ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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65 出発と心配

 

 「本当に御一人で行かれるのですか?」

 

 「もう決まったことだからね」

 

 イングウェンザー城の中央門。

 広大な庭園へと続くその門の前では後ろに見送りのメイドたちを従えたメルヴァが心配そうな顔であやめに対して何とか翻意を促そうと声をかけていた。

 でも今のあやめは正確にはあやめではなく、私が体を使っているのよね。

 

 そのせいでメルヴァはアルフィン(私)の決めた事を撤回してもらうには同じ至高の御方であるあやめ自身から「やはり護衛をつけてもらうよ」と言ってもらうしかないと考えて、先程から出発間近のあやめ(私)に一所懸命頼んでいると言う訳なのよ。

 でもこれって私からするとかなりシュールであり、また結構困った光景なのよね。

 彼女が本当に心配している事が解るから。

 

 「メルヴァ様、メルヴァ様。あやめ様は御一人ではありませんよぃ。私たちもいるんですよぉ」

 

 「そうである。我らがあやめ様に付き添っておるではないか」

 

 そんなメルヴァの言葉に非難の声を上げるのは2体のモンスター。

 共にあやめに召喚され、今ではあやめの忠実な僕となっているシルフのシルフィーと大地の上位精霊であるダオのザイルだ。

 

 あやめが乗りやすいよう、大きめな猪くらいの大きさまで小さくなっているザイル。

 その頭の上に乗ったシルフィーは、のんびりとした口調ながらも自分は怒っているんだぞと言う態度を示すかのように拳をにぎった両手を振り上げて主張している。

 そしてそのシルフィーの意見に同意するかのようにザイルも不満げな声を上げていた。

 

 「まぁまぁ、メルヴァはあたしの事を心配して言ってくれているのだからシルフィーもザイルも怒らないの。」

 

 そう言ってシルフィーたちを宥めた後、今度はメルヴァの方に向き直って彼女を窘める。

 

 「あとメルヴァも、それはちゃんと話し合ったでしょ。アルフィンが言うとおりこの任務はあたしが一番適任なんだし、何かあった時はザイルも本来の姿に戻って戦ってくれるから下手な子を連れて行くよりよっぽど安全なんだから。もう、そんな顔しないの」

 

 「ですが・・・」

 

 ザイルの本来の姿はかなりの巨体だ。

 その巨大なサイに似た姿と岩のような肌を持つ強靭な肉体は、ケンタウロスのメイン武器である弓矢程度で傷を付けられる程やわじゃない。

 それにシルフであるシルフィーの風を使った結界は弓矢などの飛来する武器による攻撃に対する防御と言う一点で言えばどんな魔法よりも頼りになるのよね。

 

 ケンタウロスにとって、この子達は天敵と言ってもいいと思う。

 この二体をお供につけているのだからこれ以上の護衛は必要ないと思うんだけどなぁ。

 

 まぁ、メルヴァの立場からすると心配する気持ちも解らないでは無いんだけどね。

 うちの最大戦力の一人であるシャイナにさえ、何かあってはいけないと信仰系マジックキャスターを同行させたくらいなんだから。

 

 「とにかく、今回はあたしたちの殆どが城から離れる事になるんだからメルヴァにはしっかり城を守ってもらわないといけないのは解ってるよね? そのメルヴァがついてこれない以上、適任者はいないでしょ。ギャリソンはまるんに同行するし、セルニアはアルフィンのお供をするんだから」

 

 「そっそれならば、地下3階層の二人のどちらかを」

 

 「それはだめよ」

 

 あの二人は絶対にダメ。

 あの子たちはこの城の守り、まさに防壁なの。

 この世界の住人ではこの城に危害を加える事はできないだろうとは思う。

 だけど、

 

 「あの子達はこの城の最終防衛ラインなのよ。今までの情報からこの世界には私たち以外のプレイヤーがいる可能性があると考えられる以上、あたしたちの殆どが城からいなくなるこの状況であの二人を城から出す訳にはいかないと言うのはメルヴァにも解るでしょ。」

