ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~ 作:杉田モアイ
「ところであるさん、この館の改装は職人を連れてくるとして、その資材はどうするの? このイーノックカウで調達?」
「ああ、それに関してはイングウェンザーから運ぶつもりよ。だってどう考えてもこの街では手に入らない素材があるんですもの」
内装に使う透明な素材として大きなクリスタルガラスを用意しなければいけないし、屋根や柱、それに壁の補強に使うオリハルコンもこの街、と言うかこの国で調達できそうにないからどうしてもここに運び込む必要があるのよね。
「そっか。ねぇ、でもそれだと量が問題にならない?」
「量が?」
はて? この館を改装するのに必要なだけしか城からは持って来ないんだし、その程度なら森林地帯や鉱山地帯から獲ってこなくても備蓄してある資材だけで十分賄える量なんだから別に問題になるほどではないと思うんだけど。
ところが、問題なのはそこじゃなかったみたい。
「うん。だってレストランは魔法で作るんでしょ? なら運びこまれる資材の量は本来よりかなり少なくなるんだから、それを誤魔化す方法を考えておかないと、周りから怪しまれることになるんじゃないかなぁ?」
「ああそっか。そう言えばそうよね」
レストランを作るとなると、それ相応の資材が必要となる。
それなのにこの館の改装に必要な分だけを運び込んだら、確かに周りから見ればおかしいと思われるのも道理よね。
でもなぁ、レストランを作るほどの資材となるとかなりの量よ? そんなものまで城から持ってくるとなると、流石にちょっと大変よねぇ。
う~ん、まさかレストランを作る工程ではなく資材をどう誤魔化すか、それも少ない量をどうやって多く見せるかに頭を悩ませる事になるなんて思いもしなかったわ。
まったく想定していなかった事態だけに、正直言って何の手も浮かばない。
そこで私は、いつものようにギャリソンを頼る事にしたんだ。
どう考えてもこの手の処理に関しては、彼の方がいい案を出してくれるはずだからね。
すると案の定キャリソンは私たちが話しているのを後ろで聞きながら何時質問されてもいいようにと予め考えてくれてたみたいで、さっそくその腹案を聞かせてくれたんだ。
「アルフィン様、資材に関してはイーノックカウで調達するのが宜しいかと、私は愚考いたします」
「イーノックカウで?」
「はい、そうでございます」
今は少ない資材を多く見せる方法を考えてるのよねぇ? ならこの街で買ったらもっと誤魔化しにくくなるんじゃないかしら。
私はそう思って頭を傾け、何故? って問い返したんだけど、そしたらギャリソンはその理由を懇切丁寧に教えてくれた。
「そもそも資材の量を多少誤魔化すと言うのならばともかく、持ち込む何倍もの量に見せる事は不可能でございます。ですから、本来必要とされる量を調達し、その後必要のない分を外に運び出す方が遥かに簡単だと私は考えます」
「確かにそうね。アイテムボックスもあるし、そもそもゲートを使えばもっと簡単に街の外まで運び出せるわ」
「はい。ですからこの館の改装とレストランの建物を作る資材はこのイーノックカウで調達し、内装や家具、それに食器やカトラリーなどだけをイングウェンザーから調達する事にすれば、この問題は解決すると思われます」
なるほどねぇ。
そもそも誤魔化そうって考える事自体が間違いって事ね。
でもさぁ、なら買った資材はどうするんだろう? そう疑問に思った私はそれをギャリソンにぶつけてみた。
そしたら彼はあっさりと答えてくれたのよね。
「エントの村は現在、牧場建設の為に結構な量の資材を必要としております。ですからそちらの一部に使用するのが宜しいかと」
「ああ、そう言えばそんな事を言ってたわね」
館などと違って柵や家畜小屋、それに農作物や牧草を入れておくサイロは作る魔法がないからちゃんと資材を用意して作らなきゃいけない。
だからその資材をイングウェンザーから運ぶって話になっていたんだけど、その一部をこのレストラン建築用に買った資材で賄おうってわけか。
「はい。現在は魔法での整地及びシミズくんさんの眷属による牧草地帯の土壌改善を行っておりますが、それもまもなく終了いたします。ですからこのタイミングでの資材購入は我が国としても都合が良いとも言えます」
