東方お仕事記   作:TomomonD

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七十仕事目 思いを編み込んだマフラー

博麗神社本堂の中、拷問道具を背にして、博麗霊夢が仁王立ちの状態だ。

事情が全く分からない霧雨魔理沙だったが、霊夢の圧倒的迫力の前に何も言えず、正座をしている状況だ。

そこから少し離れて、射命丸文、十六夜咲夜が佇んでいる。

そして一十百は……。

「鉄の処女、釜茹で、算盤責め……。うわぁ、どれも、有名な拷問道具が並べられています」

本堂に置いてある拷問道具を見て、感嘆の声を上げている。

 

 

「さてと、魔理沙。どうして、こうなってるか、分かるかしら?」

「わ、分からないぜ。ちゃんと時間通りに、一十は返したはず」

魔理沙は、かなり本気で考える。

何せ、下手をすれば霊夢の背後にある道具の恐ろしさを、身をもって知ることになりかねない。

 

「そう、心当たりがないと。なら、昨日、何をしていたの?」

「えっ? 一十に部屋の掃除とか、キノコ採りとか、そういうのを手伝ってもらってたぜ」

「それは本当かしら?」

そう言って霊夢は一十百の方を見る。

「本当ですよ。お昼ごろまで魔理沙さんの家のお掃除。その後、昼食を食べてから、魔法の実験の為にキノコ採り行きました」

「なるほど。確かに嘘は吐いてないわね」

「当り前だぜ! 嘘を吐く必要もないしな」

トンと魔理沙が自分の胸を軽くたたく。

 

 

「それじゃ、本題に入るわよ。昨晩は何をしていたの?」

「え……、えっと、本を読んでいたぜ~」

「……そう」

霊夢がパチンと指を鳴らすと、鉄の処女の蓋が開き、鋭い棘で覆われた内側があらわになった。

それを見て、魔理沙に冷や汗が流れる。

下手な嘘は自分の寿命を縮めることになりそうだ。

 

ギラリと博麗霊夢の瞳に鋭い光が灯る。

「魔理沙。昨晩、何をしていたの?」

「ううぅ……。そ、それは……」

少し帽子を深くかぶり、視線をずらす。

ほんのりと頬が赤く染まっているように見える。

「い、言えないぜっ!」

「言えないぃ? どうして、言えないのかしら?」

「それは……」

助けを求めるように、魔理沙の視線が一十百に向く。

一十百も、困ったような表情を浮かべる。

そのわずかなやり取りを見て、今まで静かに見ていた射命丸文が霊夢の真横に立ち並んだ。

 

「やはり、十百さん絡みのことですか! なにをしたんですか! というよりも、何をやっちゃったんですか!!」

「い、いや、そんな大したことは……」

「なら、しっかりと何をしたか言ってください! その時の状況や、心境、その他諸々まで! 私がしっかりと記事にしますから」

「なおさら言いたくないぜ!!」

ブンブンと霧雨魔理沙が手を振る。

断固として昨晩のことを言うつもりは無いようだ。

 

しかし、そんなことで引き下がるような二人ではない。

さらに一歩、霧雨魔理沙に詰め寄る。

「さあ、何をしたのか言いなさい!」

「言って楽になってしまえばいいのですよ!」

「う……。ひ、一十、助けて!」

霧雨魔理沙は、飛び退くように立ち上がると、一十百の後ろに隠れた。

一十百は腕を組み、う~んと一度唸る。

そして、軽く肩をすくめて、霧雨魔理沙の方を向く。

 

「魔理沙さん。昨晩のことを話すしかないですね」

「ええっ! 一十まで、そんなことを言うのか?」

「いろいろ考えてみたんですけど、今の霊夢さんと文さんを落ち着かせるには、それしかないと思います」

「で、でも……」

ごにょごにょと、霧雨魔理沙が帽子を掴みつつ、一十百に話しかける。

「……言わなきゃ、ダメか?」

「言わないと、串刺し、釜茹で、圧殺……と、酷い状態になりかねません」

「た、確かに……」

魔理沙は小さく頷くと、霊夢と文の前に立った。

 

「話すつもりになったのかしら?」

「話したくはないけど、そうしないと命の危機だから、話すぜ」

問題は、本当のことを話したところで、内容によっては命の危機に拍車をかけることになるのだが……。

 

 

