ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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79 ギルドと思い出

 イーノックカウについた次の日の午後、まるんたちは最初の目的地に決めて朝から訪れていた商業ギルドから出て、町の中をぶらぶらとあてどもなく歩いていた。

 

 「商業ギルドって言うから冒険者ギルドのように商業関係を一手に取りまとめていると思ったら、どちらかと言うと商工会議所みたいなものなんだね」

 

 つい先程訪れた商業ギルドの感想を私はカルロッテさんに話す。

 

 「商工会議所?」

 

 そんな私の言葉を聞いたカルロッテさんが、私の話していることの意味がよく解らないと言うような顔をして聞き返してきた。

 そう言えばカルロッテさんは冒険者出身だから商売についての知識はあまりないんだっけ。

 まぁ、この世界には商工会議所というもの自体ないかもしれないから、誰に話しても同じ反応が帰ってくるのかもしれないけど。

 

 「ああ、解らないか。商工会議所って言うのはね、う~んそうだなぁ、経営の相談や改善、後融資なんかの資金調達の支援をしてその地域の経営者をサポートする経済団体、ってところかな。要は、商売が思った以上に成功したから手を広げたいと考えた人や、逆に商売に行き詰った人が立て直すにはどうしたらいいんだろうかって考えた時に頼る所だね」

 

 正確に言うとちょっと違うんだけど、商業ギルドの説明をすると言う意味で商工会議所を説明するのならこれが正しいんじゃないかな?

 

 しかし今思えば当たり前だけど、店を開いている商人だけじゃなく旅商人や露天商もいるし、広い意味で言えば狩って来たモンスターの素材や魔法のスクロールの売買も商売なんだよね。

 もしそれを一手に取りまとめようとすると冒険者ギルドとか魔法ギルド、物を作る工業系の人達も全て支配下に置かなければいけない。

 そんな事が出来るとしたらそれはもう国家レベルの権力だ。

 たかがギルドという組織程度で出来る話じゃないから、商工会議所モドキになるのも当たり前か。

 

 「はぁ。よく解りませんが、冒険者ギルドのように仕事を斡旋したりメンバーを管理する訳ではないと言う事なんですね?」

 

 「そうだね。冒険者のように銅とか鉄とかのランクをつけたとしても、商売はたった一度の成功や失敗で大きく変わるからね。たとえばね、冒険者のランク風に言うとアダマンタイト級の商人がたった一夜にして銅級の商人になってしまうなんて事もあり得るの。そんな不安定な物にギルドがこの人はこのクラスですよなんてお墨付きは付けられないでしょ。それに仕事の斡旋と言うけど、職種はそれこそ星の数ほどあるんだから基本護衛や討伐、捕獲に救助くらいしかない冒険者ギルドとは話が違うよ。商人の管理をしている人がいるとしたら多分それは徴税官、つまり役人だろうね」

 

 商人は町に入る時と出る時に持っている荷に税金がかかる。

 この時にどれくらいの物資がこの町の中に残っているかを把握できるから、在庫を強制的に調べる権限がないギルドなんかよりよっぽど管理者として向いているんだよね。

 

 「まぁ一応登録制度はあるみたいだから、所属している人に会費としてお金を納めてもらって、困った時や手を広げたい時にそのお金を融資してもらう、そんな団体だと思うよ。ランクがあるとしたら自己申告で、ランクに応じた納めている金額によってその融資の最高額が変わるって感じなんじゃないかな?」

 

 「なるほど」

 

 よく解らないと言う顔をしながらとりあえず頷くカルロッテさん。

 まぁ、彼女は元冒険者で商売なんてした事がないだろうからよく解らないだろうね。

 かく言う私もマスターの記憶の残滓にあるデザイナーで経営者だった頃の記憶を元にして話しているだけだから、本当の意味で解っている訳じゃないし。

 

 これ以上詳しく説明して欲しいならマスターに直接聞いてもらわなければ無理。

 と言う訳で話題を変えよう。

 

