ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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91 微笑ましい女王

 

 「ロクシー様、ワインをお持ちしました」

 

 わたくしが思い出し笑いをしていると、メイドが先程頼んだワインとちょっとしたおつまみを運んできた。

 そしてわたくしの前で栓を抜き、赤ワインをデキャンタをしてからテイスト用の小さなグラスに少し移して口に含み、そしてつまみを一口食べて毒が入っていない事を確認してから私の前にセッティングしていく。

 そしてそれが一通りすむと最後にグラスを目の前でマジックアイテムを使って浄化した布で一拭きし、ワインを注いで一礼。

 

 「それでは御用があれば声をかけてください」

 

 と、一言断ってから定位置である扉の横に移動して行った。

 

 クイッ。

 

 わたくしはそのワインを一口。

 ほぅ吐息をついてから中断していた思考を再開する。

 

 『オリハルコンとミスリルをクリエイトマジックで作成ですか? ・・・なるほど、それは考えた事がなかったですね』

 

 そう言った彼女はなにやら考え込むような素振りをしていたわね。

 それを見てわたくしはてっきり、どのような方法で切り抜けようかと考えているのだと思ったのだけれどアルフィン様は次にとんでもない事を言い出されました。

 

 『そう言えば希少金属も無機物。クリエイトマジックで作れない道理はないですね』

 

 そして後ろに控えていた執事にミスリルの塊を用意させてクリエイトマジックを発動されたのよね。

 あれには驚いたわ。

 まさか”誤魔化す為”にそこまでするとは思わなかったもの。

 そう、この時はそう言った穿った目であの方をわたくしは見ていました。

 

 ところが、

 

 「ふふふっ、まさか本当にミスリルが作れるかどうか試していたなんて」

 

 『う~ん、私のミスリル銀への理解力が足らないのか、それともそもそも魔力を含んだ希少金属は魔法で作る事が出来ないのか。これはかなり興味の惹かれる題材ね。もうちょっと研究してみようかしら』

 

 そんな事を呟いて考え込んでしまうんですもの。

 実の所、初めはこれも言い訳をする為のフェイクだとわたくしは思っていたのよ。

 それなのに一向に何も仰らない。

 先程のような独り言らしき言葉さえ発せず、まるで周りには誰も存在しない自室で一人物思いに耽るかのように考え込まれてしまわれたのです。

 

 わたくしを謀るつもりならば、これこの通り魔法を発動しても出来ませんよと仰るだけでいいものを、わたくしが疑っていた内容に対する言い訳をする素振りさえ見せなかったのよね。

 あれには本当に驚いたわ。

 挙句の果てには執事に強めに声をかけられるまでわたくしを放置すると言う”国同士”の会談ではありえない行動までなされて、それを執事に窘められ、慌てて謝罪するなんて。

 あまりの事にわたくしは、あっけに取られてつい口走ってしまったほどです。

 

 『(宝石や希少金属を作るタレントを持っていることを)否定はなさらないのですか?』

 

 と。

 それを聞いた時のあの驚いた顔ときたら。

 ふふふっ、本当に驚かれて抜けたようなお顔をなさって。

 

 「あれは間違いなく、アルフィン様の素の表情なのでしょうね」

 

 何の事を聞かれているのか本当に解らないと言う顔で『否定と申しますと?』なんて聞き返してくるのですもの。

 わたくしもとっさにどう返していいものかと考えてしまったわ。

 でも、そのおかげでアルフィン様がそのようなタレントをお持ちでない事が解りました。

 実際にお持ちならあのような表情をわたくしに見せるわけも無いですし、我が国のマジックキャスターが解らなかった宝石をクリエイトマジックで作れない理由を口にする事は無かったでしょうから。

 

 あのお方は解っていらっしゃらないのでしょうね。

 魔法の研究成果というものはどんな些細な事であってもそう簡単に他国には洩らさないと言う事を。

 アルフィン様は私の問い掛けに対してこう仰られました。

 

 『宝石は長い年月をかけて土の中で変質してできたものですから。それを短期間で作ると言う事は時間を操るのと同じ事です。時間を操る事が出来ない以上、宝石をクリエイトマジックで作る事は出来ないと言うのが我が国での定説なのです』

 

