東方お仕事記   作:TomomonD

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八十一仕事目 ふんわりお菓子の副メイド長

紅魔館の廊下に、次々と弾幕が展開される。

星のような弾幕と、クナイのような弾幕が飛び交う。

星の弾幕は霧雨魔理沙の物だとすると、もう一つのクナイの弾幕はユメの物となる。

 

「おっ、その弾幕、確かチルノと一緒にいる緑の妖精がよく使ってくる奴だな」

「これはおねーちゃ……、大妖精に教わったものなんです。そう簡単に避けさせません」

いくら紅魔館が広いとはいえ、外に比べれば狭いのは当たり前であり、弾幕の密度も自ずと濃くなっていく。

これだけの密度、普通の妖精メイドならすでに被弾しているだろう。

しかし、さすがは紅魔館の副メイド長をやっていただけのことはある。

次々飛んでくる星の弾幕を、右へ左へとかわしていく。

「なかなか避けるな。チルノといい勝負くらいか?」

そう言って、魔理沙がスペルカードを構える。

 

のんびりしてると、咲夜が来そうだからな。

妖精相手にスペカを使うのは少し気が引けるが、まあしかたない。

ここは一気に勝負をつけるぜ。

 

「魔符『ミル……」

「今です! 甘符『煌めく風鈴』」

霧雨魔理沙のスペルカードが輝く一瞬前、ユメのスペルカードが発動する。

空中を強く蹴り、一気に霧雨魔理沙まで近づく。

「えっ!」

「たあっ!」

小柄なその体から、ユメなりの全力の一撃とも思える拳打が放たれる。

同時に拳打の先から虹色の弾幕が三方向に波打ちながら放たれた。

ギリギリのところで霧雨魔理沙はその一撃をかわす。

 

「あぶなっ。まあ、出鼻をくじかれたが、これで……あれ……」

「よしっ!」

霧雨魔理沙の表情が一瞬固まる。

手に持っていたはずのスペルカードの感覚がないのだ。

チラリと横目で自分の構えていた手を見る。

そこには、あるはずのスペルカードがなかった。

ハッと斜め下を見ると、ひらひらと自分の手に持っていたはずのスペルカードが、舞いながら落ちて行くところだった。

 

 

「あら、なかなか面白い作戦ね」

紅魔館の主、レミリア・スカーレットはユメの作戦を見て、少し感心する。

 

初撃を当てるつもりはもともと無かったようね。

あのスペルカードで狙った場所は、霧雨魔理沙の右腕……より少し上くらい。

ユメの本当の狙いは、スペルカードを一時的に封印することかしら。

まあ、運よく上手くいった、と言ったところかしらね。

 

紅魔館にいる妖精メイドと比べ、霧雨魔理沙を少しでも留まらせているのはなかなかの素質だ。

とはいえ、やはり妖精という種族、そこまで強くはない。

霧雨魔理沙がスペルカードを使えば、十中八九被弾してしまうだろう。

いかに霧雨魔理沙のスペルカードを阻止し続けるのかが、今回の弾幕勝負の中核になりそうだ。

 

レミリアの横で一十百と十六夜咲夜も二人の弾幕勝負を見る。

少しユメが優勢だが、まだまだどちらに転ぶかは分からない状況だ。

なかなか白熱した弾幕勝負になりつつあるため、二人も真剣に弾幕勝負観戦をしている。

 

「……その状況を見るためだけに、ここに来る必要はないんじゃない?」

呆れたように、この部屋の主、パチュリー・ノーレッジがため息を吐いた。

ここは紅魔館の地下にある大図書館。

魔理沙とユメの弾幕勝負を直接見るわけにもいかないので、パチュリーに頼むことにしたようだ。

始めはパチュリーも面倒だといっていたのだが……、一十百が何やら上手く説得したようで、先ほどから机の中央に置かれて水晶玉が輝いている。

 

どうやら、紅魔館の廊下、霧雨魔理沙とユメのいる場所が映されているようだ。

作戦が上手くいったためか、どやぁという音が聞こえてきそうな、そんな表情のユメが水晶玉に映し出されている。

 

「それにしても……、体術を基とするスペルカードなんて、妖精にしては珍しいわね。門番みたいに体術に優れているわけでもないようだし」

「スペルカードを落とさせるだけなら、あんなスペルカードでなくとも……」

 

レミリアと咲夜が疑問に思う中、一十百はちょっと別のところが気になっていた。

ユメちゃんの、さっきの拳打……、形とか重心とかはバラバラだけど、美鈴さんの拳撃に似ていました。

それに、あの虹色の弾幕も、美鈴さんのスペルカードの弾幕に似ているような。

もしかすると、ユメちゃんのスペルカードって……。

 

