東方お仕事記   作:TomomonD

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七十七仕事目 姉だからこそ分かる事

霊夢と萃香がお茶を飲みながら、お互いの妖怪退治の報告をしあう。

色々長くなりそうだという事で、鼠妖怪の死骸は一十百が作った氷室の中に入れてある。

巨大な鼠妖怪だけは、氷室に入りきらなかったので、人里離に頼み凍らせてある。

「……と言うわけさ。一応、騒ぎは起こしてないよ」

「ならいいわ。私の方も、離さんが手伝ってくれたおかげで何とか無事だったし」

そう言って霊夢はお茶を飲む。

 

 

「それで、そっちの人里離だっけ? なんでわざわざここに来たんだい?」

「外の世界に帰るためってのが一つ。他には、そうだね……、会いたい人がいてね。たぶんここに宿を借りてると思ったんだけれど……」

「宿を借りてるって……十百のことかい?」

「ああ、やっぱりここにいるのか。部屋の掃除のされ方が彼のやり方に似ていると思ったよ」

少し懐かしむように、部屋を見渡してそう言った。

 

人里離から一十百の名前が出たため、博麗霊夢は驚く。

そこまで有名ではないはずの一十百を知ってるなんて。

それに外来人ってことは、もしかして……。

「あの、離さん。ちょっといいですか?」

「どうしたんだい霊夢君」

「えっと、もしかして、一十……」

そこまで言いかけたとき、シュタンという音と共に風が舞った。

 

「霊夢さん! 聞きましたよ、特ダネじゃないですか! 外来人の方が来ているって!」

「あのね~……、もっと静かに登場できないわけ?」

メモ帳とペンを構えて、射命丸文が降りてきたようだ。

「おや、射命丸文君か。本当に新聞のネタを探して幻想郷を飛び回っているんだね」

霊夢と一緒にいる女性を見て、目を輝かせる。

「貴女ですね、噂の外来人さんは! どうやら、私のことはご存じのようですから、自己紹介はいいですよね。時間がもったいないですし!」

「取材かい? まあ、ほどほどなら、協力してあげるよ」

「本当ですか! では、さっそく……」

射命丸文がペンを一回転させ、メモ帳を開く。

大事な部分を聞きのがすまいと、記者魂全開だ。

 

 

「では、まず、簡単な自己紹介をしていただけませんか?」

「私は人里離。種族は邪霊人。見ての通り性別は女性だよ。外来人という括りでもあるね」

「邪霊人ですか? 聞いたことの無い種族ですね。外の世界では、有名な妖怪なんでしょうか?」

「いや、一人一種族だと思うよ。なにせ、私がそう呼ぶようにしたのだからね」

なるほど……、と言いながら、射命丸文は着々とメモを取っていく。

横で見ている霊夢と萃香は呆れ顔だ。

 

「では、そうですね、親しい異性のことを……」

「ちょっと、文、そういう事は聞くものじゃ……」

「一番親しい異性なら、一十君だね」

「「へっ……?」」

あっさりと人里離が答える。

けれど、その口から出てきた名前を聞いて二人の動きがピタリと止まった。

射命丸文に至っては、手に持ったペンを落としてしまっている。

 

二人の反応を見て、人里離は軽く首をかしげた。

「どうかしたのかい?」

「……コホン。これは、ちょっと真面目に追及……いえ、取材をしないといけないようですね」

「そうね。文、こってり……いや、しっかりと頼むわ」

落としたペンを拾い、射命丸文は一度深呼吸をする。

 

 

「え~、では、一十君……つまり十百さんとの関係について少し」

「そうだね……。少なくとも赤の他人よりは、ずっと親しい関係のはずだよ」

「そ、その根拠は?」

「同じ屋根の下で生活していた。特別な時間を共有してくれる。そして、なによりも、私が彼を大切に思っているからね」

 

淡々と答えているが、射命丸文と横で聞いている博麗霊夢にとっては驚愕の新事実だ。

一十百にそういう女性がいたなんて話は聞いていない。

けれど、人里離が嘘を言ってるようにも見えず、何より“彼を大切に思っている”と言った時、あまり表情の変化しない人里離が優しげな表情をしていたのだ。

 

これは、確実に……、いえいえ、まだ決まったわけではありません。

もう少し追求しないと。

 

「そ、そうですか。その、詳しいことを聞くようで悪いのですが……、同じ布団で夜を共にした経験は……」

「あるよ。まあ、三回ほどだけどね」

「「なあっ!」」

それがどうかしたのか、という程に、あっさりと答える人里離。

 

バラバラと射命丸文の手からメモ帳とペンが落ちる。

そして、そのままガクンと両手を地面につけた。

「ふ、ふふふ……。そりゃ、私になびきませんよね。こういう方がいらっしゃるんですもの……。十百さんも人が悪い……」

「……所詮、外の世界と幻想郷。相容れぬものがあったのよ……。今までの私の苦労って……、一体……」

 

