東方お仕事記   作:TomomonD

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七十二仕事目 里によって被害は様々

萃香が調味料店店主に案内されている頃、博麗霊夢は目的の人里に到着した。

幻想郷で最も大きい人里だけあって、なかなかの人通りだ。

そんな中、今回の妖怪退治の依頼に詳しそうな人が歩いてくる。

 

「わざわざ済まないな。私では手に負えない類の妖怪なんだ」

変わった帽子に青銀髪の女性、上白沢慧音が博麗霊夢を出迎えてくれた。

「手に負えないって、どういう事? 里を護るくらいの力を持っているのに、手に負えないのかしら?」

「ああ。なにぶん、数が多くてな……」

「数? 一匹じゃないの?」

「一匹だったのだが、数十匹になっていた」

なにそれ、と霊夢が言おうとした時、微かな妖力に気が付く。

まさか、近くにいるの?

霊夢は辺りを見回す。

 

すると、近く家の前に置いてある桶の中から、今まで見た妖怪とは違う類の妖怪が現れた。

どこが身体なのか、どこまでが頭なのか、まったくわからない。

まるで、ただの水のような、そんな物体がゆっくりと桶から出てきたのだ。

 

「……アレ、なに?」

「あれが、退治してもらいたい妖怪だ」

ドロッとした何かが、ゆっくりとこっちに向かってくる。

確かに妖力は持っている、ほんの少しだが殺気も感じる。

明らかに敵対意識を持っているようだ。

「…………」

ええと、どれくらいの力で相手をしたらいいのかしら?

これくらいかしら?

博麗霊夢は、僅かに霊力を纏わせた札を投げつける。

 

放たれた札は、狙い通りドロッとした何かに向かっていった。

札が向かってきているのにもかかわらず、その何かは避けようとしない。

そのまま札は見事に命中した。

僅かに纏っていた霊力で、ドロッとした何かは見事にはじけ飛んだ。

「弱っ! こんなに手加減したのに、はじけ飛んじゃったわ」

「一匹当たりの強さは、妖怪とは思えないほど弱い。問題は、その数の多さなんだ」

「今のだけじゃないの?」

霊夢の問いに対して、慧音が頷く。

 

「この人里のいたるところに、先ほどの奴がいる。私ひとりじゃ退治しきれなかった」

「はぁ~、これまた面倒な妖怪ね。で、名前はなんていうのよ? アレとか、それとかじゃ、分かりにくいじゃない」

「名前? 霊夢、君も知らないのか」

「知らないわよ」

困ったといったように、慧音はため息を吐いた。

「私も、その妖怪の名前を知らない」

「……ま、名前なんてどうでもいいわね。とにかく、手分けして片っ端から退治していくわよ!」

こうして、霊夢は慧音と協力して、ドロッとした妖怪を退治していくことになった。

 

 

同じころ、一十百も何とか目的の人里に到着した。

妖怪の山の麓に近い人里のためか、山側に面している方に木で作られた柵が設置されていた。

「こういう対策がしてあるってことは、山の妖怪の被害があるってことなのでしょうか……」

そんなことを考えながら人里の中に入っていく。

 

すると、すぐに人里に住む人達が集まってきた。

「おお、博麗の巫女様ですね。お待ちしていました」

僕は巫女じゃないです、って言ったら混乱しそうですから、ここは巫女という事にしておきましょう。

 

「は、はい。妖怪退治、という事で、こちらに呼ばれたようですけれど、一体どのような妖怪なんでしょうか?」

「先日、そこの里道を歩いていたのですが……。じっと、里の方を睨んでいる妖怪がおりましてな、怪しいと思って声をかけたのです。そうしたら、射殺すような目つきでこちらを睨み、そのまま去っていったのです」

くわばら、くわばら、と周りの人々が小声で話す。

 

しかし、一十百は少し疑問に思う。

「……あれ? 別に、害をもたらす妖怪ではないみたいですけれど」

「いんや、里をあんな風に睨んでいたんですから、何か悪事を働こうとしておったに違いありません」

「そうでしょうか……。う~ん」

この里の方々は長年にわたって、妖怪の山の隣に住み続けていたはずです。

だからこそ、妖怪の動きに過剰に反応してしまっている……。

ここで、僕が依頼を断れば、より一層大事にしかねません。

仕方がありません、ここは依頼を受けることにしましょう。

一十百はコホンと一度咳払いする。

 

