ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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81 吸血鬼とフラグ

 

 

 冒険者ギルドでは色々な話が聞けた。

 

 たとえばこの国最高の魔法使いであるフールーダ・パラダインと言うお爺さんが辺境候に弟子入りしたという眉唾な話や、リ・エスティーゼ王国が自国の村をバハルス帝国の兵士が襲って回っているというありえない話を流して帝国の評判を落とそうとしているという話とか。

 

 あとスレイン法国の実働部隊の一つがいつもなら竜王国へ向かうはずなのに今年は動いていないから、もしかすると他国に何かアクションを起す前準備をしているのではないかと言う噂。

 

 「まぁ、スレイン法国と我が国とは友好的な関係を築けているので、何かアクションを起すとしたらビーストマンの国を本格的に攻撃するとか、今現在戦争状態にあるというエルフの国に対して大規模な侵攻を開始するんじゃないかというのがギルドの上層部の考えです」

 

 「スレイン法国はエルフの国と戦争をしているのですか?」

 

 マスターからスレイン法国は人間以外は認めないって言う心の狭い国だとは聞いていたけど、戦争までしているのか。

 

 「昔は協力関係にあったという話ですが、今は関係がこじれて戦争中ですね。現在の戦況はスレイン法国が優勢らしいですから、案外本当に本格侵攻を開始して戦争を終わらせるつもりなのかもしれないですよ」

 

 「なるほど、では今はスレイン法国にエルフが近づくのはエルフの国に関係がない人でも危険ですね」

 

 「そうですね。でもまぁ、戦争中ではなくてもあの国にはエルフやドワーフは近づかないでしょうけどね。国に入ったら捕まって奴隷にされると言う話まで聞こえてきますし」

 

 うわ~、そこまでなのか。

 あやめやあいしゃは絶対に近づけちゃいけない国みたいね。

 この世界の住人の力からするとありえないけど、あの二人のどちらかに怪我でもさせてしまったら最悪の場合、マスターの怒りを買ってうちのギルドの力を総動員して国を滅ぼす事に、なんて事になりそうで嫌だし。

 

 「その他に何かありませんか?」

 

 「そうですねぇ、噂程度でいいのであればエ・ランテルという王国の都市の周辺にカーミラという吸血鬼が現れたと言う話があります」

 

 カーミラ? なんてベタな名前の吸血鬼だ。

 ん? ベタってなんだっけ? なんかマスターの記憶の残滓から反射的に出てきたけど。

 

 それはともかく、カーミラと言うのはマスターの知識で言えば代表的な有名吸血鬼の名前のはずなんだよね。

 ちょっと引っかかるし、聞いてみるかな?

 

 「カーミラですか。それ、有名な吸血鬼なのですか?」

 

 「いえ、少なくとも冒険者ギルドの記録にはカーミラと言う名前の吸血鬼がいたという記録はありません」

 

 カーミラ=吸血鬼の名前と言うのは、この世界では一般的ではないということなのか。

 って事はこの吸血鬼、もしかしてプレイヤーがらみだったりするとか?

 

 偶然この世界にカーミラと言う吸血鬼が居たとしてもおかしくはないかもしれない。

 でもマスターがこの世界に転移してきているし、過去にプレイヤーらしき人物がいたという情報も入っているのだからカーミラと言う名前の吸血鬼のアバターを使っていたプレイヤーや過去にこの世界に飛ばされたプレイヤーについてきたNPCと言う可能性がまったくないわけじゃないのよね。

 

 「そう。じゃあその吸血鬼の情報、もう少し聞かせてもらえる?」

 

 「吸血鬼の情報ですか? 少し待ってください」

 

 そう言うとリーナさんは羊皮紙が纏められたファイルのようなものを取り出して読む。

 流石に別の国の町に出た吸血鬼の話なんて詳しく知っているわけがないから仕方ないよね。

 

 しばらくして羊皮紙の中からその辺りの情報を探し出して一通り読み込んだリーナさんは、「大体の事は解りました」と言って私のほうに向き直って口を開いた。

 

 「交流があるとは言え敵対国の冒険者ギルドからの情報なのでそれ程詳しい話が伝わっているわけではないです。ですから、その辺りは御許しください」

 

 「ええ、解っています。伝わっている事だけでいいから教えてください」

 

 詳しい話が伝わっていて、その情報か全てあの羊皮紙に書かれていたのであれば、それを読むのにあんな短時間ですむはずが無いだろうからね。

 そう思って私が了承を示すと彼女は、先程調べた内容を私に伝えてくれた。

 

