東方お仕事記   作:TomomonD

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六十九仕事目 過ちと誤り

日も暮れはじめ、空が赤から黒に変わっていく。

自然に囲まれた幻想郷では、そんなような何でもない自然現象も、とても綺麗に見える。

しかし、そんな和やかな空の雰囲気とは真逆の場所があった。

 

 

「……用意はできたかしら?」

「御心配なさらずに。今回ばかりは、あまり余裕を持つ必要がありませんから」

「そう。なら安心したわ」

いつもの何倍もの霊力を体に纏った博麗霊夢と、いつもの何倍も研ぎ澄まされた妖力を纏った射命丸文が賽銭箱の前で話し合っている。

低級妖怪程度ならば、睨まれただけで気を失うのではないかと思える程の雰囲気が二人の周りに漂っている。

 

二人による話し合いの末、今回は魔法の森にある霧雨魔理沙宅の近くで張り込みをする、という事になった。

妖怪に襲われる可能性があったのだが、博麗霊夢と射命丸文の二人が魔法の森に足を踏み入れたとき、辺りから妖怪の気配が消え去ったようで、安心して張り込むことができた。

 

「どう? 中の声とか、聞こえる?」

「全部を聞き取ることはできませんけれど、聞こえますね」

なるべく小さな声で、霊夢と文が話し合う。

霧雨魔理沙宅のすぐ近くなのだから、大声は厳禁だ。

まだ明かりがついているところを見ると、起きているようだ。

少しすると、聞き耳を立てている霊夢と文の耳に二人の話し声が飛び込んできた。

 

 

「それじゃ、魔理沙さん。そろそろ始めますか」

「そうだな」

 

どうやら何かを始めるようだ。

霊夢と文がさらに集中して聞き耳を立てる。

ある程度の声は聴きとれるが、さすがに、小さな話し声や、物音を聞き取ることは出来ない。

中をのぞいてもいいのだが、それで気が付かれたら大変だ。

ここは、じっと我慢することにしたようだ。

 

「あ、あのな一十。さっ……言ったけど、その、ほとんど初めてなんだ。……ら、優しく頼むぜ」

「安心……ください。優しく教え……から」

 

二人の話しを聞いて、霊夢と文の表情が、一瞬固まる。

「……ほとんど初めて? 優しく?」

「霊夢さん。止めに入りますか?」

「待ちなさい文。まだ、何を始めようとしているのか分からないわ」

自分自身を落ち着かせるように、霊夢が一度深呼吸をする。

「もう少し、張り込みを続けるわよ」

 

 

一十百と魔理沙が、何かを始めたようだが、音だけでは判断しにくい。

そんな中、また話し声が聞こえてきた。

 

「それで、こうです」

「……っこうか? なんだか、きつい……ど」

「そんなに力まなくても……。それに……に、…………てますよ」

「力を抜けば……のか? ……あ」

「抜けちゃいましたか。でも、もう一度、同………に入れれば大丈夫ですよ」

慌てるような魔理沙の声と、落ち着かせるような一十百の声が聞こえてくる。

 

「れ、霊夢さん! 止めにかかりましょう! 夜の営みの会話っぽくなってますよ!」

「……いやいや、さすがにそんなわけないわ。あの魔理沙よ、さすがにそんな状況にはならないわ」

霊夢が眉間を抑えて、目をつぶる。

「も、もう少しだけ、様子を見ましょう」

 

 

「そのまま、ゆっくりと……を動かすんです」

「こ、こうか?」

「そうです。そのまま、ゆっくり」

不安そうな魔理沙の声が聞こえてくる。

「ど、どうだ?」

「………りです! 後は、同じように、……を繰り返して下さい」

 

「……何をゆっくりと動かすって?」

「腰……でしょうか?」

「どうしてそんな状況になってるのよ!」

「れ、霊夢さん、声が大きいですって」

慌てて文が霊夢の口を押える。

「あまり大きな声を出すと、気づかれてしまいますよ」

「わ、わかってるわ」

コホンと霊夢が咳払いをして、頷く。

 

「それで、どうします。止めにかかりますか? なんだか、すでに手遅れのような気がしますけど……」

「……もう少しだけ、様子を見るわ」

声は落ち着いているのだが、霊夢の纏っている霊力が、バチバチと弾けている。

 

