Fate/Grail Seeker   作:てんぞー

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人はパンのみにて生くるにあらず Ⅵ

 いってしまえばゾンビ一体一体はかなり弱い。戦闘力では底辺のアンリ・サンソンでさえその戦闘向きではない、処刑特化の剣で一撃で殺せる程の脆弱さだ。とはいえ、英霊となっている時点で並み居る人間を軽く凌駕するだけの能力は手に入れているので、相手にすらならないのは当たり前だ。それはアンリ・サンソンだけではない、自分にも言える事だ。ジャンヌの肉体に変態している自分は、受肉した英霊相当の身体能力を発揮できる。魔力のみで構成されている英霊と比べれば多少面倒があるのは事実だが、それでも成長する事の出来る肉体を得ている、というのは他の英霊にはない特徴であり、

 

 ―――つまりは、戦えるという事だ。

 

 振り下ろした槍が頭から股を抜けるようにゾンビを両断し、突き刺してから力を入れ、飛ばす様に槍を振るう。突き刺した先から体が吹き飛び、此方に届くことなく相手が飛んで行く。合わせるように横に振り抜きながら飛び上り、槍を叩き落とす様に振るえばそれでまたゾンビが数体、紙切れの様に一瞬で蹂躙されながら散って行く。その姿には悲鳴も、痛みを受ける様な姿もなく、ただただ無音のまま、肉が破ける音と潰れる様な音だけを響かせて死んで行く―――否、既に死んでいるのだから解放とも言えるかもしれない。

 

「マスターが戦う必要はないです。元々マスターは戦闘を行わず、後方から支援や指揮するのが本来のあり方です。ですから一緒に戦わなくても問題ありません」

 

『止めないで上げてください、アンリ。マスターは―――止まっていられない様なんです』

 

 止まれない。止まってはいけない、きっとそれはいけない事だというのが直感的に、もしくは【啓示】として伝わってくる。言葉にできない。だが胸に浮かび上がってくる感情がある。まだ吐き気や気持ちの悪さが、生理的嫌悪感が体の中にはある。それでも、自分の中にある何かが、決して、目をそらしてはいけないと言っている様な、そんな気がした。目の前の死からは逃げてはならないと。

 

『こうなってしまえば終焉を与えない限りはその魂が解放される事はありません……放置していればゴースト化する可能性もあります。悲しい話ですが、完全に活動停止する様に再殺するしかないでしょう』

 

「一旦ここから脱出したらアルトリアの【最果てにて輝ける槍】を撃って、シェルターごと崩落させるんが一番でしょう、これは予想ですけど、このシェルター内で生きている人間は一切存在しない―――そんな気がします」

 

「なる、ほど……!」

 

 槍を振るい、ゾンビを裂く。そうやって活路を生み出しながら一気に地下シェルターの入り口にまで到着する。閉まっている鋼鉄の扉はサーヴァントの筋力に物を言わせて一気に蹴り抜き、こじ開ける。

 

「アルトリア!」

 

『今戻る』

 

 念話で言葉をアルトリアへと送った直後、流星の如く闇を切り裂きながらアルトリアが一瞬で目の前に降り立った。

 

「またせたな。引きつけるように戦っていたが、ドンドン怪物共が増えていたぞ。もはや完全に生存者の気配もない。遠慮なくやらせてもらう―――【最果てにて輝ける槍】」

 

 喋りながらシェルター内にロンゴミニアドの光がさく裂し、シェルター内を光で演出しながら破壊して行く。一気に揺れ始めるシェルターから脱出する為に、振り返る事なく一気に階段を駆け抜けて行き、地上へと扉を粉砕しながら突き進み、飛び出す様に地上へと一気に出る。軽く地上の大地を滑るように着地しつつ、息を吐いて振り返る。視線をシェルターの方へと向ければ、もう一度アルトリアが【最果てにて輝ける槍】を放ち、完全に上がってくる道を粉砕したのが見えた。いくら脳のリミッターが外れた死人であろうとも、ここまで破壊されつくせば上がってくる事は出来ないだろう。

 

 逃げ切った事実に息を吐き、そしてその場に座り込む。焦りのあまりか、服装をジャンヌの戦闘装束へと変える事すら忘れていた。今更感が漂うが、服を変えようとし、

 

『あ、ちょっと待ってください。折角なら私服にしましょうよ私服! 実はコッソリト現代服の案を纏めてたんですよ! 名付けてJKジャンヌ』

 

「お静かに」

 

 戦闘が終わった事に息を吐きながら、ジャンヌから押し付けられてくるJKジャンヌのイメージをかきけし、激痛に耐えながら元の自分の姿へと戻り、その場に座り込みながら破壊してしまったシェルターの方へと視線を向ける。完全に崩落してしまった入口から出てくる人間はいないし、アルトリアが言うには生存者は一人も存在しなかったらしい。