 宝石がどのようにしてできるのか、それを研究している者はこの国にはおりません。

 それはそうでしょう、あれは地に埋まる資源である原石を掘り出して加工する事により生み出すものであり、人の手で作り出すものではないのですから。

 ですから当然宝石が”長い年月をかけて土の中で変質してできたもの”と言う事を私は知りませんでした。

 そしてだからこそ時間を操る魔法が使えないからと言う、なぜ宝石がクリエイトマジックで作れないかと言う理由にたどり着く事はこの国の者では誰にも出来なかった事でしょう。

 

 「逆説的に言えば時間を操れるのならば宝石を作る事が出来るかもしれない」

 

 実際には誰にもできない事なのでしょうけど、この事実は魔法を研究しているものにとって金塊にも勝る情報でしょう。

 それをいとも簡単に口になされたのは、本当に作る事ができないとお考えになられているからに違いありません。

 

 「そういう意味では、確かに意味のない情報なのかしら?」

 

 まぁこれに関してはわたくしでは何も解らない事ですし、帝城の研究者たちに任せる事としましょう。

 

 クィッ。

 

 わたくしはもう一口ワインを口に含み、その香りを楽しみながらワイングラスを魔法の明かりに向ける。

 

 「美しい赤。それよりもなお美しいあのルビーが二つある理由があのようなものだったなんて」

 

 流石にわたくしも予想だにしていませんでした。

 規格より小さい物はアクセサリーに加工しやすいよう、統一された規格の大きさに削りだされて流通しているだなんて。

 そしてあの場に出されたあの大きなルビー。

 

 「我が国で売り出されれば金貨1万枚、いや、もしかするとそれ以上の値が付くのではないかしら」

 

 あれほど大きな物は帝城の宝物庫にも無いでしょう。

 それが普通に流通している都市国家イングウェンザーと言うのはどのような国なのでしょう?

 おまけに、アルフィン様の表情に驚いてうやむやになってしまいましたが、貴重なミスリルやオリハルコンを大貴族とは言え子供がさも当然のように塊で持ち歩くなど、我が国ではありえないことです。

 

 「あの執事もアルフィン様に請われた時、小さな塊とは言え、さも当然のようにカバンから取り出しました。と言う事はかなりの埋蔵量がある鉱脈がイングウェンザーにはあるという事なのでしょうね」

 

 ならば近衛兵や上級の騎士は当然のように全身をミスリルやオリハルコンの武具で固めている事でしょうし、その上でロックブルズの言葉を信じるのならば帝国四騎士を上回る戦力まで複数所属していると言う話。

 我が目で見、我が耳で聞いた事ではありますがあまり信じたくない事です。

 

 「やはり都市国家イングウェンザー、できる事なら敵に回したくはないですね」

 

 先程の結論付けたとおり、アルフィン様にその気がないのが唯一の救いでしょう。

 あのお方はお若いのに聡明ですから、戦場では個の力が戦局を覆す事ができる事を知っていると同時に、物量によってその個の力を無にできる事も理解なさっているのでしょうね。

 

 いくら強くとも同時に二箇所に存在は出来ません。

 ですから攻めるに強い力であっても、事防衛となれば数には勝てないという事を理解なされているのでしょうね。

 

 戦力といえば、もう一つ脅威なのはアルフィン様の癒しの力です。

 報告によればボウドアの村では40名以上の骨折を含む重傷者を一度の魔法で癒したとの事。

 その40名以上と言うのが上限だとは考えられない事から、もし都市国家イングウェンザーと戦う場合、兵士にとどめを刺さなければあっと言う間に全快して此方に襲い掛かってくるという悪夢のような場面が展開される可能性があると言う事。

 

 それもただの兵士ではなく、我が国が誇る帝国四騎士を上回る力を持つ者たちがです。

 一軍にも匹敵する程の個の戦力に幾多の犠牲を払い、やっとの事で致命傷を与えたと思った次の瞬間アルフィン様の手により癒されて再度無傷で襲い掛かってくると言う恐怖。

 

 わたくしが兵士の立場ならば、その場で背を向けて恥も外聞も無く逃げ惑う事でしょう。

 

 「唯一の救いはアルフィン様が復活の魔法をお使いになられないと仰られた事かしら」

 

