東方お仕事記   作:TomomonD

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七十六仕事目 三巫女妖怪退治完了

一十百が人里に向かい、今回の報告をしている頃……。

慧音が妹紅を連れて人里に戻ってきた。

 

「すまない、遅くな……え゛」

完全に凍り付いた水のような妖怪を見て、慧音は唖然とする。

「霊夢、これは一体……」

「やったのは私じゃないわよ。そこの、離さんが手伝ってくれたの」

そう言って、霊夢は軽く手を向けた。

慧音と妹紅の視線が、霊夢の手を向けた先の女性の方に向く。

そこには大人びた雰囲気の女性が凍りついた水の妖怪を眺めていた。

 

「彼女が? 変わった服装をしているが、もしや、彼女は……」

「外来人よ。でも、明らかに普通の外来人じゃないわ」

ついさっきの、この凍りついた妖怪との攻防戦を思い出す。

下手をすれば貫かれなかねない一撃を、ほぼ最小限の動きで避け、そこから立て続けに強力な技をたたみかける。

いくら相手が低級妖怪とはいえ、反撃の隙を見せない戦い方。

実戦と隣り合わせの生活を送っていなければ、こんな動きは出来ない。

 

「常に戦いの中に身を置くような、そんな外来人だと思うわ。そうじゃなければ、あんな動きは出来ないはずだもの」

「なるほど。霊夢にそこまで言わせるとなると、彼女もなかなかの実力者なのか……」

慧音は、うむと一度頷いた。

 

 

「まあ、とにかく、さっき言われたように妹紅を連れてきた」

「慧音に急げって言われたからついてきたけど、まさかこんな状態になってるなんて思ってなかったよ」

妹紅も、この妖怪を見るのは初めてなのか、少し驚いた声を上げる。

 

霊夢は今回の妖怪退治の作戦を妹紅に伝える。

この妖怪は霊力での退治ができない。

だから、別の方法で退治をしないといけない。

そこで重要になるのが、炎というわけだと説明する。

 

「確か、アンタは火の扱いが得意だったでしょ? この妖怪は水で出来てるみたいだから、さくっと蒸発させてくれない?」

「簡単そうに言ってくれるな。これだけ大きいんだ、あっさり蒸発するとは到底思えないぞ」

そう言って、妹紅は凍りついた妖怪を軽くたたく。

「それに、蒸発させようとして、下手に溶かしてしまったら、また動き出す可能性だってあるだろう?」

「そりゃ、そうだけど……。だからと言って、このまま放置って訳にもいかないでしょ?」

 

そんな風に、二人が話し合っていると、すたすたと人里離が近づいてきた。

「どうかしたのかい? 凍らせたとはいえ、息の根を止めたわけじゃないから、あまり放置しておくのは少し危険だよ」

「それなんだけど、火力が足りないみたいなのよ」

「火力? ああ、蒸発させるつもりなのか。なるほど」

人里離がスッと片手を空にかざす。

すると、そこに炎の玉が現れ、その周りの大気が揺らめいた。

「少しなら私も手伝えるよ。過度な期待はしないでほしいけれど、それなりの火力は出るはずだ」

 

あっさりと炎を出されたので、霊夢は唖然となる。

あの妖怪を凍らせたってことは冷気を操ったってことよね。

普通、冷気を操るような能力なら、熱気を操るのは不得意のはず。

それなのに、事もなげにあっさりと炎を……。

本当に、一体何者なの?

 

霊夢の疑問をよそに、人里離は藤原妹紅に話しかける。

「藤原妹紅君だね。どうやら共同作業になりそうだね、よろしく」

「え、ああ、よろしく」

私、この人に会ったことあったっけ?

いや、たぶん初対面のはず。

なら、何故名前を知ってるんだ?

博麗も慧音も、私のことは妹紅としか呼んでないから、私の本名は知らないはずなんだけど……、まあいいか。

 

「妹紅君。私の事は気にせず、全力で炎を叩きつけてくれて構わないよ。こちらも、それなりの威力を出すつもりだからね」

「そうか? なら、加減せずに一気に蒸発させられるように狙ってみるか」

 

 

凍りついた妖怪を挟むようにして、藤原妹紅と人里離が構える。

霊夢と慧音には、熱気が行く可能性があるという事で、少し離れてもらっている。

 

「それじゃ、準備はいいかい?」

「いつでもいいぞ!」

二人が、凍りついた水の妖怪に向けて、ほぼ同時に炎を放つ。

「『ほのおのかべ』」

「蓬莱『凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-』」

 