 「それはそうと、品物の買取を商業ギルドでしてもらえたのは予想外で、ちょっとラッキーだったかな。私たちの国の金貨とこの国の貨幣との両替が出来たらいいなぁとは思ってたけど、持っていた宝石とかまでお金に変えられたのはホント想定外。おかげで豪遊できそう」

 

 「持ってきたお金以上のお金が手に入りましたものね」

 

 そう、今回私がマスターからお小遣い兼行動調査費用として預かってきたのは”イングウェンザー金貨"1000枚ほど。

 ところが商工会議所で買取をしてくれると言う事だったから、魔法の触媒用に持っていた宝石やちょっとした金属(出しても問題はないだろうとギャリソンが言ってくれた物だけね)を買い取ってもらえたから所持金は一気に増えたと言う訳なのよ。

 

 因みに大体の内訳は以下の通り(単位は金貨)

 

 小さいルビー     4900枚

 エメラルド       960枚

 アレキサンドライト   410枚

 ミスリル少々     1000枚

 オリハルコン少々   3000枚

 

 計         10370枚

 

 これに手数料5パーセントと税金10パーセントが差し引かれて金貨8814枚と銀貨5枚が私たちの手元に入ってきたお金ね。

 余談だけどこの税金、この都市ではなくカロッサさんに入るらしい。

 なんでも、貴族と契約している商人が物を売った時に発生した税金はその貴族に、買った時の税金はその都市に入ると言う規則になってると商業ギルドの人に説明されたの。

 

 カロッサさんのところに行った時、色々な所でただ見せれば相手に伝わる程度の紹介状を1枚書いてほしいとアルフィンの手紙に書いてあったはずなのに、なぜか蝋封までした正式な書簡をギルドや商会宛にといくつか渡されて不思議だったんだけど、こういう理由だったのかとこの話を聞いてちょっと納得してしまった。

 カロッサさん、私が物を売って遊ぶお金を捻出するだろうって読んでいたんだろうね。

 

 あとね、全部金貨で貰うと枚数が多すぎるし、金貨ばかりだと使いづらいからと言う事で850枚の白金貨と310枚の金貨、40枚の銀貨と50枚の銅貨にしてもらった。

 これで、露天でちょっと買い物をしようというときにもおつりがないから無理って言われずにすみそうね。

 

 ざっと計算して、仮に1ヶ月滞在するとしたら宿代が1泊で金貨4枚程、4人で大体480枚くらいかな。

 それと昼食代が最高で1食銀貨7枚として4人で84枚弱くらいと計算していたから滞在費用を除いた額は金貨430~440枚くらいしかなかったんだけど、これが大幅に増えた訳だ。

 当然これが全てお小遣いになるわけじゃなく、調査費用もこの中に含まれているのだから結構倹約しないといけないなぁなんて思っていたのよね。

 でも、

 

 「ふっふっふ、これで好き放題できるわね」

 

 「まるん様、笑いが悪い人みたいになってますよ」

 

 あらやだ、私とした事が。

 子供らしいスマイルスマイルっと。

 

 流石にこれは不味いだろうと、取り繕うように子供らしい表情を取り戻す。

 

 「それはともかく、お金に余裕が出来たのは確かだから商会巡りに行きましょう。カルロッテさんも欲しい物があったら遠慮なく言ってね。お小遣いは一杯あるし、本当に好き放題できるんだから」

 

 「流石にそれは・・・」

 

 「いいのいいの、こんなのあぶく銭なんだから。ぱ~っと使っちゃいましょう」

 

 なに、最悪無くなったらまたアイテムボックスから出して売ればいいんだもん。

 宝石なんてダンジョンで触媒が必要な高位魔法を連発する事になったとしても問題ないくらいは常に持ち歩いているんだから。

 

 

 

 それから私たちは散財した。

 ある店で東に素晴らしい織物があると聞けば足を運び、西に素晴らしい魔道具を売っていると聞けば飛んでいった。

 まぁ、その殆どが誇大広告のつまらない物だったんだけどね。

 

