東方お仕事記   作:TomomonD

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八十仕事目 二つの紅魔館を掛け持って

岡崎夢美の研究室に入るということで、無事に外の世界での厄介事を終わらせてきた一十百。

期日ごとに魔法に関するレポートを提出すれば、出席日数が足りなくても問題ないと言っていた。

そういう意味でも、一十百に適した研究室だったようだ。

 

いつものように電車を使い博麗神社に戻ってきた一十百。

電車の音に気が付いたのか、博麗霊夢が出迎えてくれた。

「あら、随分早かったわね。てっきり、二週間くらい帰ってこないのかと思ってたわ」

「僕もそれくらいかかるかと思っていたんですけど、意外と早く戻ってこれました」

「それで……、戻ってきてすぐで悪いんだけれど、紅魔館に向かってくれない? 咲夜が何か頼みたいみたいだったわ」

「咲夜さんが? 分かりました」

一度頷くと、一十百は紅魔館に向かっていった。

 

 

そんなこんなで、紅魔館の一室。

一十百と十六夜咲夜が向かい合って座っている。

二人の前にはティーカップが一つずつ。

何やら重要な話をしたいそうだ。

 

「紅魔館のメイド長として、こういう事を言ってはいけないと思うのだけれど……」

咲夜が大きなため息を一つ吐く。

「妖精メイドたちが、使い物にならないの」

「……またですか」

「ええ」

 

妖精は、総じて頭が悪い。

それは妖精メイドにも言えることだった。

希に大妖精のように、知識豊富な妖精もいるのだが、基本的には頭が悪いのだ。

なので、一十百が紅魔館に来るたび指導しようとも、数日でそれを忘れてしまうようだった。

 

「この時期、私一人だとどうしても手が足りないことが多いの。それで妖精メイドに頼むのだけど……、仕事が減るどころか、増えるのよ」

「ま、まあ、妖精メイドたちも頑張っていると思いますよ」

「それは分かってるわ。でも、片付けを頼んで、失敗。その失敗を手直ししようとした妖精メイドが、さらに失敗……。この悪循環をどうにかしたいのよ」

「う~ん……」

一十百は腕組みをして考える。

 

やっぱり、常に妖精メイドを指導できる状態にしておかないと、効果が薄そうですね。

僕が二人になれれば、問題ないけど、それは無理だし……。

そうなると、咲夜さん以外の誰かに頼むしかなさそうです。

妖精メイドの指導ができて、紅魔館に縁があって、なおかつレミリアさん達が納得しそうな人物……。

そんな方、いましたっけ……。

適任の人物が思いつかない一十百は、別の方向から考えることにする。

 

この際、レミリアさん達には、後から納得してもらうとして、妖精メイドたちが納得する人物を先に考えましょう。

実力が咲夜さんくらいなら、たぶん納得してくれますけど、そんな方いませんし……。

あ、そうだ、大妖精なら、妖精メイドたちも納得してくれますね。

でも、大妖精にメイドの心得はないだろうからなぁ……。

 

……うん?

あれ?

種族が大妖精で……、紅魔館に縁があって……、メイドの心得があって……、実力もそれなりにある……。

どこかで、そんな人と出会ったような……。

あっ!!

ダンと一十百が立ち上がった。

いきなり立ち上がったため、さすがの咲夜も驚く。

 

「ど、どうしたの、十百君?」

「いました! いましたよ、咲夜さん! 妖精メイドの指導を任せられる人が!!」

グッと、一十百はガッツポーズをする。

「待っててください。すぐに呼んできますから!」

一言そう告げると、一十百は風のように部屋を飛び出していった。

 

「……妖精メイドの指導を任せられる人?」

何がなんだか分からなかった咲夜は、一十百が走り去っていった方向を呆然と眺めるのだった。

 

 

数十分後……。

一十百が一人の妖精を連れて戻ってきた。

若草のような黄緑色の髪をまっすぐに下ろし、メイド服を着ている。

どことなく、霧の湖にいる大妖精に似ているようだ。

 

咲夜は、この妖精に見覚えがあった。

「たしか……、あの博麗神社でのお祭りの時にいた、ユメ……だったかしら?」

「は、はい。覚えていてくれたんですね」

「あたりまえよ……って、まさか! 十百君、妖精メイドの指導を任せられる人って……」

「そうです。このユメちゃんです!」

一十百がユメの方に手を向けた。

 