 

「―――俺が寝ている数時間の間に一体何が起きてたんだ」

 

 視線をアンリ・サンソンへと向けるが、彼は肩をすくめ、解らないと答え、戻って来た鎧姿のアルトリアも、頭を横に振る。

 

「私が知っているのは電灯が消え、暗くなってから血の匂いが溢れはじめた事だ。その直後にはマスターを起こして行動を開始した筈だが―――あまりにも用意周到としか評価が出来ないな。まるでシェルター内にいた者全員が示し合せた様に自殺を実行し、そして守護していた結界があわせて消えた。おかげで世紀末でパニックホラーを経験する事になってしまったではないか」

 

「誰が―――と言う必要はないか?」

 

『殺生院キアラ、ですか』

 

 恐らく、この惨状を生み出す事が出来るのは彼女以外には存在しない。いや、心当たりが彼女しか存在しないとも言える。しかし、意味が解らない。なぜこんな、外道を容易く行う事が彼女には行えたのだろうか? それを考えたところで応えは出ないのだからしょうがないのだろうが、それでも悩みたくなることではある。溜息を吐きながら、久しぶりに人間との交流だったのに、なんて事を思いながら立ち上がれば、

 

「安心してください、マスター。これは間違いなくあの女の仕業です―――そしてこれは間違いなく”悪”だ」

 

 アンリ・サンソンはそれを断言した。そして、

 

「僕の宝具【死は明日への希望な(ラモール・エスポワール)り】は前提条件が面倒だ。一つ目の条件が相手がサーヴァントである場合、そのアライメントを知る事であり、それ以外の存在に関しては”その存在が明確に善か悪かをカテゴライズする”という事にあります。そのまま使えば対人宝具にしかなりませんが―――」

 

 アンリ・サンソンは言葉を続ける。

 

「―――僕が心の底から悪と断定した存在に対して”問答無用の死を与える”事が宝具の効果としてできます。相手が視界範囲内にいる事が条件になりますが。ですが次回、もしまたあの女と会う様な事があれば、問答無用で絶対に殺せます」

 

 その言葉は心強かった。なぜなら、今回の件、結果としてはアンリ・サンソンの進言が一番正しかったのだから。あの女、殺生院キアラに関しては間違いなく、一番最初に殺しておくべきだった。そうすればこんな事態が発生する事もなかったのに。まるで災害の様な女だった。ただ次回であった場合に対する対策はアンリ・サンソンの宝具でどうにかなるのだ、だったら何時までもグチグチしていてもしょうがない。過ぎ去った事は過ぎ去った事として、前に進まないといけない。

 

 今の日本に甘えを許す様な余裕は存在しないのだから。

 

「あーあ……結局どうすんだよこれ。補給できたと思った傍から吹っ飛んだぞ色々と」

 

 主に荷物の類だ。寝袋を始めとして狩猟道具、料理道具、そういう旅の為に用意しておいた道具全般がなくなってしまった。またどっかでスカベンジして入手しないと、面倒な事になってしまう。いや、既に十分めんどくさい事になっているのだが。まぁ、サーヴァントと戦うことほど面倒ではないので、それが救いなのかもしれない。はぁ、と息を吐き、ごろりと寝転がる。

 

「どうしよう。一気に冬木にまで行く予定だったけど、物資不足でそんな事言える状況じゃなくなっちまったな……」

 

「渋谷? にもシェルターはあるらしいのだ、そこへ向かって調達すれば良かろう。何、其方の運はそこまで悪いものではない。悲嘆せずとも良い、その内運が巡り、幸運が訪れる事もあろう」

 

 アルトリアの慰めが少しだけ嬉しい。しかし時間帯は夜。体力の事や魔力の事を考えるとそろそろ、もう一度眠り始めたい所だが、まずは寝床の確保をしなくてはならなくなってくる。しかしこんな夜中に移動をするとなると、明かりが必要になってくる上に、それで敵を引き寄せてしまうのはさすがに面倒だ。手加減していたとはいえ、【最果てにて輝ける槍】を二発叩き込んだのだ、魔力もそこそこ消費している。出来るならあまりうろつきたくはない。

 

 周囲へと視線を向ければ、廃墟の姿が見える。溜息を吐きながら護衛をアルトリアに任せ、アンリ・サンソンを霊体化させて歩き始める。最低限雨風をしのげる場所さえあれば、それで今夜はどうにかなる。なんでこうなってしまったのか、溜息は口から漏れるばかりで突っ切る事はない。暗闇の中とはいえ、目も段々それに慣れてくると、瓦礫を避けながら進む事もできる。