 だまされて見に行って「やっぱりかぁ」と言いながら落胆する。

 でも、それもショッピングの楽しみの一つだ。

 この無駄足には、私自身まったく後悔は無い。

 

 でも。

 

 「なんと言うかなぁ、この都市の料理。これには何と言うか・・・」

 

 正直、色々と食べ歩いてがっかりした。

 

 「まるん様、ここでは仕方がないかと思いますよ」

 

 私の表情を見、言葉を聞いてカルロッテさんがこう言ってくれたんだけど・・・。

 うん言いたい事は解るのよ、食材レベルが違うのだからイングウェンザーと比べてはいけないって思ってるんでしょ。

 

 でもね。

 

 「カルロッテさん、食材レベルの話じゃないの。確かに使っている肉とか」

 

 そう言って、先程買った露天の串焼き肉を一口かじる。

 

 「うん、口の中に広がる肉の旨みや油の旨み、素材本来の品質は確かにうちで扱っている物には遠く及ばないよね。でもさぁ、これはこれで独特の味と言うか、魅力はあるのよ」

 

 そう言いながらもう一口かじり取る。

 でもねぇ、なんと言うか一味足らない? いや、味にまろやかさが足らない? う~ん、とにかくなんか足らないのよ。

 それが何か解らないけど。

 

 「あと一味、あと一味なのよね。でも、そのあと一味のせいで全てがダメ。残念感で一杯になるのよね。一体何が悪いんだろう?」

 

 隠し味が足らないとか、そんなんじゃないのよ。

 なんと言うかなぁ、決定的に何かが足らない。

 

 「あぁ料理長を、連れてくればよかったかなぁ?」

 

 彼ならきっとなにがおかしいのか一口食べただけで私に説明してくれたはずだもの。

 そう考えながら先程とは違う食材を使った料理に手を伸ばす。

 

 ・・・不味くはない。

 でもやっぱり、どの料理を食べても何か足らないのよね。

 

 「1種類だけじゃなくこの町で食べた全ての料理に何か足りないと感じるのよね。これって一体なんなのかしら?」

 

 ここまで来ると根本的な欠陥なんだろうとは思うのだけど、いくら考えても私には解らなかった。

 

 「あのぉ~、まるん様」

 

 そんな風に首を捻る私に声をかけるものがいた。

 この旅における私の専属メイド、ユミちゃんだ。

 

 「まるん様がそこまで御考えになられて答えが出ないのであれば差し出がましいだけの行為になってしまうかもしれません。けれど何かの御役に立つかもしれないので、私に”味見”させて頂けないでしょうか?」

 

 あっ。

 

 そんなユミちゃんの言葉に私は自分の考えの無さを感じていた。

 そうだ、私の力と知識では味が違う理由など、そもそも解るわけがないのだ。

 そんなスキルを習得していないのだから。

 

 

 

 うちのギルド、誓いの金槌のNPCにはある共通点がある。

 それは女性に限った話ではあるのだけど、全ての女性キャラは料理系のジョブを1レベル以上取得しているという事。

 当然私も料理系のジョブとそれに付随するスキルを持っているのだけど、私が持っているのはコックでスキルは<調理>。

 いくつかある料理系ジョブの選択スキルの中でも一番コストの少ないものなんだよね。

 

 でも、目の前にいるユミちゃんは違う。

 この子もマスターのこだわりで料理系スキルを取っているんだけど、それは他の子たちとはかなり違った毛色のものだった。

 

 そのスキルの名前は<味見>。

 これは”料理系に特化したゲーム”のキャラなら当然持っているものだろう。

 まず味見をしなければ出来の良し悪しが解らないのだから。

 

 一見するとユグドラシルでも鑑定や解析といった物と同様、未知の食材を探し、それの調理法を確立する為に料理系ジョブに特化したプレイヤーなら真っ先に取るだろうと考えられる物に見える。