 「目撃したのはバニアラという女性冒険者ですね。彼女は野盗のアジトを急襲すると言う依頼を受けて行動していたのですが、その目的地で吸血鬼と遭遇し、ただ一人生き残ったそうです」

 

 「へ~、運がよかったのね。レンジャーか何かで離れていたの?」

 

 PTで行動して全滅するような相手に出会ったら一人だけ生き残れるなんて事は多分ないと思うし、もし予想通りプレイヤーやNPC相手だとしたら逃げ切るなんて事はまず不可能だろうからなぁ。

 でも私の予想は外れていたみたい。

 

 「少し説明が足りませんでしたね。連絡要員のレンジャーは別に居ました。彼女はその吸血鬼と対峙して唯一生き残った冒険者です。彼女の話によると持っていたポーションをぶつけたおかげで助かったとのことです」

 

 ポーションで生き残ったの?

 確かにアンデッドは回復アイテムでダメージを受けるけど、それだけで逃げたりするものなのかなぁ?

 う~ん、そうだ! クリティカルが出れば或いは!?

 いやいや、流石にそれは無いか。

 

 「後、カーミラと言う名前はエ・ランテルの冒険者ギルドに所属しているモモンという冒険者から齎された情報です」

 

 「そんな吸血鬼の情報を持っているなんて。その人はミスリルとかの上位冒険者なのですか?」

 

 「いえノービス、すなわち新人で銅の冒険者と記載されています。なぜ彼が知っていたかと言うと子供の頃、そのカーミラと言う吸血鬼に村を滅ぼされたからだとの事です」

 

 子供の頃に?

 う~ん、ならプレイヤーとは無関係なのかなぁ?

 もしユグドラシルのプレイヤーなら村を壊滅させるなんて事はしないだろうし、はぐれたNPCでそんな昔から居たのならこの世界の人々の強さではとんでもない脅威だからもっと大きな話題になっているはずだからね。

 

 「なるほど。ところで最初に出てきたバニアラって女性冒険者ですけど、所属していたPTのランクはどれくらいだったのですか? 野盗討伐を請け負うくらいだから、やはり金の冒険者くらいで?」

 

 「いえ、鉄の冒険者ですね。野盗と言っても街道を通る馬車を襲う程度の者達ですから銅では少し危険ですけど、鉄クラスなら十分対応できるので」

 

 なんだ、鉄クラスなのか。

 なら弱い個体であったとしても吸血鬼に出会ったら全滅するか。

 そっかぁ、どうやら私の取り越し苦労、考えすぎだったみたいだね。

 

 「鉄クラスだったのですか。この辺りではもう金の冒険者以上しかいないという話だったのでてっきりそれくらいのPTだと思って聞いていました」

 

 「ああ、この国の冒険者を基準に考えたらそうでしょうね。皇帝陛下が街道や町の警備に兵を回してくださったおかげで銀以下の冒険者の仕事が激減しましたからバハルス帝国の冒険者は上位の者意外は殆ど居なくなっていますけど、王国では未だに冒険者がその手の仕事を担っていますからね。あちらの国では鉄とか銀の冒険者が珍しくないんですよ」

 

 なるほどねぇ。

 国ごとに事情が違うと言う訳か。

 この国ではライスターさんみたいな兵士が野盗討伐に動くけど、リ・エスティーゼ王国では冒険者が依頼を受けて討伐する。

 どちらがいいかは断言出来ないけど、仕事にあぶれた冒険者が野盗になるなんて状況を見ると、今のこの国のやり方が正しいとも言い切れないんだよなぁ。

 

 「冒険者的に言えば、王国の方が住みやすそうですね」

 

 「そうですね、この国では冒険者を始めてクラスを上げる機会がかなり減っていますから。将来を見据えると、今の状況は少し困り物かもしれませんね」

 

 それに依頼が少ないとギルドへ入ってくるお金も減るし、なんて事をリーナさんはぼやいていた。

 そうだよなぁ、依頼人からの手数料でギルドは運営されているんだから。

 

 「でもまぁ、ギルドのメイン収入は高ランク冒険者の依頼ですから、今のところはあまり収入が減っているわけじゃないんですけどね」

 

 あら。

 聞いてみたところ、どうやら低ランクの冒険者が100回依頼をこなすより金の冒険者が1回依頼をこなす方が収入は多いらしい。

 おまけにそのクラスの冒険者への依頼となると、帝都にいる近衛兵くらいしか解決出来ないから必ず冒険者ギルドへ依頼が来るそうな。

 

 「なら今の状況だけ見れば、ギルド的にはあまり危機感は感じていないんですね?」

 

 「そうですね。次の世代が育ちにくいという欠点はありますけど、食べるのに困って冒険者になる人は後を絶ちませんから、絶対に育たないというわけでも無いですからね」

 

 命の切り売りをして日銭を稼ぐ人が耐えないというのも悲しい話だけど、それがこの世界なんだから仕方ないよね。

 

 さて、一通りこの辺りの情報は聞いたしそろそろお暇するかな?

