ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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110 加工賃を忘れずに

 

 イングウェンザー城の執務室。

 私はそこでギャリソンからの報告を受けていた。

 

 受けていたんだけど、

 

「えっ? 今なんて?」

 

「ではもう一度申し上げます。アインズ・ウール・ゴウンと名乗るマジックキャスターが辺境候と言うバハルス帝国の爵位を受け、貴族になったようです」

 

 ・・・残念、聞き間違いじゃ無かったか。

 アインズ・ウール・ゴウン。

 戦闘やギルド同士の諍いには無縁だった私ですら知っている、ユグドラシルでも最凶と言われたあのギルドが、まさかこの世界に転移して来ていただなんて。

 

 私が城に帰っている間、イーノックカウの館はメイドに任せるような話に当初はなっていたんだけど、もし急を要するような案件が持ち上がった時、それでは対応しきれないだろうからとギャリソンに仕切ってもらっていたのよ。

 そして、そのギャリソンが私に急ぎ伝えたい事があるというから何事かと思ったけど、まさかこんな内容だったなんて想像もしなかった。 

 

 そりゃあさぁ、私達がここにいるんだから他のギルドが転移してきていたとしても驚かないわよ。

 それに過去にはプレイヤーらしき人がいたらしいから、いつかは出会う事もあるんだろうなぁなんて考えた事もあったわ。

 でも選りに選って”あの”アインズ・ウール・ゴウンが同時期に、それもすぐ近くに転移してくる事は無いじゃないの。

 

「そう、アインズ・ウール・ゴウンが爵位を・・・ん? ちょっと待って。アインズ・ウール・ゴウンって”あの”アインズ・ウール・ゴウンよね? ギルドが爵位を受けたってどういう事? まさか私たちのように国を名乗った上でバハルス帝国に従属、そして爵位を得たなんて事もないだろうし」

 

 どこかの小国がバハルス帝国に従属してその一部となり、元の領地を治めるための爵位を受けたと言うのなら元国王が国名を残す為に名前を変えたというのも有り得ると思うけど、うちよりも遥かに強いであろう、あのギルドが大国とは言えこの世界の国の下につくとはとても思えない。

 

 では、もしかして虎の威を借る狐よろしく、元プレイヤーがアインズ・ウール・ゴウンの名前を騙っているとか?

 

 でもなぁ、もしプレイヤーならガチ勢でなかったとしてもこの世界では英雄になれるくらいの力を手に入れているだろうし、そんな人がわざわざ他人の名前を借りる? それも、もし本物がいたら物凄くやばいのを。

 

 そう考えると、このアインズ・ウール・ゴウンと言うのは彼のギルドの関係者と言う事なんだろうか? うん、やはりそう考えるのが妥当だろう。

 それなら爵位を受けたのはマジックキャスターだという話だから、あのギルドの魔法使いの中の誰かってことよね?

 

「ねぇギャリソン。一つ聞くんだけど、アインズ・ウール・ゴウンにはどんなマジックキャスターがいたっけ?」

 

「申し訳ございません。私はこのイングウェンザー城がまだ岩山にあった頃は城から出た事がありませんでしたから解りかねます」

 

 私の質問にギャリソンが申し訳なさそうに答えた。

 

 ああ、そう言えばそうよね。

 いつもの行動から何でも知っているような気になっていたけど、ギャリソンは元NPCだから他のギルドの構成員を知っているはずが無かったわ。

 

 でもそうなると困ったわね。

 まさか係わり合いになるなんて思いもしなかったから、私もさっぱりだわ。

 私があのギルドの構成員の中で顔と名前が一致する人といえば一人位なんだけど、あの人は死の支配者(オーバーロード)だからなぁ。

 マジックキャスターではあるけど、とても人前に出られるような外見じゃないから爵位を受けたとなるとまた別の人なんだろう。

 

 いくら私でも、アインズ・ウール・ゴウンが異形種のギルドだと言うことくらいは知っている。

 だからその爵位を貰った人は人間に化けているんだろうと想像しているんだけど、となると種族は限られてくるよね。

 

 ざっと思いつくところで、ライカンスロープ、ドッペルゲンガー、変身能力を備えた上位スライムくらいかな。

 後バンパイアやデュラハンもそうだけど、アンデッドは色々と制約があるからなぁ。

 人間に化けるとなると、色々と苦労することになるんじゃないかな?

