ありがとうございます。
涼しくなりつつある、時期ですね。
夏季特別企画とは、夏祭りとはなんだったのか……。
まあ、過ぎた時間を悔やんでも仕方ありません。
さて、秋夏祭りも深夜に突入してきました。
お客が人間から妖怪に変わりますが、依然楽しい祭りが続きます!
朱鎌蟹様、霧闇様。
なにぶん、拙い文章ですので、修正箇所等がありましたら、メッセージをいただけると幸いです。
夜も更け、人里の住人達は、ほぼ帰ってしまった。
しかし、秋夏祭りは今も賑わっている。
そう、これからの時間は人間のためではなく、祭りを楽しむ妖怪たちの宴の時間だ。
「あっ、文さん。こんばんは」
一十百が博麗神社本堂の前にある小さな広場で休んでいると、カランと高下駄を鳴らして射命丸文が降り立った。
しっかり浴衣姿で来たところを見ると、取材というよりも秋夏祭りを楽しむほうに重点を置いた、といったところだろう。
射命丸文の浴衣は、ほとんど黒い布地だけで作られた簡素なものだ。
しかし、その黒い浴衣は女性としての魅力をしっかりと引き出していた。
少女と女性の間の危うげな魅力とでも言うのだろう。
雑多の男性陣なら、息を飲むような浴衣姿だ。
「その浴衣、とても似合っていますよ、文さん」
一十百がいつものように微笑んで射命丸文に話しかける。
その反応を見て、射命丸文は少し悔しげな表情を浮かべた。
「う~む、予想はしていましたが……。まあ、十百さんですし、しかたありませんね」
「ほぇ?」
「いえいえ、こちらの話です」
一十百は射命丸文と共に露店並びを歩く。
露店並びには、いまだ大勢のお客がいる。
そのほとんどは妖怪なのだが、何事もなくお祭りは続いている。
「しかし、これほど夜も更けたとのいうのに、これだけのお客がいるとは」
「文さんが妖怪の方々にも宣伝してくれたからですよ」
くるりと一十百が楽しそうに一回転する。
そんな風に二人が露店並びを歩いていくと、露店並びの少し先から白い髪の二人組が歩いてくる。
一人はそれほど長くない髪の、少し小柄な少女だ。
頭に犬耳だろうか、それに近い獣耳が付いている。
もう一人は長髪であり、背も高い。
タンクトップに短パンという、とても動きやすそうな格好だ。
射命丸文は、そのうちの一人に見覚えがあったようで、軽く手を振りながら声をかけた。
「おや? 椛じゃないですか」
「えっ、文様! もうお休みになられたのでは……」
「明日は有休を取っていますからね。今日は夜通し楽しんでいくつもりですよ」
「いいなぁ、有休。私にも欲しいです」
しゅんと、椛と呼ばれた少女の頭にある犬耳が垂れる。
「えと、文さん。こちらの方は?」
「あ、十百さんは初対面でしたね。椛」
自己紹介をするように、射命丸文が促す。
椛と呼ばれた少女は、シャンと音を鳴らして姿勢を正した。
「私は白狼天狗の犬走椛です。主に山の哨戒を行っています」
「初めまして、椛さん。僕は一十百です」
ペコリと一十百も一礼する。
「それで、椛。あなたの隣にいるのは、どちら様ですか? 白狼天狗……とは少し違うように見えますが」
「この方は……」
椛が何か言おうとすると、隣の白い髪の男性が、それをスッと手で制止させた。
「俺は、白狼 爪牙。名前こそ白狼とついているが、白狼天狗とは違う種族だ」
白い髪の男性、白狼爪牙が名を名乗る。
どことなく威圧的な声色だが、敵意があるわけではないようだ。
文の隣で話を聞いていた一十百は、とある雰囲気に気が付く。
この方も、もしかして……。
「爪牙さんでしたか……。あの、もしかして、少し似た幻想郷からいらっしゃった方、でしょうか」
一十百の質問に対して心当たりがあったのか、白狼爪牙は少し驚いた表情をする。
そして、一十百の容姿を見て何かに気が付いたようで、一度頷く。
「そうか、お前も何かしら関係のある者のようだな」
「はい。今回のお祭りの主催者の一十百です。此度はこちらの幻想郷にようこそ!」
いつものように一十百が一礼する。
しかし、白狼爪牙は少し怪訝そうな表情を浮かべる。