 

「一体、どんな理由でこんな事を起こしたんだろうな、キアラって女は」

 

『人はパンのみに生きるにあらず―――食べるだけ、生きるだけなら誰でも出来ましょう。ですがわれわれにとって重要なのは生きる事ではなく、その生きる事に意味を持たせる事です。生きるという事の本質、その意味を捉え、そして実行する事にこそ人の生がある。私には彼女が犯人だったとして、その行いを肯定する事も理解する事も出来ないでしょうが―――おそらく、そこには彼女だけの”生”があったのでしょう。パンを求める事以外の何かが』

 

「つかお前ら三人揃ってキアラが犯人だという根拠は」

 

「王としての経験と勘だ。なんかモルガンっぽい感じがした的な」

 

『聖女としての勘と神からの啓示です』

 

『体の汗が乾ききっていない上に性行を行ったばかりであるというのが体が見て取れるのに集団の中にはキアラの姿がなかった事から、彼女と交わった結果、こういうカタストロフックな状況になってしまったと判断しています』

 

「お前らドルオタ相手に思いっきり負けているぞ。いいのか、それで」

 

 その言葉にジャンヌとアルトリアが一瞬黙る。もしかして、このパーティーで一番の頭脳系って、アンリ・サンソンなのではないだろうか? 何気に医術をかなり高いレベルで習得しているから学歴がある事が保障されているし、アルトリアは元々ただの娘で、剣を抜いてしまった為に王となった。ジャンヌも最初はただの村娘であり、二年間の間に従軍し、成果をあげた聖女だ。

 

 明確に学歴持ってるのはアンリ・サンソンだけであり、そいつがドルオタである事実に絶望しかける。こんなのはあんまりだ。もっと高学歴のサーヴァントを召喚しないと。キャスターでスカサハとかいい感じじゃないだろうか。何人ものキチガイ戦士を育ててきたスカサハ先生なら頭が良さそうだ。

 

「ロンを放てばワンパンで倒せるから」

 

『【紅蓮の聖女】があるので』

 

『アサシンを殺すのに自爆するルーラーとか新しいですねぇ……』

 

『大丈夫ですよ。【紅蓮の聖女】の自爆コストを私とマスターで半分に分ければ命だけは助かりそうですから』

 

「ヘイ、ジャンヌちゃん! 肉体が100%俺の物だからそれ、結局コスト払ってるの俺だけだよ!」

 

「絶対マスターだけ殺すガール」

 

『【紅蓮の聖女】を発動させるだけの簡単なお仕事』

 

『流れ作業の様にマスターを自爆死させるサーヴァントとか斬新すぎて言葉もありません』

 

「そもそも俺達何の話してたんだっけ……?」

 

『これから私に変身したまま日常を過ごそうって話ですよ』

 

「こいつ……!」

 

 サーヴァント達と馬鹿な話をしていると、割と元気が戻って来た。やっぱりこうやって露骨に話を向けられている辺り、気を使われているんじゃないかなぁ、なんて事を思う。実際、人生経験に関してはサーヴァント達の方が遥かに多い筈だ。しかも、サーヴァント達は”英霊の座”なる場所に召喚された時の記憶を記録として残しているらしく、それで経験とかを溜めこんでいるらしい。

 

 なんともまぁ、複雑でカオス存在じゃないか、と思う。

 

 廃墟の中を探索し、使えそうな部屋を見つける。部屋の隅へと移動し、そこに溜まっている埃を掃い、そしてしゃがむ様に背中を壁に当てて座り込む。流石に寝転がるだけの余裕、というか道具がない。今夜はもうこのまま、しゃがんだ体勢で眠る事にする。

 

 ―――もう、なんか、色々と疲れてしまった。

 

「んじゃ、また夜の番を頼んだわ……おやすみ……」

 

「あぁ、お休みマスター。其方に良い夢を願おう」

 

『僕たちがしっかり見張っているから安心して眠ると良い』

 

『何なら子守唄でも歌いますよ? 牧羊少女ジャンヌちゃんでしたからね、こう見えても―――』

 

「うるせぇ! 眠れねぇよ!!」

 

 何だかんだで愉快な集団になりつつあるのを自覚しつつ、半分、今日の出来事から逃げるように目を閉じる。




 キアラさんとはであった時点で殺さないと手遅れというか遅すぎる。また出るかどうか怪しいけど、EXTRAにおける彼女は救済しながら自殺させる生き物だったとかなんとか。

 つまりエロは武器。マタハリかな?

 次回、崩壊した中でもやり直す人々
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