 

「まぁなんにしても、構成員を知らない私がどんな種族なら可能かを考えてもあまり意味はないんだけど」

 

 う~ん、情報が少なすぎるわね。

 ここはやっぱり誰か人をやって調べさせた方が良いかしら。

 

 ・・・いや、やめておこう。

 下手に突いて蛇を出してしまったら本末転倒だもの、触らぬ神に祟りなし、直接此方から何かアクションを起すのはやめておいた方がいいと思う。

 ただ、最低限の情報だけは欲しいのよねぇ。

 

「私と繋がりがある帝国の情報源と言えば二人、そのうちカロッサさんは領地に帰っているから私たち以上の情報を持っているとは思えない。だから、ここはもう一人であるロクシーさんに話を聞くべきなんだろうなぁ」

 

 よし、思い立ったら即実行。

 

「ギャリソン、先日頼んでおいたロクシーさんにプレゼントするネックレスはもうできているかしら?」

 

「はい。すぐにでもご用意できます」

 

「それはよかった。なら今から使者を送って、ロクシーさんを夕食にお誘いして頂戴。あっ、もし今日都合が悪いようなら空いている日をお聞きしてね。私がそちらに合わせます」

 

「畏まりました」

 

 ギャリソンはそう言うと、準備の為に部屋から退出して行った。

 

 

 

 残念ながら当日はロクシーさんに予定があり、またその後3日ほど予定が詰まっているとのことだったので、実際に夕食会が開かれたのは4日後の今日になってしまった。

 

 あっ、その間も別に遊んでいたわけじゃなくて、私たちなりに色々と調べようとはしたのよ。

 でも、あまり大々的に調べると此方の存在を気取られそうで怖いから大っぴらに動く事もできず、殆ど何も知る事ができなくてやきもきする日々を送るだけに終わってしまったんだけど。

 

「流石にロクシーさんなら何か知ってるでしょ」

 

 自分たちの諜報能力の低さに頭を抱えながらも、とりあえずこれで何か情報は得られるだろうと気を取り直して夕食会の準備をする。

 今日はパーティーではなく、私とロクシーさんの個人的な会食と言う事になっているからシャイナたちの同席も無しだ。

 この方が此方がどうしても情報を集めたいのだと、ばれ難いだろうからね。

 

「アルフィン様、先触れが参りました。ロクシー様の馬車がまもなく到着するとの事です」

 

「ありがとう。それでは玄関でお出迎えしましょう」

 

 メイドの報告を聞き、私は座っていたソファーから腰を上げて玄関ホールへと歩を進める。

 そして到着すると同時に玄関の観音開きのドアが開かれたのでそのまま外に出ると、館外周の塀につけられた門を馬車が通り抜けてくるのが見えた。

 

「どうやら丁度良いタイミングだったみたいね」

 

 そう言いながら馬車が玄関に横付けされるのを待つ。

 そしてドアが開けられ、御者をしていた執事のエスコートで降りてきたロクシーさんを、私は笑顔で出迎えた。

 

「ようこそお越し下さいました、ロクシー様」

 

「これはこれは。玄関までのお出迎え、ありがとうございます。アルフィン様」

 

 ロクシーさんの出で立ちは、どちらかと言うと地味目。

 どうもこの方はあまり着飾るがお好きではないようで、この様な姿をよくお見かけするのよね。

 だからそれにあわせて、今日は私もちょっと地味目の白いドレスだ。

 因みにこのチョイスは、この方が内輪のお食事会って感じがしていいだろうと言うセルニアの判断だ。

 

 ホント、彼女がいなかったらと思うとぞっとするわ。

 だって私だったらきっと、馬鹿の一つ覚えのように着飾ったプリンセス然としたドレスを選んでいただろうからね。

 

 こうしてロクシーさんを出迎えた後、まずは応接室へとご案内。

 いきなり食事会場へ連れて行ったりはしないわよ。

 まずは歓談からね。

 

