「この時間まで眠っていたという事は、どうやら熟睡出来たようですね」
「恥ずかしながら―――普通のベッドってあんなにいいもんだったんだ、って感動すら覚えた。断水していたことだけが唯一の心残りかなぁ……あとはおまけでサーヴァントの環境適応かな」
視線をアンリ・サンソンへと向ける。頭のハチマキへと向け、そっと視線を逸らす。英霊とはもっと、こう、スマートで、かっこよくて―――人類史上二番目に多く殺した男がこんな事でいいのか、という凄まじい幻滅と呆れと親しみやすさがある。まぁ、何だかんだで相性次第では問答無用で相手を殺す宝具を持っているサーヴァントなのだ、無能じゃないのだ。無の上はない。変人なだけだ。ともあれ、バゼットが続報があると呼び出したのだ。
「えーと、それで何の用なんだ?」
「えぇ、実はアメリカの方から緊急の話がありまして―――アメリカ大聖杯の守護者の一体、マザーハーロットが討たれました」
「えー……」
……アレって殺せるのか。
「詳細は解りませんが、それを成したのは花嫁衣裳の様な服装のサーヴァントと、そして学生服姿のマスターらしいです。というわけで、大聖杯の攻略も不可能ではない、という事も解ってきました。聖杯から常に供給されている為、消耗をほとんどしてくれない怪物ではありますが、戦えるには戦える相手のようで、この話を中心に様々な所で士気が上がってます」
まぁ、なんというか、まだそんなビッグネームとかと戦った事のない自分からすれば凄まじい、としか言いようのない話だ。マザーハーロットと言えば間違いなく”神霊”クラスの怪物だ。聖杯戦争で召喚できる存在は”英霊”までであって、”神霊”は召喚できないと聞いていたのだが、どうやらその法則をぶち破って出現している大聖杯の怪物を、英霊で攻略してしまった人類の怪物が存在するらしい。
どうやら自分が知らないところで、恐ろしいインフレが発生しているらしい。
「えぇ、そういうわけで現在士気が上がっています。”宮内庁”も段々とその力を取り戻しつつあり―――冬木へと攻め込む為の戦力が終結するのもそう遠くない話となるでしょう。悪いですけど、ランサー、アーチャー、そしてアサシンのサーヴァントを確認させてもらいました。勿論真名やスキル、宝具はなしですが……それでもかなりの霊核を保有した英霊を同時に使役するその能力、間違いなく切り札に成り得ます」
どうでしょうか、とバゼットは言葉を置く。
「―――アンリ・マユを討伐する為に力を貸してくれませんか?」
◆
秋葉原の街並みを歩いている。その姿を凄いと思う。ある程度魔術によって防衛されているとはいえ、それでもクー・フーリンが見回りに出ないといけない程度には襲撃が存在しているらしいのだ。それでも、こうやって目に見える形でこの街が再生してきている、という事実はまさに驚くに値する事だった。街中を見回る様にゆっくりと歩きながら、崩壊から再生する最中の街並みを観察する。
『凄いですね、マスター。新宿シェルターは生活を豊かにする事を考え、地下に楽園を作ろうとする者達で溢れていましたが、ここにいる人達は生活を取り戻す事に情熱を燃やしています。破壊され、失ってもまた問い戻せると信じて作り直して言いますよマスター! 私、ここが好きです。多くの希望と愛で満ち溢れています!』
『僕としてもかなり良い場所だと思っているがさて―――とりあえずあの二人を探しに行くんですよね、マスター?』
「あぁ、アルトリアとギルガメッシュな、何処にいるのかは知らないけど、適当にブラブラしている内に見つけられるだろう」
結局の所、サーヴァントという制約がギルガメッシュには存在するのだ。こんな世紀末では契約を切って魂喰いを始めたとしても、喰えるだけの人間を確保するのが難しいし、魔力を調達する事も難しい。だからあの黄金のサーヴァントも、絶対にこの街のどこかで時間を過ごしているだけだ、そう思って歩き続ける。アルトリアに関しては完全に心配していない。彼女に関しては心配するだけ無駄だからだ、自分よりもしっかりしていて強いのだから当たり前だ。
「って、そう言えば飯食ってないな。どっかで適当に喰うか」
『支払はどうするんでしょうか』
「……あ」
お金が通じる訳がないし、そこらへんのルールはちゃんと聞いておけば良かった……。そんな事を思っていると、目の前から知った気配が近づいてくるのが解る。そこにいるだけで周りの空間を掌握する様なその存在感に顔を上げれば、正面からは黄金のサーヴァントが歩いてくるのが見える。服装はあの黄金の鎧ではなく、白い布の様な、胸の上半分しか覆わないシャツに、下はかなり短い、同じく白いミニスカートの様な服装だ。その両手には様々な食べ物が握られており、それを持ち歩きながらギルガメッシュは歩いており、此方に気付くとお、と声を漏らす。
「そこにいたか雑種。全く、我を盛り上げるマスターという立場のクセして我を探さんとは一体どういう神経をしている」
「いたって普通の神経だと思うんですけどねぇ」
『名推理ですね、マスター』
まぁいい、と言ってギルは持ち歩いていた食べ物を此方へと押し付けてくる。その大半がサンドイッチ等の簡単に食べられるものであり、中には以外にもマスタードや野菜などが挟まれている。こんな状況でここまでまともな食事を用意できるのは正直驚きだ。肉は狩猟すればいいが、野菜などに関しては現状、敵が徘徊している状態では育てる事や環境を構築する事が難しい。受け取った物の内、歩いていても食べやすそうな物を片手で捕り、食べ始める。
