東方お仕事記   作:TomomonD

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七十三仕事目 苦戦の水、思わぬ横槍

巫女二人が妖怪退治を始めている中、一十百は里道を歩いていた。

この里道は、妖怪の山を迂回し、別の人里まで続いている。

 

しかし、迂回しているとはいえ、妖怪の山の麓まではどうしても近づくことになる。

「もしかすると、自分の縄張りが侵されたと思った妖怪が出てきたのかもしれません」

それなら、話し合いでどうにかなるかも……。

そんなことを考えながら、里道を進んでいく。

 

今回の妖怪退治の相手……。

弱小妖怪なんかではなく、もう少し知性を持った妖怪なのではないかと、一十百は考える。

もしも、ただの弱小妖怪の類なら、人里を睨んでいるところ見つけた人が無事なわけはない。

そのときに襲われてしまっているはずだ。

 

しかし、話によると、射殺すように睨み付けられたものの、その人は無事だった。

「つまり、人を餌ではなく、敵として見ることのできる妖怪……」

少なくとも中級妖怪、下手をすれば大妖怪を相手にすることになるかもしれない。

一十百は、ポケットに入れておいたスペルカードに触れる。

「一応、持ってきておいて正解でした。なるべく、話し合いで済ませたいところですけど……、最悪の場合、弾幕勝負なら、なんとかなるかもしれません」

一度深呼吸をして、一十百は駆け出す。

 

そのとき、一瞬、とある雰囲気を感じ、足を止めた。

「えっ! ……いや、そんなことはないですよね」

きょろきょろと、辺りを一度見まわす。

人影はない、妖怪がいる気配もない。

しかし、一瞬とはいえ、あの雰囲気を感じたのだ。

一十百は、グッと足に力を入れると、里道に沿って走り出した。

 

 

一方、鼠妖怪に囲まれていた、萃香。

けれど、それも少し前までの話。

今や、鼠妖怪は数匹となり、退治が終わるのも時間の問題となっていた。

 

「ぬぅぅん!」

バクンと鈍い音が響く。

店主の渾身のアッパーが鼠妖怪の顎に直撃したようだ。

不運にも直撃した鼠妖怪は、数メートル吹っ飛び、そのまま動かなくなった。

「デカい奴が出てくる前に、ここらの奴は退治できそうだな」

「まわりの奴に気を取られなくていいから、そっちの方が楽そうだね」

萃香がそう言って拳を握る。

 

「ギィィ……! ギイィ! ギイィ!」

あと少しで全滅という状態の鼠妖怪たちが、急に騒がしく鳴きだした。

何かを呼んでいるような、そんな鳴き声にも聞こえた。

「いったいなんだい? 急に騒ぎ出して?」

「こいつら、アレを呼んでるみたいだな。デカいのが来るぞ!」

店主が渋い表情を浮かべる。

鼠妖怪の声が辺りに響き渡る。

 

すると、ボコッと地面が一カ所、盛り上がった。

その土の山は、大きくなり、二つの赤い光が灯る。

「ギギィィ!!」

大量の土を振り払って、巨大な鼠妖怪が姿を現した。

他の鼠妖怪と比べると、遥かに大きい。

少なくとも、隣の店主の倍はありそうだ。

 

「なるほどねぇ。確かにこれは、人間にどうにかできるものじゃないね」

「どうだ、退治できそうか? 無理だったら、一旦戻って、別の手を考えるが」

「馬鹿にしてもらっちゃ困るね。この程度の妖怪なら、問題ないさ」

そう言って萃香は一歩前に出る。

 

ただ大きいだけの弱小妖怪か。

まあ、これだけ大きかったら、確かに厄介ではあるけど……。

「相手が悪かったね。まだ、十百なら手こずってくれた……かもしれないね」

「ギギィィイ!」

巨大な鼠妖怪は萃香を踏みつぶそうと一直線に向かってくる。

その鼠妖怪が大木を思わせる巨大な前足を振り上げた。

しかし、萃香は微動だにしない。

「ギギィ!!」

巨大な鼠妖怪が前足を振り下ろす。

それに合わせるように、萃香は片手を上に上げた。

ドスンという音と共に巨大な前足が萃香の真上に降り注ぐ。

 

確かに、普通の人間や妖怪なら、踏みつぶされていたかもしれない。

しかし、今回の相手は鬼なのだ。

弱小妖怪である鼠妖怪には分からないだろうが、幻想郷に存在する妖怪の中で力だけなら確実に上位に存在する妖怪なのだ。

ただ巨大なだけの前足を振り下ろされた程度では、まったく効果がない。

 

萃香は片手で鼠妖怪の前足を受け止めていた。

「やれやれ。やっぱりこの程度か」

「ギギィ!」

巨大な鼠妖怪も、踏みつぶせていないことに気が付き、さらに力を込める。

しかし、まるで固い柱が突き立っているかのように、どれほど力を込めても潰れることがない。

 