「分かりました。その妖怪に害意があるか、一度会って確かめてみます。もしも、害意があるなら、その場で退治してきましょう」

「妖怪なのですから、即刻退治したほうがいいのではないでしょうか?」

「そういうわけにはいきません!」

ダンと一十百が地面を強く踏む。

一十百の小柄な見た目からは想像できないほどの、威圧感が溢れ出る。

里の人々はその迫力に驚き、一歩下がった。

 

「妖怪も生き物であり生活をしているんです。敵意も害意もない妖怪を、意味もなく退治する。それは退治ではなく虐殺です」

ギュッと一十百が拳を握る。

「巫女として、妖怪退治は引き受けました。けれど、虐殺は引き受けるつもりはありません。努々、忘れることの無いよう」

「は、はい」

一十百は、そう言い残すと妖怪を見たという里道にゆっくり向かっていった。

 

 

一方、調味料店店主に案内され、妖怪の出た辺りまで歩いてきた萃香。

「この辺りにいるはずだ。間違いねぇ」

萃香が辺りを見回すと、野菜の食いかけのようなものが、バラバラと散乱している。

 

「こりゃ酷いね。ここらの野菜は人里のもんだろ?」

「ああ。あいつら、畑を食い荒らしやがって」

「うん? なんだ、どんな妖怪か分かってるのかい」

「そりゃな、毎日追い払ってるから見ているぜ。デカい、鼠みたいなやつだ」

それを聞いて、萃香はなるほどと頷く。

十百が、よく退治してくるあの鼠妖怪か。

 

「なんだ、アイツらか。大したことなさそうだね」

「いや、周りの奴らは大したことねえんだが、一匹厄介な奴がいてな、手に負えねえんだ」

「厄介な奴?」

萃香が、さらに尋ねようとする。

 

そのとき、辺りから獣の鳴き声が響いてきた。

一匹、また一匹と、鼠妖怪が姿を現す。

いつの間にか、十数匹の鼠妖怪に囲まれる形となってしまっていた。

「数ばかり揃えてやって来たね。まあ、この程度なら、問題ないけどね」

「あのデカいのは、いねえな。よし」

ガシッと両拳を合わせて、調味料店店主が頷く。

そして、全身に力を入れるように、拳を握った。

 

「なんだ、アンタも手伝ってくれるのかい? まあ、一匹くらいは……」

「ぬうぅん!」

萃香の言葉を遮って、調味料店店主が両腕を直角に曲げた。

次の瞬間、メリッという音と共に、着ていたシャツがはじけ飛んだ。

「へっ?」

萃香が唖然として、店主の方を向く。

そこには、筋肉の塊のような男……いや漢が立っていた。

丸太のような腕は、さらに一回り太くなり、広かった背中には筋肉の壁が出来上がっていた。

 

「さあ来い、鼠ども。人里の怒りを知れっ!」

「ギ……、ギイィィ!」

一匹の鼠妖怪が店主に向かっていく。

いくら鼠妖怪が弱小妖怪と言っても、ただの人間が相手をするには強大すぎる。

鼠妖怪が、店主の首をかみ切ろうと、跳びあがる。

その牙は、狙い違わず調味料店店主の首に突き立てられるはずだった。

 

しかし……。

「うおおぉ!」

その鼠妖怪の斜め上から、調味料店店主の拳が振り下ろされたのだ。

まるで、蝿でも叩き落とすかのように、振り下ろされた一撃は、鼠妖怪の頭蓋に直撃する。

バクンと、重い衝撃音が辺りに響く。

そのとき萃香が見たものは、あらぬ方に首がまがった鼠妖怪が、地面にたたきつけられ、大きく跳ねたのち、絶命した光景だった。

 

「……え? あれ? 妖怪退治を依頼する必要あった?」

「こいつらじゃねえ。もっとデカいのがいる。そいつを退治してほしいんだ。こいつら程度なら、俺一人でも問題ねえ」

こいつら程度って……、一応妖怪で、人間には手に余る奴らなんだけどねえ。

そんなことを考えていると、また一匹鼠妖怪が向かってくる。

今度は萃香を狙っているようだ。

「全く、実力の差くらい、わかってほしいところだけどね」

跳びかかってきた鼠妖怪に向けて、萃香の拳が突き刺さる。

流石は鬼と言ったところ、一撃で鼠妖怪を亡き者にした。

 

「ギ、ギィィ……」

二匹の鼠妖怪が一撃のもとに仕留められたのを見て、周りの鼠妖怪が恐れるように一歩退く。

「やれやれ、そのデカいの出てくるまで、こいつらを退治しておくとするかね」

 