 正直それだけの魔法をお使いになられるアルフィン様が復活の魔法を使えないというのは信じられません。

 しかしアルフィン様はこうも仰られました。

 

 『死は絶対であり誰にでも訪れるもの。それを覆すなど、神が御許しになるとは思えないのですが・・・』

 

 神聖魔法は神の力を借りて行使されるものと聞きます。

 それならば神が御許しになるとは思えないとお考えになっているアルフィン様が使えないのはある意味当然の事なのかもしれません。

 しかし、

 

 「やはりあのお言葉だけは鵜呑みにするべきではないかもしれませんね」

 

 あの時アルフィン様は突然話題を変えました。

 それはそれまでの会談の中ではなかった事。

 そう考えると早くあの話を切り上げたいという、アルフィン様の無意識の行動だったのではないでしょうか?

 

 「まぁ、アルフィン様のお人好しが顔を出しただけなのかもしれませんが」

 

 あの時、わたくしが『アルフィン様が復活の魔法ををお使いになる事ができるのであれば、もしもの時に心強いと思ったのですが・・・』と話を続けているにもかかわらずアルフィン様が急にロックブルズに声をかけ、呪いの話をしだした時は少し違和感を感じました。

 あれはもしかすると、実は復活の魔法を使える事を隠したいというアルフィン様の思惑がつい出てしまった若さから来る失敗なのかもしれません。

 ただ、その後の行動を考えると、ただその呪いが気になっただけという可能性も捨てきれないのですけどね。

 

 「ロックブルズのあの失礼な態度に腹を立てることなく、わざわざ説得までして解呪なさったのには驚きました」

 

 王族と言うものは、いや大貴族もその傾向が強いのですが、多くは下の者が苦しんでいたとしても気に止めないものです。

 国民や領民から慕われる人格者と呼ばれるものであったとしても、相手から乞われなければそれに対処する事はまずないでしょう。

 しかしアルフィン様はロックブルズの失礼な態度や物言いに対し『恐れる事はありませんよ。解けない呪いなんてこの世にはないのです。私が見てもし解けなかったとしても、我が城にいるほかの者が解けるかもしれません。その為にも、とにかく一度見せてはもらえないかしら?』と説得までして解呪を試みました。

 

 この光景を目にした時、わたくしは訝しく思ったものです。

 だってそうでしょう、ロックブルズの呪いを解いた所でアルフィン様には何のメリットも無いのですから。

 

 そしてその後に行使された魔法は本当に素晴らしいものでした。

 我が国の高位の神官が誰も成し得なかったロックブルズの呪いをいとも簡単に解いてしまったのですから。

 解呪された彼女の顔には染み一つ無く、アルフィン様の治癒の力の凄さには本当に驚かされたものです。

 

 ところがその魔法の凄さに関心をしていたわたくしは、呪いを解かれたロックブルズの言葉を聞いてしてやられたと思いました。

 我がバハルス帝国の最大戦力、四騎士の一人が事もあろうにアルフィン様に剣を捧げたいと言い出したのですから。

 

 先程訝しく思ったアルフィン様にとってのメリットとは何だったのか? そう、あの方はロックブルズの心を読み、自分たちの陣営に取り込むためにあのような行動に出たのだとあの言葉を聞いて私ははじめて気が付いたのです。

 いや気が付いたつもりになったのです。

 

 「前もってわたくし自身がロックブルズの事を『この子は帝国四騎士の一人で重爆の異名を持つ我が国の誇りなの』とアルフィン様に教えてしまっていたのだから、今この状況に陥ったのはそのロックブルズにアルフィン様が目をつける可能性を失念していたわたくしの失態だと、この時は思っていたのでしたね」

 

 きっと私の顔は驚愕に染まっていた事でしょう。

 ところがアルフィン様は予想外の行動に出られました。

 私の顔を見て困ったような顔をされた後、こう仰ったのです。

 

 『レイナースさん、私はあなたの忠誠を受け取る訳には参りません』

 

 わたくし、自分の耳を疑いました。

 だって今士官を断られたのは我が国で最高の攻撃力を持つと言われる重爆なのですもの。

 その上、あのお方は説得までしてロックブルズを思い留まらせようとなされたのですから、私の考えは検討違いも甚だしいものだったのでしょうね。

 そんな思惑は無く、ただロックブルズを哀れに思い、呪いを解いてあげたかっただけだったようなのですから。

 