とにかく、霧雨魔理沙は小さな声で昨日の出来事を話し始めた。

「昨日の夜、一十に……」

じ~っと、二人の視線が魔理沙に降り注ぐ。

その視線のせいで、魔理沙の声がさらに小さくなった。

「あ……」

「「あ?」」

グッと両手を握り、霧雨魔理沙は昨日の出来事を言い放つ。

 

「編み物を教えてもらってたんだぜ!!」

 

「「…………は?」」

完全に予想外の回答が返ってきたために、霊夢と文の反応がかなり遅れる。

対する魔理沙は、頬を真っ赤に染めて、帽子をかなり深くまでかぶってしまった。

 

「え? はい? アミモノ? アミモノって、あの編み物?」

「そうだぜ……」

「毛糸とかで帽子とか手袋とかを作る、あれですか?」

「そう、だぜ……」

博麗霊夢と射命丸文はお互いの顔を見て、一度頷く。

二人は、すぐに一十百のもとへと駆け寄った。

 

「ほ、本当なの、一十百?」

「本当ですよ。昨日の夜、魔理沙さんに編み物を教えてほしいって言われたんです。ある条件付きで」

「ある条件って?」

「“編み物を教えたってことは誰にも言わないでほしい”って言われたんですけど……。今回は状況が状況でしたから」

仕方ないですよね、と一十百が呟く。

 

「なんでそんな条件を付けたのよ?」

わけが分からないと、霊夢が魔理沙に話しかける。

「うっ……。だって、編み物の一つもまともにできないのか、って馬鹿にされるのは御免だったから」

「いや、別にそんな程度の事だったら、恥ずかしがらなくたっていいじゃない……」

「そんな程度の事って……。一十にこれを打ち明けるのだって半日かかったんだぜ」

「半日……? ……もしかして深夜に編み物をしていた理由って」

「私が言い出せなかったから……」

恥ずかしそうに魔理沙がそう言った。

 

「じゃあ、昨日話していた、初めてって……」

「もちろん編み物の事……って、近くにいたのか! き、気が付かなかったぜ」

「きついとか、抜けたっていうのは?」

「指に毛糸をかけていたんだけど、私が力みすぎて、きつく締まっちゃったんだぜ。力を抜いたら、他の輪まで抜けて大変だった」

昨日の苦労を思い出すように、しみじみと魔理沙が語る。

 

「ゆっくり動かすって……編み棒のこと?」

「ああ。昨日まで編み棒っていう名称すら、私は知らなかったんだ」

「最後まで……って」

「ううっ、そこまで聞かれてたのか。か、完成まで、一十に見ていてほしかったんだぜ。最後の方で失敗したら嫌だからな……って、霊夢?」

なんだか、霊夢の反応がないと思い、魔理沙が顔を上げる。

 

すると、そこには真っ白になった霊夢が呆然と立ち尽くしていた。

口から、霊夢っぽい魂のようなものが出ている。

隣の射命丸文も、まったく同じ状況だ。

チーンとどこか、寂しげな金属音が鳴り響いた気がした。

 

 

「やっぱりただの勘違いだったみたいね」

やれやれと、遠巻きに見ていた咲夜が軽くため息を吐いた。

「大方、こんなことだと思ったわよ。災難だったわね、二人とも」

「霊夢さん達が、何を勘違いしていたのかは分かりませんけど、誤解が解けたようで何よりです。それに、咲夜さんがいたのは好都合でしたね、魔理沙さん」

「いっ! そ、そうだな」

いきなり話を振られた魔理沙は、ビクッと一瞬硬直する。

「好都合? 私に何か用事でもあったのかしら?」

「はい。僕が、ではなく、魔理沙さんがですけど」

「珍しいわね。一体何の用かしら?」

 

咲夜が魔理沙の方を向く。

心の準備でも必要だったのだろうか、霧雨魔理沙はチラッと一十百に視線を送る。

その視線を受けた一十百は、グッと拳を握りエールを送る。

僕の言葉を借りずに、魔理沙さんの言葉でしっかりと伝えるべきです、と言っているようだった。

そのエールを受けて、霧雨魔理沙は少し俯いていたが、決心がついたのか顔を上げた。

 

「あ、あのな咲夜……」

「なにかしら?」

「これを受け取ってほしいぜっ!」

魔理沙が手に持っていたバスケットを咲夜に差し出す。

すると、ポンという音と共にバスケットは煙のように消え去り、中の物がふわりと咲夜の両手の上に舞い上がる。

 

