東方お仕事記   作:TomomonD

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七十一仕事目 三人の巫女の妖怪退治

幻想郷に冬が訪れる。

 

この時期は、妖怪にとっても人間にとっても辛い時期になる。

作物はあまり育たず、蓄えのみで過ごすことになるからだ。

それ故に、空腹のため殺気立った妖怪たちが、人里の近くに現れることも多々ある。

特に、幻想郷のルールを守ることを知らない下級、低級妖怪たちは、人里のすぐそばで人間を襲う事もあるのだ。

 

「……と言うわけで、妖怪退治の依頼が入ったわ」

「やっぱり、人里を襲う妖怪もいるんですね。大変そうです」

「なら、霊夢が帰ってきてから、一杯やろうじゃないか。妖怪退治、おつかれ~って」

こたつを囲みながら、霊夢、一十百、萃香の三人が話し合う。

人里から来る妖怪退治の依頼は、弱小妖怪の退治が大半だ。

妖怪退治のスペシャリストである博麗霊夢が、その程度の妖怪に遅れをとるわけがない。

なので、一十百と伊吹萃香の二人は、帰ってきてからの酒盛りのことを考えているようだ。

 

「そうね、帰ってきて一杯やるのには賛成ね。でも、今回の妖怪退治の依頼は三カ所から来てるのよ」

博麗霊夢が、幻想郷の簡単な地図を広げる。

その地図を指差していく。

「ここと、ここと、ここね」

博麗霊夢が指差した場所は、三カ所ともバラバラで、かなり距離があった。

三カ所で妖怪退治をするとなると、終わった頃には空が真っ暗になっているだろう。

 

「結構、遠いですね。大丈夫でしょうか?」

「大丈夫ではあるけど、大変なのよ。でも、ちょうどいいことに、この神社には巫女が三人いるじゃない?」

「……え? 巫女さんが、三人ですか?」

毎朝、一番早く起きて神社の掃除をしている一十百だが、この博麗神社に他の巫女がいるところを見たことがない。

 

実は、霊夢さんに姉妹がいて、どこか別宅のような所に住んでいる……。

そんなわけないですし……。

もしかしたら、萃香なら何か知ってるかな?

そう思って萃香を見る。

しかし、萃香もわかっていないようで、腕を組んで悩んでいた。

 

そこで、一十百は気が付く。

そう、伊吹萃香は宿を借りる代わりに巫女としての手伝いをすると約束している。

つまり、一人は萃香……。

あと一人は……、誰でしょうか。

 

「霊夢さん。霊夢さんの他に一人は誰のことか分かったんですけど、あと一人は誰ですか?」

「まだ気が付かない? 三人の巫女の内、一人は私、一人は萃香、最後の一人は……あなたでしょ」

そう言って博麗霊夢は一十百を指差した。

 

一十百は誰のことか分からず、自分の後ろを振り返る。

少しして、それが自分のことだと気が付いた。

「ええっ! 僕は巫女じゃないですよ!」

「それよりも、私、一応妖怪なんだけど……」

「はいはい。二人ともさっさと支度する。暗くなると厄介でしょ」

そう言って霊夢は妖怪退治の準備のために、道具を取りに行ったようだ。

 

残された一十百と伊吹萃香は、お互いを見る。

「えと、どうしよう……。僕、巫女じゃないのに……」

「いや、まだ十百なら問題ないだろうけど……。私、鬼だよ。どっちかというと、退治される側だよ」

二人とも宿を借りている身分のため、博麗霊夢の頼みを断りにくいものがある。

少し悩んだが、一十百も伊吹萃香も仕方がないと納得したのか、各々準備にかかることにした。

 

 

日も高く昇った頃、博麗神社本堂の前に三人の巫女が集まった。

博麗霊夢、一十百、伊吹萃香の三人だ。

 

博麗霊夢はいつもと変わらない服装であり、御札や封魔針の用意をしただけのようだ。

特に用意をしなくても、妖怪退治くらいお手の物と、そんな自信が見え隠れしているようだ。

 

一十百は早朝に着ている白と青の巫女服を着用している。

一応、スペルカードも持っていくのだが、スペルカードルールを無視してくる弱小妖怪が多いという事で、あまり役に立たない可能性がある。

 

最後に伊吹萃香だが、一十百が前に仕立て直した巫女服を着て、額に一枚札を張っている。

 

