ありがとうございます。
とうとう八月が終わります……。
ハイ、間に合いません。
間に合う予定だったのですが、無念です。
とはいえ、途中で放り出すなんてことはできませんとも!
さあ、暦の上では秋になりつつありますが、まだまだ頑張っていきます!
アーツ様、紅夜猫様。
なにぶん、拙い文章ですので、修正箇所等がありましたら、メッセージをいただけると幸いです。
多くの人でにぎわう博麗神社。
夜も深まり、そろそろ子どもには起きているのが辛くなりつつある時間だろう。
しかし、秋夏祭りの会場である博麗神社には、子どもの姿がちらほらと見える。
家族と一緒にまだまだ楽しんでいるようだ。
一十百は一度伸びをして周りを見る。
「まだまだ、賑わいに衰えが見えないですね」
そっとそう言うと、人混みの中を歩いていく。
露店並びの賑わいの中、ふと、一十百が足を止める。
「この感じ……」
一十百が辺りを見回す。
辺りには多くの人里の住人がいる。
露店を眺めるもの、楽しく話すもの、家族で微笑ましく歩くもの、と賑わう祭りらしい風景だ。
その中で、一十百が感じ取った特別な気配。
いわゆる、特別なお客様、別世界からのお客の物だ。
今回の祭りで、たくさんの別世界のお客に会った一十百。
すでに、その独特な雰囲気と気配のようなもので、見分けがつくようになっている。
とはいえ、気配を感じることができても、レーダーのように高性能というわけにはいかない。
「今確かに……、えと、どっちからだろう」
一十百が駆け足で辺りを確認する。
間違いなくこの近くのはずなんですけれど……。
ドンッ!
「あっ、ご、ごめんなさい!」
一十百にしては、珍しく注意散漫になっていたようで、誰かにぶつかってしまったようだ。
急いで一歩退き、頭を下げる。
すると、下げた頭の向こうから温和ながらも深みがある声が聞こえてきた。
「ほう、童にしては立派な礼じゃな。なに、これだけの人じゃ、ぶつかるのも仕方ないこと。頭を上げるがよい」
一十百が頭を上げると、その声の主の姿が目に入った。
灰色の髪と髭の温和そうな老人だ。
黒い狩衣と、白と灰色の裾の長い羽織を着ている。
変わった服装と言うよりは、年代違いの服装と思える格好だ。
しかし、それを着こなしているところを見ると、着ている本人も見た目以上に年月を経ているだろう。
そして、もう一つの事に気が付く。
目の前の老人は独特な雰囲気を纏っている。
ぶつかった時には気が付かなかったが、頭を上げ、目を合わせてみるとわかる。
こことは違うどこかからやってきた、別世界のお客様だ。
「えと、お爺さんって、別世界の方ですか?」
「いかにも。しかし、二言目にそれを尋ねられるとは思わなんだ」
「えっ……? あっ、そう言えばそうですね」
一十百からすれば、別世界からの客であると確信があったからこその一言だが、一般的に考えてみれば、随分と変わった一言だ。
そのことを言われて、なるほどと一十百は頷いた。
「さてと。それで、お主は何者じゃ? わざわざ“別世界”などという言葉を用いたからには、それ相応の者なのじゃろう?」
「はい! 今回の秋夏祭りの主催者の一十百です。別世界の方々にも、ご参加いただけるように大花火を打ち上げたのも僕です」
「あれを打ち上げたのはお主か。それなら納得がいく」
別世界から来た老人が少し笑いながら、うむと頷いた。
「別世界への合図が花火、移動方法が電車という奇抜な発想じゃったからな」
「むぅ、その合図と移動手段で、こっちに来てくれたお爺さんだって、十分変わってますよ」
かるく頬を膨らませ一十百がそう言う。
「そうかもしれぬな。お互い、変わり者といったところじゃろうて」
「なんだか、変にまとめられた気がします」
一十百が腕組みをし、少し首をかしげた。
「さて、お主のような者と立ち話もなかなかに面白いが、それだけで祭りの時間を終えるのは、ちと寂しいからな。わしはそろそろ行かせてもらうぞ」
「あ、そうですね。満足するまで楽しん……あっ、そうでした。お名前を聞いていませんでした! いつまでも、お爺さんじゃ、失礼ですものね」
