ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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106 驚きの名産品

 

 ほんのちょっとだけ重い空気になった場に、私は少し言葉が過ぎたかな? と反省する。

 それはそうよね、だってよく考えたら皇帝陛下に対してバハルス帝国は私の地元にとっては何の魅力も無い国なんですよって言ってしまったようなものなのだから。

 

 「あの、皇帝陛下。わた・・・」

 

 難しい顔をしている皇帝エル=ニクス陛下の圧力に耐えかねた私は、とりあえず何とか機嫌を直してもらおうと、いい訳を口にしようとした。

 ところが、それを遮るように陛下が口を開く。

 

 「アダマンタイトやオリハルコンどころか、ミスリル銀でさえか・・・この言葉からするとアルフィン殿の国では、この3種は我が国よりも多く産出すると言う事なのだな?」

 

 「えっ? ええ、まぁ。」

 

 まるんが気軽に商業ギルドにミスリルやオリハルコンを持ち込んでいるから、これを否定しても意味ないわよね? そう考えた私は迂闊にも皇帝陛下のこの言葉を深く考えずに肯定してしまった。

 そしてそう言う時は必ず、話がおかしな方向へと転がるものなのよね。

 

 「それは毎年どれくらい採掘されるのだ?」

 

 「採掘量ですか? 何トンくらいだったかしら?」

 

 突然の展開に頭があまりまわっていなかった私は、迂闊にもこんな言葉を口走ってしまう。

 するとその言葉を聞いて、皇帝陛下とロクシーさんの顔が途端に凍りついてしまった。

 そしてその姿を見て、私の頭はより混乱する。

 

 えっ? えっ? 私、もしかしてまたやっちゃった?

 

 どう考えても異常事態としか思えない二人の表情を見て、心の中で大慌てで先程自分が何を口走ったのかを考えるも、それはすでに後の祭り。

 一度口に出してしまったものはもう元へは戻らないのだから下手に考えず、正直に何が悪かったのかを聞き、その返答からどうごまかすか判断すべきだろう。

 

 「・・・陛下、どうかなさいました? 私の言葉に何かおかしな所でも?」

 

 「トン・・・だと? アルフィン殿、都市国家イングウェンザーではオリハルコンやミスリルがトン単位で採掘されていると言うのか?」

 

 「アルフィン様はアダマンタイトの名も連ねておりました。まさかアダマンタイトまで!?」

 

 トン? 単位? ああ、やらかしたなんてレベルじゃないよこれ、失言も失言、大失言だ。

 とっ兎に角、何とかごまかさないと。

 

 私は何とか表情には出さなかったものの、頭の中では普段使っていない部分までフル回転させて言い訳を考える。

 そして思いついたのが、

 

 「すみません、何を言われているのか解らず一瞬呆けてしまいました。単位の事で勘違いされたのですね。ふふふ、殆ど存在しないアダマンタイトは当然として、いくらなんでもミスリルやオリハルコンが何トンも産出する事はございませんよ。ただ単に私の国では採掘されたものは全てトンで現されると言うだけの話です」

 

 と言う苦しいものだった。

 でも、いくら苦しくてもこの言い訳は通さなければいけない。

 だって、これが通らなければ本当にトン単位で産出されていると言うことになるのだから。

 

 「あくまで私の記憶にある数字ですが、ミスリルは0.4トン、オリハルコンは0.08トンあるか無いかくらいだったように思います。ただ、オリハルコンは非常に軽いため、体積だけで見ればミスリルの半分より少し少ない程度ではないかと。後、アダマンタイトですが、かなり比重の重い金属ですが、トンで現すには小さすぎる数字だった為、申し訳ありませんが記憶して居りませんわ」

 

 「ミスリルが0.4トンですか・・・」

 

 相変わらず表情は硬いものの、先程のように凍り付いているような様子はない。

 と言う事はとりあえず言い訳が通った事よね? ああ、良かった。

 

 私はなんとか無事このピンチを脱したものと思い、一人心の中でほっと胸を撫で下ろした。

 

 

 ■

 

 

 多いであろうとは思っていたが、まさかミスリルが0.4トンとは。

 オリハルコンにいたっては0.08トンも採掘されるだと? それは何の冗談だ?

