ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~ 作:杉田モアイ
「それは・・・」
ギャリソンが言うにはこうだ。
当たり前の話だけど、支配者と言う事はそれ相応の服を着ているはずだし、奇抜な服で出歩くなんて考えられない。
ではあれはなんだったのか?
実はアルフィンはあの時、新たな土地に築いた城の仮装パーティの最中、ちょっとした好奇心からふと周りの地を見て回りたくなった。
魔法を使えるアルフィンは臣下の者に気づかれぬよう、着替えずに城から抜け出したのだが、珍しい風景を見るのに夢中になり、うっかり村人に見つかってしまった。
そこで怪しまれないよう、自分から声をかけようと思い立ったのだけど、どう自己紹介をするか悩んでしまった。
今着ている服からして、この国の者ではありえないのだから。
かと言って本当の事、遠い国の都市国家の支配者だと名乗っても信じてもらえるはずもなく、ただの旅人で怪しい者ではないと説明しても、奇抜すぎる今の格好では信じてはもらえないだろう。
武器や防具も持たず旅をするものなど居ないのだから。
それではと、遠くの国から来たという一点だけ本当の話を混ぜ、自らの身分を商人と名乗ったのだというのがギャリソンが考えたストーリーだ。
「でも、それだと、その後村まで行ったのは説明つかないことない?」
「簡単な事です。このような国から遠く離れた所にまで城を築くほどの御方です。とても好奇心旺盛のはず」
ああ、そうか。
「折角商人と身分を偽ったのだから、その身分を利用して村を訪れ色々と情報を引き出そうとお考えになられたとしても不思議ではないと思われます」
「なるほどなぁ。でも、そんな話信じるかな?」
流石にこんな話をそこまで都合よく信じてもらえるとも思えないんだけど。
「確かにアルフィン様が御懸念されるように、この話だけなら普通は信じないでしょう」
「だったら・・・」
「しかし、ここでアルフィン様が村で行ったある事が生きてきます」
行った事?何かやったっけ?
「アルフィン様は村で情報のお礼にと宝石を村長に御渡しになりましたね?」
「ああ、渡したよ。でも小さな宝石だよ」
たいした価値があるわけでもない、小さなものだ。
そんな考えが透けて見えたのが、諭すようにギャリソンは続ける。
「アルフィン様、ユグドラシルでの宝石の取引価格をお忘れですか?」
「取引?・・・あっ!」
そう言えば普通の宝石のNPC店舗での買い取り価格は金貨600枚、小さいものでも250枚くらいだったはず。
さすがにそのままの価値ではないだろうけど、ユグドラシルでNPCから買うならその3倍はするはずだ。
「思い出されましたか?この国の物価から考えて、情報に対して価値が高すぎます」
「言われて見ればその通り。これは迂闊だったなぁ」
確かにそうだ。
自分の価値観で考えて大した物ではないからと言って他から見ても価値がないと考えるのは早計だった。
この場合、銀貨もろくに流通していない村で安く見積もっても金貨250枚、この国の通貨なら交金貨500枚ほどするであろう物を渡してしまったわけか。
前に単純に比較した食料品を買える価値で考えると、日本円で5千万円ほどか。
あの村全体の1年分の食費より多いんじゃないか?
確かに村長がこんなものは貰えないと言う訳だ。
「そして普通、商人は価値と言うものを重視します。ですから、たとえどんな状況であろうとも価値以上の物、少なくともこれほど常識からかけ離れた物を相手に渡す事はありません」
「ああ、そうか」
自分にとって価値のないものだから相手にとってかなり価値のあるものでも気楽に与えてしまう。
確かに商人ではありえないが、身分の高いものや金持ちならありえる話だ。
「そして最後に豪華な馬車とメイドと執事、そして護衛の兵を連れて訪れればこの話はかなり真実味を帯びると思われます」
「なるほど」
よくもまぁ、あんな不用意な行動からこんな話を考え付くものだ。
「後一つ進言させていただいてもよろしいでしょうか?」
「えっ、まだあるの?」
もしかしてまだ何か間違った事やってた?
「折角商人であると名乗ったのですから、その仮の御姿はそのまま御使いになられるのがよろしいかと」
「えっ?えっ?どういう事」
領主に都市国家の支配者だと名乗るんじゃないの?
