東方お仕事記   作:TomomonD

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幕間 凍える冬に揺らめく青色
六十八仕事目 負けず嫌いの延長線


秋夏祭りを終え、博麗神社にいつもの日常が戻ってきた。

 

祭りを終えた次の日から、幻想郷に冷たい風が吹き始め、もうすぐ冬になる、そんなことを示唆しているような風だ。

この時期になると、冬に向けての蓄えをしないといけない。

故に、お金がかかる。

博麗神社にとって、この時期は過酷……のはずだった。

 

 

「なあ、一十。霊夢が、ずっとにやにやしたままなんだけど……」

「お賽銭がたくさん入ったのが、それほど嬉しかったんですね~」

緑茶を飲みながら、一十百と魔理沙が横になっている霊夢を見る。

博麗霊夢はにっこり笑ったまま、眠っている。

たまに“ふふふ……”と笑い声が聞こえてくるが、寝言であってほしいと魔理沙は思う。

 

「それで、今日はどうしたんですか?」

「あ、ああ。そのな……」

何か言いたそうに深く帽子をかぶりなおす。

「一日、一十を借りたかったんだけど……、霊夢がこの状態じゃな……」

残念そうに魔理沙はため息を吐く。

やはり、借りるという言い方なのだが、一十百はあまり気にしていないようだ。

 

「ふふふ……、別にいいわよ、魔理沙。今日の私は機嫌がいいから」

「ええっ! いいのか! てか、起きてたのか」

ゆっくりと博麗霊夢が布団から起き上がる。

表情がにっこり笑ったままなのが、ある意味怖いが。

「本当にいいのか? 明日の今頃まで借りてくつもりだぜ?」

「いいわよ。なにをするか分からないけど、一十百もしっかり手伝ってあげて」

「はい!」

こうして、一十百と霧雨魔理沙は博麗神社を後にした。

 

 

博麗神社は人の出入りが少ない。

立地条件的にも良いとは言えない。

しかし、そんな中、博麗神社にやってくる影がある。

シュタンと風切り音を残して、賽銭箱の前に射命丸文が降り立った。

 

「あややや? いつもなら、十百さんの声が聞こえてくるはずなんですけれど……」

「一十百なら、魔理沙のところよ」

博麗霊夢が奥から出てくる。

依然としてにっこり笑顔のままだ。

その表情を見て、逆に恐怖を覚えたのか射命丸文は一歩下がる。

 

「え、あの、霊夢さん。一体、どうしたんですか? そんな笑顔で……」

「ふふふ……、お賽銭がいっぱいなのよ。あのお祭りでお賽銭がいっぱいなの」

「そんな、二度言わなくても……。しかし、十百さんは魔理沙さんのところですか」

「そうよ。少なくとも今日は戻ってこないと思うわ」

「なっ!!」

その一言を聞いて、がしっと射命丸文は霊夢の肩を掴んだ。

「なんてことをしたんですか!」

「え!? なにか、まずいことでもあった?」

キョトンとした表情で、博麗霊夢が尋ねる。

「大ありですよ! 十百さんを他の人の家、それも女性の一人暮らしの家に止まらせるなんて……」

 

文が何を心配しているのか、だいたい予想は出来るわ。

でも……。

「一十百がそんなことをするわけないでしょ?」

「そんな事は百も承知です。しかし、“される”可能性は無きにしも非ずですよ!」

「なっ……。い、いや、それもないでしょ」

一瞬、確かにありえなくはない、と思った霊夢だが、首を横に振って否定する。

 

考えてもみなさい霊夢。

あの魔理沙よ、どう考えても、一十百に手を出すようなことはないわ。

そこまで度胸があるとも思えないし……。

そう自分に言い聞かせて、呆れたようにため息を吐いた。

 

「あのね文、魔理沙はああ見えて、意外と押しが弱いのよ。あんたが思っているような事は、ほぼ起こらないわよ」

「それは知っています。仮にも私は新聞記者なんですから、その手の情報は抜かりありません」

「なら、そういう事が起こる可能性はほとんどないのは言わなくても……」

「甘いです!」

ビシッと射命丸文が手に持っているメモ帳を突き付ける。

 