「これは……マフラー?」

クリーム色と白色の毛糸で編まれたマフラーが、ゆっくりと咲夜の手に収まる。

よく見ると、マフラーの網目模様が投げナイフの形をしている。

 

「ほら、肝試しの時、私を助けてくれただろ? 結果としては、どっちでも大丈夫だったみたいだけど……。でも、あの時、咲夜は本気で私を助けようとしてくれた。それのお礼がしたくて」

気恥ずかしそうに、魔理沙が言う。

「それで、もうすぐ冬だし、寒くなるから、マフラーなんかがいいんじゃないかと思って編んだんだぜ」

 

咲夜は魔理沙の意外な一面に驚く。

主に今までは、図書館の書物を勝手に借りていく、面倒事にはマスパと、火事場泥棒のような粗暴な存在だと思っていた。

しかし、今、目の前にいる霧雨魔理沙は、今まで自分の思っていた存在とは全く別物。

自分なりの表現で、しっかりと恩を返そうとしている一人の少女だった。

そのギャップに少し笑みをこぼした咲夜。

手に持ったマフラーを慣れた手つきで自分の首に巻く。

 

「そ、その、初めて作ったから、スカスカであまり温かくないかも……」

その言葉を聞いて、咲夜は首に巻いたマフラーに軽く手を添える。

確かに網目と網目の間が広い場所があったり、模様が途切れてしまっていたりと、初心者ならではのマフラーと言ったところだ。

 

「確かに、多少編み方が緩くて、風が入ってくるかもしれないわ。でも……」

いつもはあまり表情が変わらない咲夜が、目を細めて微笑む。

「別の場所がとても暖かいのよ」

そう言って、咲夜は自分の胸の上に軽く手を置いた。

御世辞ではない。

きっと、自分がどれほど上手くマフラーを編んだとしても、こちらの方がきっと温かく感じるのだろう。

「ありがとう。大切に使わせてもらうわね」

 

 

「それじゃ、私はそろそろ戻らせてもらうわ」

十六夜咲夜は、そう言うと博麗神社から紅魔館に戻っていった。

咲夜の足取りが、どこか軽かったようにも思える。

そのほんの少しの違和感は、マフラーを渡すのに緊張しきった魔理沙には分からなかったようだ。

横で見ていた一十百だけが、その微笑ましい光景を見ていたのだった。

 

「魔理沙さん。お疲れ様でした」

「ふぅ~……。弾幕勝負の何倍もの精神力を削った気がするぜ」

「でも、よかったじゃないですか。喜んでもらえたみたいで」

「ああ。昨日の夜、頑張ったかいがあったぜ」

霧雨魔理沙が大きく伸びをする。

 

「さてと、私は少し休ませてもらおうかな。さすがに疲れたぜ」

マフラーを作るため一睡もしていない、というわけではないのだが、さすがにいろいろあって疲れたようだ。

「一十。いろいろとありがとうな」

「いえいえ。魔理沙さんが頑張ったから満足する結果がでたんですよ。僕はそれをほんのちょっとお手伝いしただけです」

にこっと一十百が微笑む。

 

「さて、お布団の用意をしないといけませんね」

そう言って、一十百と霧雨魔理沙は本堂を後にした。

 

ほぼ抜け殻状態になった、博麗霊夢と射命丸文が忘れられていたのは言うまでもない。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

編み物の練習:昨日の夜、魔理沙さんに編み物を教えてほしいと頼まれました。初めてと言っていましたけど、かなり素質がありそうでした! ちょっとした手芸を嗜む女性っていいですよね~。by一十百  編み物は一十に、裁縫は……アリスに頼むつもりだったぜ。by魔理沙

二人の勘違い:霊夢さんと文さんが、なにやら殺気立っていた気がします。咲夜さんがただの勘違いと言っていたので、何か誤解をしていたようです。昨日の編み物の練習の時間帯のことを詳しく聞いていたみたいですけれど、何と勘違いをしていたのでしょうか?by一十百  あの二人の早とちりだと思っていたから、そこまで驚かなかったわ。by咲夜

手編みのマフラー:この前の肝試しの時のお礼と言って、魔理沙さんが作っていました。渡した相手は咲夜さんです。誰かのためを思って作ったものは、本来の何倍もの効力を発揮するんですよ。きっと、あのマフラーは他のマフラーの何倍も暖かいと思います。by一十百  ……咲夜がご機嫌なんだけど、何かあったのかしら?byレミリア
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