 

 「噂話程度の話まで聞いたのですから、これで情報は打ち止めですよね?」

 

 「はい。伝えなければいけない情報は全て伝えたと思います。また、頂いた金額が金額ですから、後日必要と思われる情報が出てきた場合はこの木札を持ってギルドまで御越しください。ギルドにある情報でしたらお教えしますので」

 

 そう言って、リーナさんは私に焼印で印を付けられた木札を手渡してくれた。

 この人は前もってお金払ってますよぉって印の札みたいね。

 私はその札を受け取ると、

 

 「ギャリソン、預かっておいてね」

 

 「畏まりました、まるん様」

 

 そう言ってギャリソンに手渡した。

 だって、私はドレスを着ていてポケットなんてないし、ポーチも持ってない。

 アイテムボックスがあるけど、それを人前で見せるのもなんか違うからね。

 だから執事であるギャリソンに手渡したと言う訳。

 

 「あっ、後日聞きたい情報があったときは、このギャリソンがここを訪れると思うのでよろしくお願いしますね」

 

 「畏まりました」

 

 

 

 リーナさんに出口までお見送りをしてもらって私たちは冒険者ギルドを後にした。

 

 「まるん様、次はどこに向かわれるのですか?」

 

 まだ日は高く、宿に帰る時間ではないと言う事でカルロッテさんが私に次の行き先を聞いてきたんだけど、それに対して私はさも当然とでも言うように次の行き先を告げる。

 

 「さっきの話の内容から考えて、次に行くべき場所なんて墓地一択じゃない」

 

 「えっ? 墓地に行かれるんですか? でも近づかない方がいいって」

 

 うん、そう言っていたね。

 でもそれってさぁ、

 

 「私たちの国にはフラグが立つって言葉があるの。さっきリーナさんは夜にアンデッドの発生率が上がっているから近づかない方がいいって言っていたよね。これって、正にフラグなのよ。この言葉に従って墓地に行かなければアンデッドが大発生して大変な事になるって言うのがお約束だからね。なら前もって墓地を訪れてそのフラグを折りに行こうって訳」

 

 「はぁ、ふらぐですか」

 

 よく解らないって顔ね。

 まぁ、私もよく解ってないんだけどね。

 

 「それにアンデッドが湧くのって夜だけって話だから、昼間訪れても危険はないだろうし、前もって地形を見ておけば何かが起こったとしても対処できるでしょ。それに今回何もなかったとしても将来的にこの町にイングウェンザーのお店を出すつもりなのだから未来の危険に対処する為にも見ておくべきだと思う。私たちが今回この都市に来たのはここがどんな所かを調べる為だからね」

 

 「そうですね。夜は危険かもしれないですけど昼間はお墓参りに行かれる方もいるだろうから危険も無いでしょうし。では参りましょうか」

 

 カルロッテさんの同意も得られたので、私たちはイーノックカウ外周の防護壁近くにある墓地へと向かった。

 

 

 

 たどり着いた墓地は想像以上に大きく、周りを石の壁で覆われていて、その壁の上を兵士が歩く事ができるような造りになっていた。

 なんと言うかなぁ、砦の壁って感じ。

 アンデッドが壁の近くまで来たら上から攻撃できるようになってるんだね。

 

 そしてその壁の一箇所に大きな鉄の門が作られていた。

 夜になれば墓を町とを隔てる壁の一部になるであろうその頑強な扉だけど、今は墓地を訪れる人たちのために広く開け放たれていて、外から覗いて見ると墓地の中には花を持った人がちらほらと見受けられた。

 

 「まるん様、平和そのものです。今の時間帯の景色からはこの墓地にアンデッドが湧くなんてとても想像もできないですね」

 

 「そうだね、ただこの地形が・・・ねぇ」

 

 門の前は噴水のある広場になっていてそこから町へ向かって4本の道が扇状に広がっていた。

 なんと言うかなぁ、ホラー映画でよくある、あふれ出したゾンビが一斉に広場になだれ込んで、そのまま町へと襲い掛かるってシチュエーション? その舞台にしか見えないんだよねぇ、これが。