 

 そう、過去にいたと言われる口だけの賢者と言う存在は多分プレイヤーだろう。

 と言う事はこの世界に転移して来たプレイヤーが私たちだけなんて楽観的な事はとても考えられないのよね。

 

 そんな状況では、いくら私の事が心配だからと言ってこの城の守りの要であるあの二人を外に出すなんてとんでもない話だ。

 

 「心配しなくても大丈夫、この旅では索敵が得意なシルフィーがいるんだから気付かないうちに接近されて不意を突かれるという心配もまず無いんだし、特に大きな危険は無いはずだから。ね、メルヴァはあたしの事は気にしないで、あたしたちの家でもあるこの城をしっかりと守っていてね」

 

 「・・・解りました、あやめ様。しかしくれぐれも、本当にくれぐれもお気をつけ下さい」

 

 「うん、解ったよ。なるべく気をつけて行ってくるね」

 

 まだ不安顔ではあるものの、何とか納得をしてくれたメルヴァに対して”あやめの姿の"私は子供らしい笑顔を心がけて作った。

 

 いつもアルフィンに入っていて優雅な笑顔を作る事を心がけている私は、別のキャラに入った時は結構気をつけないといけないのよね。

 ここでもしそんな顔をしてしまったら多分メルヴァは心配するだろうから。

 だって普段のあやめはそんな笑顔を絶対にしないし、そんな顔で微笑んだりしたら無理をして強がっているのではないかと勘繰られてしまうかもしれないから。

 

 そんな事情でボロが出ないようずっと気を張りっぱなしだった私は、一刻も早く出発したかったのでこの会話はここで切り上げて出発をする事にした。

 

 「それじゃあザイル、乗せてもらうわね。あっ、シルフィーはあたしの肩に乗っていいわよ。それじゃあメルヴァ、行って来ます!」

 

 「行ってらっしゃいませ、あやめ様。シルフィーにザイルも」

 

 「は~い」

 

 「行って来ます、である」

 

 頭を下げるメルヴァとその後ろに並ぶメイドたちに手を振りながらあやめはザイルを走らせ、ケンタウロス偵察の旅に出発した。

 

 (う~ん、ザイルの背中って岩石みたいだから、クッションを持ってきた方がよかったかなぁ。でも今更戻るのもかっこ悪いし)

 

 などと心の中で考えながら。

 

 

 ■

 

 

 イングウェンザー城の地上階層にある見張り台。

 そこにはあやめを除く5人の自キャラたちが集い、ザイルの背に乗りながら颯爽と駆けて行くあやめの姿を見送っていた。

 

 「マスター、行ってしまわれたわね」

 

 「うん。マスターの事だからきっと大丈夫だとは思うけど、一人だけでの別行動は初めてだからちょっと心配だよね」

 

 アルフィンの呟きにまるんは少し心配そうな顔でそう答える。

 何せこの世界に転移してきて初めての単独行動なのだ。

 

 他のNPCたちに、もしあえてこの中から特別な立場の者をあげるとするのならば誰かと聞けば皆のまとめ役でありギルドマスターでもあるアルフィンの名があげられる事だろう。

 しかし、基本彼らにとってあやめを含む6人の至高の御方々は皆同格の存在だと答えるはずだ。

 

 しかし自キャラたちにとっては違う。

 ただ一人、マスターだけが特別の存在であり、今現在はその魂を宿すあやめこそが唯一絶対的な至高の御方なのだ。

 その御方が一人の護衛もつけずに旅立たれたのだから心配するなと言う方が無理と言うものである。

 

 「アルフィン、まるん。あやめから連絡があったらすぐに助けに向かってよ。私たちも近くにゲートの魔法を使える子を連れて行くけど、直接飛ぶ事が出来るのはあなたたちだけなんだから」

 