 

「どうだ、一十?」

「上手ですよ。ど……ら、コツが……たみたいで何よりです」

「そうか? そう言っ……ると、心強いぜ」

「でも魔理沙さん。少し休憩しな……大丈夫ですか? 夜も更け………したし、あまり無理をし………メですよ」

ちょっと心配したような一十百の声が聞こえてくる。

そんな心配を打ち払うように、魔理沙が言う。

「せっか……ツが掴めてきたんだ。このまま一気に……るぜ!」

「魔理沙さんらし……すね。……までとなると、今夜は寝かせてもらえ………ないですね」

「ああ。最後まで………ってもらうぜ」

「くすくす。お互い頑張り………ね」

気合が入ったような魔理沙の声と、それを応援するような一十百の声が、家の中から聞こえてきた。

 

「最後まで……、今夜は寝かせない……って。れ、れ、霊夢さん! 完全に夜の営みになっていますって! それも、初めてで、オールナイトですよ!!」

「…………」

「ああ、だからもう少し早く止めていれば……。いや、まだ間に合います! 止めにかかりましょう、霊夢さん!」

「…………」

 

何の反応もしてこないので、射命丸文が振り返る。

するとそこには、立ちのぼる赤黒い霊力を纏った巫女……、いや、禍巫女が立っていた。

「ひっ!」

圧倒的な威圧感に気圧されて、射命丸文はぺたんと地面に座り込んだ。

射命丸文の身体が小刻みに震える。

「文。一旦、博麗神社に戻るわよ」

「え、あの……」

「戻るわよ」

「はい」

ここで反論したら命が危ないと悟った文は、禍巫女霊夢の言うとおり、一旦、博麗神社に引き上げることにした。

 

 

そして次の日……。

何とか、博麗霊夢の頭も冷えたようで、禍巫女から、一応普通の巫女にもどっている。

「えっと、霊夢さん? その、神社の中に見慣れないものが、たくさんあるのですけど……。内側に鉄の棘が付いた西洋甲冑とか、巨大な釜とか、棘のついた石床と平たい石とか……」

「使い方、知りたい?」

「い、いえ、命の危険を感じるので、やめておきます」

昨日の夜ほどではないが、未だ博麗霊夢からは赤黒い霊力が揺らめいている。

十百さんを早く返しに来てください、と文は心の底から思うのだった。

 

「……私がここにいる意味ってあるのかしら?」

そんな二人を眺めて、呆れたような声で尋ねる、十六夜咲夜。

何故ここに十六夜咲夜がいるのかというと……、その出来事は数時間前にさかのぼる。

 

猛り狂う程の霊力を纏った霊夢が、紅魔館に一人向かってきた。

霊夢は文字通り一直線にレミリアの所に行き“咲夜を貸せ”と一言告げる。

いつもと明らかに雰囲気の違う霊夢を見て、レミリア・スカーレットは咲夜に事の真相を確かめてくるように命じた……と、そういう事になっている。

 

お嬢様の命令でここへ来たのだけれど……、お嬢様が涙ぐんでいたのもわかるわね。

全く、お嬢様のトラウマがこれ以上増えたら困るというのに。

「咲夜。あんたの能力なら、簡単に魔理沙を捕まえられるでしょ」

「……とにかく原因を教えてくれないかしら? 手伝うのはそれからでも遅くないでしょう?」

「そうね、わかったわ」

 

 

博麗霊夢は、昨晩の話を十六夜咲夜に話す。

「……という事なの」

「つまり、十百君が魔理沙に寝取られたようだから、捕縛してほしいと」

はぁ~、と疲れたようなため息が咲夜から漏れる。

 

大方、この二人の勘違いだとは思うけれど、この状態の霊夢を放っていくのは危険ね。

霧雨魔理沙には悪いけれど、この怒りの捌け口になってもらうわ。

「捕縛するだけでいいの?」

「ええ、捕まえてくれれば、後は私がこってり絞り上げるから」

咲夜は神社の本堂の中に見える数々の拷問道具をみて、一言呟く。

「……血の一滴まで絞り上げるつもりなのかしら?」

 

 