人里離から、壁のようになった炎が放たれる。

ゴオォと燃え盛る音と共に炎が、凍りついた水の妖怪を炙りながら流れていく。

藤原妹紅からは、火山の噴火にも思える炎の弾幕が次々放たれていく。

流れるような炎の弾幕に交じって、小さな爆発が次々と起こる。

 

二つの巨大な炎に包まれ、凍りついていた水のような妖怪が溶けはじめる。

しかし、溶けて動き始める前に、蒸発していく。

あれ程大きかった水の妖怪も次第に蒸発し、だんだんと小さくなっていった。

二人の炎は一層強くなり、水の妖怪を包むように燃え盛る。

 

しばらくして、二人の放った炎が消える。

水の妖怪の姿は消え、そこに黒焦げた地面だけが残っていた。

「どうやらうまくいったようだね」

「ああ。思った以上に抵抗してこなかったな」

炎が消えたのを見て、遠くにいた霊夢と慧音が戻ってくる。

「終わったみたいね。あれがしっかりと蒸発したみたいで何よりだわ」

博麗霊夢は心底疲れたというように息を吐いた。

もっと簡単に終わると思っていた妖怪退治が、ここまで長引くとは思っていなかったのだ。

 

「まあ、これで、今回の妖怪退治の依頼は遂行したわよ。妹紅も手伝ってくれて助かったわ」

「いや、気にしなくていい。無駄に毎日を過ごしてるから、これくらいの手伝いなら気軽に頼んでくれて構わないさ」

礼を言われることにあまり慣れていないのか、妹紅は少しほほを染め視線をずらす。

「それと……、離さん。手伝ってくれてありがとう」

「気にしなくていいよ。私が勝手に横槍を入れたんだ。最後まで付き合うのは当然だからね」

軽く人里離が微笑む。

 

「それで、離さん。これからどうするんですか? 外の世界に戻るつもりなら、博麗神社に来ていただかないといけないけれど……」

「そうだね……。遅かれ早かれ、一度足を運ばないといけないからね。この機会だから、博麗神社まで同行させてもらえるかな」

「わかったわ。慧音、妹紅、それじゃ」

霊夢と人里離は二人に別れを告げ、博麗神社に向かっていった。

 

 

丁度、そのころ……。

一十百は妖怪退治の報告を終わらせ、博麗神社に向かっていた。

 

人里を見ていた妖怪は害意の無い存在であり、彼のテリトリーを侵さない限り危険ではないという事を説明し納得してもらった。

里の人全員が納得したようではなかったが、さすがに一日で納得できるとも思えなかったので、ある程度のところで引き上げたのだった。

 

「やっぱりそれでも、少し、もやもやします。確かに妖怪と人間は相容れぬ間柄ですけど……」

一十百は、ちょっと残念そうに博麗神社へと向かう。

だんだんと先ほどの人里が遠ざかっていく。

 

そんな時、一匹の妖怪が一十百の前から現れる。

背丈はそれなりに大きく、肌の色は土緑色。

人っぽい妖怪とは違い、明らかに妖怪だとわかるタイプだ。

西洋の妖怪を知っている一十百からしてみれば、オグルとゴブリンを足して二で割ったような妖怪に見えた。

 

その妖怪が、一十百を見下ろすように話しかける。

「おい。どけ」

「どいてもいいですけど……、この先には人里と妖怪の山しかありませんよ?」

そこまで話して、一十百の目に少しだけ鋭い光が灯る。

 

「どちらに御用があるんですか?」

「答えるまでもねえ。人里だ」

「……幻想郷では、人里にいる人を襲う事はタブーとなっていますけれど、そのことについては知っていますか」

「ああ。もちろんだ」

ギュッと、一十百が拳を握る。

「人里に行って、人間を襲うつもりですか?」

「それ以外に何をしろってんだ? いいからどけ」

じっと妖怪のことを見る。

 

……仕方がありません。

放っておくわけにもいきませんし、ここで引き返してもらうしかなさそうですね。

一十百が肩幅に足を開く。

「さすがに見過ごすわけにもいきません。ここで僕に負けたら引き返してください」

そう言って、一十百はスペルカードを取り出す。

「スペルカードの枚数と、残機をきめ……」

ドスッと鈍い音が響く。

「スペルカード? 残機? しらねえな」

ニタリと笑いながら、妖怪は一十百に繰り出した拳をそのまま薙ぎ払う。

一十百は大きく後ろに吹き飛ばされる。

 