「自分の国では都市国家の主ですが、この国でそう名乗ってはいらぬ災いを招き入れます」
「そうかな?」
「他国の上級貴族が、何の用もなく国を歩き回る状況と言うのは明らかに異常です。普通は何か思惑があると考えるものです」
確かにそうだね。
「しかし、相手にとっては信じられない事かもしれませんが、こちらは本当に何の思惑もなく、この地に居を構えました。何せ城を築いたのは一番近い村から30キロ以上離れた場所なのですから」
「もともとはこの国を訪れる気さえなかったと説明するの?」
あくまでこの地まで足を伸ばしたのは私個人が興味を持ったからと言う理由で押し通そうと言うわけか。
「その通りです。しかし、折角訪れたのだからこの国を見て周りたい。そこで、この国では遠くの国から来た商人で通すので、その旨、了解してほしいと持ちかけるのです」
なるほど。
「少々迷惑に思われるかもしれませんが、この時領主には何か小さなメリットを提示すれば聞き入れてもらえるでしょう」
「メリットって?賄賂みたいなもの?」
「いえ、直接的なものはやめておいたほうがいいでしょう」
そう言われても貴族にとってのメリットって何だ?領地とかは渡せないし。
「この国の文化レベルが解らなければなんとも言えませんので、そこはまず隠密行動が得意なものに領主の館を偵察させ、それを元に御判断なされるのが得策かと」
「そうか、なら領主の所へは明日行くつもりだったけど、後日にしたほうがいいね」
相手にばれないよう調べるのなら、やはりあるの程度時間は掛かる。
「村から話が伝わる時間もあったほうがよろしいでしょうから、1週間後でいかがでしょうか?」
「そうだね」
物事には急いだほうがいいこともあるけど、この場合はちょっと時間を置いたほうがよさそうだ。
と、ここまで黙って聞いていたメルヴァが口を開く。
「アルフィン様、今まではギルド名の「誓いの金槌」か、イングウェンザー城と城をつけて呼称していましたが、都市国家となるとそのどちらでも少々おかしいのではないでしょうか?」
確かに。
「そうだね、これからはこの組織の事は都市国家イングウェンザーと名乗る事にする」
安易ではあるけど、この城の名前にも愛着があるからね。
「そうだ、馬車も作らせないと。なるべく豪華な方がいいなぁ。あ、紋章は「誓いの金槌」の紋章でいいよね」
「それは私にお任せを!アルフィン様にふさわしい、威厳に満ちた豪華な馬車を用意させます」
メルヴァが張り切るととんでもない事になりそうな気もするけど、まぁ、いいか。
「うん、頼むよ」
と、そこでずっと黙って聞いていたあやめが口を開いた。
「馬車を作ると言う事だけど、その場合アイアンホースが引く事になるよね?」
「ん?そうだけど、あやめ、何かあるの」
馬車に何かあるのかな?
「アルフィン、アイアンホースが引くって事は最高時速100キロ近く出るよね」
「そうだろうね」
アイアンホースは正式名称アイアンホース・ゴーレム。
ゴーレムだけあって普通の馬よりもはるかに早く走ることが出来る。
普通の馬が引く馬車は並足で時速6キロ、早く走らせて25キロほどが限度で、それも1時間もその速さで走らせたら馬がへばってしまう。
でも、アイアンホースはゴーレムだけに疲れ知らずで最高時速を維持し続ける事ができるはずだ。
「でも、そうなると普通に馬車を作ったらあっという間に壊れてしまうよ」
「あ、そうか」
馬車はそんなに早く走ることを想定して作られていないので、普通に作ったらあっという間に車軸か車体の軸を支える部分が磨り減ってしまうか、最悪摩擦熱で火を噴いてしまうだろう。
「そこで思ったんだけど、ベアリングを作ってみようかと思うんだ」
「出来るの?そんな事」
たぶんユグドラシルにはないものだよなぁ。
「そこなんだけど、ギャリソン、グリースって潤滑油、知ってる?」
「はい。大陸間鉄道などに使われているものですね」
「やっぱりユグドラシルにはあったんだ」
そうか、ユグドラシルは舞台こそ剣と魔法の世界だけど、移動のために本来その世界にある訳がないものも存在する。
そのうちの一つが大陸をつなぐ鉄道だ。
通常ユグドラシル内で町や大陸を移動する際は町ごとに設置されたゲートを使うのだけど、初めての土地を訪れる時はそのゲートは使えない。
訪れた事の無い場所へも飛べてしまうと、ストーリー展開上、色々と不都合が生じるからね。
特に大型アップデートで追加された大陸などは、そもそもそこへ通じるゲートが今まで無かったのだから、その土地へ移動するための鉄道や大型客船などがその度にできるという設定になっていたんだ。
そして鉄道や大型客船があるならグリースが存在するのも当たり前だ。
「なら大丈夫。一番あるかどうか不安だったグリースがあるなら、小さな鉄球やリング、保持器は普通の武器や家具を作る工程で同じようなものを作れるからユグドラシル時代にないものでも作れるはずだよ」
「ならかんたんなサスペンションも作れるんじゃないかなぁ? ばねは銃に使われているから作りかた知ってるし」
横からあいしゃも口を挟んでくる。
車などに使われているような高度なものは無理かもしれないけどボルトとナット、バネ、金属の丸棒と真ん中に丸い穴の開いた金属製の円盤さえあれば簡単なものは確かに作れる。
そしてそのほとんどは銃などの武器を作る際に必要で、要はそれが大きいか小さいかだけの違いだ。
「作ってみる価値はあるか」
「そうでしょ」
ならタイヤはどうなんだろう?