しばらくすると、遠くの空から博麗神社に一つの影が向かってくる。

その姿を見て、博麗霊夢は一度大きく深呼吸をする。

今まで纏っていた赤黒い霊力がスッと消えていった。

そんな事をしている間に、その影は博麗神社に降り立った。

 

「ただ今戻りました!」

「霊夢、ちゃんと返しに来たぜ!」

一十百と霧雨魔理沙が箒から降りる。

魔理沙の手には、朝食でも入っているような、小さな籠が持たれている。

いつものように、借りる、返すという物言いだが、しっかりと送り届けているところをみると、ぞんざいな扱いをするつもりは全くないようだ。

 

「お帰り、一十百、魔理沙」

博麗霊夢はにっこり微笑んで二人を出迎える。

遠目に見れば微笑ましい光景だ。

 

しかし、その笑顔を見て、霧雨魔理沙は直感的に悟ってしまった。

い、今の霊夢には近づかないほうがいい……、そんな気がするぜ。

ここは、さっさと撤退するに限る!

「え……っと、じゃ、私はやることがあるから……」

くるりと霧雨魔理沙が博麗神社を後にしようとする。

 

けれど、それは叶わぬ夢となった。

飛び立つ前に、ガシッと肩を掴まれたのだ。

霧雨魔理沙が、ゆっくりと振り返ると、笑顔のまま赤黒い霊力を纏った、禍巫女霊夢がそこにはいた。

「魔理沙、ちょっと話があるのよ。聞いていきなさい」

「え、あ、その……」

「聞いていきなさい」

「…………」

 

これは命の危機だぜ!

間違いなく、命の危機だぜ!

何とか、ここは振り切らないと……。

 

グッと霧雨魔理沙は箒の柄を握る。

そして、一気に引きはがすように飛び立った。

「よくわからないけど……、逃げるぜ!」

霧雨魔理沙の飛行速度はかなり速い。

飛ぶことさえできれば、あっさりと逃げ切れるはずだった。

 

しかし……、今この博麗神社にいるメンツからは、そんなに容易く逃げ切れるものではなかった。

幻想郷最速と呼ばれた鴉天狗、時間を操るメイド。

この二人がいる時点で、ほぼ逃避は不可能だろう。

 

霧雨魔理沙が飛びあがった瞬間、カチリと時計の針の音が響く。

世界がモノクロにかわり、時間が止まった。

「悪いわね、霧雨魔理沙。霊夢がやり過ぎないよう、隣で私も見ていてあげるから、今は捕まっておいて」

箒に乗った魔理沙を、そっと担ぐと、先ほどの位置まで戻す。

魔理沙の肩に、しっかりと霊夢の手を置くことも忘れない。

 

 

「あの~、咲夜さん。何かあったんですか?」

止まった時間の中、一十百は心配になって咲夜に尋ねる。

それに対して、咲夜は少し困ったような表情を浮かべる。

一応、勘違い騒動の原因の一端は、十百君にもあるのだけれど、それを責めるわけにもいかないわね……。

「たぶん、霊夢とそこの鴉天狗の勘違いだと思うから、ある程度、霧雨魔理沙をフォローしてあげて」

「? えと、よくわかりませんが、上手くフォローしてみます」

一十百がグッと、両手を握る。

多分、これなら大丈夫と、十六夜咲夜は能力を解いた。

 

「にげ……あれ?」

ガシッと、嫌な感覚が、また肩に伝わってくる。

恐る恐る振り返ると、そこにはにっこりと微笑んでいる、禍巫女がいた。

「さてと、しっかりと話を聞かせてもらうわよ。魔理沙」

ふるふると涙目で首を横に振る魔理沙だが、問答無用とばかりに、そのまま本堂の方に引きずられていった。

一十百と十六夜咲夜、射命丸文は急いでその後を追うのだった。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

霧雨魔理沙宅への張り込み:何をやっていたのか、声だけで判断することになりましたが……。いったい、中ではどんなことになっていたのやら。記者として、やはり覗いておくべきでした。by文  こってりと聞き出すから、安心しておきなさい。by霊夢

禍巫女:妖怪として……久しぶりに、命の危機を感じました。思い出すと今でも震えが……。by文  赤い一十百に匹敵する恐怖だったわ……ぐすっ。byレミリア
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