「ようこそと言われても、素直には喜べんな。昔から人間は偽りだらけだ。お前のその言葉が本心からのものなのか、確かめるすべがないのだからな」
「えっ、あの……、えと……」
「爪牙さん!」
一十百の困ったような表情を見て、横にいる椛が爪牙を軽く小突く。
「すみません十百さん。私も彼に会ったばかりなのですが、あまり人間を信じない方のようで……。悪い方ではないんですけれど」
「椛さん、大丈夫ですよ。悪い方でないのは、何となくわかりますし……。とはいえ、う~ん、そうですね……」
一十百が腕組みをして瞳を閉じる。
少しして、何かを思いついたのか、ポンと手を打った。
「爪牙さん。僕の言葉が信じられなくても、自分の目と耳は信じられますよね」
「無論だ」
「なら簡単です。僕の言葉が本当かどうか、爪牙さん自身で判断してみてください」
そう言って、一十百がすっと片手を露店並びの方に向けた。
その意味を理解できたのか、爪牙はフッと軽く笑う。
「言われずとも、そうさせてもらおう」
短く一言いうと、爪牙はそのまま露店並びの方に向かっていった。
「あっ、ちょっと、爪牙さん! 待ってくださいよ~」
椛も一歩遅れて爪牙の後を追っていった。
「なんだか、あまり好意は持てませんね」
射命丸文は爪牙の向かった方向に、少し鋭い視線を向ける。
「何かきっかけがあれば、爪牙さんもわかってくれますよ。この秋夏祭りがそのきっかけになってくれると期待しましょう!」
一十百はそう言うと、爪牙の向かった方向に向けて大きく手を振るのだった。
爪牙、椛の二人と別れた後、一十百と文はそのまま露店並びを歩いていく。
中央露店並びは射命丸文の記者魂を震わすようなものが多い。
なので……。
「十百さん! こっちです! 見てください、あんな大きなものが景品に出ていますよ!」
「あ、文さん。そんなに急がなくても露店は逃げませんって」
一十百の腕を引き右に左に、射命丸文は目を輝かせながら中央露店並びを回っていく。
そんな中、一人の少女とすれ違う。
銀髪の三つ編み、黒の生地に青の水玉の入ったワンピース姿、別世界のお客の一人である鈴科月影。
片手には焼きイカ、もう片方の手にはスキマのたこ焼き、頭には狐のお面とお祭りを堪能しているようだ。
一十百は足を止めて話しかけた。
「あれ? 君は確か、月影ちゃんだったよね。七月輝さんや月光さんと一緒じゃなかったの?」
「あっ、十百! えっとね、お兄ちゃんとお姉ちゃんは、Dの露店屋台の前で寝てるよ。せっかくのお祭りなのにもったいないよね~」
そう言って、スキマのたこ焼きを口に含む。
どうやら、月影と一緒いた二人は、スキマのたこ焼きのせいで倒れたようだ。
「あらら……。まあ、二人も心配ですけれど、月影ちゃんは月影ちゃんでお祭りを楽しんでいってね」
「うん! それじゃ!」
タッタッと駆け足で一十百たちとは逆方向に向かっていった。
一旦、鳥居のところまで来た一十百と射命丸文。
いつの間にか文の手には、いつのもメモ帳のようなものが持たれている。
「これは、いいネタですね。うんうん」
お祭りも楽しんでいるようだが、やはり記者魂が騒ぐのだろう。
手に持った万年筆のようなものが、先ほどからすごい速さで動いている。
「有休をもらいましたが、これは記事の為に一日を費やすことになりそうですね」
フフフ……と、文がニヤリと笑う。
あ、文さん、何か……怖いです。
一十百がその迫力に一歩下がる。
そのとき、鳥居が一瞬淡く輝いた。
「えっ! 今一瞬……」
一十百が何かを言い終わる前に、鳥居の近くの空間が歪み、バチッと何かが弾ける音と共に、二人の男性が現れた。
一人は長めの黒髪を後ろで束ねた男性。
大きな太刀を背負っている。
もう一人は赤みがかった茶髪で青い瞳。
着流した着物に袴と、どことなく時代を感じる服装だ。
「着いたな」
「着いたな、じゃないだろ! なんでわざわざ能力を使って飛んだんだよ。電車みたいのが来てたってのに」
「あの~……、別世界からのお客様……ですよね?」
突然の来客に驚いたものの、一十百はいつものように話しかける。
電車みたいのが、と言っていたので別世界からのお客であることは間違いないようだ。