 

 私はそのあまり物量に言葉を失う。

 物を知らぬ者が聞けば一見少なく聞こえるかもしれないが、実はこれでもかなりの量なのだから。

 

 我が国ではミスリルはいくら鉄よりも軽いとは言え、トンどころか数十キロしか出土しないと聞いている。

 オリハルコンにいたってはミスリルよりさらに軽いとは言え、グラム単位のわずかな量しか採れなかったはずだ。

 それがこの数字、これを脅威と呼ばず何と評するのだ?

 

 私の記憶では鉄のロングソードが大体1.5キロ、その重さで換算してもミスリルだけで剣を作って1年に250本以上作れる計算になってしまうのに、実際はそれよりも軽いのだからもっと多くの剣を作る事ができるだろう。

 そしてオリハルコンは産出体積がミスリルの半分と言う話だから150本弱か、それは何だ? 神の国の話か?

 

 そして防具で考えるともっととんでもない事になる。

 フルプレートアーマーでも総ミスリル製で12着、その上オリハルコン製も5着作れるうえに、それぞれ同じ素材のタワーシールドまでつけられる豪華さだ。

 いや全身ミスリル製のフルプレートなど実際ではありえないのだから、普通将軍職がつける胸だけが希少金属のプレートで考えるべきだな。

 それならばミスリルだけで1年に40着、将軍だけどころかバハルス帝国の近衛全員に身に着けさせたとしてもミスリル鎧が2年弱で、オリハルコンでも3~4年でできる計算だ。

 

 そしてこれはあくまで年間採掘量なので、彼の国の騎士が装備する剣等の武器と楯、そして鎧は全てミスリルやオリハルコンを一部だけでも使って強化されていると考えた方がいいだろう。

 いやもしかするとそれ以上の、たとえば近衛騎士は総アダマンタイト製の装備で身を固めて・・・いや、アダマンタイトは非常に重い金属だから流石にそれはないであろう。

 だが冑の一部や胸などの重要な部分だけアダマンタイトで作り、あとは比重の軽いオリハルコンで作られている鎧ならあるのではないか? それならばアダマンタイトを使用しても普通の鎧と同程度の重さの鎧を作る事が可能であろうからな。

 

 鉄の武器ではミスリルやオリハルコンを貫く事はできない。

 そして鉄の鎧や楯でではミスリルはともかく、オリハルコンで作られた物やアダマンタイトで切っ先を強化された剣や槍を防ぐ事はできないであろう。

 

 我が軍と都市国家イングウェンザーの軍、確かに物量では我が軍が勝るだろうが・・・まともにやり合って勝てるのか? いや、もしかするとアルフィン殿が住む城の兵士だけを相手にしても、我が軍が敗走させられるなどと言う事さえありえるのではないか?

 

 目の前にいる少女は戦場に立った事がないからか、その事に思い当たっていないように見える。

 今はそれが唯一の救いか。

 

 冷静に現状を分析し、目の前にいる戦いを知らぬ箱入り娘が、我が国と争う事を頭の選択肢に入れるような事がけして無い様にしなくては、そう静かに決意するジルクニフだった。

 

 

 ■

 

 

 「結構な量が採れるのですわね。そう言えばわたくし、シャイナ様が普段は見事な鎧を身に付けているとお聞きしましたけれど、やはりオリハルコンだけで作られたものをご使用になられているのですか?」

 

 「私のですか? いえ、普通の鎧ならオリハルコンだと軽くていいのですが、加工が難しく魔法を付与すると能力が劣るものができてしまう事があるので違う金属も使用しています」

 

 ロクシーさんが、私の返事を聞いてこんな事を聞いてきたのでシャイナは嘘が混じらないようにごまかした返事をした。

 

 シャイナのはうちでも最高の素材を利用して作られた鎧だから、実はもっととんでも金属を使っているのよね、流石に言えないけどね。

 

 「では一部だけをオリハルコンで?」

 

 「はい、そうですね。それとオリハルコンだけで作られた鎧を使っている者は、我が国ではいなかったはずですよ」

 

 ロクシーさんの重ねての質問には私がこう答えておいた。

 これも嘘じゃないよ、もっと強力な素材を使っているだけだからね。

 いや、ちょっとだけ嘘があるか。

 シャイナの鎧、オリハルコンなんて1ミリグラムも使ってないもの。

 

 「そうですか。アルフィン様の国でも、オリハルコンは貴重なのですね」

 

 「希少金属ですからね」

 

 そう言って私は微笑む。

 そして同時に考える、何とかこの話題から話をそらさねばと。

 