 ここで少しお互いの近況を話してから、今日お誘いした本来の理由である品をメイドに運ばせる。

 

「ロクシー様、先日お約束したルビーの首飾りです。デザインを気に入ってもらえると嬉しいのですけれど」

 

 そう言って私が取り出したのはネックレスではなく、まさに首飾り。

 ルビーが大きすぎるので鎖とペンダントトップだけのネックレスにするとどうにも不恰好だからと、オリハルコンの鎖で作ったレースとダイアモンドやサファイアなどの小さな宝石で作った逆三角形の下地の中央に大きなルビーがプラチナの土台に固定されてついていると言う胸元の開いたドレスに合うようにデザインされたそれは、ロクシー様の普段の出で立ちからすると少々派手に見えるものになっている。

 

 でもね、

 

「ロクシー様はいつも控えめなドレスを選ばれているようですから、このルビーで作ったネックレスを手にしても身に付けず眺めて楽しまれるのでは? と思い、それならばいっそ少し派手なものにしても良いのではないかと思いたちまして。お恥ずかしい話ですが、これこの通り少し調子に乗ってこれ程豪華になってしまいました。ですから一見すると重たそうですが、そこは素材を工夫しているので身につけてもそれ程重いとは感じないはずですわ」

 

「あの、アルフィン様? この七色に輝く鎖ですが、私の見立てが間違いでなければ・・・」

 

 うん、間違いじゃないよ。

 だって金とかミスリルだと、これだけの大きさの首飾りにするとルビーの大きさも相まって重すぎたから、軽いオリハルコンを使わざるを得なかったのよね。

 

「プラチナの鎖だとどうしても重くなりそうだったので、城にあるオリハルコンを鎖にしてみました。七色に光るのでちりばめた宝石が目立たなくなるから本当はミスリルにしたかったのですが、それだとプラチナとあまり変わらないと城の職人たちに言われてしまったもので仕方なく。やはりミスリルにした方がよかったでしょうか?」

 

「えっ? ああ、いいえ、とても美しいですわ。ただ、七色に輝く首飾りなど今まで見た事がなかったので少々驚いただけですのよ。でも、本当にこんな高価なものを頂いても宜しかったのですか?」

 

 これ程高価なもの? そう言われて私は少しだけぽかんとする。

 だって意味が解らなかったもの。

 だから私は、こてんっと小首をかしげて不思議そうな顔を晒す事になってしまった。

 

 元々今回使われたルビーがこの世界では物凄く高価なもので、それを使って作ったものを送ると予め伝えてあったのだからこんな高価なものと言われてもピンと来なかったのよ。

 

「ええ、そう言うお約束でしたから。確かにルビーは高価ですが、ロクシー様からも屋敷を一つ贈って頂いているのですからお相子でしょう?」

 

「えっ? ルビー?」

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 

 ん? 何かおかしいぞ? お互いの認識に何か齟齬があるような気がする。 

 もう一度確認のために、ロクシーさんに贈った首飾りに目を向けたけど・・・うん、一番高そうな宝石はやっぱり中央の大きなルビーだ。

 

 確かにルビーと同じくらい高価なダイヤモンドが散りばめられてはいるけど、それは全てかなり小さなもので、全部あわせてもルビーの10分の1の価値も無いだろう。

 ああ、でも宝石=高いものと言う認識ならこの小さな宝石を見て当初よりも値段が大幅に上がっていると考えてもおかしくないのかも。

 

「ああ、周りに散りばめられた宝石はそれ程価値のあるものではないですから、気になさらなくても大丈夫ですわ」

 

「えっと、アルフィン様。本気で仰られていますか?」

 

 えっ? それも違うの?

 じゃあ、何が問題なんだろう?

 

 ・・・う~ん、いくら考えても思いつかないや。

 別に世界的に有名なデザイナーが作ったとかじゃないから、デザイン料やブランドの付加価値が付いているわけじゃないし。

 

「申し訳ありません。何がおかしいのか私には解らないのですが、この首飾りにどこかに問題がありましたでしょうか?」

 

「はぁ。本当に思い付きもなされないとは。アルフィン様の国がどれ程オリハルコンを産出しているのか、わたくし、想像もできませんわ」

 

 ん? オリハルコン? それがどうかしたの?

