ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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76 暴走と説教

 

 

 「ねぇシルフィー、湖付近にケンタウロスが居るかもしれないから索敵をお願いね」

 

 「はい、わっかりましたぁー!」

 

 馬の早駆けくらいのスピードで走るザイルの背に揺られながら私は周りを見渡していた。

 

 このスピードなら湖まで15分弱と言った所かな?

 

 エルフの視界は人のそれとあまり変わらない。

 そんな私が目を皿のようにしてがんばってケンタウロスを探したとしてもシルフィーより先に見つけるなんてことはありえないのよね。

 だからそれは彼女に任せて、私は周りの景色を楽しむ事にした。

 

 

 

 途中シャイナからの<メッセージ/伝言>に答えたりしながら走る事10分ほど。

 あまり変わらない景色にちょっと飽きてきた頃、退屈からか、ふと思っていた疑問が口から飛び出した。

 

 「草原と言う話だったからもうちょっと背の高い草が生えていると思っていたんだけど、芝生より少しだけ背が高い程度の草しか生えていないのね」

 

 そんな独り言のような私の疑問に大地の上位精霊のダオであるザイルが答えてくれた。

 

 「この辺りは見たところ土に栄養が少ない、である。であるから背の高い草はあまり生えないのではないかと考えられる、である」

 

 「そっかぁ」

 

 確かに近くに森や人里でもなければ肥料になるようなものはあまり無いだろうから、土に栄養が無いのも当たり前か。

 雨はある程度降っていて土は乾燥していないから荒野や砂漠になってないけど、それでも肥料がなければ確かに大きな植物は生えようがないよね。

 

 でもなるほど、生えている草がこれくらいの高さだからこそ、ケンタウロスはこの辺りを縄張りにしているわけか。

 馬の足では1メートル位の草が自生している場所では行動しづらいだろうからね。

 それにこれくらいの草の高さなら食料となる小型の動物もかろうじて隠れられるから、危険を感じてどこかに移動して居なくなるなんて事も無いだろうし。

 

 狩猟を主とする亜人ならば住むには適している地形なんだろうなぁ。

 

 ザイルが駆ける度に千切れ飛ぶ草の香りを嗅ぎながら私はそんな事を考えていた。

 

 「あやめ様、あやめ様、湖が見えてきましたよ。ん~、あっあれ! ケンタウロスじゃないですか?」

 

 「えっ? どこ?」

 

 そんな時、頭上を飛んでいるシルフィーが何かを見つけたように「ん~」と言いながら目を細め、どうやらそれがやはり目的のケンタウロスらしいと私に教えてくれたので、慌ててその指差す方向に視線を向けた。

 うん、向けたんだけど・・・ねぇ。

 

 「う~ん、わ・・・あたしには何も見えないよ」

 

 言われた方を見ても目の前に広がっているのはただの草原だ。

 ケンタウロスどころか湖さえまるで見えないのよね。

 

 本当に見つけたの?

 

 そんな事を考えて頭にはてなマークを浮かべる私を気遣ってか、ザイルがシルフィーに向かって自分の考えを語りかけた。

 

 「シルフィーよ、先程から走った距離を考えるとまだ湖までは3~4キロほどあるのであろう。それではエルフであるあやめ様では見通す事などできないのではないか? と我は考える、である」

 

 3キロ? それでは見つけるのは無理よ。

 いくら草原とは言え、そんなに離れていては例えケンタウロスが居たとしても砂粒くらいの大きさだろうし、それを見分ける事なんて私に出来る訳がない。

 

 「そっかぁ。ザイル、ザイル、でもあんたには見えてるんだよね? ならあっちに向かって走ってよ。あやめ様、あやめ様、それでいいですよね?」

 

 「そうね、シルフィーが見つけたのが本当にケンタウロスなら接触したいし。ザイル、多少揺れてもいいから速度を上げて。向こうが先に気づいて逃げ出されて、見失うといけないから」