 と、ここで予想外の所から助け舟が出されることとなる。

 それは本来この話題が一番気になるはずの人である、皇帝エル=ニクス陛下からだった。

 

 「採れる物といえば、アルフィン殿が持参した菓子だが、あれは美味かった。やはりあれも材料が違うのか? 先程物資なら国から転移させることが出来るという話だったが」

 

 急な話題の転換に少々訝しくも思ったけど、私としても話題が他に移動するのはありがたかったので早速それに乗らせてもらうことにする。

 えっと、お菓子の材料の話だったわね。

 

 「はい。小麦はエントの村でも良質の物が取れるので使用しておりますけれど、あとの卵、牛乳、蜂蜜、ジャムに使用したフルーツ、それと砂糖は我が国の最高級の物を使用しています」

 

 「砂糖もですか?」

 

 こう聞いてきたのはロクシーさん。

 えっ? 喰いつく所はそこ? って一瞬思ったけど、この国の事情を思い出して改めて納得する。

 そう言えばこの国では、塩や砂糖は魔法で作るんだっけ。

 

 「はい、我が国から取り寄せた砂糖を使用しています」

 

 そう言った後私は微笑み、一拍置いてからもう一度口を開いた。

 

 「私、砂糖と、そう、特に塩に関してはこの国にきて驚きましたわ。だって魔法で作り出しているのですから」

 

 そんな私の発言に今度はロクシーさんが驚く事となる。

 それはそうよね、だってこの国にとって、それが当たり前なんだから。

 

 「まぁ、それではアルフィン様の国では違う方法で塩を調達しているのですか?」

 

 「はい、そうです。我が国周辺には塩湖と呼ばれる、かなりの濃度の塩水でできた大小さまざまな湖が幾つかあり、そのそれぞれの周りのを岩塩と呼ばれる塩の塊でできた層が覆っているので粉状の塩は湖の水から精製した物を、そして岩塩層からは岩塩を採掘して、それを使用しています」

 

 この話を聞いて、ロクシーさんだけではなく皇帝陛下まで驚きの表情を浮かべている。

 それはそうだよねぇ、この世界では魔法で生み出すしかないと思われているものが自然に採れる場所があるなんて聞かされたら誰でも驚くと思うわ。

 

 「城の料理長が申すには、塩も岩塩も取れる場所ごとに風味や色が違うので我が国では料理ごとに違う物を使用しているそうですのよ。ああそう言えば、先程のパーティーに出されたお菓子の一部にも岩塩が使われているという話でしたわ」

 

 「まぁ、味や風味も違うのですの? あっ、もしかして砂糖も?」

 

 塩の話を聞いて、ロクシーさんが「わたくし、気が付きましたわ!」とでも言いたげな、嬉しそうな表情でこう聞いてきた。

 うん、その通り! 砂糖も当然魔法でなんか作ってません。

 

 「はい。私がこの国に来て砂糖について一番驚いたのは種類が無いことでした。それもあるのは何の混じり気も無い、ただ甘いだけの砂糖1種類だけ。これでは色々な味のお菓子を楽しむ事ができないのではないかしら? 私はそう思ったのです」

 

 「それではやはりアルフィン様の国では、塩同様色々な砂糖を使い分けているのですね?」

 

 本来は塩と岩塩の二種類しかないものがフレーバーテキストの効果で偶然増えてしまった塩と違って、砂糖やシロップは元々かなりの種類があったのよね。

 これもアイテムの種類がやたらと多かったユグドラシルだからこそだろう。

 そして料理にこだわっていた我がギルドには、その殆どがそろっている。

 

 「その通りです。我が国で砂糖と言えば、サトウキビや甜菜などの作物から作られる標準的なものや、メープルなどの樹液シロップから作られるもの、それに蜂蜜から作られるものが有名ですね」

 

 私が指折り数えながら答えて行くと、ロクシーさんが大きく目を見開いた。

 ただの甘味である砂糖にそれ程の種類があることに、よほど驚いたんだろうね。

 

 「そんなに種類があるのですか?」

 

 「ええ、それぞれ風味が違って、同じお菓子でも使う砂糖によってかなり味が変わるのですよ」

 

 実際、サトウキビから採れる砂糖でも黒砂糖と精製した砂糖ではまるで味が違うし、メープル砂糖や蜂蜜砂糖で作れば甘いと言う共通点があるだけでまるで違うものになるのは当然だ。

