東方お仕事記   作:TomomonD

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七十八仕事目 外の事情と内の心情

夕焼け空の下、軽い足音が博麗神社に向かっていく。

神社の階段を二段飛ばしで駆け上り、鳥居くぐる。

 

「何とか無事に帰ってこれました!」

「ふふっ、その明るさはどこに行っても変わらないね」

「ふぇっ!?」

外の世界で聞きなじんだ姉の声が一十百に届く。

辺りを見回すも、一十百の姉の姿は見えない。

「まあ、そうですよね。離お姉ちゃんが、幻想郷に来ているとは思え……」

「そうかな? 私はここを幻想郷だと思っているけど」

スッと、本堂から人里離が姿を現す。

 

「は、離お姉ちゃん」

「久しぶり、になるのかな。お帰り、一十君」

「あ、えと、ただいま!」

思いがけない姉との再会に驚くも、一十百は満面の笑みで帰宅を伝えたのだった。

 

 

「それにしても、どうして離お姉ちゃんがここに?」

「霊夢君の妖怪退治を手伝って、その流れでここに来たのさ。一十君が博麗神社に滞在しているのはクロラージュ君から聞いていたし」

「そうだったんですか」

それにしても、と人里離は一十百の姿を見て、軽く微笑む。

「似合っているね。その巫女服」

「あうぅ、これにはいろいろ事情があって……」

「大方、霊夢君にでも頼まれたのだろう? 文君なら、写真の一枚でも撮影してそうだね」

「す、鋭い。さすが、離お姉ちゃん」

一十百は軽く拍手をする。

 

そのとき、手に持っていた白い布で包まれたものが地面に落ちてしまった。

「あっ、いけない。ちゃんと供養するって思っていたのを忘れるところでした」

「供養? 巫女服を着ているところを見ると、退治した妖怪の一部……腕でも持ってきたのかい?」

「えと、腕じゃないんだけど……」

そっと一十百が包みを開く。

先ほど退治した妖怪の頭が現れる。

それを見て、人里離は驚く。

 

「おや、まさか首をもぎ取ったのかい? なかなか、豪快な退治の仕方じゃないか。君の主、特に人形の方の主が喜びそうな方法だね」

「もぎ取ったわけじゃないよ。その、思いっきり体を殴ったら、粉々にはじけ飛んじゃって……」

「……なるほど。まあ、とにかく、供養してあげるべきかな。虚ろに開いた目が、そういてるように感じるよ」

「えっ?」

一十百は持っていた妖怪の首をくるりと回転させ自分の方に向ける。

確かに妖怪の目は開き、虚ろな視線を投げかけているようにも見える。

 

しかし……、一十百は少し前のことを思い出す。

そう、白い布に包む前、確かに目は閉じさせたはず。

それなのに、今は開いてる。

もしかして……まだ生きてる?

 

「……生きてますか?」

妖怪の首に話しかけるが、反応はない。

ただ、僅かに瞳が動いたのだが、そのことに一十百は気が付かなかったようだ。

「う~ん、よくわからないけど、供養しちゃいましょう!」

「それがいいと思うよ。仮に生きていたとしても、それほど長くはないだろうからね」

一十百は妖怪の首を包み直すと、神社の裏手に向かっていった。

少し気になったのか、人里離も一十百の後を追った。

 

 

博麗神社の裏手には、小さな空き地がある。

広さは部屋一つ分くらいの空き地だ。

そこに石で作られた小さな祠のようなものが一つ置いてある。

「よし。このあたりかな」

一十百がポケットから一振りのスコップを取り出す。

明らかにポケットから出てくる大きさのものではないのだが、そのことに対して人里離はとやかく言わなかった。

その程度のことに対してツッコミを入れていたら、身が持たないということをしっかりと理解しているようだ。

 

一十百はザクザクと土を掘り返し、小さな穴を作る。

その穴にそっと妖怪の首を入れる。

そっと土をかぶせ、その上に小さな篝火を焚く。

「この煙に乗って、あなたの魂が空に運ばれますように」

小さな祠の前で、一十百が手を合わせる。

細い煙が空へと昇っていく。

人里離は、その光景をそっと見守るのだった。

 

 