 だって鎖だよ、それもチェインメイルとかに使うような太い鎖ではなく、飾りで使う程度の細い鎖なんだからそれ程の価値があるわけないじゃない。

 

 私はいつも工房で、あやめやあいしゃが手にしているインゴットを思い浮かべる。

 あれ一つでこの鎖が何百メートル取れるだろう? そう考えると宝石よりも高価だとはとても思えないんだけど。

 

 そりゃユグドラシルでの単価なら宝石よりオリハルコンの方が高かったかもしれないけど、その差は微々たる物だった。

 それに対して宝石はユグドラシルの頃より10倍も値段が上がっているのだからどう考えても価値は上なんじゃないの?

 

 そんな私のはてな顔が面白かったのだろう、ロクシーさんはころころと笑う。

 

「そう言えば前にアルフィン様はルビーを小さな村の村長に情報のお礼だとお渡しになられた事がありましたね。察するに、きっと今回も同じことなのでしょう」

 

「えっ?」

 

 ちょっと待って、あれって金貨500枚だったものが実は5000枚だったと言う、ある意味笑えないエピソードなんだけど・・・もしかして今回のはそれに匹敵するほどの失敗だったりするの?

 

「アルフィン様、この首飾りに使われているオリハルコンですが、先程プラチナだと重くなりすぎるからと仰いましたわよね? ならばプラチナならばどれくらいの重さになっていたのですか?」

 

「多分プラチナで16グラムくらいだと思います」

 

 宝石類が合計200ct位あるから、あわせると50グラムを超えてしまうのよね。

 流石にこれだけ重いとパーティーでつける事はできないだろうから少しでも軽くしようと思ってオリハルコンにしたんだけど、宝石に比べると量は微々たる物だ。

 それだけにそれ程凄い値段にはならないと思うんだけど・・・。

 

「アルフィン様、あなたはオリハルコンの量だけで値段を想像されているのではないでしょうか? 確かに使われている鎖の重さだけを見れば金貨1000枚もしないろ考えるでしょう。しかしオリハルコンはアダマンタイトについで世界で二番目に硬い金属なのですから、加工するのにかなりの技術が必要となるのです。それを平板ではなくこのような細いチェーンにするとなれば大変困難で、値段も何十倍、何百倍にも膨れ上がる事でしょう。実際、これ程細く均一なオリハルコンの鎖を作れる職人はドワーフの、それもかなり腕の立つごく一部の者くらいだと思いますわよ。その鎖をこの首飾りは驚く程の量、使用しているのです」

 

 え? 鎖に加工するのって、そんなに大変なの? だって、うちの城ではみんな簡単にやってるよ?

 

「それなのに加工賃をまるで無料のごとくお考えのようなのですから、それだけ多くのオリハルコンを産出し、数多くの職人がその加工に携わっているとわたくしは考えたのです」

 

 まさかそんな所からそんな考えに至るとは・・・。

 ん? ちょっと待って! それじゃあ、加工賃を考えた場合のこの首飾りの値段ってどれくらいなの?

 

「あのぉ~、ロクシー様。ロクシー様の見立てではこの首飾りの価値はどれくらいなのでしょうか?」

 

「そうですね。どれだけ安く見積もっても金貨30万枚はくだらないと言った所でしょうか。オークションに出せばそれこそ天井知らずでしょう。国宝クラスの首飾りと言う事になるのではないかしら」

 

 マジですか・・・。

 

 すみません、どうやらまたやってしまったようです。

 私は打ちひしがれながら考える。

 これがそれだけするのなら、あれを一緒に出さなくて本当に良かったよと。

 

 メイドに言って別室に用意させている、この首飾りと対になるよう私が作ったオリハルコン糸を使って織られた布製の豪奢なドレスを思い浮かべながら、心の中でうな垂れるアルフィンだった。

 

 





 なんか変なテンションになってしまって、アインズ様の話を聞くところまで行きませんでした。
 どうもアルフィンの失敗話を書いていると楽しくなってしまうんですよ。
 こんなんだから、この物語もずるずると長くなってしまったんでしょうね。
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