このユメという妖精、一十百の開催した秋夏祭りの時に別の幻想郷から来た妖精である。

種族は大妖精、紅魔館の副メイド長という肩書きを持っている。

主な仕事は、十六夜咲夜の補佐と、午後のお茶会を担当しているらしい。

それと、本人は意識していないようだが、大妖精という種族のため、周りの妖精メイドたちに的確な指示を与えているようだ。

何故かその指示通りに動いた妖精メイドは、いつもより少しだけ作業が捗っているらしい。

そんな話を、向こうの紅魔館の主とメイド長から聞いてきた一十百。

 

向こうの紅魔館の副メイド長なので、こちらに居続けることは出来ないが、長期滞在ということで話をつけてきたようだった。

ユメの実力が上がれば問題はないと、向こうのメイド長も頷いていた。

 

「確かに他の妖精メイドと比べると実力はありそうだけど……」

「あっ、私の実力を疑ってますね」

咲夜の不安そうな表情を見てか、ユメがピンと指を立てた。

「こう見えてもですね、向こうの咲夜さんからは、“妖精メイドの中で最も頼りになる”って言われていたんですよ」

「そりゃぁ……ねえ」

妖精メイドと比べられても、困るわよ。

大方、向こうの私も妖精メイドに苦労してたんでしょうね……。

ふっ、と軽いため息を吐く。

 

まあ……、いないよりはいた方がマシなのかもしれない、そのくらいの実力と考えておきましょう。

「とにかく、一度お嬢様に会ってもらうわ」

 

 

「それで、そこの妖精が新しいメイド?」

じっと、レミリアはユメのことを見る。

レミリアの前ということで、ユメが少し硬くなっているように見える。

副メイド長とはいえ、館の主の前に出るのは緊張するようだ。

「は、はい。向こうの紅魔館で副メイド長をやらせていただいている、ユメです」

「副メイド長……ねぇ」

レミリアはスッと自分の前で手を組み、不敵な笑みを浮かべる。

見定めるような、鋭い視線をユメに投げかける。

 

紅魔館のメイドだったということは、向こうの私に仕えていたという事よね。

自分自身と比較される可能性があるから、少しばかり気合を入れて紅魔館の主らしさを出しておかないと……。

そう、こういうのは始めが大事なのよ。

フッフッフ、この溢れ出るカリスマ、貴女には少し辛いかしらね。

そんなことを考えているレミリア。

しかし、その目論見通りはいかないようで、他の三人が思っていたことはというと……。

 

レミリアさん、なんだか、頑張ってるなぁ~。

カリスマ~、カリスマ~、って感じを出そうとしているんだと思います。

う~ん、ユメちゃんの前で、緊張しているんでしょうか?

……と、一十百。

 

カリスマ感を出そうと、精一杯頑張っていらっしゃる。

ああ、お嬢様の悪い癖が出てしまっているわね。

無理にカリスマ感を出そうとすると、今はよくても後でボロが出てしまうというのに……。

でも、そんな背伸びをするお嬢様が、とてもかわいく見えますよ。

……と、咲夜。

 

こちらのレミリア様、なんてカリスマ感あふれているのだろう。

向こうのレミリア様以上……かもしれない。

……でも、あのお祭りの時のことを知っているから、なんともいえないんですけど。

……と、ユメ。

 

「向こうの私がどうだったかは知らないけれど、こちらの紅魔館に来た以上、こちらのやり方に従ってもらうわ。それでいいかしら?」

「はい。すべてはレミリア様の御心のままに」

スッと、ユメが一礼する。

普通の妖精メイドだったら、分かりました~、とか言ってふわふわしていたり、レミリアのカリスマの前に震えたりする程度なのだが……。

しっかりと、一礼をする妖精メイドはそういない。

紅魔館の副メイド長の肩書きに恥じぬ礼だった。

 

 

「え、え~と、あ、コホン。メイドの事は咲夜に任せるわ」

「かしこまりました、お嬢様」

思ったよりもユメの反応が真面だったため、出鼻をくじかれつつあるレミリア。

このままだと、ちょっとまずいわね。

何か、別の話をしておかないと……、そうね。

 

「そう言えば、向こうの紅魔館でも、呼んでもいない客人とか来ていたのかしら?」

「呼んでもいない客人……、霧雨魔理沙さんのことですか?」

レミリアが頷く。

「妖精メイド、それも副メイド長というくらいなのだから、あの白黒と弾幕勝負になる事も少なくなかったでしょう?」

「そうですね……」

ユメはすこしバツの悪そうな表情を浮かべる。

やはり、何度か、いえ何十度かピチュらされているみたいね。

 