「あら、進展があったみたい」

「えっ?」

物思いにふけっていた一十百はレミリアの声を聞き水晶玉を覗き込んだ。

 

 

紅魔館の廊下では、不思議な攻防戦が繰り広げられていた。

落としたスペルカードを拾おうと、霧雨魔理沙が低空飛行する。

それを飛び蹴り……と言うより斜めに落ちているようなユメの蹴りが阻止する。

一応、スペルカードを発動している状態なので、当たればそれなりに危険だろう。

魔理沙もさすがに反撃とばかりに弾幕を展開するが、このスペルカードの特性なのか、拳撃、蹴撃を繰り出しているユメに弾幕が当たると、カンという固い音と共に弾かれてしまっているのだ。

 

「くっそ~、無駄に性能の高いスペルカードだな」

「いつまで……はぁはぁ、いつまでも、逃げ切れると思ったら……、お、大間違いですよ。こうみえて、この、スペルカードの、使用時間は……せぃせぃ、長いんですから」

弾幕の質こそ薄いものの、発動が速く、通常弾幕がほぼ無効化され、さらに発動時間も長い。

確かに高性能なスペルカードなのだろう。

ユメ本人の身体能力が高かったら、かなり厄介だったはずだ。

妖精という種族のため小柄な体格であり、リーチが短い。

そのためどうしても大きく動かなくてはいけなくなってしまう。

すでに息も上がり、スペルカードの性能も体力の低下に伴い落ちてきている。

 

「こ、このままだと、まずいですね」

ユメは少し悩んだようだが、すぐに決心をし行動に移ったようだ。

手に持っていたスペルカードから光が消えていく。

 

「おっ、諦めたのか? ならこの隙に!」

廊下すれすれを滑るように魔理沙が飛ぶ。

上から蹴りが来ないとわかれば、まずは一安心だ。

クナイ弾くらいならば、直撃しなければ、ほぼ無傷で突破できる。

仮に被弾したとしても、それほどの痛手にはならないのだ。

 

「このまま一気に……」

「内符『素敵な剣帝』」

ユメの声が廊下に響く。

スペルカードを拾うため滑空していた霧雨魔理沙は、すぐに上を見上げる。

そこには赤と白の縞模様の杖が幾つも空中に浮いていた。

霧雨魔理沙の周りにも同じ赤と白の杖が展開される。

その中心のユメが手を振り上げる。

 

「これで、どうですか!」

振り上げた手が振り下ろされる。

空中で静止していた赤と白の杖が一斉に降り注ぐ。

真っ直ぐに魔理沙に向かうものもあれば、回転しつつ落ちて行くものもあり、随分とバラバラの弾幕だ。

しかし、弾幕の量がなかなか多く、そして一つ一つの弾幕の大きさも大きめだ。

「くっ、また、無駄に高性能なスペカを……」

「妖精メイドの上に立つ者として、このくらいの事……、かなり練習すればできるんですよ!」

「……あ~、元からできたわけじゃないのか」

「はっ! え、え~い、当たれ~!」

 

 

「また変わったスペカね。あれって、何?」

「スティックキャンディーですよ。あ、よく見るとナッツコーティングしてありますね。クリスマスが無い幻想郷では、あまり見かけないお菓子ですね」

……美味しそうね。

水晶玉を見ながら、レミリアがゴクリと喉を鳴らす。

 

一十百はクスリと微笑み、一言。

「飴細工くらいなら、僕でもできますから、時間があったら後でお作りしますよ?」

「い、いつ私が食べたいって言ったのよ!」

「美味しそうね、って……」

「えっ、声に出てた!?」

「いえいえ、そんな表情をしてましたから」

「う~……」

レミリアはじ~っと、一十百のことを睨む。

それを一十百はにこやかに受け流す。

 

「それにしても、今度は咲夜さんのスペルカードに似たような弾幕の配置ですね」

「そうね。でも、配置だけで、時間が止まったわけではないみたいね」

水晶玉を見ながら、咲夜がそう呟く。

「さすがにあの妖精に、そんな能力はないと思うわ。あったらあったで、なかなか面白いことになりそうだったけど」

「お嬢様……、面白いとかそう言うことでは……」

「さて、どうなるかしらね」

 

 

降り注ぐ雨……いや飴の中、魔理沙は一つ試してみたくなったことがあった。

これ、本物か?

いや、確かに弾幕だけど、ちょっと、食べられそうだな。

なかなか美味しそうだし……。

よし!