「わしは魄霊 陽夜。どこにでも居るような、ただの爺じゃよ」
それではな、と魄霊陽夜は露店並びの方に歩いていった。
一十百はその背を静かに見送りつつ、そっと手を振るのだった。
露店並びを抜け、鳥居のところまで戻ってきた一十百。
そっと階段を背に寄り掛かり、博麗神社とは真逆の方向を眺めた。
さすがに少し疲れたのか、ふぅと小さなため息が漏れる。
いつの間にか、自分の思っていたよりも大きなお祭りとして、この秋夏祭りが開催されている。
もちろん、そのことは一十百にとって、とても嬉しいことだ。
人間、妖怪、その他多数の皆が楽しめるお祭りとして、秋夏祭りを開催した。
その目的通りに、いや、その目的以上に大きな祭りになっている。
そこで、ふと思うのだ。
これはただのお祭りだが、後の未来では、異変として扱われるのではと。
多種族が皆祭りを楽しむ。
いつもなら襲われる人間も、退治される妖怪も関係なく、ただ祭りを楽しむ。
そんな、不思議な異変が、かつて博麗神社で起こったと……、そんな風に語り継がれるかもしれない。
「もし、そんな風に語り継がれたら……。僕って異変の首謀者ですよね」
それはそれで不思議な気分だなぁ。
しかし不思議と嫌な気分にはならない。
たぶん、レミリアさんや幽々子さん、萃香や輝夜さんも、こんな気分だったのかなぁ。
階段に腰かけた一十百は、一度大きく伸びをする。
そして、ゆっくりと腰を上げる。
「なんだか、ちょっとだけ、誇らしい気分になれますね」
一度にっこり微笑むと、一十百は博麗神社本堂の方に向かっていった。
一十百が開催したこの秋夏祭りだが、露店の配置が少しばかり変わっている。
博麗神社本堂とその鳥居を結ぶように、直線で一つ、曲線で二つ、計三つの露店並びがある。
博麗神社本堂に近づく程、酒や蒲焼などの食べ物の露店が多く、鳥居に近づく程、射的や輪投げなどの娯楽が多くなる。
また、曲線状の露店並びに比べて、本堂と鳥居を直線で繋いでいる露店並びには、一風変わった露店が多い。
砲的屋、Dの露店屋台もこの露店並びにある。
それ故に、この中央露店並びは人通りが絶えない。
「さてと、萃香は真面目に店番やってるかな?」
一十百が中央露店並びを駆け足で走っていく。
萃香に任せている露店は、中央露店並びの本堂側に最も近い場所にある。
念のため、樽一つ分、鏡酒を渡しておいたのだが、萃香なら飲みきってしまう可能性がある。
そう思い、一度確認を兼ねて萃香の露店に向かう。
一十百が萃香の露店に着くと、萃香と異世界のお客である八意輪廻と、もう一人、見たことのない人影が見える。
黒髪に藍色の羽二重と灰色の袴と、またもや年代が違うような容姿だ。
この方も、別世界のお客様……でしょうか?
「おっ、十百~。聞いてくれよ~、この輪廻ってのが、私の酒を半分くらい飲んじゃったんだ」
「おいおい、人のせいにするなよ。半分も飲んでないだろ。四割半くらいで泣く泣く我慢しただろう」
「ほぼ半分じゃないか!」
「まあまあ……。こんなこともあろうかと……」
萃香をなだめながら、一十百はポケットに手を入れる。
すると、そこから酒樽が丸々二つ取り出された。
酒樽には一枚の鏡が埋め込まれ、達筆な字で鏡酒と書かれていた。
そのうちの一つを、ドスンと萃香の前に置く。
「ちゃんと店番をしてるみたいだし、もう一つだけだよ」
「おおおっ!! さすが、十百!!」
そう言って萃香はその酒樽を抱え、露店内に戻る。
「こっちのは輪廻さんと……、そちらの方でどうぞ」
もう一つの酒樽をトンと、二人が座っている露店前の小さなテーブルに置く。
「おっ、サービスがいいな。遠慮なくもらうぞ。ほら、お前も遠慮せずに飲め!」
「いや、私はそこまで酒に強いほうでは……」
「そう言って飲まないから強くならないんだ。さあ、飲め!」
ドンと、酒樽のふたをたたき割り、備え付けの升で酌み分ける。
そこで輪廻が一十百の方を向く。
「そういや、百は飲まないのか?」
「僕もちょっと……。お酒は強い方じゃな……」
