東方お仕事記   作:TomomonD

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夏季特別企画二話 露店店番召集

一十百は人里へまっすぐ走っていく。

今回の秋夏祭りは、何と言っても人里の人々が参加できるかどうかにかかっている。

博麗神社に集まるメンツだけでお祭りをしても、少し寂しいものがある。

なので、今回は人里からも足を運べるように、いろいろ手配しようとしているのだ。

 

 

そんなことを考えながら、森を駆け抜けていくと、見たこともない屋台が置いてある。

車輪のついた屋台のようで、まだ火が入ってないところを見ると、準備中といったところだろう。

「こんな森の中に、屋台ですか……。妖怪の被害に合わないのでしょうか」

一十百が屋台に近づく。

 

すると、三角巾をした女将が屈んでいるのが見えた。

近づくにつれて段々とその姿がはっきりしていく。

藍色の三角巾に和服と、飲み屋の女将を彷彿とさせる姿だ。

小柄だが、和服の着こなしからして、この屋台の女将として立派に独り立ちしているのだろう。

 

「こんにちは~」

「あっ、お店はまだで……あっ! 十百君!」

「えっ? ……もしかして、ミスティア!?」

どこかで会ったことのある少女だと思っていたのだが、思い出せたようだ。

夜雀のミスティア・ローレライ。

チルノ達と友達で、個人的に屋台を開いていると言っていたのを思い出した。

「なるほど、ミスティアの屋台だったんだね。妖怪のいる森の中にあるのには無事なのは、そういう事だったんだ。てっきり人里の誰かが開いているのかと思ったよ」

「人間がこの森で商売するのは、ちょっと難しいと思うよ」

 

一十百はミスティアの屋台を見る。

移動式の屋台であり、色々な場所で商売をしてきたのだろう。

それなら……。

「ねえ、ミスティア。今日の夜、博麗神社でお祭りがあるんだけど、ミスティアも来てみない?」

「えっ、は、博麗神社!? だって、あそこには妖怪退治を生業とする巫女がいるんじゃ……」

ミスティアが顔を青くして一歩退く。

 

「まあ、霊夢さんは確かに妖怪退治を生業としてるけど、容赦なく退治するわけじゃないよ。主に依頼されたから、退治するって感じだよ」

「そうなんだ、知らなかった。 ……ってアレ? お祭りってことは人里の人間が来るんじゃないの?」

「そうだよ」

「……私妖怪なんだけど」

「たぶん大丈夫だよ。作戦があるし」

「作戦?」

首をかしげるミスティアに一十百が耳打ちする。

内容を聞いたミスティアは少し不安げな表情をしたが、なるほどと頷く。

「確かにそれなら、大丈夫かも」

 

「それで、ミスティアの屋台を博麗神社で開いてくれない? お祭りだし、お客さんもいっぱい来るよ」

「えっ! いいの!」

ぱぁぁ、とミスティアの表情が明るくなる。

やはり商売っ気があるようで、今日の稼ぎを考えたのだろう。

どことなく博麗霊夢に似たオーラのようなものが漂っている。

「せっかくのお祭りだし、露店や屋台は多い方が楽しいもの。神社に上る階段は……その屋台だと使えなさそうだから、線路を使うといいよ」

「うん! それじゃ、私は博麗神社に向かうね!」

ミスティアは駆け足で屋台を引っ張っていった。

 

 

一十百が人里に着くころには、日も真上から少し傾き、お昼すぎといった時間帯になり始めた。

この大きな人里は、満月が欠けた異変の時、上白沢慧音が隠していた人里だ。

幻想郷にある人里の中でとりわけ大きな人里で、それなりの人口になるのだろう。

 

「来てみたはいいですけど、お祭りの事をどうやって広めましょう……。こればかりは、さすがに時間が……」

「おや? 誰かと思えば、一十百君じゃないか」

呼びかけられたので振り返ると、上白沢慧音が数人の子どもたちと一緒に歩いてきた。

周りにいるのは寺子屋の子どもたちだろう。

 

「あっ、こんにちは、慧音先生」

「君まで先生と呼ばなくても……」

一十百は異変の後、何度かこの人里に足を運んでいる。

その時に慧音と歴史の事でいろいろ話をしたようで、それの名残か、慧音先生と呼ぶようになっている。

 