 「解っているわ。わたくしは農業指導とは言っても実際に自ら手を出すわけではないのだから何かに気を取られて反応が遅れるなんて事は無いだろうし、その時が来たらどんな状況であってもすぐにゲートを開いて向かう。でも遠隔視の鏡で場所の確認してからでしか開けない、ゲートの魔法しか使えないわたくしより転移で直接飛べるまるんの方が絶対早くつけるのだから、その時は何があっても最優先でマスターの元に駆けつけるのよ」

 

 「うん、解ってるよ。その時はすぐに飛んで身を挺してでもマスターを守る。私が死んでもきっと生き返る事が出来るけど、マスターが死んでしまったらどうなるか解らないもの」

 

 シャイナの言葉にアルフィンとまるんは即座に答えたが、そのまるんの言葉によって一同は不安げな表情になる。

 

 彼、彼女らにとっての一番の懸念は実はこれだった。

 もし自分たちが死んだ場合、きっと魔法で生き返る事が出来るだろう。

 しかしマスターは?

 

 今この状況でもしあやめが死んだ場合、復活魔法を使えばきっとあやめは生き返ると思う。

 他の魔法がこの世界でも普通に使えている以上、復活系の魔法だけが、元の世界の法則によって生み出された自分たちに効果がないと言うのは考えられないからだ。

 ではその中に入っているマスターの魂はどうなるのだろうか?

 

 もしかしたらあやめが死んだ時点で自分たち他の誰かの体、マスターの為に作られた器に乗り移るのかもしれない。

 でもそうじゃなかったら? 

 あやめだけがよみがえり、マスターの意識が復活しなかったら?

 そんな事を考えると、彼らは不安で仕方がなかった。

 

 「とにかくアルフィンはなるべく早くマスターの元にたどり着く事。あなたさえそばにいればマスターの安全はまず保たれるんだから。私やまるんでは矛にはなれても楯にはなれないんだからよろしくね」

 

 「そうだねぇ。わたしのゴーレムも楯にはなれるけど製造するまで少し時間が掛かっちゃうし、アルフィンがいてくれたら安心だもん」

 

 「俺にいたっては海や川、それと湖ならともかく、今回のような場合では楯矛どちらでもお前らと比べて劣るからな。もしもの時は頼むぜ」

 

 シャイナの言葉をあいしゃとアルフィスが肯定する。

 

 自キャラ6人の中でアルフィンがマスターの器として選ばれた最大の理由。

 それはこの6人の中で一番の魔法による防御力と継闘能力、そして治癒の魔法だ。

 これらがあればたとえ別のプレイヤーに襲われたとしてもマスターが死ぬと言う最悪の展開だけは防げるはずだ。

 

 しかし、あやめの体を使っている今のマスターにはその力が無い。

 だからこそ、何かとてつもない危機がマスターの身に起こりそうな時を想定して準備を行わなければいけないというのが彼らの共通認識なのだから。

 

 「さて、マスターの御見送りも終わった事ですし、わたくしはボウドアの村へと出立する準備にかかりますわ。シャイナ、セルニアとミシェルに準備をするように伝えてくれないかしら? わたくしは紅薔薇隊と魔女っ子メイド隊の中から誰か適当に見繕ってから合流するから」

 

 「うん、解った」

 

 駆けていったザイルの姿も見えなくなったので、アルフィンは自分の役目を果たす為に一緒にボウドアの村へと向かうシャイナに声をかけた。

 今までの会話を聞かれるわけには行かないので、今この場にメイドはいない。

 だからいつもとは違って何をするにしても自分たちで直接動くしかないからだ。

 

 「それじゃあ私もギャリソンとカルロッテさんに声をかけるかな? あっそれとアルフィン、あいしゃもボウドアに連れて行ってくれないかな」

 

 「へっ? わたし?」

 

 いきなりまるんに声をかけられて、あいしゃは驚きの表情を浮かべる。

 と言うのも彼女はてっきり今回もお留守番だと思っていたからだ。

 