一通り供養も終わったようで、一十百がすっと立ち上がる。

「そういえば、一十君。少し気になっていたのだけれど」

「何?」

「いや、外の世界との時間の流れが極端に違うとはいえ、外の世界でも確実に時間は流れている。学校とかは、大丈夫なのかと思ってね」

一十百が、一瞬フリーズする。

どうやら今まですっかり忘れていたようだ。

 

「……はっ!! えと、僕がこっちに来てから、外の世界の日にちってどのくらい過ぎちゃいました?」

「だいたい一週間くらいだろうね。そこまで慌てる必要もないと思うけれど……」

「あうぅ、出席日数が~」

一十百が頭を抱えて蹲る。

どうやら、かなり深刻な問題のようだ。

 

「おや、出席日数とかは、かなり余裕をもって学校に行っていたと思っていたけれど……。違うのかい?」

一十百はコクコクと頷く。

「いろいろやることがあったので、最低限の出席日数で学校に行ってたんです。どうしよう……」

「その、あまりフォローにならないのだけれど、一十君って学校に行く意味がほとんどないんじゃないかい?」

 

仮にも執事という職にもついている。

あのログ豪邸を建築も、たった一人で数日の間に作り上げた。

学力なら、そこらの人間には理解できないほどの物を持っている。

飛び級のある学校なら、すでに大学まで進学していてもおかしくないと思える。

あとは、友人関係だけど、問題なさそうだし……。

外の世界の流れに大きく反することになるけれど、彼はすでにそう言う場所にいるべき存在じゃない気がしてならないよ。

 

「で、でも、このまま放っておくわけにもいかないので、一度、外の世界に戻ります!」

「そうかい? まあ、一十君の過ごしたいように過ごすのが一番だからね」

そう言うと、人里離はくるりと鳥居の方に向かっていく。

そのまま外の世界に帰るのかと思いきや、人里離はゆっくりと博麗神社の階段を下りていく。

それを見て、慌てて一十百が追いかける。

 

「あれ? 離お姉ちゃんは帰らないの?」

「ああ。まだ帰るわけにはいかないからね。ちょっと、会っておきたい人……いや、神がいるんだ」

「えっ、神様ですか?」

「そうだよ。この幻想郷には、普通に神様たちがいる。まだ会ったことはなかったのかな」

一十百は大きく頷く。

 

神様に祈ることはあっても、神様に会ったことはない。

どんな姿をしているのか、どんな声をしているのか……。

想像もつかないと、一十百が腕組みをする。

 

「まあ、幻想郷は外の世界と違って、そこまで広くないからね。また会えるさ」

「はい! それじゃ、離お姉ちゃんも頑張って」

一十百は大きく手を振って人里離を見送る。

人里離も後ろ向きに軽く手を振り、博麗神社の階段を下りて行った。

 

 

人里離を見送った一十百は博麗神社本堂の方に戻る。

「ただ今戻りました……あれ?」

一十百が戻ってみると、博麗霊夢と射命丸文が腕組みをして難しい表情をしていた。

二人は、まだ一十百が戻ってきたことに気が付いていないようだ。

 

仕方がないので、もう一度……。

「えと、ただ今戻りました!」

「えっ! あ、おかえり」

「いつの間にここへ!?」

さすがに二人も気が付いたようだ。

 

しかし、何やらいつもと違って、一十百に向ける目線が違う。

二人とも少し困ったような視線だ。

そう言うことには鋭い一十百は、少し心配したように二人に尋ねる。

「あの、どうかしましたか?」

「い、いえ別に……」

「ほ、ほら、離さんはどうしたのかな~、と思って」

「離お姉ちゃんなら、神様に会いに行くって言って、出発しちゃいましたけど……」

「「えっ!?」」

どうやら人里離は二人に声をかけずに出発したらしい。

 

これは、困ったわね。

押し倒す以外のアプローチ方法がないのか、聞こうと思ったのに……。

正直言って、私がそこまで出来るか自信がない。

そもそも、簡単に押し倒すっていうけど、こっちの身にもなってほしいわ。

そりゃ、このまま一十百に負け続けるのは癪だけど、押し倒した後のことを考えてほしいわよ……。

仮に、夜に押し倒したとして、次の日どんな表情をして一十百に会えっていうのよ。

というよりも、押し倒した後、どうすればいいのよ。

ふっ、勝ったわね、とでも言えばいいの?