 

同じころ、妖怪退治に奮闘している二人がいた。

「このっ、まだいるの!」

面倒くさそうに霊夢が札を投げる。

ビシャッという音と共に、ドロッとした妖怪がはじけ飛んだ。

 

「これで何匹めよ……。こんなに人里に入り込んでいたなんて」

人に対しては被害がないとはいえ、食べ物とかを勝手に溶かしていくから退治しないといけないし……。

全くもって面倒ね。

やれやれと今退治した妖怪の残骸を見る。

 

「……あれ?」

今さっきまでなら、はじけ飛ばした後、溶けるように消えていくのだが、今回はそのままの状態で残っている。

そして、その残骸がゆっくりと一方向に向かって動き出した。

「……どうなってるのかしら。さっきまでとは違う反応をしてるわね」

博麗霊夢は疑問に思いながらも、札を構える。

殺傷能力はほとんどないとは言え、いきなり襲いかかられたら厄介だ。

しかし、ドロッとした妖怪の残骸は、一方向に向かって進んでいくだけだ。

 

「私に向かってくるわけでもなく、散り散りになって逃げるわけでもない……」

もしかして、こいつら散り散りになった身体を集めてる?

……そうなると、こいつらの向かった先に本体がいるみたいね。

霊夢は構えた札を下ろす。

そして、そのまま、ドロットした妖怪の後を追うことにした。

 

途中、同じように妖怪の残骸を追ってきた慧音と合流し、博麗霊夢は自分の考えを伝える。

慧音も似たような考えだったようで、ちょうどよかったと頷いた。

二人が妖怪の残骸の後を追っていくと、里の一番端にある古井戸にたどり着いた。

 

「あの井戸は?」

「かなり前から使われていない井戸だ。里の中央に大きな井戸ができたから、誰も使わなくなった」

「さっきから退治している妖怪、水っぽい妖怪だったから、湿り気の多い場所を好んでるのかもしれないわね」

二人が話をしているうちにも、次々と退治してきた妖怪の残骸が井戸の中に入っていく。

そして、辺りから妖怪の気配が消える。

その代りに、今までより遥かに強力な妖力が、井戸の中からあふれ出す。

 

「ようやく、本番ってわけね」

博麗霊夢が片手に札、片手にお祓い棒を構える。

流石に、そこらの弱小妖怪より強い妖力を持ってるわね。

さて、どんな姿をしているのかしらね。

キッ、と霊夢が古井戸を睨み付ける。

まるでそれに合わせたかのように、古井戸から何か巨大な塊が飛び出した。

二人の足物の影を飲み込むように、大きな影ができる。

 

「大きい!」

急いで二人が後ろへ飛びのく。

先ほどまで二人のいた位置を飲み込むように、ズシンと巨大な塊が降り注いだ。

 

「さあ、どんな……」

姿をしてるのか、と続けるはずだったのだが、出てきた妖怪の姿を見て、霊夢は冷たい視線を、その妖怪に向ける。

「……ただ、大きくなっただけじゃない!!」

博麗霊夢の言った通り、先ほどと全く変わらない、水のようなドロッとした身体を持つ妖怪のままだ。

確かに妖力は上がり、その大きさは桁違い大きくなっていた。

しかし、その愚鈍な動きは、どう見ても弱小妖怪のものだった。

 

「はぁ~。ま、腕力に物を言わして退治できそうにないから、ある意味、私が適役だったのかしらね」

やれやれと言ったように、札に霊力を込める霊夢だった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

妖怪退治-霊夢:なんか、ドロッとした、水みたいな妖怪の退治を頼まれたわ。霊力をほんの少ししか纏わせてない札でも、はじけ飛ぶほど弱かったわ。少しして、一カ所に集まったから、かなり強力な妖怪になるかと思ったんだけど……、ハズレね。by霊夢  RPGとかで最初に出てくるような相手、のことでしょうか?by一十百

妖怪退治-萃香:鼠妖怪の親玉が相手みたいだよ。先に周りの奴を退治していけば、自ずと姿を現すと思う。それと……思ったより、横にいる店主が強かったよ。こっちは心配いらなそうだ。by萃香  いつから人間がここまで強くなったのかしら……?by紫

妖怪退治-一十百:人里のことを睨んでいた妖怪がいたようです。悪意があるのか、それとも、ただ見ていただけなのか……。まずは会ってみないとわかりませんね。by一十百
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