 

 「解った、である」

 

 「私も逃げられないように見張っちゃうぞぉ~!」

 

 4~50キロだったスピードが一気に100キロ近くまで上がり、土煙、いや、土ではなく蹴り飛ばした草を巻き上げながらザイルが疾走する。

 そしてその横をシルフィーが、上げた速度について行く事なんか造作も無いとでも言うように、しかし前方にいるであろうケンタウロスからけして目を離さずに飛ぶ。

 

 そんな中、私は一人振り落とされないよう、涙目になりながら必死にザイルにしがみついていた。

 

 多少揺れてもいいとは言ったけど、流石にこれは・・・ねぇ。

 うん、今度からザイルに乗って移動する時は鞍と鐙をつけよう。

 

 そんなことを心に決めながら進行方向に目を向けると、確かにケンタウルスらしき亜人が10頭ほど前方に居るのが確認できた。

 そしてその姿はどんどん大きくなり、

 

 「ザイル、そろそろスピードを落として! このままでは止まれずにあのケンタウロスたちを轢いてしまうわ」

 

 「解った、である」

 

 あまりに物凄い速さで近づいていくのを見て、私は慌ててザイルに指示を出した。

 徐々に落ちていくスピード。

 そしてそのスピードが、すぐに止まっても私が振り落とされずにすむ程度まで落ちた所でケンタウロスたちのすぐそばにたどり着いた。

 

 良かった、あのタイミングで声をかけて。

 そうじゃなければ、もし止まれたとしても私が漫画みたいにピューって前方に飛ばされていたところだったわ。

 

 もしそんな事になっていたら恥ずかしくて会談どころではない。

 真っ赤になった顔を見られる前に慌てて逃げ帰らなければ! なんて事になっていただろう。

 

 「エルフの子や、ワシはケンタウロスのミラダ族の長、チェストミールと言うものじゃ。ここはワシらケンタウロスの縄張りなのじゃが、ワシらに何か用かのう? それとも知らずに迷い込んだだけか?」

 

 私が醜態を晒さずにすんでホッと胸を撫で下ろしているうちに一番の年長者かな? 白い顎鬚を蓄えたお年寄りのケンタウロスが私に声をかけてきた。

 

 う~ん、先手を取られてしまったか。

 本当はこちらから声をかけて主導権を取りたかったんだけど仕方がない。

 こうなったら多少無礼な言い方をして揺さぶりをかけながら話を進めるかな。

 

 「ケンタウロスの・・・お爺ちゃんかな? あたしの名前はあやめ。別にあたしは迷い込んだわけじゃないよ。あんたたちがうちの城を数回見に来たと聞いたから、そっちが何かあたしらに用があるかもしれないと思って出向いただけ。この近くの領主に聞いたらケンタウロスは場合によっては人を襲う事もあるって聞いたからね。もし戦いになったりしたら面倒だし」

 

 族長と名乗ってるし相手はケンタウロスの一派か何かなんだろう。

 彼らの言葉がケンタウロスの総意になる訳ではないだろうから多少気分を害したとしても後でで元でも修正は効く。

 だからここは怒らせて反応を見ようと思ったんだけど・・・う~ん、このおじいちゃん、意外と冷静だね。

 私の言葉が挑発だと解っているからなのか、それともこちらが子供だからこの程度の暴言などなんとも思っていないのか、孫でも見るかのような穏やかな笑顔を崩さない。

 

 これはやり方を間違えたかもしれない。

 これが挑発だと判断しているのならいいけど、もし子供の言う事だと侮られていたとしたら話し合いにならないものね。

 

 そんな事を考えて自らの判断の間違いをどう修整しようかと考えていたんだけど、

 

 「おい、小娘! 貴様族長に向かってなんて口のきき方だ!」

 

 話しているケンタウロスの長老ではなく別の、歳若いケンタウロスが私の挑発に乗って突っかかってきた。

 