「それはそうと、どうしてここにいるんだい? てっきり、今日の祭りの準備で忙しいかと思っていたのだが」

「えっ!? なんで、今日お祭りがあるって、知ってるんですか」

「先ほど鴉天狗が新聞の代わりに、こんなものを撒いていったからな」

そう言って慧音が一枚の紙を手渡す。

どうやら、チラシのようなもので、『博麗神社、季節外れの夏祭り!』と大きくかかれていた。

 

「な、なるほど。でも、これで僕広めなくても皆さんに伝わりましたね」

「まあ、そうなんだが、ここの人里からだと、妖怪がいる森を通らないといけない。私はともかく、他の者には厳しいだろう」

「……そう言えばそうでした。でも、ここの人里なら、アレがあります」

「アレ……と言うと?」

「電車です!」

 

 

一十百と慧音が里のはずれに行くと、石で作られた台のようなものと、木で組まれた線路があった。

線路は森を迂回するように、続いているようだ。

「そう言えば、前から気になっていたのだが……。これはなんだ?」

「駅と線路です」

「駅……、もしや鉄の箱が走り、それが唯一止まると言う、あの駅か!」

「な、なにか、ちょっと、不思議な言い方ですけれど、そうです」

一十百が手を上げる。

すると、ガタゴトと、どこからか小気味よい音が鳴り響く。

それがだんだんと近づいてくる。

 

そして、森の陰から一十百がよく使う電車が姿を現した。

ゆっくりと、その電車が駅に止まる。

「これに乗れば、妖怪から襲われることはないですよ」

「初めて見たが……、すごいものだ」

慧音も興味津々だが、それ以上に寺子屋の子どもたちのほうが気になって仕方ないようだ。

 

その中の一人が一十百に話しかける。

「ねえ、お姉ちゃん。乗っていい!」

「えっ? う~ん、乗ってもいいけど、僕はお……」

一十百が訂正しようとしたのだが、子どもの好奇心の強さにあっさりと阻止された。

一人に乗車許可を出せば、まあ他の子どもたちからも言われるのは当たり前。

「乗ってもいい!」

「乗ってもいいの!」

「乗せてお姉ちゃん!」

 

次々と寺子屋の子どもたちに囲まれて困っていると、慧音が困ったような表情をして笑いかける。

「すまないな。乗せてやってくれないか?」

「勿論、大丈夫ですよ。一応、安全ですけど、あの子たちが危険なことをしないように、慧音先生も乗ってくださいね」

「そうさせてもらうよ」

「博麗神社まで、一時間くらいで到着できますから。えと、良い旅を!」

慧音が電車に乗り、一十百がそう言うと、扉が閉まる。

電車はゆっくりと博麗神社の方に向かっていった。

 

 

一十百は人里にお祭りの事が広まっているという事が聞けたので、次の場所へ向かう。

次に向かったのは、迷いの竹林。

この前の弾幕勝負で、ほぼ更地状態になり、その日のうちに元に戻ったため、不思議な竹林ともいわれるようになっている。

 

一十百はここに来るのはこれで三度目。

流石に三度目ともなれば……。

「右、でしたっけ? いえ、左だったような……。さっきの竹を右でしたから、次の竹は左……」

完全に迷子である。

まず、竹林の中で竹を目印にするという行為をしている時点で迷うことは確実なのだが……。

 

しかし、幸運なことに、迷っている一十百の視界に白い煙が見えた。

煙があるという事は、そこに人がいるという事だ。

この竹林で出会う可能性があるのは、永遠亭のメンツか、藤原妹紅のどちらかだ。

一十百が煙を目指して走る。

すると、竹林が開け、小さな空き地に出た。

「何者だい? ……うわ、十百!」

「あっ、妹紅さん。お久しぶりです」

空き地には、小さなテントのようなものと、藤原妹紅がいた。

 

あの時の一件以来、一十百の姿を見ると反射的に戦闘態勢をとってしまう事を除けば、まあまあ仲の良い友達になっている。

妹紅からすると、圧倒的な強さを持つ赤い一十百、家事全般をこなす青い一十百、その両方に少なからず憧れを持つようだ。

強さという点で赤、家庭的な女性という点で青、ある意味豪華な二面性ではある。

もちろん、そのことを一十百に言えば、“僕は男ですよっ!”と返してくるのは言わずともわかる。

 

「今日はどうした? また迷ったなら、案内くらいはしてやれるけど」

「……確かに迷ってましたけど、目的地には着けたので、大丈夫ですよ」

「目的地には着けた? ……って、私に何か用か」

「はい。今日、博麗神社でお祭りがあるんです。その時の、露店の店番を頼みたくて」

「ど、どうした私なんだ? もっと適役のやつなら沢山いるだろ?」

「そうでしょうか?」

一十百が首をかしげる。

竹林に住んでいるため、あまり人付き合いが得意ではない妹紅。

確かに店番をするだけなら、他にも適役がいるだろう。

 

