東方お仕事記   作:TomomonD

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七十四仕事目 灰色の髪は異世界の風に揺られて

博麗霊夢の危機を救ったのは、灰色の長い髪の女性だった。

「おや、やはり博麗霊夢君だったか。無事そうで何よりだよ」

そう言って、灰色の髪の女性は霊夢に近づく。

「私のことを知ってるの? 初めて会ったと思ったけど……」

「知っているよ。君は、私のようなもの達には有名だからね」

 

私のようなもの達……って、外来人のことかしら?

なんだか、不思議な感じのする人ね。

悪い人ではなさそうだけど。

 

「さてと、横槍を入れてしまったからには、最後まで関わることにするよ」

灰色の髪の女性はスッと手を前にかざす。

「どうやら、あの妖怪の身体は水でできているようだね。なら、時間稼ぎぐらいにはなるだろう」

かざした両手から小さな雪が舞う。

見ていて、ほのぼのする光景だが、まったく効果が無い。

いや、その程度じゃ、時間稼ぎにも……と霊夢が言おうとする。

 

しかし、そっと灰色の髪の女性が一言呟いた瞬間、一気に状況が変化した。

「『さぶざむ』」

今までそっと舞っていた雪が吹きあがり、辺りの気温が一気に下がったのだ。

季節が冬という事もあり、その寒さに拍車がかかる。

その妖怪がいた辺り一帯が、一気に氷点下を下回った。

勿論、近くにいた霊夢にもその被害は出ていた。

 

「寒っ!! ちょ、ちょっと、こっちにまで被害が出てるわよ!」

「おや、すまない。てっきり、霊夢君なら結界で冷気を遮断するかとおもったのだけれど」

「そんなに器用じゃないわ! それに、この程度の冷気じゃ……」

効果がないでしょと、霊夢はドロッとした妖怪の方を向く。

確かに、凍り付いてはないようだが、先ほどより進む速度が落ちている。

直接的な効果はなさそうだが、時間稼ぎにはなっているようだ。

「効いてる……わね」

「さすがに凍り付かせるほどの冷気は出ないか。もう少し威力の高いものを使わないと、効果は薄いようだね」

少し悩むように、灰色の髪の女性が軽く目を伏せた。

 

 

辺りの気温が元に戻っていく。

灰色の髪の女性が放った冷気の技は、どうやらそこまで長い間、効果があるものではないようだ。

辺りの気温が元に戻るにつれて、水のような妖怪が動き出した。

 

妖怪の身体が一度震えると、水で作られた縄のようなものが幾つも現れる。

つい先ほど博麗霊夢を捉えたものと同じようなものだ。

それが鞭のように振り回される。

明らかに先ほどまでの愚鈍な動きとは違う。

獲物を狙うような、機敏な動きだ。

 

「いきなり、狂暴化したわね」

「どうやら、先ほどの『さぶざむ』で私を敵と認めたようだね」

「……じゃあ、今までの私は敵と認められてなかったってわけ?」

手を腰に当てて、博麗霊夢がドロッとした妖怪を睨む。

これだけ霊力弾を当てて、夢想封印まで放ったのに、敵として見られてなかった……。

くっ、こんな低級妖怪に、馬鹿にされた気分だわ。

 

悔しそうな表情を浮かべる博麗霊夢を見て、くすっと灰色の髪の女性が微笑む。

「まあ、霊夢君の霊力で作られた弾幕は、効果がなかったようだし、敵だと判断されてなかったんだと思うよ」

「じゃあ、なんだと思われてたのよ?」

「そうだね……。良くて障害物、悪くて餌、と言ったところじゃないかな」

「なっ!? それはどういう……」

「おや、おしゃべりはここまでのようだね。来るよ」

ヒュンと、二人の間に何かが突き刺さる。

一歩遅れて霊夢が下がる。

 

今まで振り回されていた、水の縄のようなものが地面に突き刺さっていた。

これでは、縄というよりも、水で作られた槍のようだ。

「君のような妖怪は、そこまで強力な魔物ではないと思っていたのだけれど、認識を変えないといけないみたいだ」

軽く体を逸らしただけで、その一撃を回避した灰色の髪の女性は、少しだけ驚いたような声を出した。

 

水のような妖怪は、振り回している縄のようなものを、二人に向けて一斉に振り下ろす。

鞭のように波打ちながら振り下ろされるのではなく、まるで光線のように一直線に向かってくる。

博麗霊夢は地面を蹴り、急いで飛び上がった。

飛び上がりさえすれば、ある程度は回避できる。

けれど、灰色の髪の女性の方は、その場を全く動いていなかった。

「ちょっと、何やって……」

霊夢の声が届く前に、光線のような水の縄は、灰色の髪の女性に降り注ぐ。

 