タイヤも作れるのなら、エンジンの代わりになるゴーレムが居れば車も作れるんじゃないか?
「ねぇギャリソン、タイヤって知ってる?」
「タイヤ? ですか、すみません、私の知る限りではそのような名前のものは存じ上げません」
「そうか」
確かに鉄道は鉄の車輪だしなぁ。何より、ゴムを使った工芸品も見たことが無い気がする。そして私たちの会話を聞いていて小さな期待を持っていたのか、あやめも残念そうな顔をする。
「ゴムは無いのか。となると、サスペンションをつけただけでは衝撃を吸収できないだろうし、中の椅子はかなりクッションを効かせないといけないなぁ」
「そうだね~。いすのクッションにもばねを入れて、ソファみたいにしたほうがいいかも」
なんかすごいものが出来そうだ。
「あっ二人とも、作るのなら外からはサスペンションもベアリングも見えないようにしておいてよ」
「アルフィン様、どうして内緒にしないといけないのですか?」
話についていけないのか、ずっと黙っていたセルニアがふしぎそうに聞いて来た。
「オーバーテクノロジー過ぎるからだよ」
「オーバー・・・テクロノ・・・なんですか?」
「なんと言うかなぁ、技術レベルが違いすぎるものはあまり見せない方がいいんだよ。それによっていらないトラブルに撒きこまれる事も多いからね」
「そう言う物なんですかぁ」
あの顔は今一歩解ってなさそうだなぁ。
「そう言う物なんだよ」
説明はそこで打ち切って、笑ってそう返しておく。
もしかすると、このようなものを作っている所もあるかもしれないけど、それはそれでその技術は独占されているはずだ。
ならばその場合でもトラブルになるはずだ。
新技術は金になる。
お金ほど災いを呼びやすいものはないからね。
自分たちはそれを使いたいけど、それによって自分たちが迷惑をこうむるのだけはごめんこうむりたい。
「それじゃあ、あいしゃとあやめは試作品を作ってみて」
「はぁ~い」
「解った、早速かかって見るよ」
あいしゃとあやめ、うちの鍛冶担当の二人が作るのなら、きっといい報告が聞けるはずだ。
「お願いね。メルヴァは完成したらそれを組み込んだ馬車を作ってくれればいいから」
「解りました。あいしゃ様方の製作が成功し次第、馬車の製造に掛かります」
この時代からすると、空を飛んでいるかのようなスピードで疾走する馬車が誕生するかもしれないのか。
楽しみだなぁ。
前にストックが結構あると書いてましたが、このごろ休みに予定が入ることが多く、ストックがほぼなくなってしまいました。
ストーリー自体は頭の中でできているのですが、文章を書く時間が無いんですよね。
私の場合、一本書くのに2時間くらい掛かる上に、読み直しては修正を繰り返すのでなかなか作業が進みません。
書きたい話はかなりあるのにかなりもどかしい状態が続いています。
どうにかならないものかなぁ。
さてこのSSですが、前もってうちのHPにアップされていたのですが、先日発売になったアニメのブルーレイ初回限定版に入っていたおまけの小説で設定を決定的に否定する文が書かれていました。
各都市ってゲートで繋がっているんですね。
これではこの話に出てくる大陸間鉄道などたぶんないでしょう。
しかし、ここを変えると決定的に話が変わってしまいます。
そこで今回のような内容に少し独自設定を作らせてもらいました。
実際は大型アップデートで新エリアが開放された時もそこへ行くゲート開放のクエとかあって、それをクリアしたら行ける様になるんだろうなぁ。