どんよりとしたオーラを纏いながら二人が愕然としているのを見て、人里離は今回の質問の意図を考える。

そして、ああ、なるほどと頷く。

人里離は、くすっ、と笑って二人に話しかけた。

 

「ああ、質問の意味を誤解していたよ。先に一十君との関係を、しっかり説明しておけばよかったみたいだね」

「……親しい間柄なんですよね。それは、もう、夜を共にできるくらいに」

「そう卑屈になるものではないよ。一十君は私の弟だよ」

「はいはい……は? え? お、弟?」

ガバッと二人が顔を上げる。

霊夢も文も驚きを隠せないと言った表情だ。

 

「そう、弟だよ。まあ、血は繋がっていない、いわゆる義理の弟だけどね」

「ええっ!? 十百さんって、姉がいたんですか!」

「……あ。そう言えば、かなり前にそんな話を聞いたような……。あの電車を持ってきた頃だったかしら」

かなり前のことだが、確かに博麗霊夢は一十百から姉の存在を聞かされていた。

主のログ豪邸に一緒に住んでいるとか……。

 

「同じ屋根の下……と言うのは」

「彼の主の屋敷は大きいからね。そこに何人も住み込んでいるんだよ。私もその一人だ」

「特別な時間の共有って、姉弟の間柄の事?」

「そうだよ」

くすくすと人里離が笑う。

「何と勘違いしていたのかなんて、意地の悪いことは言わないから、安心してくれていいよ」

「うっ……」

「いや、その……」

二人は困ったように顔を赤らめる。

 

紫とは違った意味で掴み所のない女性ね。

なんだか、いいように振り回されてる気がするわ……。

そういうところは一十百に似ているのかしら。

 

「それでは、えっと、同じ布団で夜を共にしたというのは?」

「二人が考えていたようなことは全くないよ。いろいろ彼の話を聞いているうちに眠ってしまったことが二回。後の一回は、まあ、姉として弟を抱き枕にしたいという、ちょっとした願望だね」

「……その感想は?」

「とてもリラックスできたよ。彼の来ている服のせいかもしれないけれど、太陽と若草の香りがして、お昼寝感覚でぐっすり眠れたよ」

なるほど、なるほど、と言いながら射命丸文はメモを取っている。

今さっきまで愕然となっていたのが嘘のようだ。

 

「それでは、十百さんに対して、異性としての好意は持っていないと」

「全く持っていない、というと嘘になるね。彼が魅力的な男性であることには変わりないからね。けれど、さすがに唯一無二の人、つまり恋人にするつもりは無いから安心してほしい」

その一言を聞けて、安堵のため息が二人から漏れた。

 

 

「さてと、それじゃ、ここからは私がちょっとだけ二人にお話をしてあげようかな」

「お話ですか?」

「一十君のことについてだよ」

「是非!」

キラリと射命丸文の瞳が光り、人里離の前に正座する。

その隣に霊夢も正座する形になっている。

 

「それじゃ、率直に聞くけど、二人は一十君に異性としての好意を持っているかい?」

「「えっ……」」

全く前振りの無い、重大な一言である。

 

これは、困ってしまいました……。

無いと言えば、嘘になってしまいますし、あるといえる程のものなのかは、わかりませんし……。

くっ、新聞記者である私が、こうもあっさりと止められるとは。

 

「まあ、すぐに答えられるとは思ってないから、大丈夫だよ。一応、ある、という前提で話を進めるよ」

人里離は少し目を細める。

「これから私が話すのは、彼への異性としてのアプローチの仕方、と言ったところだよ」

「それは聞きたいわ!」

バッと霊夢が前に乗り出す。

まさか、こんなところで、有意義な情報が手に入るとは思ってなかったわ。

一十百の姉なんだから、さぞや有力な情報を持っているはず……。

 

「おや、まさか霊夢君の方が反応するとは思ってなかった。まあ、深くは追及しないけれど、それなりのアプローチをとったことはあるかい?」

「……ある、わ」

「霊夢君なら、そうだね……、眠っている一十君の寝室に行くくらいのことはしそうだ」

「うぐっ……」

まさにその通りであったので、言葉に詰まる霊夢。

どうしてそこまでわかるのよ……。

心でも読んでるのかしら?