 「そう。どうせ暇なんでしょ。ならアルフィンたちは村の人たちとの話で手一杯になるだろうから、その間にあなたはシミズくんにどれくらいの範囲に眷属をばら撒くか説明してほしいのよ。マスターの残してくれた地図に範囲は指定してあるけど、あの子はモンスターだから地図を読めないし、そうなると誰かが指示をしなければいけないからね」

 

 「うん、わかった」

 

 まるんの話を聞いて、あいしゃは「今回はわたしにもやる事があるんだ」と満面の笑顔を浮かべて喜び、元気に返事を返した。

 

 「あとアルフィン、あなたは口調を気をつけてよ。マスターはもっと砕けた口調だし、一人称はわたくしではなく私だからね」

 

 「そのような事は心得ておりますわ。ご存知の通り、わたくしはいつもマスターの御そばにいるのですから。・・・それじゃあ私は準備にかかるわね。まるんも気を付けて行って来なさいよ。あなたの仕事はかなり重要なんだから」

 

 アルフィンは一度黙ると、いつもマスターが話しているような口調に変えて話し始める。常に行動を共にしているだけにその口調はまさにマスターそのもので、それはまるで本当に彼に言われているかのような錯覚をまるんに起させるほどであった。

 

 「うん。マスターの期待に添えるように私もがんばってくるよ。それじゃあ、私は行くね」

 

 そう言うとまるんは指輪の力を使って転移していった。

 

 「それじゃあ私たちも行動を開始しましょう。あいしゃはシャイナと一緒に行ってね。私はこのまま歩いて地上1階層の詰所に行ってくるから。シャイナ、頼むわよ」

 

 「は~い」

 

 「うん、じゃあまた後で」

 

 そう言うとアルフィンは階段の方へと足を進め、シャイナとあいしゃは先程のまるんと同じ様に転移をしていった。

 

 「さて、俺は何をするかな」

 

 最後に残ったのはアルフィスである。

 しかし彼にはこれと言って仕事が与えられていなかった。

 

 「このまま何もせずにぼ~っとしているわけにもいかないからなぁ。そんな事をしていたら、メルヴァたちの格好の餌だ」

 

 他の5人がいない以上、メルヴァたちNPCにとってこの城の中で御世話をする相手はアルフィスただひとりと言う事になる。

 そんな状況の中で何もせず暇そうにいたら、これ幸いと彼女らによって介護と言ってもおかしくないほどの御世話を受けさせられることだろう。

 

 「まったく、あいしゃがいればこんな苦労をする必要も無いのに」

 

 いつも城に残ってメイドたちにちやほやされながらお菓子を頬張っているあいしゃを思い浮かべて、アルフィスは一人ため息をついた。

 

 「マスターも俺に何か仕事を割り振ってくれないかなぁ」

 

 そんな愚痴を言いながら、アルフィスは地下1階層にある自分の工房へと転移して行った。

 『マジックアイテム研究開発中の為入室禁止』と書かれたプレートのある、静かな自分だけの城へと。

 

 




 今回からちょっと書式を変えてみました。
 どうやら「。」で区切った所で次の行に変えるのが今のネット小説の主流のようなので。

 実は始めの内は私もこの書き方をしていたのですが、なんとなく読みにくいような気がして今までのような書き方をしていました。
 ですが、この頃は説明文が増えて今の書き方だと返って読みにくいのではないかと考えた為にこのように変更した次第です。

 さて、こう言うとなんか変な話ですが今回がアルフィンの初登場です。
 今までのアルフィンは全て主人公でしたからね。

 口調はこんなですが、性格は今までに話に出てきているように可愛い物が好きな女の子らしい性格をしています。
 なにせ主人公の性格は彼女がベースになって変異しているので。

 最後に。
 すみません、もしかすると来週から少しの間更新を休むかもしれません。
 詳しくは活動報告で 
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