東方お仕事記   作:TomomonD

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八仕事目 おてんば氷妖精

「すさまじいスペカだったんだぜ……」

「降りるわよ」

二人がゆっくりと地面に降りる。

少し遅れてルーミアも地面に降りた。

 

「………」

周りには流星にやられた鼠妖怪が倒れている。

その中心に呆然と立ち尽くす一十百がいる。

「……一十、無事か?」

「………」

「反応がないわね」

博麗霊夢は、そう言うと一十百の瞳をじっと覗き込んだ。

「な、何やってるんだぜ?」

「……あの光は、ないか」

「あむっ」

「「えっ?」」

一十百の左手をルーミアがぱくっと口の中に入れた。

「……ふぇっ!! ルーミア、食べないで~!!」

「む~、気が付いたのか~。そして味がないのか~」

「あうぅぅ」

必死になってルーミアの口から自分の手を出そうとしている一十百を見て、二人はふぅと一つため息をついた。

 

「まあ、無事でよかったわ」

「そういえば……何があったんですか?」

「……覚えてないのか?」

「はい、鼠妖怪に囲まれて……その後から記憶があいまいです」

魔理沙はさっきの事を話そうかと考える。

単純にスペルカードが変化しただけ、という事ではないように見えた。

もし、スペルカードがそのままだったら、話すしかないよな……。

「ちょっと、そのスペカ見せてもらってもいいか?」

「これですか? 魔理沙さんからもらった素材で作った箒星『シューティング・ブルーム』ですよ?」

渡されたスペルカードにはしっかりと箒星『シューティング・ブルーム』と描かれており、箒が白い光をまとって飛んでいる絵が描かれていた。

「……さっき、いや……なんでもないな。確かに箒星『シューティング・ブルーム』だぜ。毎回思うけど、これは箒であって箒星じゃないんだぜ!」

 

 

少し不安が残るものの、一十百、霊夢、魔理沙とルーミアは湖まで到着できた。

「この先ですね」

「ふ~ん、確かに向こうのほうが赤い霧が濃いわね」

湖を覆い隠すように赤い霧が広がっている。

「私と霊夢は飛んで行けるからいいけど、一十はどうする?」

「湖を迂回しないと行けないんですよね……。少し大変だなぁ」

「あっ、十百だ!!」

元気のいい声が夜の湖に響いく。

声のするほうを見ると、大きく手を振っているチルノがいた。

「あ、チルノ」

「大ちゃんも一緒だよ」

「こんばんは、一十百さん」

チルノの後ろから大妖精がふわりと飛んできた。

「なんだ、無事じゃないの?」

「食べられたわけじゃなかったんだな」

「ふぇ? 大妖精を食べる人がいるんですか?」

「……一十百、覚えてないみたいだから話しておくわ。黙っておくのも少し面倒だから」

「ほぇ?」

 

霊夢から少し前に起きた出来事を聞いた一十百。

まず自分の心配をする、と思われたのだが……。

「大要塞、大丈夫? かじられたりしてない?」

「大要塞ってだれですか! 大妖精です!!」

「い、急いでて間違えました。それで大丈夫?」

「はい。スカートの端をかじられただけでしたから」

それを聞いてほっとしたような表情を浮かべた。

「他人のことを先に心配するのか……。やさしいというか、お人よしだな」

「えっ? だって、僕自身のことは僕が一番わかりますから」

確かに最もな答えである。

しかし、今さっきまでそのことを知らなかったのだから説得力は少ないのも確かだ。

「ほら、スペルカードもそのままでしたし、僕の目から出ていた青い光も見えないですし……。たぶん大丈夫です」

「まあ一十百が大丈夫ならそれでいいんだけど」

 

 

「あっ! そうだ!!」

何かを思い出したのか一十百が来た道を走っていった。

少しすると、鼠妖怪が五段がさねになったものが歩いてきた。

「うわあ、新手の妖怪だぜ!!」

「ど、どこですか! 前が上手く見えなくて……」

「えっ、その声、一十か?」

「は、はい」

ズシンと音を立てて鼠妖怪の五段がさねになった物が下ろされた。

その後ろから一十百がひょいと顔を出した。

「後四回……いえ五回ですね。ちょっと待っててください」

「え?」

すぐにまた五段がさねの鼠妖怪が持ってこられた。

 

一十百の運搬作業が終わったようだ。

運ばれたのは鼠妖怪の五段がさねが四つとあまり三匹、つまり二十三匹の鼠妖怪を運びきったのだ。

これには霊夢、魔理沙だけでなく大妖精、ルーミア、チルノまでも唖然とした。

一匹を持ち上げるだって不可能に近い重さなのだがそれを五段がさねで四往復もしている。

「これで全部ですね」

「……ねえ一十百?」

「何ですか霊夢さん?」

「妖怪だから退治させて、主にあなた」

「えぅ、ひどい!! 魔理沙さん何とかいって……って、その、なんでこっちに八卦炉を向けてるんでしょうか?」

「いや、ほら、危ない妖怪かもしれないんだぜ?」

「ひどいです!! ルーミア、大妖精、チルノ、なんとか言って」

「人外なのか~」

「人間じゃないんですね……」

「さすが十百!」

「えぇぇ……」

 