「確かに、十百さんも、魔理沙さんも、そう言う状況をあえて作ろうとはしないでしょう。しかし、いえ、だからこそ、偶然そう言う状況になってしまった時に、歯止めが利かなくなるものなんです!」

「ぐ、偶然?」

「そう、たとえば、お風呂上りに鉢合わせしてしまったり、着替え中に部屋に入ってしまったり……。考えられる可能性はかなりあります」

可能性自体は低いが、ありえなくはない。

けれど……。

 

「……あのね、文。それに似た状況なら、何度か起こっているわよ」

「えっ?」

「立ち話もそろそろ疲れてきたから、上がっていきなさい。お茶くらいは出してあげる」

 

 

緑茶を飲み、霊夢と文が一息つく。

「あの、霊夢さん。先ほどの話は、いったい……」

「文。一十百がこの神社にどれくらい滞在しているか分かるかしら?」

「だいたい、一年半くらいでしょうか?」

「そんなものね」

ずずーっと、霊夢がお茶を飲む。

 

「その一年半の間に、文が言っていたようなハプニングが一度も起こらなかったと、本気で思ってるの?」

「……言われてみれば、確かに」

ずずーと、射命丸文もお茶を飲む。

そしてゆっくりと、湯呑みを置く。

その次の瞬間には、片手にペン、片手にメモ帳をしっかりと構えていた。

 

「では、しっかりとその時のことを教えていただきますよ!」

「なんで取材になってるのよ?」

はぁ~、とため息を吐きつつ、ゆっくりと話し始めた。

「あまり他人には言いたくない出来事だけど、仕方ないわね」

「ほほぅ、やはり霊夢さんでも、恥じらいの気持ちがあったと」

「何か引っかかる言い方ね……。それに、恥じらいというよりも、敗北感の方が強かったのよ」

「敗北感?」

ええ、と博麗霊夢が頷く。

 

「ちょうど一年前……より少し前ね。夏の夜のことだったわ。汗を流すために、水風呂を浴びたのよ」

「ほう。そこで、十百さんと鉢合わせしたと?」

「そうじゃないわ。着替えを忘れたのよ、浴室の二つ隣の部屋に。わざわざ一十百を呼ぶのもどうかと思って、タオル一枚を羽織ってとりに行ったわけ」

「その恰好で、十百さんと会ってしまったと」

そうよ、と霊夢が頷く。

なるほど、確かにタオル一枚の姿で十百さんに出会ってしまったのは、かなり衝撃的な展開ですね。

きっと、双方の表情が真っ赤に染まったはずです。

その状況下に、何故立ち会えなかったのでしょうか……。

 

「なるほど。その後、どうなりました?」

「こっちはタオル一枚。さすがに恥ずかしかったんだけど……」

そこまで話して、霊夢が難しい表情をする。

「一十百が私を見て、ため息を吐いたのよ」

「ため息ですか? アレですか、霊夢さんの肢体に見とれたようなため息ですか?」

「そういうのじゃないと思うわ。だって、あのとき……」

博麗霊夢はその時の出来事をおもいだす。

 

 

「……霊夢さん。蒸し暑い夜ですけど、そんな恰好だと、風邪をひいてしまいますよ」

一十百が軽くため息を吐く。

そしていつも通りの、微笑みを浮かべて私に言う。

「着替えは隣の部屋にありますから、ちゃんと着替えてくださいね」

 

 

「……って、感じだったわ」

「なんというか、普通すぎる反応ですね。もっと、こう、驚いた表情をしたとか、頬を赤く染めたとか……、そういう反応はなかったのですか?」

「無かったわ」

きっぱりと、博麗霊夢はそう言った。

「そりゃ、私だって、思いっきり恥ずかしがられるよりは、こっちの対応の方が慌てずに済んだわ。でも、少しくらい、恥ずかしがってくれてもいいじゃない……」

「確かに。これは、すごい敗北感ですね」

博麗霊夢は、悔しそうにお茶を飲み干した。

 

「私はこの時から、一十百に対してそれなりのアプローチをとってみることにしたのよ。このまま引き下がったら、悔しかったから」

「何とか好意を引こうと、頑張ったわけですか」

「そういうのじゃなくて、単純に見返してやりたかった、って感じね」

「そ、そうなんですか……」

負けず嫌いですね。

一応、十百さんは異性なのですから、そういうアプローチをしていくと決めた霊夢さんも霊夢さんですが……。

 