「どうやらアンタは、今までそうやって相手を踏みつぶしてきたみたいだね」

グッと、萃香を踏みつぶしていた前足が少し持ち上げられる。

鼠妖怪には何が起こっているか分からず、ただひたすら前足に力を入れた。

それでも、だんだんと踏みつぶしていたはずの前足は上がり、いつしか自分の頭の上よりも踏みつぶしていた前足が高くなった。

 

鼠妖怪は、そのときになって初めて気が付く。

自分よりもはるかに小さかったはずの相手が、いつしか巨大な自分ですら見上げる程、大きくなっていたのだ。

踏みつぶすために振り下ろした前足は、相手の頭に届かなくなり滑り落ちる。

今までこれほど巨大な相手に出会ったことの無い鼠妖怪は、どうすればいいのか迷う事しかできなかった。

 

その鼠妖怪に向けて、遥か高みから声がかけられた。

「今度は、アンタが踏みつぶされる番だ」

鼠妖怪の目の前にあった、巨大な足が持ち上がる。

その足は、遥か高くまで上がると、風を切るような速度で振り下ろされた。

「ギェッ……」

鼠妖怪は、短い断末魔を残し、その巨大な足に踏みつぶされた。

ゆっくりと、その足がどけられると、まるで栞にでもなったような鼠妖怪の死骸がそこにあった。

他の鼠妖怪たちは、巨大な鼠妖怪が退治されたのを見ると、一目散に逃げ出していった。

 

「これで、妖怪退治は終わりだね」

巨大な足が霧のように消え去り、いつも通りの大きさに戻った萃香が一度伸びをした。

「おお、えらくでっかくなったな! まさか、あのデカいのを踏みつぶすとは、おどろいた」

「ほんとに驚いてるか怪しいね。普通の人間なら腰を抜かしてもおかしくないだろうに」

萃香は腰に手を当てる。

 

さてと、一応こっちは終わった……。

霊夢と十百は苦戦していないといいんだけどね。

 

 

萃香の予想通り、ある意味苦戦している妖怪退治の場所があった。

博麗霊夢の所である。

 

「ああもう! なんで札が通じないのよ!」

「霊力で作り上げた弾幕も効果は無しか……」

先ほどから、かなり大きくなった水のような妖怪に向けて、色々な方法で攻撃を続けているのだが、効果がないように見える。

 

まず、霊力を纏わせた札だが、先ほどの小さかった時と違い、放った札はそのまま体内に取り込まれてしまった。

どれほど霊力を高めた札でも、全て取り込まれてしまっている。

ただ幸いなことに、取り込んだ札から霊力を吸収しているわけではないようだ。

 

次に試したのは封魔針。

しかし、どれほど投げても、その水のような体を貫通するだけで、効果がない。

霊夢は、半ばやけになって、持っているだけの封魔針を投げつけたのだが、やはり効果はなかったようだ。

 

霊力を纏わせたお祓い棒で薙ぎ払ってもみたのだが、水のようなその体を薙いだところで、効果がないのは明白だった。

 

本格的に腹を立てた博麗霊夢は、弱小妖怪であるこの妖怪に向かって夢想封印を放つ。

本来、弱小妖怪を一撃のもとに沈め、中級、大妖怪にも十分すぎるほどの威力を持つ夢想封印。

博麗霊夢の周りから放たれた七色に輝く光球は、次々とドロッとした妖怪に向かっていった。

しかし、そのドロッとした妖怪に光球が当たると、弾け飛ぶことはなくそのまま取り込まれてしまった。

札の時と同じような現象だ。

しかし、今回は夢想封印。

手加減して放つようなものではなく、それなりに本気で放っているものだ。

それをあっさりと取り込まれてしまったとなると、結構面倒なことになる。

 

主に……霊夢の心境が。

 

「……ぐすっ」

「お、おいおい。どうしたんだ?」

「さすがに、ちょっと、泣きたくなったわ」

「いや、確かに気持ちは分からんでもないが……。せめて退治をしてほしい。このままというわけにもいかんだろうし」

そう言って慧音が水のような妖怪を指差す。

速くは動けないといえども、確実に人里の中央に向かって移動している。

このままだと、人里に被害が出るのは目に見えていた。

 

「私だって、このまま引き下がるつもりは無いわ!」

「何か、あれをどうにかする手段があるのか?」

「ない!」

ズルッと横で聞いていた慧音が転びかける。

「あ~、霊夢? 退治する手段がないのに、どうするつもりなのか聞かせてほしい」

「とにかく、撃てるだけ霊力の弾幕を展開して、その間に何か考えるわ!」

軽く飛び上がった博麗霊夢は、バッと両手を広げる。

そこから次々と淡く輝く霊力弾が展開されていく。

まるで壁のようになった霊力弾が、水のような妖怪に向けて次々と放たれていった。

今までのように霊力弾も取り込まれてしまっているが、その水のような妖怪の進む速度が確実に落ちている。

 

くっ……、このまま追い返せればそれでよかったけど、そう上手くはいかないわね。

そうなると、本当に時間稼ぎしかできないわね。

何とか……、何とかしてアレを退治する方法を考えないと。

あの水っぽい身体をどうにかしないと……。

 

次々と弾幕を放ちながら、博麗霊夢は頭をフルに回転させる。

水……、もしあれが、本当に水なら……。

大きな火があれば、あれを蒸発できるわね。

でも、それだけ大きな火なんて、そう簡単に……ハッ!

