東方お仕事記   作:TomomonD

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七十五仕事目 孤高の異世界人

博麗霊夢が人里離の力を借りて水のような妖怪を退治した頃……。

一十百は妖怪の山の麓に差し掛かっていた。

妖怪の山とはいえ、麓の方には妖怪が少ないのか、まだ見かけていない。

 

「あの里の人は、この辺りで妖怪に睨まれたと言ってたけど……」

一十百は辺りを見回す。

里道が妖怪の山を迂回するように伸び、辺りには少し起伏のある草原が広がっている。

里道から見下ろすような形で、先ほどの人里が見える。

 

「う~ん、確かにここから人里は見える。でも、眺めるだけなら人間でも妖怪でもしそうですね。いい景色ですし」

そんなことを考え、軽く腕を組む。

山からの風が静かに吹く。

「少し困りました。てっきり、いつもここに来ている妖怪かと思っていました」

軽くため息を吐く。

 

そんな時、少し前に感じた雰囲気を感じる。

そう、僅かながら、異世界の感じがするのだ。

あの秋夏祭りの時以来の雰囲気だ。

「まさか、異世界からのお客様が? でも、世界線は揺らめいていませんし……、不思議ですね」

妖怪の山に近づくにつれて、その雰囲気は強くなる。

そうなると、この山のどこかに異世界からのお客様がいらっしゃるのでしょうか。

里を睨んでいたという妖怪の情報も、ここで途切れてしまいましたし……。

「少しくらい寄り道しても平気ですよね」

一十百は駆け足で妖怪の山の方へと向かっていった。

 

 

妖怪の山の麓は、岩肌が露出している場所が多々ある、山岳地帯のような場所である。

木や草もまばらに生えているとはいえ、人間には歩きにくく足を取られやすい。

そんな中、一十百は異世界の雰囲気を追うように歩いている。

本格的に山の中に入れば、妖怪に襲われる可能性があっただろう。

けれど、運が良かったのか、異世界の雰囲気は麓の方から強く感じられた。

 

「このあたりのはずなんですけど……」

「そこの巫女、止まりなさい!」

突如、上空から声をかけられる。

驚いて一十百が見上げると、大きな刀と盾を持った白い髪の少女がこちらを睨んでいた。

「ここは妖怪の山。人間が来るところではありません」

スタンと少女が地面に降りた。

白い髪から狼のような獣耳が生えているのがわかる。

一十百はこの少女に見覚えがあった。

 

「あれ? 椛さん? お久しぶりです」

「え……、どこかで会いました? いえ、そんなことはどうでもいいのです。即刻、立ち去ってください」

「むぅ、忘れられてますね。博麗神社での秋夏祭りの時、文さんと一緒だった一十百です」

白狼天狗の犬走椛は秋夏祭りの時のことを思い出す。

そして、ポンと手を打った。

 

「あの時の……って、ええ! 十百さんって……女性だったんですね」

「男ですよ!」

「え、だって、それ、巫女服じゃ……」

「巫女服ですよ?」

あっさりと返答した一十百。

それを聞いて、犬走椛は盾を軽く構えつつ一歩退く。

 

「他人の趣味に口を出すつもりは無いのですけど……、そういう趣味があったんですね」

「あれ? 何か誤解されてしまったような……」

コホンと咳払いをして犬走椛が尋ねる。

 

 

「それで、何故妖怪の山に? いくら知り合いと言えども、この先へ行かせるわけにはいきませんよ」

「えと、実は……」

一十百は今までの出来事を簡単に説明する。

 

それを聞いて、犬走椛は心当たりがあったのか、少し悩みつつも話してくれた。

「人里を睨んでいたという妖怪には心当たりがありませんけれど、異世界の雰囲気というのには心当たりがあります」

「本当ですか!」

「はい。十百さんなら、会っても大丈夫かもしれませんし、案内します」

 

 

犬走椛の案内のもと、一十百は妖怪の山の麓をぐるっと半周する。

すると、妖怪の山の岩壁に隣接するように、一軒の家が建っていた。

よく見ると、家の壁が岩壁と一体になっている。

そして、異世界の雰囲気が強く感じられる。

「このお家は?」

「ここにいらっしゃるはずです」

犬走椛は、その家の扉を軽くたたく。

 

少しして、その扉が開く。

「椛か。何か用か?」

「爪牙さん。あなたを訪ねてきたお客さんですよ」

「俺を訪ねてきた? そんな奴がいるとは思えないが」

家の中から、スッと人影が出てくる。

 