 でもユグドラシルでは<味見>と言うスキルは実の所持っているものは殆どいないはずなのよ。

 

 と言うのも、この<味見>と言うスキルは”味の構成を読み解き、料理の味をより高める事が出来るという効果”しかないから。

 こう書くとなにやら凄い効果に聞こえるかもしれないよね。

 でも考えて欲しい。

 

 ユグドラシルでは味がわからない。

 

 ・・・うん、解ってもらえたね。

 ゲーム上はフレーバテキスト並みにただの設定でしかないスキルなわけよ。

 ぞくに言うロマンビルドの設定用スキルね。

 

 ではなぜユミちゃんがこのスキルを持っているかと言うと、それは少しも深くない、でもマスターにとって大事なこだわりがある事情があったりするからなんだよね。

 

 うちのNPCたちは皆モデルになったものがある。

 彼らはオタクと呼ばれる存在だったマスターが自分の好きなキャラクターと呼ばれるものを基にして生み出されたらしいのね。

 

 それでこのユミちゃんなんだけど、モデルになったキャラクターがその物語に出てくる先輩や友人が作った物をよく味見をしていたそうなの。

 そしてその味見が基点となって色々な展開をする事が多かったからか、ユミちゃんが料理とかかわった場合は必ず味見と言うイメージがあったらしくて、大事なスキル枠の一つをつぶしてでもこの<味見>を取らせたかったんだって。

 

 閑話休題。

 

 「そう言えばユミちゃんは<味見>スキルがあったね。じゃあお願い。私のこの違和感がなんなのか教えて頂戴」

 

 私はそう言うと、手に持っていた串焼き肉をユミちゃんに渡した。

 

 「では」

 

 ユミちゃんはそう言うと、おもむろに手に取った肉串の"私がかじった所を"一口かじり取る。

 なんか顔が赤い気がするけど、初めて食べる物にちょっと興奮してるのかなぁ?

 

 そんな様子ではあるけど、ちゃんと原因を調べると言う事は忘れていなかったみたい。

 

 「解りました。まるん様、原因は塩です」

 

 「塩?」

 

 塩って、あの塩だよね? それが原因なの?

 

 「はい。詳しい内容も解ったのですが、私にはよく意味がわかりません。調べた結果を原文のまま御伝えしても宜しいでしょうか?」

 

 「そうね、お願い」

 

 それを聞いて私が理解できるかどうか解らないけど、とりあえず聞くだけ聞いてみよう。

 解らないなら解らないで、何か問題があることでもなさそうだからね。

 

 「では。・・・イングウェンザー城で使われている色々な塩と違い、この肉に使われている塩は純粋な塩化ナトリウム。電気分解で抽出された所謂食塩呼ばれるものと同じで、ミネラルなどの味を良くする成分がまったく含まれていない。対処法としては一度海草でだしをとった物などで溶き、それを再度結晶化させることによりミネラルなどを補充する事で美味しくする事ができる。だそうです」

 

 「えんかなとりうむ? みねらる? う~ん、何がなにやら。でも、純粋な塩と言うのは解るわ。確かこの世界では塩を魔法で作ってるって話だから混ざり物がない、純粋な塩だけのものが一般的なんじゃないかな」

 

 「はい、私もそう思います。お城では塩田で作った物や塩湖で取れた物、色々な岩塩など50数種類の塩を料理に合わせて使い分けていますから、それになれているまるん様は違和感を感じたのだと思います。塩は味の基礎ですから」

 

 なるほどねぇ。

 

 「でも知らなかったわ。イングウェンザー城ではそんな色々な塩を使ってたのね。その塩、全部城の中で取れるの?」

 

 私がユミちゃんにそう聞くと、横で話を聞いていたギャリソンが不思議そうな顔をした。

 ん? 私、今何か変な事言った?