「解ったわ。この館の庭に目隠し布が設置され次第、資材購入の手配をしてその中に運ばせる事にしましょう。あっ、そうなるとゲートが使える魔術師も必要になるわよね。ギャリソン、魔女っ子メイド隊の中からゲートが使える子を数人、いつでも派遣できるように手配をお願い」
「畏まりました」
とりあえず資材問題はこれでクリア。
えっと、後何か問題はあったっけ? そう思って周りの顔を見渡すとカルロッテさんが何やら物申したそうな顔をしていたので、声をかける事にした。
「カルロッテさん、なにか気付いた事でもあるの?」
「あっいえ、気付いたと言うほどの事でも無いのですが」
彼女はこう前置きをしてから、思いついた事を私たちに話してくれた。
店はいいとして、従業員はどうするのかと。
・・・そう言えばそうじゃない! レストランのシェフはロクシーさんが用意してくれる様な事を言っていたからいいけど、ボーイやウェイトレスまでは手配してくれて無いだろうし、なによりこの館に作るエントやボウドアの物産を売る店舗に関しては彼女はまったくの部外者なんだから全てこっちで用意しなければいけないんだったわ。
私の現実世界の職業では店舗のデザインや建築の際の視察はする事があったけど、従業員の手配に関しては施主様がやる事だったので私の頭からはすっかり抜け落ちていたのよね。
「あれ? あるさん。私はてっきり、従業員には城のメイドを派遣すると思ってたんだけど違うの?」
「流石にそれは無理よ。一時的に派遣するのならともかく、ずっとお店を続けるとなると、その全員を城からの派遣メンバーで賄うのは非現実的だわ。休みも必要だし」
「いえ、我らはアルフィン様の為なら休みなど・・・」
「ストップ! 黙りなさい。そんなの許すわけないでしょ」
実際命じれば彼女たちは一日も休まず仕事を続けると思うわよ。
でもゲーム時代ならともかく、現実になったこの世界でそんなことを続けていたら体を壊してしまうかもしれないもの。
だからこそ、イングウェンザー城でも強制的に休みは取ってもらうようにしているのよね。
「それに全員を城のメイドで賄うとなると、それはその店にいる全員が同格と言う事になるでしょ? そうなると何か問題が起こった時に誰の意見で事態を収拾すればいいのか、とっさに解らないなんて事もありえるもの。それを避けるためにも城からはレストランとショップ、それぞれに経理やフロアの責任者として2~3人を派遣する程度が一番なのよ」
「なるほど。じゃあどうするの?」
「そうねぇ、取り合えずお店の方はやっぱり生産している人が関わって欲しいわよねぇ。となるとボウドアの村人の誰かに任せたいと思うけど」
でもそうなると、村を出てこの町に住んで貰うことになるのよねぇ。
まぁ月単位で交代してもらうって手もあるけど、それでも大変なのには変わらないし。
やっぱりボウドアで条件を提示して希望者を募るのが一番かなぁ? なんて考えていたんだけど、そこでカルロッテさんがおずおずと手を上げた。
「どうしたの? カルロッテさん」
「アルフィン様。この館の店なのですが、別館に住んでいる女性たちに任せてはもらえないでしょうか?」
「えっ? でも、今はみんなボウドアの裏にある農場の仕事があるんじゃないの?」
実を言うとその案を考えなかったわけじゃないのよね。
でもこの間ボウドアに行った時にみんなが館裏で働いているのを見てるし、各自の生活ができあがってしまっているのなら無理にそれを壊すのもどうかなぁって考えてたのよ。
でもカルロッテさんは違う意見だったみたい。
「はい。確かに別館のみんなも農場で働かせていただき、生きがいと言えるものを得ました。しかしそれだけに、自分たちが作ったものがどのようにして売られ、そしてどのような人たちが買って行くのかを見たいと思うんじゃないかと思いまして。そう考えると、中にはここで働きたいと考える人もいると思うのです」
「なるほど」
言われてみればその通りかも。
実際オープン当事に店に並ぶ物のほぼ全ては館裏の農場で作れたものになると思う。
となるとそれを作った人を関わらせると考えた場合、ボウドアの村人たちより彼女たちの方が適任と言えるわね。
「解ったわ。ではそうしましょう」
「ありがとうございます、アルフィン様」
このお店の方は多少広いとは言え、必要な従業員は下のフロアに5人、上の喫茶コーナーに3人と言った所だろうからその人数を定期的に入れ替えるって形でいいかな?