白い長い髪の長身の男性だ。

引き締まった身体つきは、手練れの傭兵を思わせる程。

時々、揺らめくように放たれる妖力も、ただの妖怪と比べると、明らかに別格のものだ。

 

その姿を見て、一十百は驚く。

あの秋夏祭りの時に出会ったお客様、白狼爪牙だったのだ。

全てのお客様が自分の世界に帰ったはずなのに、いまだこの幻想郷に残ってる人がいるなんて……。

 

「爪牙さんですよね! どうしてここに?」

「……なぜ俺の名を知っている? お前のような巫女に会ったことはないはずだ」

「えと、一十百です。秋夏祭りの主催者だった、一十百です。覚えていませんか?」

「一十百だと……。あの祭りの時、鴉天狗と一緒にいた……」

「はい!」

覚えててくれたみたいです、よかった~。

一十百はホッと一安心と息を吐く。

 

「……お前、そういう趣味があったのか」

「ふえっ! やっぱり誤解されてる!」

困ったように一十百は頭を抱えるのだった。

 

 

「それにしても……。爪牙さん、どうしてこの幻想郷に?」

「住むという意味では、どこの幻想郷も、それほど大差はない。ただ、人間、妖怪、異世界の住人まで交えての祭りを行った奴のいる幻想郷がどうなるのか、この目で確かめようと思ってな」

「なんだか、プレッシャーです、あうぅ」

 

話を聞いてみると、あの秋夏祭りの後すぐには帰らず、この妖怪の山の麓の洞窟に住んでいたようだ。

今ある家も、その洞窟をそのまま使うように建てたらしい。

里人と関わる気はなく、この妖怪の山の妖怪ともあまり接点を持たなかった。

唯一、犬走椛とは世間話をする程度の仲のようで、たまに椛が立ち寄ると言っている。

何度か他の天狗がここに来ているらしかったが、白狼爪牙の持つ鋭い雰囲気と、圧倒的な妖力のため、対立するのは危険、懐柔するのは不可と、あきらめたように去っていったらしい。

 

そんな話を聞いている時、一十百が思い出したように軽く手を打つ。

「そう言えば、つい数日前、この近くの人里を睨んでいたという妖怪のことを知っていますか? 里人を睨んで追い返したみたいなんですけど」

「それなら、俺だが」

「へ~……、ってええええっ!!」

驚きを隠せず一十百は声を上げる。

 

まさか、異世界の雰囲気を追っていたら、巫女の方の仕事の相手にたどり着くとは思っていなかったのだ。

さらに、それが異世界のお客様だったのだ。

退治するわけにもいかないですし……、そもそも退治できないでしょうし……。

せめて、人里を睨んでいた理由だけでも聞かないと……。

 

「え、えと、なんで人里を睨んでたんですか?」

「特に理由はない。ただ、里の人間どもが柵程度で妖怪と止められると思っているのが滑稽だったからな」

「まあ、それはそうかもしれませんけど……。じゃあ、声をかけた里の人を睨んだのは?」

「あからさまに敵意を持っていたようだから、少し睨んだだけだ。人間など相手にするだけ無駄だからな」

「えと、それじゃ、もしかしなくても、里を襲うつもりとかは……」

「そんな事をして何になる」

白狼爪牙は、心の底から面倒だというように、ため息を吐く。

それを見て、一十百は一安心した。

考えてみれば、爪牙さんがそんなことをするわけないですよね。

 

「えと、それじゃ僕は人里に戻ります。今回の妖怪退治は必要なかったという報告をしてこないと」

「そうか。別に言わなくてもわかるだろうが、ここの事はあまり他人に話すな」

そう言って爪牙は二人を送り出した。

 

 

帰り道の途中で、犬走椛が少し嬉しそうに微笑む。

「十百さんを案内して正解でした。思っていたよりも、爪牙さんが色々なことを話してくれました」

「自分のことをあまり話さないんでしょうか」

犬走椛が頷く。

白狼爪牙は、あまり自分から進んで話すタイプではないようだ。

それは今日会って話してみても感じられた。

 

「十百さんも、たまにでいいですから顔を出してあげて下さい。妖怪としての話し相手は私がいますけど、人間の話し相手はいないみたいですので」

「そうですね。こちらの方に用があった時に、少し寄ってみることにします」

犬走椛は一礼すると山の山頂の方に飛んで行った。

「よし! 一度、報告に戻らないと!」

グッと両手を握り、一十百は人里へ走っていった。

 