「それで、他にはどのようなことを?」

「巫女服を少し着崩してみたり、お酒を飲んで一十百に絡んでみたり、眠っている一十百の寝室に行ってみたり……」

「最後のは夜這いじゃないですか!」

「そんな事はどうでもいいのよ!」

「どうでもよくありませんよ!」

 

 

ふぅ、と博麗霊夢と射命丸文が一旦落ち着く。

「で、結果はどうだったのですか?」

「着崩したときは、一十百にあっさりと手直しされたわ」

「あ~、十百さんなら、そうしますよね」

射命丸文が首を縦に振る。

 

「だから、手直しし難くさせるために、さらしを巻かないで着崩した時もあったわ」

「完全に悩殺する気じゃないですか!」

「だから、そんなのはどうでもいいのよ!」

「どうでもよくないですって! ……それで、結果は?」

「結局、手直しはされたわ。一十百に“さらしなら、向こうに畳まれていますから、ちゃんと着用してくださいね”ってしっかり言われた……真顔で」

ぐっ、と悔しそうに博麗霊夢は拳を握った。

 

「え、ええと、他の時はどうでしたか?」

「酔って一十百に絡んだときは、即座に布団を敷かれたわ。“お片付けならやっておきますから”って」

「十百さんらしい対応ですね……」

「酔ってる状態で片付けをすると思わぬ事故が起こる、って意味で布団を敷いてくれたんだと思う。さすがに、そこまでされたら寝るしかなかったわ」

う~ん、と霊夢が唸る。

 

「……それでは、夜這い……ではなく、十百さんの寝室に行ったときは、どうでしたか?」

「そっと一十百の隣まで行った所まではよかったんだけど、そこで一十百に気が付かれちゃってね……」

何だか、恥ずかしそうな表情を浮かべる霊夢。

これは、いいネタが出そうだと、射命丸文の目がきらりと光る。

 

「“寝ぼけて、部屋を間違えちゃいましたか?”って言って、布団を譲ってくれたのよ」

「……そのまま寝ましたか?」

コクリと霊夢が頷く。

「なんだか、断れない雰囲気だったから、寝たわ。一十百は椅子に腰かけて寝てくれたみたい」

「十百さんの布団で寝れたのですから、役得じゃないですか!」

「……それは否定しないけど、当初の目的からは大きく外れたから、何とも言えないわ」

はぁ~、と霊夢は大きなため息を吐いた。

 

 

「これでわかったでしょ? 魔理沙の家に一日泊まったところで、問題はないってこと」

「確かに、そうですね。一安心って言ったところです」

やれやれと、射命丸文がお茶を飲み干す。

そして、パラパラと持っているメモ帳をみる。

「十百さんは、異性をあまり意識しないタイプなのでしょうか?」

「そんな事はないと思うわ。だって、前に……、あ」

「どうかしましたか?」

何かを思い出したように、博麗霊夢が腕を組んで考え込む。

 

「一年前くらいの夏の暑い日に、さらし姿で横になっていたことがあって……、一十百に見られちゃったのよ。でも、あの時の一十百は、困ったような表情で、少し目線を逸らしてたわ」

「え? おかしいじゃないですか。さらし姿も、タオル一枚姿も、ほとんど変わらないと思いますけど」

「となると、あの時との違いは……」

 

 

“考えないほうがいいと思うぜ。恥ずかしくなる”

 

 

バンと霊夢は机をたたいた。

いきなり机をたたかれたので、びくっと文が反応した。

「ど、どうしたんですか、いきなり?」

「あの時……、私の隣に、シャツ一枚姿の魔理沙がいたわ……」

「…………」

「…………」

博麗霊夢と射命丸文は、お互いの顔を見て大きく頷く。

 

「準備があるわ。夜まで待ってなさい」

「私も準備がありますから。日が沈んだ頃に、もう一度来ます」

博麗霊夢と射命丸文は、そう言うといったん別れ、各々準備に取り掛かるのだった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

霧雨魔理沙の手伝い:今日一日、魔理沙さんのお手伝いをすることになりました。魔理沙さんも、何か僕に手伝ってほしいことがあったようです。一体なんでしょうか?by一十百 あ、後で言うぜ。by魔理沙
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