 

「どうやら、私の思っていたくらいの事はしていそうだね。けれど、結果はあまり芳しくなかったのではないかい?」

「……ええ。悔しいけど、完全敗北もいいとこだったわ」

「まあ、彼は、女性の肌を見慣れているからね。ただの色仕掛け程度じゃまったく効果がないと思う」

「は、はいぃ!?」

またもや、あっさりと驚愕の事実が飛び出す。

驚き疲れつつある二人だが、しっかりと聞いておかないと、後々になって後悔するのは目に見えている。

 

「誤解しないであげて欲しいのだけど。別にやましい気持ちがあって、女性の肌を見慣れているというわけじゃないよ。一十君の外の世界での仕事は、何をやっていたか聞いているかい?」

「確か、執事……って言ってた気がするわ」

「そう、一十君は外の世界で執事をやっている。そして、その主は女性。ここまで言えば察しはつくかい?」

コクリと霊夢が頷く。

 

「その主の着付けを手伝っているから、女性の肌は見慣れているってわけね」

「そう。つまり、一十君に異性としてのアプローチをするなら、肌を見せたりするようなものだと効果が薄いというわけさ」

まあ、彼の前でいきなり脱げば多少は効果があるけどね、と人里離が付け足す。

もちろん、そんなことができるわけないと、二人は無理と首を横に振る。

 

「服を着崩して肌を見せたり、よろけた拍子に絡む程度じゃ彼には伝わらない。そうなると、やれることは限られてくる」

霊夢と文が一言たりとも聞き逃すまいと、息を飲む。

人里離は次のように一言。

 

「押し倒すのが一番かな」

 

「なるほ……ええっ! 押し倒す!?」

「そう、押し倒す。彼の正面からね。その後すぐに、唇を奪えればなお良し」

「恐ろしく簡単に言いますけど、さすがに無理ですって!」

「けれど、そのくらいしないと一十君はアプローチだと気が付かないよ。姉の私から見て、彼は異性の事、特に恋愛ごとに対して致命的なほどに鈍感だと思うからね」

「「確かに……」」

 

それなりに長い間、一緒に過ごしてきた霊夢にも、秘密を探ろうとしてきた文にも、それは理解できていた。

人里離の言うとおり、押し倒すくらいのことでもしなければ、今の状況を打破できない。

下手をすれば、押し倒しても気が付かれない可能性があるほどだろう。

そういう意味では、恐ろしく的確な行動を示唆してくれたはずだ。

 

とはいえ……。

「いや、無理。さすがに無理よ」

「ええ。これは、かなりの心構えが必要になりますね」

二人が頬を赤らめながら、難しい表情をしているのを見て、人里離は一度頷く。

「それなりに好意のある異性を押し倒し、なおかつ唇を奪う、というのは確かに簡単にできることじゃない。それは同じ女性として理解しているつもりだ。だから、次善の策も用意してある」

「「次善の策?」」

そうだよ、と人里離が頷く。

 

「まあ、押し倒すことが前提だけどね。自分の額を一十君の額に軽く当てる、これだけだよ」

「……それって、効果があるんでしょうか?」

「押し倒すだけに比べれば、絶大な効果があるはずだよ。ポイントは、そっと額を当てるという事と、押し倒してから一呼吸おいてから行うという事の二つ」

「その、詳しく説明してもらっていい?」

霊夢も文と同じように理解できていないようで、人里離に説明を頼む。

 

「簡単に言えば、事故でも偶然でもない、と一十君に教えるようなものさ。押し倒すだけじゃ、よろけたのかもしれないと思われてしまう。けれど、額をそっと当てることによって“これは私なりのアプローチ”という事を、しっかり伝えられる」

「だから、そっと当てる必要があり、一呼吸置くことで事故ではないということを十百さんに……、なるほど。確かに、効果がありそうです」

「あっさりと、こんな作戦を……。恐るべし、人里離」

霊夢も文も、なるほどと言って考え込んでしまった。

今までとは全く別の方法のため、色々と心の整理が必要なのだろう。

 

 

人里離は、軽く微笑み、外を眺める。

そろそろ、一十君が帰ってくるころかな。

ちょっと変わった助言をしてしまったけれど、まあ、彼なら大丈夫だろう。

そんなことを考えていると、くいくいと服の袖が萃香に引かれる。

「ちょっといいかい?」

「どうしたんだい、萃香君」

萃香は二人の様子を見て、小声で話す。

 

「さっきのアプローチのことだけどさ、普通に言葉で伝えればいいんじゃないのかと思ってね」

「その手もあったね。まあ、そのあたりは彼女たちに任せるさ」

いや、そこは伝えるべきじゃ……、と萃香は心の中で叫ぶのだった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

人里離の関係:十百さんの義理の姉だという事が発覚しました! 確かに大人びた雰囲気や、面倒見のよさそうなところが姉という感じですね。十百さんとは同じ屋敷に住んでいたみたいです。by文  一十百のことを大切に思っている、いい姉だと思うわ。by霊夢

アプローチ:押し倒す……、らしいわ。確かに今までのやり方じゃ、まったく効果がなかったけど……。さすがにこればかりは気軽にできそうにないわ。最善の策で、唇を奪う。次善の策で、額を軽く当てる。どっちも、その、難しいわよ……。by霊夢  それをあっさりと私たちに伝える離さん、恐るべし……。by文
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