 

さて、そのころ、一番早く妖怪退治を終わらせた萃香。

妖怪退治の報告をするために人里に戻ってみると、何やら騒ぎになっている。

「何事だろうね。妖怪退治が成功した宴、ってわけでもなさそうだし」

「どれ、ちょっと聞いてみるか。おい、どうした?」

調味料店店主が、ガシッと腕組みをしながら騒いでいる里人に話しかける。

里の人は、巫女と店主が無事戻ってきたことを確認すると少し落ち着いたようだ。

 

「巫女様、御無事で何よりです」

「それはいいんだけど、何があったのさ?」

「いえ、それが……」

里の人が集まってくる。

鉈のようなものを両手に持っている人が多い。

何故か戦地に赴くような表情をしている。

 

「先ほど、向こうで巨大な人間を見たという者が、多数おりまして……」

「確かに見た! 空に突き刺さるようにデカかった」

「十メートル……いや二十メートル級はあったぞ!」

「俺、帰ってきたら、しっかり農作業をするんだ」

「壁だ! 壁を作らないと!!」

「駆逐してやる! 一匹残らず!」

「∠(゚Д゚)/イエエエェェェガ―――!!」

 

何か暴動が起こりかけている。

そして、その原因に、確実に自分がかかわっていると、萃香は悩む。

どうしたものかね、さすがに何か言い訳をしないと、マズそうだし……。

 

う~ん、と萃香が悩んでいると、横の店主がドンと地面を踏み鳴らした。

「おい、お前ら、よく聞け! さっきの巨大な人間みたいのは、この巫女様の霊力で作り出された影だ。ああやって、巨大な影を作ることで、妖怪を威圧していたんだ」

「そ、そうなのでしょうか?」

「え? あ、まあ、確かに威圧できていたと思うよ。たぶん」

確かに威圧出来たと思えるので、ここは素直に頷くことにした。

それを聞いて、里の人たちは落ち着いたようだ。

変に騒ぎが起こる前に何とか止められたようで何よりと、店主も笑う。

 

 

「それじゃ、私は神社に戻るよ。妖怪退治の依頼があったら、またいつでも呼んでくれて構わないよ」

そう言って萃香は人里を後にした。

 

帰る途中、萃香は何かを思い出したように引き返す。

向かった場所は、巨大鼠妖怪を踏みつぶした場所だ。

そこには、主に殴り飛ばされて息絶えた鼠妖怪と、ハンバーグ状になった巨大鼠妖怪の死骸が散乱していた。

 

「たしか、十百はこれを料理できたはず。なら、持ちかえったほうがいいね」

ぺったんこになった巨大鼠妖怪の上に、鼠妖怪の死骸を重ねる。

ちょっとした山のようになった鼠妖怪たちの死骸を、萃香が持ち上げる。

「おっと、ちょっとばかり持ちにくいね。落とさないように気を付けて帰らないとね」

そのまま萃香は博麗神社の方に向かって歩いていく。

どすどすと、かなり重い足音が響く。

けれど、萃香の方は何ともないようで、いつもの散歩気分で歩いていく。

 

「う~ん、これだけあれば、今年の冬の蓄えは十分そうだね。何か、美味しい料理でも作ってもらうとしよう」

お酒と合うような肉料理を考えると、足取りが軽くなる。

萃香はスキップをしながら博麗神社に戻るのだった。

 

後に、人里の近くで何か大きな足音がしていた、と噂になり、里の人が少しパニックになるのだが……、今の萃香には知る由もなかった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

白狼爪牙:異世界の幻想郷から、こちらの幻想郷に移り住んだ方です。妖怪の山の麓に、洞窟と一体になった家があり、そこに住んでいます。人里の人とも、妖怪の山の妖怪とも、あまり関わる気がないみたいです。たまに椛さんが世間話や噂話をしにくるみたいです。by一十百  この幻想郷が、これからどうなるか、見物させてもらおう。by爪牙

犬走椛:白狼天狗と呼ばれる天狗の方です。白い髪と狼のような耳をつけて、盾と刀を常備しています。哨戒天狗とも言われていて、妖怪の山に入ろうとする人に警告を促す仕事をしているみたいです。そう言えば、前にポチが妖怪の山に行ったときに、椛さんのような方に会ったと言っていましたけど……。by一十百  あの黒狼の飼い主!?by椛
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