 そして味が変わるからこそ世界中で研究され続け、それによって新たな砂糖が生まれたからこそ現代に色々なお菓子が溢れているんだろうね。

 

 「それに先に挙げた砂糖を精製してさらに違った風味の、たとえば上品な甘さの砂糖を作ったり、糖度を高めてさらに甘い砂糖を創り出し、それを使う事もあります」

 

 「そんな事までしているのですね。それではアルフィン様の国のお菓子や果実水が美味しいのも頷けますわ」

 

 ここまでの説明で先程のパーティーで食べたお菓子を思い出したのか、ロクシーさんは笑顔を浮かべている。

 よほど気に入ってくれたみたいね。

 これなら後で切り出すあの件にも興味を持ってもらえそうだわ。

 

 「あと変わった物のでは動物や昆虫、モンスターの体液から取れる甘い蜜から作られる物があります」

 

 「何? モンスターのからも蜜が取れるのか?」

 

 少しだけ気が緩んだので、余談的な話としてこう言う物もあるよと話しただけなんだけど、何とこの話に皇帝陛下が乗ってきた。

 なんだろう? 何か心当たりでもあるのだろうか? いや、あるならこんな風に驚かないか。

 

 「はい。有名な所では鎧蜜壷蟻から取れる蜜ががよく使われていますね。樹液や花の蜜を溜め込む習性がある魔物で、お尻の所に付いた体の倍以上ある黄色い蜜袋が琥珀色になるまで熟成された個体の蜜が珍重されます。見た目はちょっとグロテスクですけど、美味しいんですよ」

 

 「蜜を溜め込むモンスターか。なるほど、虫型のモンスターなら不思議ではないか。では蜂のモンスターも特殊な蜜を集めるものがいるのではないか?」

 

 「はい、ご想像の通り、魔力を含んだ蜜を溜め込む蜂のモンスターは居ります。ただ残念ながら魔力を含んでいるので、そのまま甘味としては使えません」

 

 これはドラゴンの血等と同様錬金素材で、薬師が使うアイテムになっているのよね。

 まぁ、モンスターから取れる肉以外のものは殆どが何かの素材で、鎧蜜壷蟻の蟻蜜のように食材アイテムになるのは殆どないんだ。

 だからこそ、この話は余談なの。

 

 「これはあくまで食べられる蜜を持つモンスターもいますよ程度の話で殆どの物はそのまま口にできないものばかりですから、この話からそんなモンスターが他にもいるのではないかと探すような事はやめておいた方がいいですよ。そんなものを使わなくても、美味しい砂糖はかなりの種類、存在するのですから」

 

 「それはそうですわね。蜂蜜やシロップならば我が国にもありますから、今流通している砂糖以外のものも作り出せるでしょうし」

 

 あっ! ロクシーさんが良い方向に話を振ってくれたわ。

 早速乗らせてもらおっと。

 

 「その事なのですが、実は先程お話しました砂糖の原料であるサトウキビと甜菜なのですが、カロッサ子爵の領地であるボウドアの村に置かせていただいている私の別荘の裏手で栽培実験をしておりますの。どうやらサトウキビは気候の関係か生育が芳しくないようなのですが、甜菜の方は特に問題なく育っているようなので、先日からボウドアの村とエントの村周辺を開墾して作り始めています。うまく育てばそれを使った色々な砂糖の製法を教える約束になっているので、カロッサ子爵の領地の新しい名産品になると思います。その時は帝都でも購入していただけるようになるのではないかと」

 

 「まぁ!」

 

 「ほう」

 

 どうやらこの話はお二人ともお気に召したみたいね。

 私としてもカロッサさんには色々とお世話になっているし、これで甜菜から作った砂糖が売れてくれたら少しは恩返しになるかな?

 それにボウドアの村も今より少しは裕福になるだろうしね。

 

 まだ実際に畑で取れた訳ではないからあくまで皮算用状態ではあるが、気候をクリアした時点でもう失敗はありえないからと、一人心の中で微笑むアルフィンだった。

 

 





 モンスターから蜜が取れることにジルクニフが過剰反応したのはパーティーでのお茶の事があったからです。
 もしかしたらナザリックで飲んだジュースもただの果実水ではなく、モンスターから採れたものを飲まされたのではないかと疑った訳です。
 頭の良い人は色々考えすぎるものですよね。

 そんな事を気にしていると書籍版同様、頭髪を気にする事になりかねないんですけどねぇ。
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