「それで、副メイド長というくらいなのだから、撃退くらいしているのでしょう?」

「お嬢様……、それは……」

霧雨魔理沙を撃退する……。

それは、単一妖精ではほぼ不可能と言えることだった。

単純に考えて、妖精の中では最強の部類に入るチルノがあっさりと負けてしまうのだ。

その他の妖精が、どうこうできる相手ではない。

たとえそれが大妖精でも、ほとんど勝てることはないのだ。

 

「えっと、三回……」

「えっ?」

「三回ほど、勝ってます。撃退なら、十回くらい……」

「ええっ!?」

ガタッと、レミリアが椅子から立ち上がる。

そのときに服の裾を踏んでよろける。

 

「だ、大丈夫ですか、レミリア様?」

「大丈夫……。それよりも、あの白黒を三回もピチュらせたの?」

「はい。一応、スペルカードも持ってますし、弾幕勝負もできるんですよ」

ユメはエッヘンと腰に手を当て、胸を張る。

「スペルカードまで……。これは、思った以上の戦力になりそうね」

「ただの妖精メイドじゃなかったのね」

レミリアと咲夜も少し驚いたと言った様子だ。

二人は何か話があるそうなので、一十百とユメは先に退出することになった。

 

 

部屋に向かう途中、そっと一十百がユメに話しかける。

「ねえ、ユメちゃん。どのくらいの頻度で、魔理沙さんは来ていたの?」

「えっ……。その、ほぼ毎日……」

「あ、やっぱり……」

 

どうやら向こうの霧雨魔理沙は、かなり紅魔館に突撃しているようで、そのたびに迎撃に向かっていたようだ。

下手な鉄砲何とやら、と言った状態のようで、撃退した回数の数十倍から百数十倍ピチュられている様だった。

「でも、ちゃんと弾幕勝負で勝ってるんだよね。三回も」

「もちろんです。本当に希に勝てることがあるんですよ」

霧雨魔理沙に勝ったことが嬉しいのか、ユメは大きく胸を張るのだった。

 

「そう言えば、スペルカードって、どんなものを持って……」

一十百がそこまで話した時、ドンと門の方から爆発音のような音が響いてきた。

「えっ、何事でしょうか?」

近くにあった窓を開け、一十百が身を乗り出して門の方を眺めた。

 

正面門の方から煙が上がっている。

その中から、星の弾幕が飛び出していった。

「あれは、魔理沙さんの弾幕。じゃあ、さっきのも……」

「ちょうどいいです。私の初仕事として、あの霧雨魔理沙を止めて見せます」

ふわりと浮いたユメは、廊下を一直線に飛んで行った。

 

「あっ、ユメちゃん! 待っ……」

「その必要はないわ」

その声に一十百が振り返ると、レミリアと咲夜が立っていた。

「でも、ユメちゃん一人じゃ……」

「ええ、勝てないでしょうね。でも、いやだからこそ、ここは一人で向かってもらうわ。勝てずとも、私を納得させるような結果を残してほしいものね」

フッフッフと、レミリアは不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

「悪いけど、今日は速攻で図書館まで行かせてもらうぜ」

門番を突破し、数々の妖精メイドをピチュらせ、一気に図書館まで向かう魔理沙。

しかし、そこに一人の妖精メイドが立ちはだかった。

「霧さま魔……、コホン。霧雨魔理沙、ここを通すわけにはいきません」

「うん? 新しい妖精メイドか? 他のと比べて少しはできそうだな。よし、久々に弾幕勝負といくぜ」

霧雨魔理沙がグッとミニ八卦炉を構える。

ユメは一度大きく羽ばたくと、スッと前に手をかざした。

 

「……少しいいか?」

「なんです?」

「……噛んだ?」

「はぅっ! そこはスルーしてください!」




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

ユメ:別の幻想郷にある紅魔館の副メイド長です。種族は大妖精で、午後のお茶会がユメちゃんの担当らしいです。今回は妖精メイドの指導のため、こちらに長期滞在してもらうことになりました。頑張り屋さんで、紅魔館の方々とはとても仲が良いようです。by一十百  こっちの幻想郷でも頑張ります!byユメ
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