そのとき霊夢が見たものは、最小限とも思われるステップで、次々と放たれた水の縄をかわしていく女性の姿だった。

霊夢を捕らえた時とは違い、当たれば貫かれかねない一撃。

それを、紙一重のところでかわしていく。

放たれた全ての水の縄が地面に突き立つ。

その中心で、灰色の髪の女性は悠然と立っていた。

 

「そう、確かこういう避け方を、グレイズと言ったか? 一度、やってみたかったものだよ」

そう言って、霊夢の方へ振り向く。

「それは、弾幕ごっこの時だけの話よ! 今回みたいな、命の危険のある妖怪退治でやるものじゃないわ!」

「君たちにとってはそうかもしれない。けれど、私にとっては、あまり変わらないものだよ。弾幕ごっこも、今の状況も」

 

サッと灰色の髪の女性が右手を真横に上げ、人差し指と中指のニ本の指をまっすぐに伸ばす。

すると、その指の先に赤紫色の光が灯った。

 

「さてと、さすがにこのままじゃ動けないからね。断ち切らせてもらうよ」

赤紫色の光がさらに強く輝き、光線弾幕のように放たれる。

「『ライトサーベル』」

放たれ続けている光線弾幕から、電子音のような音が響く。

灰色の髪の女性は、そのまま右手を自分の身体もろとも一回転させる。

赤紫色の光線弾幕が同じように一回転する。

その瞬間、周りに突き立っていた水の縄が両断された。

 

両断される瞬間、ジュッと水が蒸発するような音が響く。

どうやら、かなりの熱量を持った光線弾幕のようなものだったようだ。

ドロッとした妖怪は突き立てていた水の縄が両断されたことに驚いたのか、放った水の縄をすべて自分の身体に引き戻した。

 

 

「どうやら、君は熱や冷気をあまり得意としないようだね。代わりに、霊力や物理的な攻撃は効果がない……。得手不得手があるのは、人も妖怪も変わらないか」

灰色の髪の女性が片手を前にかざす。

そのかざした手から小さな稲妻がほとばしっている。

「少し下がってもらうよ。これ以上、人里に近づかれては、騒ぎになってしまうからね」

かざした手を薙ぎ払うように、振るう。

「『ほうでんげんしょう』」

バシュンという音が辺りに響く。

小さな稲妻は壁のようになり、水の妖怪に直接たたきつけられた。

さほど威力があるわけではないようで、辺りへの被害は少ない。

 

しかし、ドロッとした水の妖怪は、初めて受ける雷撃に驚いたのか、大きく後退した。

「誰だって、驚けば仰け反り、後ろに歩みを進めてしまう。それは本能だから、あまり知性がないように思える相手にも効果的だね」

そう言って灰色の髪の女性は、ドロッとした妖怪が後退した分だけ前に歩みを進めた。

 

 

博麗霊夢は驚きながら、灰色の髪の女性と、水のような妖怪のやり取りを見ていた。

単純な実力……、霊力や弾幕勝負で培ってきた経験、巫女としての勘、それらは目の前の女性より自分の方が高いはず。

それなのに、目の前の女性は自分が苦戦した妖怪を、いとも簡単に退けつつある。

この差は一体……。

 

「霊夢君。少しいいかい?」

「え、あ、何?」

いきなり話しかけられたので、霊夢は少し戸惑いつつ反応する。

「少し離れていてくれないか。次の技は、少し威力が高い。私の前や、あの妖怪の上空には行かないようにしてほしい」

「わかったわ」

霊夢は言われたように距離を取る。

 

距離を取りつつ、霊夢は少し疑問に思う。

少しだけ威力が高い……、って今までのでも十分な威力に思えたのだけど。

凍りつかせつつ断ち切る氷の結晶、小規模ながら吹雪と呼べるもの、高熱を発し断ち切る光、雷の壁……。

どれも、この辺りの弱小妖怪程度なら一撃のもとに退治できるようなものばかり。

それでも、威力を抑えていたとでもいうの?