流石に在庫管理やお金に関してはうちの城から派遣しないといけないだろうけど、そのほかの役割を別館の人たちに頼めると言うのであれば、この館のお店の従業員問題は解決するわね。
では次にレストランの方だけど。
「やっぱりレストランの従業員は募集するしかないわよね」
「そうですね。そちらまで担うには、私たちだけでは人数が足りませんから」
う~ん、でもそうなるとどうやって人を集めるかだけど、これが中々いい案が浮かばない。
流石にこの館前に募集の張り紙をするわけにはいかないし、コックだけならともかく、フロアの従業員までロクシーさんに頼むわけにもいかないし。
と言う訳でまた頭を悩ます事になったんだけど、ここでまた新しい助け舟が。
「アルフィン様、宜しいでしょうか?」
これに関してはユミちゃんが何かいい考えがあるらしく、控えめに声を上げてくれた。
「なに、ユミちゃん。何かいい考え、あるの?」
「はい。レストランの従業員と言う事でしたら、元々がロクシー様からの提案ですのでアルフィン様と連名で募集していただけるよう申し入れて、承諾が得られ次第商業ギルドで募集するのがいいと思います。バハルス帝国皇帝陛下の事実上の后であるロクシー様と都市国家イングウェンザー女王アルフィン様、そのお2人が名を連ねての募集ですから商業ギルドとしても身元が確かな者かどうか、しっかりと調べて採用してくれると思うのです」
なるほど、確かにその方法ならよく解らない人が紛れ込む心配はなさそうね。
「解ったわ、そうしましょう。私の名前はともかく、この国で皇帝陛下が関わってくるような案件に下手な人材を連れてくるなんて事、できるわけないものね」
「いえ、アルフィン様のお名前の方が・・・」
私の言葉を受けて、ユミちゃんが慌てて何かを言い出したけどこれに関してはスルー。
なにを言い出すのかは解っているのだから、いちいち付き合っていても仕方がないのよね。
と言う訳でギャリソンに指示を出す。
「ギャリソン、そう言う事だからロクシー様への手紙を出します。羊皮紙とペンを用意して頂戴。カルロッテさんも、代筆をお願いね」
「「畏まりました」」
こうして取り合えず従業員問題も片付いたっと。
さて、後は何かあったっけ? ああそうだ、門番! お店をやる以上は門番もいるわよね。
あっ、でもうちの前衛職ってみんな女の子なのよねぇ。
見栄えはいいし、門の前に立っていても威圧感がないのは来るお客さんにとってはい事なのかもしれないけど、問題を起す人を遠ざけると言う意味ではあの子達は見目麗しすぎるのよねぇ。
下手をすると、かえってそう言う人たちを引き寄せてしまうかもしれないわ。
となると、やっぱり男の人がいいと言うことになるんだけど・・・。
「店前に立たせる門番はどうしよう? これもやっぱり商業ギルドで募集したらいいと思う?」
「う~ん、流石にそんなのは商業ギルドでも集められないと思うよ」
やっぱりそう思うよね。
まるんからも私自身が思っていたのと同じ答えが帰って来たので、この意見は断念。
と言う訳でこの世界の住人であるカルロッテさんに、何かいい案はないかと訊ねてみたんだけど、
「冒険者では長期の依頼はできませんし、かと言ってロクシー様に頼ろうにも、あのお方もこの街の住人ではないのでそのようなツテはないと思いますから・・・」
と、いい案は帰ってこなかった。
そっか、となるとやっぱり聖☆メイド騎士団から誰か適当に見繕ってもらって、交代で立ってもらうしかないのかなぁ。
そう結論付けようとした時、まるんが急に思いついたように、こんな事を言い出したのよ。
「そうだ、別館の人たちをここの従業員に使うのなら、収監している人たちを門番にしたら?」
「収監されてる人たち? って事はエルシモさんたちを門番に使えって言うの?」
これは流石に予想外。
だって彼らは悪い事をして収監されてるのよ。
なのにその刑期中に外に出して働かせるなんて、そんなことをしていいのかしら?