 

 「この地形がどうかしましたか?」

 

 「いや、なんでもないよ」

 

 私の目からしたら不安をかき立てられるロケーションではあるんだけど、これを説明しても解ってはもらえないだろうし、たとえ理解できたとしても無駄に不安にさせるだけだろうから私は言葉を濁した。

 

 「まるん様、それにしても立派な壁ですね。それに扉も頑丈そうで。これならちょっとやそっとの事ではビクともしないと思いますよ」

 

 そう言うと、カルロッテさんは頑丈な石壁をぺしぺしと叩いた。

 あ~、そう言うのもフラグになるんだけどなぁ。

 そんな事を考えながら苦笑いを浮かべていると、笑い声とともに聞き覚えのある声が私たちに後ろから語りかけてきた。

 

 「ハハハ、それはそうですよ。なにせこの壁と扉は我がイーノックカウの外部防護壁と同様の強度を誇っていますからね」

 

 その声に振り返ると、そこにはつい先日この都市にくる馬車でご一緒した見知った顔が。

 

 「えっ? ヨアキムさん?」

 

 墓地や壁に気を取られて気が付かなかったけど、今この墓地の入り口を警備している兵士さんの一人がライスターさんたちと行動をともにしていたヨアキムさんだった。

 

 「ヨアキムさん、帰ったばかりなのにこんな仕事もするんですね?」

 

 「はいまるん様、今は人手不足ですからね。隊長は報告書等の事務仕事に追われて本部に篭っていますけど、我が部隊は巡回や各所の警備についています。私も帰還した次の日は休みを頂きましたけど、次の日からここに詰めていますよ」

 

 なるほど、確かに人手不足なら遊ばせている余裕はないよね。

 

 「ところでこの壁、そんなに丈夫なんですか?」

 

 あ、カルロッテさん、そんなよけいな事聞いちゃダメだって。

 フラグが、フラグが立ってしまう!

 

 「ええ、先程も言いましたが外部防護壁と同じ素材を使用して、厚さもそれに準じていますからね。それにこの門も一人では開け閉めできないほど重く、頑丈に出来ています。10や20のスケルトンやゾンビがいきなり湧いて襲ってきてもビクともしませんから安心してください。それこそ100体以上のアンデッドが同時に攻撃を仕掛けない限り破られる事はありませんよ」

 

 「なっ!?」

 

 なんてこったぁ!

 これ以上ない程のフラグ立てじゃないか。

 

 もう間違いない、今夜ゾンビが大発生する。

 そしてこの都市は死者の町になるんだ。

 

 ガクブルガクブル。

 

 そんな想像をして震えていると、後ろから軽く肩に手を添えられ、優しく声をかけられた。

 

 「まるん様、なにやらおかしな御想像をしていらっしゃるようですが、100や200のアンデッドが発生した所で物の数ではないのではないでしょうか?」

 

 「えっ? ああ、そうか! 確かにユミちゃんの言うとおりだね」

 

 私の顔色が悪くなったのを見て、ユミちゃんが心配して声をかけてくれたみたい。

 でも、そう言えばそうよねぇ。

 なんかホラー映画のイメージで怖がっていたけど、1~2レベル程度のゾンビやスケルトンなんてそれこそ1万いたって私たちの脅威にならないのを忘れていたわ。

 

 「ありがとうユミちゃん。もう大丈夫よ」

 

 私はそう言うとユミちゃんに微笑みかけ、改めて目の前の墓地を見る。

 余裕が出てからこの墓地を見渡してみれば別段怖がる要素は何も見当たらないのよね。

 それにゲームの世界ならともかく、現実の世界ではフラグも何もない。

 いくらフラグを立てた所で実際にそれが起こるなんて事はないだろう。

 

 今までの馬鹿な考えに苦笑いしながら、まるんは広場の中央にある噴水の縁に腰掛け、談笑するカルロッテとヨアキムの姿を見つめるのだった。

 

 




 今回の話を書くに当たって読み直して気が付いたのですが、web版では冒険者のクラスは鉄とか金じゃなく、AとかBで表現されていましたね。
 今更変える訳にはいかないのでweb版準拠を謳っていますが、これに関してはこれまで通り鉄とか金で表現します。
 ただ、キャラクター名はweb版で。

 あと吸血鬼関連の話では意図的に色々と情報を省いています。
 本編でも書かれている通り敵国からの情報なのに詳しく伝わるのも変だし、何よりこの話から別のプレイヤーががかかわっていると感付かれても物語的に困るので。
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