 「なっ!?」

 

 それと同時に長老さんの表情が激変する。

 あの慌て振りからすると、挑発だと解っていてあえて作っていた表情だったみたいね。

 私はその反応に困っていたし、向こうからしたら折角主導権を完全に握れたと思っていただろうから、この若いケンタウロスの暴走は長老さんにとっては計算外だったろうなぁ。

 

 よしチャンスだ、ここで立て直すぞ! なんて私は考えていたんだけど、

 

  グルルルルルッ

 

 う~ん、どうもこの状況をチャンスだとは考えなかったものが居るみたい。

 私の下、ザイルがいきなり唸り出したのよ。

 

 あの程度の事ならこちらも確かに失礼な言動だったんだし、別にそこまで怒る様な事でも無いんだけどなぁ、なんて思いながらザイルをいさめようとしたんだけど、

 

 「ヒィッ!」

 

 先程私に対して罵声を浴びせたケンタウロスがザイルの迫力に尻餅をついてしまった。

 あら、馬の下半身で尻餅をつくって言うのは結構滑稽な姿ねぇ。

 その珍しい光景に笑いがこみ上げ、ザイルを注意するのが遅れてしまったからなんだと思うけど、

 

 「ばっ化け物め!」

 

 その尻餅をついたケンタウロスが恐怖からかその体勢のまま弓をこちらに射掛けてきたのよ。

 と言っても体勢も整わず、狙いもろくにつけていないんだからそんな矢に力など篭っているわけもなし。

 

 やれやれ。

 

 へろへろとゆっくり飛んでくる矢を見ながら、別に敵意があっての先制攻撃でも無いし、とりあえず掴み取って何事の無かったかのように話を進めましょう、そう考えて右手を前に出して矢の到着をのんびり待っていたんだ。

 けど、

 

 パァーン。

 

 私が掴む前に飛んできた矢が弾き飛ばされてしまった。

 

 「なっ!? 一体何が起こったのじゃ?」

 

 長老さんは何が起こったのか解らないみたいだけど、そんなに特別な事が起こったわけじゃなく、どうやらシルフィーが風の結界か何かで吹き飛ばしたみたいね。

 本人は護衛のつもりだろうし、ありがたい話ではあるんだけど、私のこの振り上げた右手はどうしたらいいのかしら?

 

 「私のぉ、私たちのぉ、偉大なる神でありぃ、支配者でもあるぅ、あやめ様にぃ、あやめ様にあろう事か矢を射掛けるなんてぇ! 許さない、許さない、許さないぃぃぃぃぃ!」

 

 「よっ、妖精!?」

 

 思わず赤面しながら、どうごまかしてこの手を引っ込めようかと悩んでいるうちに話が急展開。

 なんとシルフィーが私に矢を射掛けられた事に対して切れちゃったみたいなのよ。

 

 あんなへろへろな遅い矢で私がどうにかなるわけも無いのにねぇ。

 

 「ばかもん! 解らんか、あの方は妖精などと言うちっぽけな存在ではない。しくじったわい。ワシとした事が、ダオ様がいるというのに妖精と聞いてなぜ思い浮かばなかったのじゃ。多分あれは風の中位精霊であるシルフじゃ。それも普通のものではない。人の言葉を解すほどの知恵と力を持った強力な精霊様じゃろう」

 

 ん? 長老さん、ザイルがダオだって知っていたのか。

 なるほど、それで友好的だったわけね。

 さすがに自分たちでは太刀打ちできないほどの相手だと知っていたのなら話し合いで済まそうと考えるのも当たり前だ。

 

 うん、これならケンタウロス側はもう問題は無いわね。

 あと問題があるとすれば、この突き出した私の右手をどうごまかすかと言う事と、この馬鹿ちんをどうするか、よね。

 

 私たちの周りでは暴風が吹き荒れ、その風によって周りの草が舞い上げられ、切り刻まれている。

 まったく、こんなのに触れたら私たちならともかく、このケンタウロスさんたちなら細切れよ。

 