 そのやり取りを聞いて、私はこの少女の心根に歓心をしました。

 と同時に、大層驚きもしました。

 

 王族と言うのは敵が多いものです。

 しかし、都市国家イングウェンザーが豊かな国だからなのか、裏の醜い部分は部下が全て処理をしてくれるからなのかこの女王は少女らしい優しさを残したまま君臨している事が解ったのですから。

 

 ただ、ひとつ気になる事もありました。

 それはアルフィン様がロックブルズの事を国の誇りと呼ばれ、国民たちから慕われているから忠誠を受け取れないと言われたことです。

 

 もしかしたらアルフィン様は重爆の力を、本当の価値を知らずにお話になられているのでは?

 

 そう思い当たったとき、わたくしは心の臓が震えました。

 だってそうでしょう。

 もしわたくしの考えが正しく、その価値をアルフィン様が後で知ってロックブルズに声をかけたとしたら?

 我がバハルス帝国は中枢に重爆と言う最悪の楔を打ち込まれる事になるかもしれないのです。

 

 彼女は帝国四騎士と言う立場から皇帝と行動を共にすることが多く、その気になれば簡単に暗殺をする事が出来る立場に居るのですから、もしそのような事になればとんでもない事です。

 

 『本当に、宜しかったのですか?』

 

 私の声は震えていた事でしょう。

 しかしこれは絶対に確かめなければならない事でした。

 ここでその疑問を解かなければ、ロックブルズを皇帝のそばに置く事などできません。

 それすなわち、わたくしの失態で我が国最大戦力の一角を失うという事なのですから。

 

 ところがこれもわたくしの杞憂でしかありませんでした。

 

 『でもごめんなさい。やはりあなたの忠誠は受け取れません。なぜならあなたは私が考えていた以上にバハルス帝国に必要な人材だと解ったのだから』

 

 わたくしからロックブルズの真の有用性を聞き、アルフィン様は大層驚かれました。

 その事実を受け止め、心の中でよく租借し、そして冷静に判断を下されてから落ち着いた口調でこう仰られたのです。

 

 ロックブルズを受け入れるという事は我が国と戦うという事であり、それすなわち自分たちと懇意にしている村を戦場にするという事、それは許容できないからロックブルズの忠誠は受け取れないと。

 

 そして、きっとこの言葉に嘘はないでしょう。

 その証拠にこの時初めてアルフィン様は、大輪の花が咲くような笑顔でも常に浮かべていた落ち着いた微笑でもなく、女王としての威厳を持つ表情をしていたのですから。

 

 そしてアルフィン様はまた先程までの微笑を携えたお顔になって私にこう申されました。

 

 『ロクシー様、私は無用な争いを好みません。ですからレイナースさんがどれほどのお力を持っていたとしても私が望む事はありません。私が求めるのはただの平穏な日常です。ですから戦力を求めない事をそれ程驚かれる必要はないのですよ』

 

 裏でロックブルズに接触したとしても戦争になります。

 これはわたくしの不安を感じ取り、その心配はないというアルフィン様の意思表示だったのでしょう。

 だからこそ、わたくしはこの言葉を送りました。

 

 『なるほど、アルフィン様は剣より花を愛される方なのですね』

 

 その言葉に、

 

 『はい、後できれば美味しいお菓子もあるとうれしいですね』

 

 アルフィン様はそう仰られて、私が初めて正体をあかした時に見せてくれた満面の笑みを浮かべてくれました。

 この少女には政争の場は似合わない。

 だからこそ、わたくしはアルフィン様をパーティーにお誘いしました。

 

 幸いな事に受けていただける事になったのですが。

 

 「わたくしだけで相対するのは少しもったいないですわね」

 

 これだけ美しく、機転が利いて心根も優しい少女なのですからきっと気に入ってもらえる事でしょう。

 

 「ふふふっ、アルフィン様、少し驚いていただく事になりますわよ」

 

 そう言って楽しげに夢想しながら、ロクシーはグラスに残った赤ワインを一気にあおるのだった。

 




 いつもはこの世界の人たちが深読みしすぎてアルフィンたちを過大評価するのですが、今回はアルフィンがロクシーを過大評価していたというお話でした。
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