結局、人間であるということはギリギリで認めてもらえたのだが……。

「あの~、視線が痛いです……」

「いや、すまないんだぜ。でも、その細腕のどこにそんな力があるのか全くわからないんだぜ」

「むぅ、これくらい魔理沙さんでも持てますよ。たぶん……」

「持てたら人間卒業なんだぜ」

 

「それで、何で持ってきたの、コレ」

「チルノに頼もうと思って」

「あたい?」

いきなり話を振られて驚いたのか、チルノは首をかしげた。

「うん。これ、全部冷凍保存できる?」

「これ、全部! いくらチルノちゃんでも、無理なんじゃないかな」

「やっぱり無理かなぁ……。最強の氷の妖精だから、できるかと思ったんだけど」

他の人が言ったなら皮肉っぽく聞こえたのだろうが、一十百が言ったその言葉にはチルノが最強の氷妖精だと信じて疑わない心が感じられた。

その言葉に心動かされたのか、チルノがトンと胸を叩いた。

「まかせて十百。なんたって、あたいはさいきょーなんだよ!」

「無理でしょ。ただの妖精じゃ……」

「できる!」

霊夢の助言も無視してチルノが冷気を鼠妖怪の山に向かって放った。

 

チルノは確かに強力な氷の妖精だ。

けれど、さすがに量が量、一匹のときと違って凍らせることが出来ない。

「やっぱり無理だよ、チルノちゃん」

「まだまだぁ!!」

チルノがスペルカードを取り出す。

「凍符『パーフェクトフリーズ』!!」

スペルカードが発動し、チルノから色々な色をした氷が飛び出した。

「わぁ~、綺麗だね」

「これで、どうだー!!」

バラバラにまかれた氷は途中でピタリと止まると、色を失い鼠妖怪の山に降り注いだ。

スペルカードの力もあり、鼠妖怪の山が少しずつだが凍り始めた。

しかし、一箇所一箇所は凍っているが全体的に凍らすことは出来なかったようだ。

「うぅ~」

「まあ、氷妖精にしたら頑張ったほうじゃないか?」

チルノがかくんと膝を突いた。

かなり本気で凍らせたかったらしい。

 

それを見ていた一十百が何かを考え、そして助言をした。

「ねえ、チルノ。もしかして水気が足んないんじゃないかなぁ」

「水気?」

「ほら、一匹なら空気中の水分だけで大丈夫だけど……、これだけ多いとさすがに足りないんだよ。つまり……」

そういって一十百が湖を指差した。

「この湖の水を思いっきりかければ、たぶん凍るんじゃないかな?」

「なるほど!」

「いや、鼠妖怪を湖に投げ入れればいいんじゃないの?」

霊夢の一言は一十百とチルノには聞こえていないようだ。

「でも、どうやって水をかけよう……。大きなバケツでもあれば簡単なんだけど……」

「あたいが氷で作る!」

「おお~、チルノがやる気なのか~」

「だから、鼠妖怪を……」

「よ~し、やぁぁああ!!」

霊夢の助言を完全無視してチルノが湖に向かって冷気を放った。

 

少しすると湖の一箇所が固まり始め、段々と桶のような形になってきた。

「これでどうだっ!」

チルノが作り上げたのは、バケツと言うよりも風呂桶のようなものだった。

もしもこれをバケツと呼ぶなら、主に大きさが人間用ではない。

氷の桶だけでもかなりの重さだろう、さらに水をこの中に入れるのだから桁違いの重さになる。

「え、チルノちゃん……。ちょっと大きすぎるよ、これじゃ持てないよ?」

「よいしょ。あ、大妖精、ちょっと離れれて。水が飛ぶよ?」

その風呂桶のようなバケツをあっさりと一十百が持ち上げていた。

「「「…………」」」

霊夢、魔理沙、大妖精の言葉が消えた瞬間でもある。

 

「三回くらいかければ大丈夫かな?」

そういって鼠妖怪の山に思いっきり水をかけていく。

一回かけてわかったのだが、入っている水の量も尋常じゃない量だ。

それこそ一回で風呂が沸かせるほどの量だろう。

「二回目っと」

ざばぁあ、と音を立てて水がかけられる。

「三回目!」

ざぁあああ、と鼠妖怪の山が全てかぶるほどの水がかけられた。

「準備はできたよ! はぁ、冷たかった」

一十百が手に息を吹きかける。

直に氷のバケツを持ったのだから手が冷えてしまったようだ。

 

「一十百って、本当に人間?」

「下手するとそこらの妖怪より力があるぜ……」

「一十百さんって、足も速いですから……本当に人間なんでしょうか?」

三人は唖然としながら意見を言い合った。

 