黒い髪の男性が一十百の方に向き直る。
「ああ。別世界ってので間違いはないな。俺は神咲 悠、退魔師をやってる。よろしく!」
「はい! 今回のお祭りの主催者の一十百です」
そう言って二人は握手した。
「えと、そちらの方は?」
「不動 蓮だ。面白そうな感じがしたからな、ちょっと能力で来てみたんだが……。まさか、大きな祭りを開催してるとは思わなかった」
「能力で、ですか。なんだか、電車に乗ってきてくれる人と、別の方法で来る人が半々ってところなんですよね」
一十百からすると、やはり電車に乗ってこちらに来てもらいたいのだろう。
そちらの方が鳥居も輝き、一十百が挨拶をしやすい。
そして何より、一十百的に虚数次元空間を移動できる電車に驚いてほしいのだ。
「おい、蓮。お前が電車を無視したから、十百が困ってるじゃないか」
「それは悪いことをしたな。まあ、あれだ。帰りはちゃんと電車に乗って帰ることにするか」
「こう、なにか、少しやるせない気分になります、うぅ」
少し項垂れて一十百がため息を吐いた。
「そう言えば、随分にぎわっているな」
不動蓮は露店並びの方を眺める。
多くの人……、そのほとんどは妖怪だが、大変賑わっているようだ。
「それに、どうやら別世界の者達も大勢来ているようだ」
「へえ、すごいな。蓮に連れられてきてみたが、楽しめそうじゃないか!」
一十百はエヘンと胸を張る。
「今回のお祭りは、それだけ力を入れましたから。お二人も目いっぱいまで、楽しんでいってくださいね!」
「おう!」
二人と別れた一十百と射命丸文は別の露店並びを歩く。
中央露店並びに比べると、一般的なものが売られている。
わたあめ、リンゴ飴、焼きそば、焼き鳥など。
「こちらは普通の露店が多いですね」
「中央露店並びが、ちょっと……珍しいすぎるんですよね」
そんなことを話しながら歩いていると、一風変わった露店が見えてきた。
露店というよりも、屋台といった感じに近い。
そして、その屋台をやりくりしているのは……。
「あっ、ミスティア。どう、繁盛してる?」
「いらっしゃ……って、十百と文さん! おかげさまで大繁盛だよ」
軽く汗をぬぐって三角巾をかぶったミスティアが微笑む。
どうやら、今さっきまでお客が大勢いたようで、飲み終わったグラスや皿の片付けをしているところらしい。
そして、今いるお客は一人。
腰まである赤い髪が目を引く別世界からのお客、李淳明だ。
それなりにお酒を飲んでいるようで、とろんとした目つきになっている。
「もう、なんで私の周りにはまともな奴がいないのよ! ドラゴンもそうだけど、縛も縛よ。あの鈍感は、まったく……」
べしべしと屋台の机をたたきつつ、グイッとグラスに入ったお酒を飲み干す。
「おかわり!」
コンとカウンターに空のグラスを置く。
その光景を見ていた文が、すっとその隣に座る。
「ミスティア。私にも一杯」
何か共感できることでもあったのかもしれない。
文と明は注がれたお酒を一気に飲むと、一度頷きあった。
「お互い大変ですね」
「そうみたいね」
何やら入りがたい雰囲気になってしまったので、一十百はそっと本堂の方に戻るのだった。
今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋
異世界のお客様11:白狼爪牙さんです。真っ白な髪と狼のような爪と牙が特徴的な方です。白狼天狗ではなく、狼男と言う種族らしいです。威圧的な話し方でしたが、悪い方ではないのは、なんとなくわかります。今回のお祭りが、いいきっかけになるといいなぁ……。by一十百 祭りはしっかりと楽しませてもらう。by爪牙
異世界のお客様12:神咲悠、不動蓮のお二人です。悠さんは別の幻想郷で退魔師をしているそうです。大太刀をあっさり背負っているところ見ると、名のある退魔師なのかもしれません。蓮さんは時空関連の能力の持ち主だそうで、今回こちらに来たのも蓮さんの力によるものなのだとか。by一十百 帰りはしっかり電車で帰るからな~。by悠 別世界の者達を集めての祭りか……変わってるな。by蓮