「んでギルガメッシュは何をやっていたんだ? 昨日の夜から歩き回っていたらしいけど」
「戯け、この時代、この状況に我が召喚されたという事は即ち、今、世界は黄昏の時を迎えている。世の終わりが近づいているのだ。であるならば人類の裁定者として、人類がどういう選択肢を取り、どういう風に生きようとするのかを見るのは当然の話であろう。何よりこの星は我の庭だ。庭の主が好きに歩き回ろうとどうこう言われる謂れはないであろう?」
そう言って腕を組むギルガメッシュからは一瞬の迷いも躊躇も、淀みも感じない。
―――人類の裁定者ギルガメッシュ。彼、或いは彼女の情報はルーラーとしての権限を使用する事で”聖杯”から情報が取得できる。一種の”WIKI”みたいなものだ。インターネットが死滅していて、ネットへとアクセスできないこの時代、サーヴァントの情報を調べる為に使用している。【真名看破】から来る取得情報もこれを経由した取得だと言っても良い。ともあれ、ギルガメッシュは英雄としてはかなり特殊な部類に入る。
ギルガメッシュは幼年期と青年期に入る事で二面性を見せる。賢君と暴君の二面性だ。幼年期は栄えるように、そして青年になってからそれを放棄し、暴君となってギルガメッシュは支配したらしい。元々は神と人を繋ぎとめる為に生み出された半人半神の王。だがそれを放棄し、未来までを見通したギルガメッシュは自ら人類の歴史の観測者への道を選んだ。そのギルガメッシュが召喚されるとは、つまりは”そう言う事”でしかないのだ。
ギルガメッシュが召喚されるだけの理由、時代が存在しているのだ。
少なくとも、触媒もなしに召喚できるサーヴァントではない。
「まぁ、ギルガメッシュがどう思うのは勝手なんだけどさ、それでも服装にだけは気をつけてよね。そんな恥ずかしい格好の人物がサーヴァントだとか人生の汚点でしかないからさ」
軽い冗談を込めてそう言い、ギルガメッシュの服装を見る。センスが悪いというレベルじゃない―――時代を間違えているという姿だ。ジャンヌやアルトリアでさえ現代の服を用意しているのに、ギルガメッシュだけ古代のままだ。その服装はどうなのよ、と冗談交じりに言葉を放った瞬間、
「―――雑種貴様、勘違いをしていないか?」
瞬間的にギルガメッシュの背後に空間の揺らめきが発生する。高速で射出された閃光を【啓示】による予知から回避し、ギルガメッシュの殺意のある一撃を完全に回避する。それに合わせるように現界したアンリ・サンソンが宝具を発動させており、ギルガメッシュの足元に影の手を生んでいた。
「―――貴様がどう振る舞おうが所詮はただの雑種だ。欠片も興味はないし、貴様の為に戦う理由もない。我は我に対して不敬を働く者であればたとえマスターであろうと一切の遠慮はせず、手打ちにする。貴様には我を召喚したという功績がある故、今回はこの程度で許す。が、次はないと思え」
つまり、ギルガメッシュはマスターでさえ容赦なく殺しに来る暴君であるという事だ。それは既に解っていたことだから、ギルガメッシュに対する回答は決まっている。
「だが俺は悔い改めない」
「……ほう?」
「そもそもお前の事を恐れるんだったら【真名裁決】と令呪使って自殺させてるわ。絶対にお前をマスターとして認めさせるって意地張ってるんだから王様ならそれぐらい察せよ、賢いんだろ? だったらちっとは凡夫の努力ぐらい察せよ」
その言葉に成程、ギルガメッシュは言葉を吐く。
「本気で命を賭けているのであれば我も考えを変えよう。自らを凡夫と嘆き、それでも邁進するというのであれば、その生き様で我を興じさせるが良い、雑種。それが我を十分に興じさせるものであれば、また考えてやらんでもない」
言葉を残してギルガメッシュの姿が消えて行く。その姿が消えた事でアンリ・サンソンが宝具を解除し、息を吐く。
「マスター、彼女は絶対に殺したほうがいいです。彼女は間違いなく邪魔になる。殺して空いた枠に新たな英雄を呼んだ方が遥かに良い」
「だけどさ、アンリくんよ。召喚してしまった手前、マスターとしての責任が存在するんだよ。なんでも気に食わないなら殺せばいい、ってのは完全に暴君の理論なんだよ。俺、アルトリアと違って王様のような考え出来ないし、アンリの様に処刑人じゃねぇからお前の様に考えられないし、ジャンヌでもねぇから何でもかんでも許そうって訳じゃねぇよ。それでも呼び出した責任ってのがあるなら、それをどうにかしなきゃ駄目だろ」
「それがいつの日か、後悔に繋がらない事を祈りますよ、マスター」
そう言ってアンリも霊体化して姿を消す。ギルガメッシュとアンリ・サンソンは完全に水と油だな、と思う。ギルガメッシュの”暴君”という生き様は”王権の象徴を殺した処刑人”というアンリ・サンソンとはすこぶる程に相性が悪いのだ。悪と王を処刑した処刑人で、その悪の判断のラインにギルガメッシュが抵触するのだから、当たり前と言ってしまえば当たり前なのだが。
それでも、ギルガメッシュを飲み込めない様であれば、この世紀末では生きる事も出来ない。そんな気はする。
「……さて、アルトリアを探すか。どこにいるかなぁ……」
そんな事を呟き、そして再び秋葉原の探索を始める。
任務:ギル様をデレさせろ
大聖杯を破壊するよりも難しそうな気配がしてきた。
秋葉原での話はまだまだ続くんじゃよ
なおアメリカで暴れ回っているのは皆さんの予想通りお月様でマザハ的なアレをぶっ飛ばした人だよ。たぶん。まぁ、人類もまだ負けてませんよ? って話。