所詮、ただの小娘、一撃与えりゃ黙るだろ。

そう思って、一歩踏み出したときに気が付く。

殴った右手に違和感を感じる。

なんだと思い、自分の右手を確かめると、手首からグニャリとまがっている。

「なあっ……」

身体の真芯をとらえて殴ったはずだった。

それで、何故、こっちの手がこんな状態になってるんだ。

ザッと、土を踏む音が目の前から響く。

顔を上げると、そこには今さっき殴り飛ばしたはずの少女が立っていた。

 

「……あなたみたいな妖怪がいるから、他の妖怪たちまで誤解されてしまうんです!」

少女の左手が唸りをあげて自分の腹に突き刺さる。

妖怪の意識はそこで途絶えることとなる。

 

本来、一十百は弾幕というものを使う事が出来ない。

つまり、幻想郷の基本的なルールである、スペルカードルールの時点において、一十百はすでに手加減せざる得ない状態になっている。

鬼の萃香や、紅魔館の門番である紅美鈴と同じように、一十百は素手の方が圧倒的に強い。

まあ、電車を引きずって博麗神社まで運んだほどの腕力があるのだから、その拳打がどれほど強力なのかは、言わずともわかるだろう。

 

また、一十百は左利きなのだ。

魔剣『ダーインスレイヴ』などを使う時も必ず左手で使っている。

唯一、萃香が異変を起こした時だけ右手で拳打を繰り出していたが、あれは一十百なりの手加減であった。

あの時、もしも一十百が利き手を使っていたら、萃香であってもかなり手酷い痛手を受けたはずだろう。

 

……つまり今回の場合、スペルカードルールの無視、利き手の使用、そして必ず退治をしないといけないという状態。

この三つが重なり、一十百から放たれた拳打は、唸りを上げ容赦なく妖怪の腹に突き刺さった。

 

その妖怪が放った拳打のはるか上を行く一撃。

そんな一撃を、多少知性を持った程度の妖怪が耐えられるはずもなく……。

「あ……、手加減、しわすれちゃいました……」

バシュ……と何かが弾けるような音が鳴り響く。

少し間をおいて、ゴトリと妖怪の首だけが里道に転がった。

一十百の拳打で、妖怪の身体は見事にはじけ飛び、唯一残った頭だけが力なく横たわる事となった。

 

一十百は、そっとその妖怪の頭を拾い上げる。

「さすがに、そのまま放置するわけにはいきませんよね」

たとえどんな妖怪だったとしても、供養くらいはしてあげないといけませんよね。

妖怪の力なく見開かれた目をそっと閉じ、白い布でその首を包む。

よし、と一度頷くと、一十百は博麗神社に向けて走り出した。

 

 

一十百が妖怪を退治した頃、霊夢と人里離は博麗神社に無事到着していた。

ただし、博麗神社が無事ではないのだが……。

 

「………」

「え~と、博麗神社は鼠被害にあっているのかい?」

境内の近くに積み重なった鼠妖怪の山。

鼠妖怪の毛皮もかなりの枚数、天日干しになっている。

 

「お~、霊夢お帰り。おや、お客さんかい?」

片手に鼠妖怪、片手にその鼠妖怪の物だと思われる毛皮を持った萃香が神社の裏から歩いてきた。

どうやら、加工しやすいようにしっかり毛皮を剥いでいたのは萃香だったようだ。

いつもなら一十百がやっているのだが、少しでも一十百の負担を減らそうという萃香の気遣いのようだ。

 

しかし、霊夢的にはお気に召さなかったのか……。

「神社で、なにやっとんじゃ――!!」

「あだっ!?」

手に持っていたお祓い棒を、萃香の額に投げつけたのだった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

妖怪退治終了-霊夢:水のような妖怪の退治が終わったわ。始めは簡単な依頼かと思っていたけど、正直言ってかなり苦戦したわ。水っぽいって部分を利用して、離さんが凍らせて時間を稼いでくれて、その間に慧音に妹紅を連れてきてもらったの。後は、妹紅と離さんの二人が炎で水のような妖怪を蒸発させてくれたわ。by霊夢  私ひとりじゃ厳しかったけど、協力者がいて助かった。by妹紅

妖怪退治終了-一十百:依頼された妖怪退治ですが、危険な妖怪でなかったので里人の誤解を解くという事で終わらせました。長年にわたって妖怪の脅威に怯えていた人里でしたので、全員が納得されたみたいではなかったようです。それとは別で、帰りにすこし妖怪退治をすることになりました。ちょっと手加減をしそびれてしまいましたので、せめて供養くらいはするつもりです。by一十百
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