そう考えたからこそ、それはちょっとと難色を示そうとしたんだけど、どうやらそう考えたのは私だけみたいなのよね。
「流石はまるん様、それはとてもいい案でございます」
「まるん様、主人たちをこの街で働かせていただけるのですか?」
ギャリソンはまるんの意見を褒め称え、カルロッテさんは期待に目を輝かす。
う~ん、でもさぁ、本当にいいの? そう思ってギャリソンに聞いて見たんだけど、彼からは、
「もちろんでございます。彼らは罪を犯したと言っても誰も殺害して居りません。それに犯罪もシャイナ様の活躍で未遂に終わっており、事実上の罪は傷害のみです。それに模範囚であれば多少の減刑があってもおかしくありませんし、監視をつけた状態であれば奉仕活動として外で働かせると言うのも更正させると言う意味では一つの方法ではないかと」
なるほどねぇ、そういう考え方もあるのか。
そうやって私は感心し、頷きかけたんだけど、
「それに至高の御方であるまるん様がお決めになられた事なのですから、それはこの国の法などよりも遥かに重く、全てに優先されるべき事なのです!」
と言う一言で、一気に吹き飛んでしまった。
そうだよね、そう言えばギャリソンならそう考えるのも当たり前だったわよね。
各言う私はこの一言で遠い目をするようになり、その間にまるん主導でこの案は正式に採用される事になってしまったのだった。
「まぁまぁ、あるさん。あの囚人たちがこの館に配属されたからと言って、今更脱走なんてするわけないじゃない。というか、あれだけ餌付けされて、その上あの環境に慣れきってしまってるんだから、多分刑期を全うしてもあの収監所から出てこないと思うわよ」
「確かにそうなんだけど・・・はぁ、そうね。それに家族がここで働いてるのなら余計に脱走なんてしないだろうから、別館からこの店の従業員として派遣されている期間は、その旦那さんたちをここに交代で送る事にしましょう。流石に門番は2人くらいしか要らないだろうし」
ただ、後々ボウドアの人たちもこの店で働いてもらう事になるだろうから、彼らが門番としてこの館で働くのは我が国の法律に則っての刑罰による奉仕活動だと言う事を、村長にだけは話を通しておかないといけないかもね。
ちょっと面倒だなぁとは思うものの、カルロッテさんからの期待と感謝の視線を浴びて今更この話を覆す事などできないアルフィンだった。
よくよく考えると、エルシモさんたちって傷害事件は起してるけど強盗は未遂なんですよね。
おまけに被害者の村人たちもその傷害で負った怪我はアルフィンの手によって無償で全部治されてるし。
それに完全に模範囚状態で毎日まじめに畑仕事をしながら農業試験に従事しているので、ちゃんと都市国家イングウェンザーの役にも立っています。
現実世界でも海外では社会に戻りやすいよう、刑期終了が近づいた人は普通の人に混じって生活するようになっている国もあるし、日本でも北海道とかでは塀のない畑で働いているのですから、今回のように自分たちより遥かに強い事が解っている監視が要る状況なら奉仕活動してもいいんじゃないでしょうか?
まぁそれ以前に、私なら毎日高級ホテルに泊まっているようなあの環境を捨てて逃げるなんて事、絶対にしませんけどねw