しかし、任せる露店的に、妹紅が適役だと一十百は思ったのだ。

「妹紅さんなら、安心して任せられますし、この辺りの人里の方々とも、それなりに面識があるじゃないですか」

「それは……確かにそうだけど。安心して任せられる露店って、何を売るつもりなんだい?」

「焼きイカと焼きトウモロコシです」

「……炎が使えるっていう理由で頼まれた気がしてならないんだが」

「えっ? あっ、そう言えば、妹紅さんって炎の扱いが上手でしたっけ。なら尚更お願いしたいです」

「う~ん、なんだか上手く丸め込まれたような……。まあ、そこまで言うなら断るわけにもいかないな」

 

「それじゃ、僕は他の方々にも声をかけないといけないので」

一十百は一礼すると、竹林の中へと駆け抜けていった。

 

 

次に一十百が目指したのは、アリス・マーガロイド宅。

ある意味、ここが一番重要となるかもしれない場所でもある。

今回のお祭りは、人間と妖怪が同じ場所で楽しむことになる。

たとえ妖怪が人間を襲う気がなくても、人間の方が畏れてしまうのは目に見えている。

だからこそ、ひと工夫必要なのだ。

 

無事にアリス・マーガトロイド宅についた一十百はドアをノックする。

「こんにちは~」

「は~い」

どうやらアリスは中にいるようだ。

少しすると、カチャリとドアが開く。

「あ、上海。久しぶり」

ドアを開けてくれたのは、いつぞやの上海人形だ。

他の上海人形と比べて、少しだけ表情が豊かなのが特徴だ。

上海も久しぶりに一十百会えたのが嬉しいのか、くるっと一回転してお辞儀をした。

 

「あら、十百君。珍しいわね、何か用かしら?」

アリス・マーガトロイドが外に出てくる。

「アリスさん。ちょっとお話が……」

「厄介事かしら? まあ、話くらいは聞かないと、上海が怒りそうだし……。とにかく、立ち話もなんだから、お茶を飲みながら話しましょう」

 

 

一十百の話を聞いたアリスは頷く。

「まあ、確かにそれなら、ギリギリ誤魔化せるかもしれないわね」

一度、紅茶を飲み、テーブルの置く。

「それで、私に頼みっていうのは?」

「ぜひ、それを売る店番をしてもらいたくて」

アリスは少し考えたようだが、わかったと言うように一度頷いた。

「まあ、たまには十百君の頼みも聞いてあげるわ」

「ありがとうございます!」

グッと一十百がガッツポーズをする。

 

「でも、その売り物は作ってあるの? 話を聞く限りだと、お祭りは今日決まったみたいじゃない」

「それの心配は大丈夫です。今から作りますし」

「え゛……。さ、さすがに間に合わないわよ?」

「いえいえ、間に合う方法があるんです。それじゃ、今日のお祭りで」

一十百は一礼するとそのまま退出して行った。

アリスは一十百が出ていったドアを呆然と眺める。

「間に合う方法……って何?」

 

 

一十百は森の中を駆け抜ける。

「えと、次で最後ですね。頼みごとと、説得……。両方ともうまくいくといいなぁ」

太陽が西に傾きつつある中、一十百は一直線に紅魔館を目指していった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

出店・ミスティアの屋台:思わぬところでミスティアに会えたので、お祭りに誘いました。確か八目鰻の蒲焼を売る飲み屋……だった気がします。やっぱり、こういうお店も一つはほしいですよね!by一十百  よ~し、今夜は稼ぐぞ~!byミスティア

焼きイカ・焼きトウモロコシ店・店番:竹林に住んでいる妹紅さんに頼みました。炎の扱いが上手だった事はすっかり忘れていましたが、結果オーライです。なんとなく、お客さんがたくさん来そうでしたので、頼みました!by一十百  なんとなくって……、まあ、頼まれたからにはやるけどさ。by妹紅

一十百の作戦:確かに、ギリギリ大丈夫な作戦だったわ。それの店番を任されたってことは、少しぐらい私の話術も作戦に入れてるってことよね。そういうのは得意じゃないんだけど、まあ、やってみるしかないわよね。byアリス  私も聞いたけど、上手くいくんじゃないか?by萃香  上手くいくといいんですけど……。byミスティア
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