一体彼女は……。

期待と大きな不安を抱きつつ、霊夢は一旦距離を取った。

 

霊夢が距離を取ったことを確認すると、灰色の髪の女性は一度深呼吸をする。

「名も知らない、水の妖怪君。君は、妖怪としてかなりの偉業を成し遂げた。それに気が付いているかい?」

そっと、水の妖怪に話しかける。

勿論、話は通じるとは思えない。

しかし、それでも灰色の髪の女性は話し続ける。

 

「この幻想郷の妖怪を退治する巫女、博麗霊夢。数多の妖怪が彼女に敗れ退治されていったはずだ。名が知れ渡る前に挑み消えていった妖怪、本能のまま向かっていき敗れた妖怪、ルールに則り敗北した妖怪……」

灰色の髪の女性の周りに冷気が漂い始める。

先ほどの小規模な吹雪とは違い、もっと鋭い冷気だ。

その冷気を纏いつつ、話し続ける。

 

「そんな数多の妖怪を下した巫女を、あと一歩というところまで追いつめた。君は妖怪として、誇るべき偉業を成し遂げたのだよ。同じ人ではない者として、心から尊敬するよ」

纏っていた冷気が、両腕に集まっていく。

辺りの気温がだんだんと下がっていく。

 

「それほど高い知性も持たない、名も知られていない、ただの一妖怪でしかなかったはずの君は、この瞬間、大妖怪にも並ぶほどの功績を遺したのだよ」

両腕の冷気が、さらに鋭さを増し、白い靄が漂い始める。

水のような妖怪は、冷気を嫌がるように、さらに後退する。

 

「この偉業は、大きく知れ渡ることなく消えていくのだろう。けれど、安心してほしい。君の偉業は、私がしっかりと覚えておくよ。その水のような不思議な姿をしっかり心に焼き付け、機会があれば誰かにこの偉業のことを話そう」

灰色の髪の女性は、ゆっくりと両手を水のような妖怪へとかざす。

纏われた冷気が渦を巻き、今にも解き放たれようとしている。

 

「だから、安心して凍てつき眠ってくれ」

かざした両手から、冷気が解き放たれた。

鋭い冷気は、水のような妖怪を包み込む。

そのまま渦を巻き、冷気は空へ向かって昇っていく。

 

「『カチカッチン』」

灰色の髪の女性が一言、そっと口ずさむ。

その瞬間、冷気は氷柱となり、空までそびえ立つ巨大な氷柱となった。

それと同時に、辺り一帯に寒波が襲いかかる。

辺りに散っていた、水のような妖怪の残骸も、寒波に当てられて凍り付いていく。

 

しばらくすると、巨大な氷柱は消えていった。

溶けたわけでもなく、スッと消えていったのだった。

消えた氷柱の後、残されたのは、完全に凍り付き動かなくなった水のような妖怪だった。

 

 

「これで、時間は稼げそうだね」

くるりと踵を返し、灰色の髪の女性は霊夢の方に歩いていく。

「一応、完全に凍てつかせたはずだよ。溶けたら、また動き出すかもしれないが、それまでには何か対策くらい練れ……霊夢君?」

「え? は、はい。何ですか?」

呆然としていたようなので、少し心配そうに灰色の髪の女性が霊夢に話しかける。

心ここに非ずの状態だったのか、霊夢の口調が微妙に変になっていた。

 

「どうかしたのかい? どこか、呆けていたようだけれど」

「いや、あれほど大きさの妖怪を、簡単に凍り付かせるなんて……。さすがに、唖然としたくもなるわ」

霊夢の周りで氷に関係する人は少ない。

多少はいるのだが、どこぞの氷妖精や、冬にだけでてくるような妖怪だけである。

これほど強力な氷の力を持った、存在などいなかったのだ。

 

霊夢がかなり驚いているのを察してか、灰色の髪の女性は、自分でも驚いているよと言った風に話し始める。

「少し前……、そう、外の世界にいた頃は、それほど強い力は持っていなかったのだけれどね。幻想郷に来たとき、何か補正のようなものが私にかかったのかもしれないね」

「補正、って何よ?」

「さあ、私にも詳しいことはわからない。けれど、少なくとも今まで使えなかった技が使えるようになっていた。身体能力も少しだけ上がってようだし、何かしらの力が働いたのかもしれないね」

「そんな力の話、聞いたことないけど……。まあいいわ」

 

霊夢は灰色の髪の女性に頭を下げる。

「妖怪退治、手伝ってくれて、ありがとう。えっと……」

「うん? ああ、そう言えば名乗っていなかったね」

灰色の髪の女性は片手を胸に置き少し微笑む。

 

「私は、人里 離(にさと はなれ)。邪霊人という種族だよ。まあ、わかってるとは思うが、外の世界から来た、外来人といったところかな」




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

人里離:私と一緒に妖怪退治をしてくれた女性よ。灰色の長い髪をした、大人びた感じのする人ね。邪霊人って種族らしいけど、聞いたことの無い種族だったわ。氷の結晶を操ったり、光線弾幕を使ったり、雷撃を放ったり……、多種多様の技を使っていたわ。どれも変わった名前だった気がするけど、何か共通点があったりするのかしら?by霊夢  まさか、私がこちらに来ることになるとは思ってなかったからね。今でも少し驚いているよ。by離
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