「ねえ、萃香。なにやってんのよ?」

「いや、これなら人里に行っても大丈夫だって、十百が……」

「……一十百。萃香のあれは何?」

「式神の札、っぽいものですよ。博麗の巫女の式神、と言えば、たとえ鬼でも騒ぎにはならないと思いまして」

「いや、騒ぎになるでしょ」

冷静に霊夢がつっこむ。

けれど、別のいい方法が思いつかないので、今回はこのまま妖怪退治に向かうことになった。

 

「騒ぎになりそうだったら、すぐに人里から離れること。いいわね」

「それは、わかったけど……。私が妖怪退治に行かなければ、こんな心配もしなくていいんじゃないかい?」

「一人で二つも掛け持つのは、面ど……大変なのよ」

確かに今、面倒くさいと言おうとした気がするが、深く追求するのはやめようと萃香は思う。

 

 

準備もできたようで、三人は別々の人里へ向かう。

 

霊夢が向かったのは、幻想郷で一番大きな人里。

この前の異変の時に、上白沢慧音が隠していた人里だ。

慧音も弱小妖怪程度なら追い払うくらいのことができるはずだ。

それなのに、その人里から依頼があった。

つまり、それなりの妖怪が襲ってくる可能性がある。

「それを、一十百や萃香に任せるのは御門違いよね」

空を飛びながら霊夢はそんなことを考える。

一十百も萃香も、善意で手伝ってくれてるんだし、面倒なのは私が片付ければいいわ。

まあ、あの二人なら、ある程度の妖怪が出てきても、大丈夫そうだけど……。

そこまで考えが行き着いたとき、霊夢は首をかしげた。

 

「よく考えてみたら、萃香も一十百も、スペルカードルールが無い場合、かなり強いんじゃなかったけ?」

もしかして、私がわざわざ面倒な方に行かなくてもよかった?

今さら戻るわけにもいかず、霊夢は一度ため息を吐くと、そのまま目的地へ向かっていった。

 

 

さて、そのころ伊吹萃香は目的地の人里まで歩いて向かっていた。

博麗神社から最も近い人里からの依頼だ。

いままで、この人里から妖怪退治の依頼が来たことはなかった。

つまり、新手の妖怪を退治することになる。

「まあ、どんな妖怪だろうが、人里を襲ってる時点で、そこまでの奴じゃないんだろうけど」

鬼が来たと騒ぎにさえならなければ、大したことはないと、散歩気分で萃香は人里へ向かう。

 

「まあ、霊夢も十百も、私が心配するほど弱くないし、さっさと終わらせて一杯やりたいところだね」

今日みたいに寒い日に、くいっと一杯、たまらないね~。

すでに終わった後の楽しみに胸をふくらます萃香だった。

 

 

同じころ、一十百は目的地の人里に向かって走っていた。

移動速度と体力から考えて、一十百は依頼された人里の中で最も遠い場所を選んだのだ。

場所は妖怪の山の近くの人里。

妖怪の山は、その名の通り妖怪が多い。

しかし、山頂付近に住んでいる天狗たちを中心に、かなり統制されている場所でもあるので、人里に被害が行くことは希なのだ。

それなのに人里に被害が出たとなると、考えられる可能性は三つ。

 

「天狗さん達に何かあったのか、予想以上の大妖怪が出たのか、ただの見落としなのか……。最後の以外は、手に負えるか不安です」

道中にあった大き目な石を踏み、高々と跳びあがりつつ人里を目指す。

もしも、大妖怪が出たらどうしよう……。

あ、でも大妖怪なら話が通じるし、スペルカードルールに則って勝負ができるはず。

なら、少しは安全かな。

話の通じない妖怪だったら……、う~ん……。

「何とかして、退治しないといけませんね」

平原を駆け抜け、一十百は真っ直ぐ人里に向かっていった。

 

 

三人の中で一番早く目的地に着いたのは伊吹萃香。

ただ、やはり人里に入るのに躊躇する。

「う~ん、困った。騒ぎになって、霊夢に怒られるのは御免被りたいところだ」

腕組みをして人里の前で立ち止まる萃香。

 

そんな事をしているうちに、里の人間たちが集まってきてしまった。

やはり、大きな二つの角が人の目を引いてしまうのだろう。

集まった人たちが小声で、妖怪だの、巫女だのと話している。

このままだと騒ぎになると思った萃香は、急いで手を打つことにした。

 

「えっと、博麗の巫女の手伝いをしている伊吹萃香だ! 妖怪退治の依頼をしたのはここの里でいいのか?」

博麗の巫女という単語で、ざわつきが大きくなる。

やはり、妖怪という点であまり信じられてないのだろうか。

鬼だから嘘は吐かない!