 まぁこの騒ぎなら、とりあえずこの右手は有耶無耶に出来るだろうから好都合ではあるけどね。

 

 「あやめ様、このたびの無礼はワシらの命で償う。だから他の者には、他のケンタウロスたちには慈悲を・・・」

 

 なんか長老さんが言っているけど、とりあえず無視。

 

 「う~ん」

 

 ごまかす為に引っ込めた右手をさも何かを考えているかのように見つめた後、人差し指を出してっと。

 

 「ていっ」

 

 ぺしっ。

 

 そう言って、このとち狂った馬鹿の頭に振り下ろした。

 

 「いったいぁ~い。あやめ様、あやめ様。いきなり何するんですか!」

 

 結構力を入れたからね、シルフィーは涙を浮かべながら両手の拳を振り上げて私に抗議の声を上げるている。

 まぁそれはどうでもいいとして、よし、とりあえず目論見どおり風の壁は消え去ったわね。

 

 では説教タァ~イム!

 

 「何するんですかじゃないでしょ、まったく。それにザイルも」

 

 ぺしぺし。

 

 シルフィーに対してメッと人差し指を突き出して注意をし、その後今度はザイルの頭を平手で叩いて注意をする。

 そもそもこの子が威嚇しなければこんな事にならなかったんだからね。

 

 「あんたが威嚇するからケンタウロスが怖がって混乱しちゃったでしょ。だめじゃない! 弱いものいじめしちゃ」

 

 「すっすみません、である」

 

 話し合いに行くと言っておいたのに、いきなり威嚇してどうするのよ。

 私たちの方が圧倒的に強いのは解っているのだからこの子達がやったのは一方的な弱いものいじめ。

 そんな事を許すわけには行かないのよね。

 

 「あたしたちの目的は何? ケンタウロスの殲滅だっけ? 違うでしょ。さっきあたしが言った通り、あたしたちの城をこの人たちが見に来てたからその真意を聞きに来ただけだって解っているよね? それなのに脅すは触っただけで死ぬような魔法を使うわ!」

 

 「「ごめんなさい(、である)」」

 

 とりあえず解ったようだから説教はここまでとするけど、一応最後に釘を刺しておくかな。

 

 「まったく。次同じ様な事があったら送還するからね」

 

 「なっ!? あやめ様、あやめ様、それだけは勘弁してください」

 

 「心の底から反省しています、である。それだけは許してほしいのである」

 

 私の言葉があまりに効いたのだろう、二人は額を地にこすりつけるように土下座(ザイルは4本足だから土下座と言うより伏せかな?)の姿勢で謝ってきた。

 流石にこれだけ言えば二度としないわよね。

 

 「うん、解ったなら許してあげる。だからもう絶対にしないようにね」

 

 「「はい(、である)」」

 

 うん、ここまで言えばもう大丈夫でしょう。

 土下座の姿勢から元の姿勢に戻った二人を笑顔を向けた後、私はケンタウロスたちのほうに向き直った。

 

 「お騒がせしたわね。それじゃあケンタウロスのお爺ちゃん、あらため・・・てぇぇぇ!?」

 

 向き直った先の光景に、思わず私は叫び声を上げてしまった。

 だって仕方がないでしょ。

 私の目に映ったのは4本の足を折り、先程のシルフィーたちのように土下座の姿勢で私にひれ伏すケンタウロスたちの姿だったのだから。

 

 




 とち狂うというのは本来ならふざけるとか狂ったように騒ぐと言う意味なので、使い方としては間違っているかもしれませんが、あやめ(主人公)からするとそのようにしか見えていないので彼女はこう表現しています。
 実際この程度の攻撃はあやめからしたら簡単にレジスト出来る程度のものですから、騒いでいるだけと言われても仕方がないんですよね。
 ケンタウロスにとってはとんでもない脅威ですが。

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