 

 「どうしたのギャリソン、変な顔をして」

 

 「いえ特に変わった事はありません」

 

 ギャリソンはさも何事もなかったかのように普段通りの顔を作って私に一礼した。

 でもねぇ、

 

 「嘘はダメよ。だって、あからさまに変な顔してたもん。何かあるんでしょ。ちゃんと説明しなさい」

 

 「畏まりました、まるん様。それでは」

 

 ギャリソンはそう言うと、決意が篭った表情で私にある事実を語った。

 

 「まるん様に対して大変不敬な事と存じますが、ご命令との事ですので申し上げます。まるん様、イングウェンザー城において各種塩の採取場所設置を指示なされたのはまるん様でございます」

 

 「へっ? 私が?」

 

 うそ、だって私は今までそれだけの数の塩が城で取れる事も知らなかったのよ。

 

 「はい、確かにまるん様の御指示だったと記憶しております。それはまだイングウェンザー城が岩山に囲まれた難所にあった頃の事でございますが、本当に御記憶にございませんか?」

 

 岩山に囲まれた場所に城があった頃と言うと、ユグドラシルの頃よね。

 ちょっとびっくり、ギャリソンって、と言うかNPCってユグドラシルの頃の記憶、あるんだ。

 

 それはさておき、ユグドラシルの頃の出来事だと言うのであれば私の記憶ではダメね。

 私は心の奥底にあるマスターの記憶の残滓を引っ張り出して思い出す事にした。

 

 

 ■

 

 

 「店も順調だし、NPCたちのショーも思いのほか評判もいい。でもなぁ、どうせやるのならもっと徹底してやりたいんだよなぁ」

 

 私は廃城イングウェンザーの管理コンソールとにらめっこしながらもう一つ何か売りができないかなぁと考えていた。

 

 「料理の種類自体はもう十分だと思う。いや、昔の豪華な料理のレシピを掲載したデジタルブックが手に入ったらそれに伴って増やしていくつもりではいるけど、目玉になりそうな派手な物は和洋中、一通りそろってるからこれ以上増やしたとしても意味がないって言えば意味が意味がない。だからそれ以外で出された人が感心するようなもう一工夫欲しいんだよなぁ」

 

 コンソールとにらめっこしているだけでは何も思いつかなかった私は椅子から飛び降りた。

 と言うのも今日私が操っているキャラがメインキャラのアルフィンではなく、外見が子供のまるんだったから。

 

 マーチャントジョブを持たないまるんやシャイナはギルド本拠地にいる時は普段あまり使わないんだけど、今日は新クエが発見されたとフレンドから連絡があって、そのクエ攻略にはマジックキャスターで来てくれないかと言われたからまるんで行ったんだ。

 で、その流れのまま城で考え事をしているからまるんの姿でここにいると言う訳。

 

 さて、椅子から飛び降りた私はおもむろにアイテムボックスからギルド本拠地専用のマジックアイテムを取り出す。

 転移先はと言うと、図書館だ。

 このまま何の手がかりもなく考えていてもどうにもならなさそうだったから、適当な資料でも見てと考えたわけだ。

 

 図書館に入るとカウンターに配置してある管理人NPC、首無し伯爵をターゲット。

 

 「検索。旅行関連の昔の雑誌」

 

 音声コマンド入力で目的の物を取り寄せる。

 ここで料理関係の書籍ではなく旅行の雑誌を選択したのは専門書とか料理本を取り寄せても載っているのはレシピばかりだし、それではヒントにならないだろうと考えたから。

 その点、昔の旅行雑誌なら思わぬヒントが見つかるかもしれないと考えたわけだ。

 

 しばらくするとエルダーリッチがワゴンに乗せた雑誌を数十冊持ってきた。

 しかし、いつも思うけど芸が細かいよなぁ。

 現実世界ではいまどき紙媒体なんて存在しないのに、ユグドラシルでは紙の本を手に取って読む事ができる。

 これもゲームの中ならではの演出と言う事なんだろうね。

 