 

魔理沙は帽子を取ると、そのまま帽子を逆さまにする。

「これでどうだ!」

「えっ、ちょっ……」

降り注ぐ飴が次々と帽子の中に入っていく。

帽子を突き破るわけでもなく、いつしか山盛りになるほど帽子の中にたまっていた。

 

「おお、これは大漁だぜ! 当分おやつには困らないな」

「わ~、私の弾幕盗らないで~」

「いいじゃないか、減るもんじゃないし。しっかし、地面に落ちた弾幕は消えていくのに、こうやって取ると消えないんだな」

そう言って一つを取り出し一つ口に運ぶ。

イチゴっぽい風味の中にナッツの香ばしさが口の中に広がる。

「美味しいじゃないか! てっきり、弾幕だから味がしないとか、口に入れた瞬間消えるとか、そういうものかと思ってた」

「そういうもののはずですよ! なんで食べてるんですか! なんで食べれてるんですかぁ~。うらやまし……いえ、これじゃ勝負にならないじゃないですか!」

 

弾幕勝負中に余裕を見せられたのが悔しいのか、自分が食べられないのに美味しそうに弾幕を食べてるのが悔しいのかは分からないが、半分涙目になりながらユメは魔理沙に向かっていく。

「さてと、私はおやつが手に入ったし、今日は帰るかな。このままじゃ、本も借りられないし」

「えっ?」

ヒョイと、魔理沙が高度を上げる。

ななめ上空から突撃するはずだったユメは思いっきり空振りし、そのまま真っ直ぐ廊下へと向かって突撃してしまった。

「ゆみゅぅ……」

「お、なんだかわからないが、上手く避けられた。それじゃ!」

ユメが廊下激突し気を失っている中、霧雨魔理沙はクルリとターンすると、そのまま廊下をまっすぐ戻っていった。

しっかりと落としたスペルカードは回収していったようだった。

 

 

少し時間が流れ、ユメはハッと我に返る。

「ちょ、ちょっと、待ちなさい! まだ、私のスペルカードは残ってますよ! 秘策の耐久スペルもあるんですから、せめてそこまで……」

しかし、右を向けども、左を向けども、霧雨魔理沙の姿はなかった。

しまったと、急いで立ち上がり追いかけようとする。

そのとき、後ろから、威厳のある声が静かに響いた。

 

「別に追わなくていいわ」

「ですが……って、レミリア様!?」

いつの間にか後ろにいたレミリアに驚くユメ。

隣には咲夜がしっかり佇んでいる。

 

「霧雨魔理沙を追い返すなんて、見どころあるわね。さすが紅魔館の副メイド長という肩書きを持っているだけのことはあるわね」

「え、でも、今のは……」

「方法がどうあれ、紅魔館への侵入者を追い出したことには変わりないわ。あなたの実力を、認めざる得ないわね」

「レミリア様……」

「これからもしっかりと、この館に仕えなさい。いいわね」

「はい!」

 

こうして、大妖精ユメは正式に紅魔館に仕えることになった。

 

 

その後……。

「えと、ユメちゃん。何をやってるの?」

「いえ、その……、何というか……」

そこには。赤と白の縞模様の杖状の飴に、服を縫いつけられて動けなくなっている、ユメちゃんがいました。

「……自分に向けて放って、食べようとしたんだね」

「気にしないでください! そして、できることなら助けて~」




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

ユメの弾幕スタイル:ユメちゃんは、クナイ状の通常の弾幕を放つことができます。けれど、どちらかというと、スペルカードを主体とした弾幕戦の方が得意みたいです。ユメちゃんのスペルカードは他の人と違い高性能みたいでした。by一十百  これが、大妖精としての、紅魔館の副メイド長としての実力です!byユメ  あれで、もう少し身体能力が高ければね……。by咲夜

甘符『煌めく風鈴』:私のスペルカード、その1です! これは美鈴さんをイメージして作ったスペルカードです。この状態の私は通常弾幕を弾き飛ばし、虹色の弾幕を三方向に放ちます。あ、そうそう、読み方は、カンフー『キャラメルプリン』ですよ。byユメ  どう読んだらそうなるの!?byレミリア  上手く読むとそれっぽい響きになりますね。by一十百

内符『素敵な剣帝』:私のスペルカード、その2です! 咲夜さんのスペルカードっぽく作ってみました。私の周りと相手の周りに、赤と白の杖が現れて、次々と相手に向かって放たれていくスペルカードです。食べられるらしいです……。読み方は、ナイフ『スティックナッツキャンディ』ですよ。byユメ  だから、読めないわよ!byレミリア  読みにくいスペルカードには、ちゃんと振り仮名を振らないといけませんよ。by鈴仙  いや、そういう問題じゃないと思うわ。by咲夜
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