……って言ったら、騒ぎになるし、困ったぞ。

 

里の人が怯えるように遠巻きに視線を送る中、一人の男が大きな声を出した。

「お前ら! わざわざ巫女様が妖怪退治に来てくれたっていうのに、何、疑ってるんだ!」

人々と萃香の視線がその男に集まる。

体格のいい、ねじり鉢巻きをした男だ。

店の名前だろうか、文字の書かれたエプロンをしている。

その男が、がっしり腕組みをして、萃香を見る。

 

「あの服装は、どう見ても巫女様じゃねえか! それを、妖怪だなんだって、失礼だろう! 頭の角は、アレだ! この前の祭りで配られていた物だろ?」

「え、あ~、まあ、それに近い物だよ」

秋夏祭りの前、一十百から被り物の角を見せてもらったが、本物との違いが判らないほどだった。

そういう意味では、確かに“近い物”と言っても間違ってはいない。

その男も腕組みをしたまま頷く。

 

「ほら見ろ! ああやって、角をつけることで妖怪どもを威圧するのも、巫女様の考えの一つってわけだ!」

何とも信じがたい内容なのだが、その男の自信満々な態度が、周りの人々から不安を取り去っていく。

里の長でもない、ただの店主のはずなのだが、その威厳溢れた佇まいは鬼の萃香から見ても清々しく思えるものだった。

いつしか、まわりの人々もなるほどと頷き、頭を下げるもの出てきた。

 

「巫女様、着いて早々にすまねえが、さっそく妖怪退治をしてもらえないか?」

「ああ。わかった」

何とか信用してもらえたようで、騒ぎにならなくてよかったと萃香は胸をなでおろした。

 

 

妖怪が来る場所は、さっきの体格のいい男が案内してくれるようだ。

並んで歩いてみると、その体格の良さが際立って見える。

今の萃香の倍はある身長、丸太を思わせる腕、ずしっと一歩進むごとに響く足音。

下手をすると、そこらの下級妖怪程度なら殴り飛ばせそうだ。

案内をしながら、男が独り言のように言う。

 

「てっきり、紫色の服を着た少年が来るかと思ったんだがな」

「うん? 十百を知ってるのかい?」

「ああ。あの少年、博麗の巫女様に仕えてるんだろ? ここには、よく来るからな」

そう言えば、十百が調味料店の店主がなんとかって、前に言ってたけど……、この人のことか。

萃香は一十百が楽しそうに話していたのを思い出す。

 

「それでだ。お前さん、萃香とか言う鬼だろう? あの少年が話してるの聞いたことがある」

「えっ……いや、し、式神だよ? ほら、巫女の式神」

そう言って萃香は額の札を差す。

それを見て、がっはっはと男は笑う。

「鬼が嘘を吐くもんじゃないぞ。安心しな、鬼だろうが妖怪だろうが、あの少年の友達だろ? なら、別に恐れる必要はねえ」

男はガシッと萃香の頭を掴むように撫でる。

 

「あの少年は、真っ直ぐだからな。それと一緒にいる、お前さんも真っ直ぐってわけだ。そんな風に、一本芯の入った奴に悪い奴はいねえよ」

がっはっはと笑いながら、男は萃香の頭から手を離した。

 

暑苦しさと共に、話していて楽しくなるような振る舞い。

それでいて、大事な部分を見抜いているような、そんな物言い。

まるで、同族、鬼が隣にいるような錯覚を受ける。

 

「……アンタ、本当に人間かい? まるで、同族……鬼仲間を見ているみたいなんだけど」

「鬼のお前さんに同族って言われるとは、男として嬉しいじゃねえか! 腕っぷし、心構え、何より正直。幻想郷に鬼が戻ってきたら、酒盛りでも一緒にやりたいもんだ」

「そうだね。アンタとなら、いい酒が飲めそうだよ」

 

そんなことを話しながら、萃香は妖怪が来るであろう場所まで案内してもらうのだった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

妖怪退治:冬になると、低級妖怪が人里を襲う事が多々あります。今回は、ほぼ同時に三つの人里から依頼が来ました。なので、僕、霊夢さん、萃香の三人で手分けして、妖怪退治に行きます。by一十百  さっさと終わらせるわよ。by霊夢  帰ったら、一杯やろうじゃないか。by萃香

調味料店店主:いや、たまにこういう人間がいるから、楽しいんだよね。正直、祖先が鬼だったんじゃないかと思える程、似たような雰囲気があったよ。by萃香
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