……いや、そういう状況まで私の頭が回るとは思えないし、あ~。

博麗霊夢は、そんなことを考え思い悩む。

 

対して、射命丸文はというと……。

本当に押し倒していいのでしょうか。

義理とはいえ弟なのに、心配ではないのでしょうか……。

決心が付いたら、本当に押し倒しますよ?

問題は、その後ですね。

押し倒したとあれば、少なくとも霊夢さんが黙っていませんし、何よりも十百さんの心境に変化があるはずです。

そうなると、一気に事を運んだ方がいいですね。

……いったん山を下りることも考えておかないと、ふふふ。

そんな事を思い悩んでいた。

 

確実に近い未来、一十百に厄介事が降りかかるのだが、そのことにまだ一十百は気が付いてはいなかった。

 

 

「それで霊夢さん。いったん僕は、外の世界に帰ります」

「えっ! 随分、急ね……。何かあったの?」

「ちょっと、学校関連のことで……」

「ガッコウ……、ああ、寺子屋に似たようなものだっけ」

一十百がそうですと頷く。

 

「まあ、私にはよくわからないから何とも言えないけど……。ちゃんと、こっちに戻ってくるわよね」

「はい! なるべく早く事を終わらせて戻ってくる予定です」

「そう、ならいいわ」

どこか安心したように、ふっと霊夢は息を吐いた。

 

しかし、文は心配なのか、ギュッと一十百の手を握る。

「ちゃんと戻ってきてくださいね。まだ、スペルカードを撮影しきっていませんし、十百さんがいなくなると、『文々。新聞』の購読者数が落ちますし、何よりもわた……」

「あ~や~、一十百が困ってるでしょ!」

ガシッと霊夢が文の後頭部を掴む。

ギリギリと音がするような掴み方だ。

実際に、かなり力を入れているようで、ブンブンと文が手を振る。

 

「あぃたたた! 霊夢さん、ギブ! ギブですってぇ!」

「少しは落ち着いた? 落ち着いてなかったら、もう少し力を入れるけど」

「お、落ち着きました! 落ち着きましたから、これ以上は……」

スッと、文の後頭部から霊夢の手が離れる。

射命丸文は頭を抑えてうずくまる。

「ああぅ、割れるかと思いましたよ」

「自重しないなら、砕くつもりだったけど?」

「……はい。次からは少し自重します」

「よろしい」

うむ、と満足そうに霊夢が頷く。

 

「えと、文さん、大丈夫ですよ。そんな長い間、向こうにいるわけじゃないですから」

「本当ですか? 信じますよ」

一十百はコクリと頷いた。

「それじゃ、出発は早い方がいいので、もう行きますね」

そう言うと、一十百は手を振って電車に乗り込んでいった。

ガタゴトと電車は鳥居に向かって走り、その中に吸い込まれていった。

 

 

「行っちゃいましたね……」

「そんなに心配しなくても、すぐに戻ってくるわ。それまでに、私たちにはやることがあるでしょ」

「押し倒すための心構え……ですか?」

「まあ、そんなところよ。できるにしろ、できないにしろ、少し時間が欲しかったところだし」

 

二人がそんなことを話しあっていると、ふらりと萃香が戻ってきた。

「あれ? 今さっき、十百の声が聞こえたと思ったんだけど、気のせいかい?」

「さっきまでいたわよ。外の世界にいったん戻るって言って、今帰ったところ」

「えええっ! 帰ったって……。じゃあ、今日の夜にやる予定の酒盛りは……」

「まあ、普通のお酒でやるしかないわね。鏡酒は、一十百が戻ってくるまでは、お預けってところかしら」

がくっと、萃香が膝をつく。

「私の楽しみがぁ……」

 

霊夢、文に続き、萃香も一十百に早く帰ってきてほしいと、心の底から願うのだった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

外の世界の学業:困りました……。出席日数、足りなくなりそうです。何かいい方法が、舞い降りてこないでしょうか……。by一十百  いや、そこまで深刻になるほどでもないと思うけれど……。by離
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