コトンと一十百の前にもなみなみと酒が注がれた升が置かれる。
「えと、り、輪廻さん?」
「さあ、飲むぞ!」
「あうぅぅ……」
八意輪廻と一十百、そして黒髪に青年がささやかな酒盛りを始めた。
一十百と黒髪の青年は、あまり飲みすぎないように調節しながら、ゆっくりと鏡酒を楽しむ。
一升を飲み干したところで、一十百がポンと手を打つ。
「そう言えば、そちらの方は輪廻さんのお知り合いでしょうか?」
「いや? 今さっきここで出会った」
「えっ、そうだったんですか……」
初対面の人とも、気軽に酒盛りをするんですね。
さ、さすが輪廻さん。
そんなことを考えながら、黒髪の青年の方に向き直る。
服装からして、やはり幻想郷の住人とは違う。
「えと、別の世界からいらっしゃったお客様……ですよね」
「別世界……確かにここではない別の場所から来た」
話を聞いてみると、彼は島崎 吉直という名前のようで、過去の時代からここに来たようだ。
過去の歴史についてはそれほど詳しくない一十百でも知っている名前が出たのだ。
豊臣秀吉、その名が日本に広まった頃から来たようだ。
「そんなに昔から、わざわざここに来てくれたんですか」
「ああ。十百君にしてみれば、それほど昔かもしれないけれど、私にしてみればつい昨日の話だ」
そう言って、升に入った鏡酒を一口飲む。
「美味しいな。酒は得意じゃないはずなんだけれど、これなら少しはいけそうだ」
「えへへ、そう言ってもらえると、お出ししたかいがあります」
一十百も、ちゃっかり二升目を注いでいる。
「こんな風に、祭りの喧騒の中、酒をたしなむなんてこと、あまり……」
吉直がそこまで言った時、露店の中から萃香がひょいと顔を出した。
「そんなちびちびやってないで、もっとグイッと飲みなって!」
「ちょっ……」
萃香が吉直の隣に腰かけ、鏡酒を升一杯に注ぐ。
「さあ、ここは一気に!」
「いや、だから、それほど酒には強くないですから」
「そう言うのは倒れてから言うんだ! さあ、飲め飲め!」
萃香に続いて輪廻も吉直の隣に腰かけ、酒をあおりはじめた。
こうなっては、抜け出すのは難しいだろう。
お酒に弱い人って、なぜか周りの酒豪の標的になるんですよね。
なんででしょうか?
一十百は少し考えたが、自分が弱い部類なのでさっぱりわからなかった。
しかし、一つ分かるのは、このままだと自分に矛先が向くのは、時間の問題であるという事だ。
一十百は注いだ鏡酒を手早く飲むと、何事もなかったかのようにスッと立ち上がった。
「えと、それでは、僕は他のお客様にも挨拶に行かないといけないので」
そう言うと、そのまま足早に去っていった。
心の中では、島崎吉直の応援と、心配をしながら……。
一十百はいったん本堂に戻る。
博麗霊夢はどうやら露店並びに出向いたようで、静かな本堂が佇んでいる。
本堂から露店並びまでの間の小さな広場で、一十百は大きく息を吸い込む。
少し酔いのまわった身体に、秋の夜の涼しげな空気が入ってくる。
ふぅと、ゆっくり息を吐いた。
「ここの広場、何かに使えないでしょうか……」
そっとそんなことを呟いて、一十百はもう一度深呼吸をするのだった。
今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋
異世界のお客様9:魄霊陽夜さんです。灰色の髪と髭のお爺さんで、黒い狩衣と、白と灰色の裾の長い羽織を着こなしています。少し変わったところもありますけれど、優しげなお爺さんです。噂では、僕の電車を使わずとも、世界間を移動できるそうです。by一十百 噂には尾ひれがつくものじゃよ。by陽夜
異世界のお客様10:島崎吉直さんです。豊臣秀吉が天下を統一した時代から来てくれたみたいです。黒髪に藍色の羽二重と灰色の袴と、時代を感じさせる服装でした。お酒に弱いようでしたけれど、大丈夫かなぁ……。by一十百 そう思うのだったら、助けてくれればいいものを……。by吉直
一枚絵
階段の一十百
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