 

強いひらめきが博麗霊夢の頭をよぎる。

そう、今、共に妖怪退治をしている上白沢慧音。

彼女の友人に、火の扱いの得意なのがいることを思い出したのだ。

 

「慧音! あの白い髪の……妹紅とかいうのを連れてきて!」

「え、妹紅をか?」

「あいつ、火の扱いが得意でしょ。こいつを蒸発させられるかもしれないわ!」

なるほどと、慧音は頷く。

この人里から、妹紅のいる竹林までは、そう遠くない。

「わかった。なるべく早く戻る。それまで、何とか持ちこたえていてくれ!」

上白沢慧音は真っ直ぐ竹林に向かって走り出した。

 

 

「それじゃ、戻ってくるまで、何とか足止めしますか」

可能な限り霊力で作った弾幕を放つ。

少しでも放つペースを落とすと、その分だけ目の前の妖怪が、人里の中心へと近づいてしまう。

今までの弾幕勝負と違い、これだけの弾幕を休む間もなく放ち続けるのは、さすがに体力を削る。

軽く息も上がり、少しずつであるが放てる弾幕の量も減ってきているのが、霊夢自身にも分かる。

 

「思った以上に辛いわね……。持ってあと数分、ってところかしら」

いくらこの人里と竹林が近いとはいえ、慧音が数分で妹紅を連れて戻ってくるのは不可能だ。

どう考えても間に合わない。

しかし、間に合わないとわかっていても、退くわけにはいかない。

それが幻想郷の博麗の巫女なのだ。

「全く面倒な役職よね、本当に」

そう呟きつつ、なおも弾幕を放ち続ける。

 

そのとき、ぐいと身体が引かれる。

後ろではなく、斜め下からだ。

嫌な予感が霊夢の中で膨れ上がる。

足元を見てみると、自分の右足に水で作られた縄のようなものが巻きついている。

その縄の先は、あの妖怪。

 

「くっ、いつの間に!」

弾幕を放つのに神経を集中させ過ぎたのか、まったく気が付かなかったようだ。

ぐいと、さらに身体が引かれる。

意外と引く力は強く、確実に距離を詰められている。

 

「ちょ……、まさか、私を取り込む気!?」

弾幕の狙いを足元の縄のようなものに向け、次々と放つ。

しかし、やはり霊力で作り上げた弾幕は、水のような身体に取り込まれていってしまう。

その間にも、確実に水のような妖怪との距離は縮まっていく。

全力で逆の方向に飛んでも、引き剥がすことができない。

それどころか、もう片方の足にも水の縄のようなものが巻きついてしまった。

 

「こ、このままじゃ……」

今までよりも遥かに強い力で引っ張られる。

一気にドロッとした妖怪との距離が縮まる。

取り込まれるのを覚悟した、その瞬間、霊夢の右と左を何かが、ものすごい速度で飛んで行った。

その何かは、霊夢の足に巻きついている水の縄のようなものを、霊夢と水の妖怪との間であっさりと断ち切った。

取り込まれまいと、精一杯飛んでいた霊夢は、いきなりその縄が切られたことにより、少しバランスを崩す。

 

「な……何があったの?」

振り返った霊夢が見たものは、巨大な氷の結晶が二つ、どこかへ飛んでいく瞬間だった。

妖怪から伸びていた水の縄は、先端が凍りつき、そこで途切れている。

 

「大丈夫だったかい? さすがに手を貸すべきだと思って、横槍を入れてしまったけれど……」

 

今まで聞いたことの無い声に博麗霊夢は振り返る。

そこには、幻想郷ではほとんど見ることの無いような服に身を包んだ、長い灰色の髪をした女性が立っていた。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

妖怪退治終了-萃香:鼠妖怪の親玉みたいのを退治したよ。ただ巨大なだけの妖怪だったから、楽だったよ。まあ、大きさで私と張り合うのは、ほぼ無意味だけどね。一応、これも鼠妖怪の一種ってことで、持ちかえることにしたよ。十百なら料理できそうだし、酒の肴にでもしてもらろうかね。by萃香

灰色の髪の女性:人里でも初めて見る服装、灰色の長い髪……。外来人、かしら。あと少しで、あの妖怪に取り込まれてしまうってところを助けてもらったわ。さっきの氷の結晶みたいなのは、一体何かしら……。by霊夢
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