「よ~し、あたい一番のスペル! 雪符『ダイアモンドブリザード』!!」

準備万端のチルノが高々とスペルカードを掲げあげる。

そのスペルカードから氷と雪が交じり合った風が巻き起こる。

もう夏にもなるのに、あたりの気温が一気に下がる。

「寒い! ちょっと、こっちにも被害が出てるわよ!!」

「チルノ、もうちょっと狙いを絞って。そっちのほうが効率がいいよ」

「う~、やぁあ!!」

渦巻く氷と雪の風が鼠妖怪の山を包み込んだ。

白色の竜巻で鼠妖怪の山が見えなくなる。

「おお~、真っ白なのか~」

「チルノちゃんって、こんなことできたっけ?」

白い竜巻が消えた後に残ったのは、氷山のようになった鼠妖怪の山であった。

 

 

「これそのまま冷凍保存できる?」

「れーとーほぞん?」

「えと、凍らせたままにできる?」

「らくしょーだよ!」

一十百とチルノが鼠妖怪の氷山を指差しながら色々と相談をしている。

その間、霊夢、魔理沙はルーミアと大妖精に赤い霧について尋ねている。

「じゃあ、赤い霧ってこの先の館から出てるってわけ?」

「たぶんですけど……。この湖の先にある赤い館、紅魔館と呼ばれる場所から出ているみたいです」

「しかし、そんな館に一体誰が住んでるんだぜ?」

「わからないのか~」

「私たちも中に入ったことはないんで……」

「わかったわ。さてと、そろそろ行くわよ、一十百」

「は~い。あっ、そういえばこの湖どうやって渡ろう」

 

すっかり忘れていたようだが、一十百は飛べないため湖を迂回することになる。

迂回するにもかなり遠回りになってしまうため、霊夢と魔理沙が先に着くことは確実だろう。

「困りました……」

「そうだ、いっそのこと氷の船でも作ってもらったらどうだ? もしかしたら向こうまで行けるかもしれないぜ?」

「魔理沙、そんな事言って沈んだら……」

「「「なるほど!!」」」

「「「え゛……」」」

一十百、ルーミア、チルノがぽんと手を叩く。

その発想を利用するのかと、霊夢、魔理沙、大妖精が驚く。

「チルノ、出来そう?」

「あたいに任せて。これが出来たんだし、らくしょーだよ」

「ルーミアが引っ張っていくのか~」

「私も手伝いますね……。たぶんルーミアちゃんだけじゃ無理だと思うから」

 

 

やる気を出したチルノの冷気は今まで以上に強く、ほぼ一瞬で氷の山を作り上げた。

一十百はその氷の山をペーパーナイフ一本でボートに仕立て上げる。

この間約五分……。

氷のボートに木の蔦がくくりつけられ、ルーミア、大妖精が引っ張ることになった。

「大丈夫? 重くない?」

「軽いのか~」

「本当に驚くほど軽いです」

「それじゃ、行くわよ!」

「はい!」

 

氷のボートは水に浮き、浸水することなく湖を渡っていく。

溶けないようにチルノが常に冷気を放っているためボートの周りの気温がとてつもなく低くなっていることをのぞけば立派なボートだ。

「でも、チルノのスペカ、すごかったね」

「えっへん。あたいったらさいきょーね!」

そういって胸を張るチルノ。

 

その時一枚カードが落ちる。

「チルノ、これ落ちたよ」

「さっきのスペカだ。ありがと」

「そういえば、チルノも真っ白いスペルカード持ってる?」

「スペカの素のこと? もってるよ、ほら」

何枚か白いスペルカードの素を見せてくれる。

誰が持っていても似たようなものがスペルカードの素のようだ。

「結構持ってるんだね。一枚貰っていい?」

「十百も新しいスペカ作るの?」

「うん。なんだか、他の人から貰ったスペルカードの素だと、貰った人のスペルカードに近いものができるみたいなんだ」

「ふ~ん、おもしろそう。はい」

そういって一枚スペルカードの素を渡してくれた。

「ありがとう、チルノ。よ~し……」

一十百がそのスペルカードの素に集中する。

さっきのような氷の嵐を思い描きながらカードに意識を向ける。

すると、カードに淡い光が集まりだす。

「できた?」

「もうちょっと、かな? すぐ出来るときと、出来ないときがあるみたい」

「まあ、さいきょーのあたいのスペルだから、そう簡単にはできないんだよ」

「なるほど……」

 

 

「見えてきたわね」

「ほんとに赤い館だぜ」

段々と見えてきたその建物は、紅く不気味に佇んでいた。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

青色の光:鼠妖怪を倒したとき僕から放たれていたって霊夢さんが言っていました。自分では見たことがないので少し気になります……。by一十百  自分のことなんだから、もう少しくらい興味を持っても……。by霊夢  きれいなひかりだったのか~。byルーミア

鼠妖怪の冷凍:チルノと協力してたくさんの鼠妖怪を冷凍保存しておきました。これで当分の間、お肉には困りません。by一十百  一十百が人間なのか怪しくなってきたわ…。by霊夢  人間業じゃないんだぜ……。by魔理沙
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