チルノならあの靴を使えるかなぁ……」
「くつ?」
「ううん、なんでもないよ。それじゃ、溶ける前に氷室に行こうか」
無事、チルノが溶けだす前に氷室についた一十百とチルノ。
氷室の中はかなり寒い。
外は真夏に匹敵する暑さなのだが、氷室の中は真冬と同じくらいだ。
一十百が色々なものを氷室に仕込んだようで、氷室内の温度が氷点下である事だけは間違いない。
「それで、あたいに何の用だったの?」
「チルノって、かき氷を覚えてる?」
「おぼえてるよ。あの冷たくて甘いやつでしょ」
「そうそう。それを今日の夜、たくさん作ってほしいんだ」
「たくさん? なんで?」
ちょっと一十百が考える。
そして、にっこりほほ笑んだ。
「おいしくて幸せになれるから、皆にも食べてもらいたいんだ」
「おお、なるほど!」
「だから、チルノには細かい氷の粒をたくさん作ってほしいんだけど、出来る?」
「まかせて! なんたって、さいきょーのあたいだよ」
チルノが両手を重ね、水をすくうようにする。
すると、細かい氷の粒が次々と現れ、チルノの手の上で小さな山になった。
「おお、すごい! これならチルノに任せて大丈夫そうだね」
一十百が外に出る。
真昼になりつつあり、さんさんと日差しが降り注いでいる。
チルノは氷室の中で涼んでいくらしいので、日が沈み始めた頃に声をかける予定だ。
「お~ぅ、十百~」
ふらふらと萃香が神社の階段を上ってきた。
日差しに負けてふらふらしているようにも見えるが、どうやら酔っぱらっているようだ。
「あれ、萃香。散歩の帰り? いつもより早いね」
「祭りが楽しみで、ちょっと早く戻ってきたんだよ」
「お祭りは日が沈んでからだよ?」
「それはそうなんだけど、やっぱり楽しみだからね」
そんな萃香を見て、一十百がにっこり微笑む。
そして、少し一十百は考える。
萃香にも手伝ってもらおうかなぁ……。
「……ねぇ、萃香。ちょっと、今日の祭りの時に、露店の店番をしてくれない?」
「私がかい? え~、ちょいと面倒だよ~」
予想通り、あっさり断られた。
しかし、一十百が小さな声で次の一言を言う。
「……鏡酒、樽三つ」
「のった!!」
がしっと一十百の手を萃香が両手で握った。
一十百の作った鏡酒は、幻想郷の妖怪の間で噂になりつつある銘酒の一つ。
手に入れるのが困難だという事と、それに見合った味を持っている事から、幻想郷三大銘酒とまで言われるほどになっている。
妖怪の賢者である八雲紫曰く“飲み手の心を映し、飲み手によってその味を変える銘酒”らしく、飲み手が丁度飲みたいような味に近くなるらしい。
八雲紫のお墨付きもあることで、幻想郷中の人間・妖怪問わず酒好きが探しているが、なにぶん持っているのは一十百。
それが博麗神社にいるものだから、妖怪は近づけず、人間は色々な意味で近づき難い。
萃香も色々な手を尽くしてもらおうとしていたが、“飲みすぎはいくら鬼でもダメ!“と一十百に断られてしまう事が多々あった。
しかし、今回は一気にそれが樽で、それも三つと言う大盤振る舞い。
これは萃香でなくとも、酒好きの人間・妖怪なら受けるしかないともいえる条件だ。
「でも、露店の店番って、鬼の私がやっても大丈夫なのかい? 一応、私は鬼だから、人間からすれば怖くて近づけないと思うけど」
「そこは、ちゃんと策を打つよ」
そう言って一十百が萃香に耳打ちする。
一十百の話を聞いた萃香はなるほどと頷く。
「ほ~。いろいろ考えてるんだねぇ」
「色々な人に楽しんでもらいたいですし。萃香には、お酒を売る露店の店番をしてもらうよ」
「う~ん、間違って飲んじゃいそうだなぁ」
ニヤリと萃香が笑う。
ここは押しの一手。
つまり樽三つに、さらに何か上乗せできるかもしれない駆け引きだ。
失敗すれば、樽三つが水の泡になるけど、ここは強気にでたいところだね……。
「……よし! 萃香も頑張ってくれると信じて、もう一樽分追加してあげるよ。それを店番してるときに飲んでていいから」
「おぅ! 話が分かるね~。それじゃ、私は中にいるよ」
そう言って、萃香は神社の中に入っていった。
しっかりとガッツポーズをしていた事には一十百は気が付いていなかったようだ。
「さてと、まだまだ人手が足りませんね。急がないと!」
一十百はそう言って、次の人手を集めに博麗神社の階段を駆け下りていった。
今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋
秋夏祭り:秋だと言うのに夏の暑さが漂う今日この頃。そんな暑さを味方につけて、今夜大きなお祭りを博麗神社でやろうと思います。時間はそれほどありませんけど、材料と店の用意はできています。後は、人手を集めますよ!by一十百
かき氷店・店番:氷を作れるチルノに任せました! 金額とかの計算は……苦手そうだから、博麗神社にお賽銭を入れてくれた方に配る、みたいな感じで何とかしましょう!by一十百 あたいにまかせて! ばっちりやりとげるよ!byチルノ
酒店・店番:お酒と言えば萃香ですね。色々なお酒を売ってみようと思います。あっ、どれも僕の手作りです。いろいろ作ったものがありますから、上手く売れるといいです。萃香には鏡酒樽四つで手を打ってもらえました!by一十百 任されたからにはしっかりとやるよ。by萃香