 とりあえず上から順番に手に取ってぺらぺらとページをめくる。

 特に収穫がなかった雑誌はワゴンに戻さず、そのままポンと捨てると床に落ちる前に虚空に消えた。

 見た目は本物でもデーターだからね。

 こういうところはリアルと違って便利だ。

 

 そうやって幾つかの雑誌を虚空に投げ捨てているうちに、私はある記事に注目した。

 それは”普段とはちょっと違った観光地特集”と題した記事の中にあったヒマラヤ旅行の記事で、そこにはピンク色をした岩塩とその採取場を利用した観光地の写真が載っていた。

 

 「へ~、塩って白だけじゃないんだ。それに岩塩って洞窟で取れるんだね」

 

 ゲームのアイテムに岩塩と言うものがあったから存在は知っていたけど、実際にどういうものなのかは私は知らなかった。

 そこで気になったのでもう一度首無し伯爵をターゲット。

 

 「検索。塩の種類がわかる本」

 

 待つ事数分、エルダーリッチが持ってきた本を早速開いてみると、

 

 「なんと、塩ってこんなに種類があるんだ。それに色々な食べ方があったんだなぁ」

 

 茶色だったり赤っぽかったりガラスの結晶っぽかったり。

 昔の人は色々な塩を料理や飲み物に合わせて使い分けていて、世界中の塩だけを扱う専門店まであったみたいだ。

 

 「そうだ、これがいいんじゃないか? 代表的な塩を作ってこの料理にはこの塩を使っていますてな感じで客に料理と一緒に出す。実際に味が解る訳じゃないんだから塩の外装をツールを使って変えればいいだけだし、それぞれにフレイバーテキストを付けてやれば興味を持って調べた人も喜んでくれるだろうし」

 

 そう考えて私は孤高の間まで転移して、玉座についているコンソールを開いた。

 

 「あっそうだ。どうせなら地下4階層の海やその周辺でこの塩が取れると言う事にしよう。実際あそこから外装をいじる前の塩が取れるようになっているんだし、まったくの嘘じゃないからね。では早速4階層のフレイバーテキストをっと」

 

 こうして私は地下4階層のフレイバーテキストを書き換えた後、塩の外装を幾つか作る為にその日はログアウトした。

 

 

 ■

 

 

 ・・・ホントだ、私の体を使っている時にマスターが設定したみたい。

 でも、フレイバーテキストを書き換えただけで色々な塩が取れるようになってたのか。

 

 外装まで作ってあったからかもしれないけど、万能だな、フレイバーテキスト。

 これならNPCのフレイバーテキストに”誓いの金槌を裏切る思想を持っている”なんてのを書いて置けば私たちに反抗的なNPCも作れたのかも。

 いや幾らなんでもそれはないか、ギャリソンたち見てたら創造主に対しては絶対的な忠誠心を持ってるものね。

 

 しかしこの記憶、マスターの記憶の残滓の中でもかなり奥にあったものだし、マスター自身殆ど覚えてないんじゃないかなぁ。

 案外幾つもの塩がイングウェンザー城で取れる事自体知らないかも。

 

 ふふふ、これを教えてあげればマスター、きっと喜ぶよね。

 

 帰ってマスターに逢ったら一番に教えてあげよう。

 きっと褒めてくれるよね。

 

 その場面を想像し、一人ニヤニヤと気持ちの悪い笑いを洩らすまるんだった。

 

 




 途中お金の話が出てきます。
 書籍版の方では本文からの考察で金貨1枚で銀貨20枚以上ではないかと言われていますが、このSSはweb版を基にしているので、そちらの基準に合わせてあります。
 また、物や宿(貴族級)の値段に関してはD&Dのルールを基準に算出しました。

 また、先日タグにマリみてクロスオーバーを足しましたが、使っているのは名前だけです。
 マリみてを知っている人は解ると思いますが、今回のエピソードはマリみての祐巳ちゃんとは何の関係も無いので念のため。
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