Fate/Grail Seeker   作:てんぞー

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求めよ、さらば与えられん Ⅱ

「……流石冬木付近というべきか、警備が厳重だな」

 

 そう呟きながら完全に骨のみで構成された兵士、竜牙兵の横を抜けて歩く。視覚に頼らず、臭いにも頼らず、魔術的に動いている兵士は魔術的な干渉で相手の位置を把握する。その為、魔術から感知されない状態であれば、絶対に見つからないという凄まじく間抜けな特性を竜牙兵は保有している。故に英雄王の蔵、【王の財宝】の中におさめられている宝具の一つ、【ハデスの隠れ兜】を被る事で魔術的に、そして光学的に身を隠している。魔術的に、そして光学的に身を隠す事を可能とするこの宝具は臭いや体温、気配といったものはさすがに消す事が出来ない。が、そう言う相手となってくると霊体化したサーヴァントでさえ見抜いてくる為、【ハデスの隠れ兜】も意味をなさないだろう。ただ今は、竜牙兵から身を隠しつつ、街の調査を進めている。

 

『小賢しい、雑兵なぞ吹き飛ばせばよい―――と言いたい所だが、悪くない判断だ雑種。そもそも相手は無尽蔵にサーヴァントを生み出せるという環境にある。我がエアを抜けばたいていの問題は解決するであろう。だがそれも限度がある。我の動きが万が一封じ込まれることがあれば、残る守りは二騎―――』

 

『そうですね、正直に言えば僕の宝具は対人属性の宝具なので複数で攻められるとどうしても詰みます』

 

『私も一騎当千の実力を誇る、サーヴァントとしては一級のランサーだ。だが流石に英雄王の如く無双する事は出来ない。同時に相手が出来るとして三体が限界だろう』

 

『三体同時に相手できるという時点で割と凄いんですけどね……』

 

 つまりサーヴァント一同、戦略としては”忍ぶべし”という結論に至っている。今いる場所は冬木市の隣の都市であり、炎上と汚染がまるで壁に隔たれている様に発生していない都市だ。その代わり、巡回する様に大量の竜牙兵が存在し、まるで軍隊の様に統率された動きで五体からなる一グループを形成し、徘徊している。手に握っている武器は様々な物であり、槍だったり双剣だったり、統一性は見えないように見えるが、互いにカバーできるような武器を握っている様に見える。つまり、ある程度は戦術に則った動きを取る事が出来るかもしれないのだ。

 

 実にめんどくさい。

 

 竜牙兵の横を抜けて商店街に入る。英雄王に被らせられた【ハデスの隠れ兜】がしっかり頭の上にある事を確認しつつ、商店街を歩く。元々は人がいて、そして活気にあふれていただろう商店街だったが、今はもう、人の姿は見る影もなく、完全に倒壊した建物ばかりであり、人の気配どころか竜牙兵の姿すらなかった。住宅街も見て回ったが、損傷がかなり激しい家屋が多かった。それはつまり、

 

『―――破壊の痕は”外から中”へと向けたものがほとんどでした。恐らく、炎上した冬木の人々を殺した直後に襲われたのが此処なのでしょう……』

 

 小さく、祈りの言葉を呟くジャンヌの声に耳を傾けつつ、付近を観察する。が、やはりどこまで行っても潰れた建造物しか周りには見えない。念入りに破壊でもされているのだろうか? そんな事を想っていると、まだ破壊されておらず、そして中に入る事が出来そうな店を見つける。”三枝雑貨”と書かれたその店舗の入り口を抜け、中に入る。数年間放置されているのか、中は今まで入って来た建物同様、埃だらけだ。口に聖骸布を当てるという豪華な礼装にハンカチの代わりを果たしてもらいつつ、家探しを始める。と言っても、既に略奪された後の様な痕跡が多く、周りには荒らされた痕跡しか存在しない。それでも粘り強く何かを求め、店舗の奥の住居スペースへと入りこみ、そのまま家探しを続行する。

 

 それでも求める様な魔術的痕跡や、ヒントの類は見つからない。新聞も大半は焼けていたり、ぼろぼろになっており、情報を読み取る事が出来ない。溜息を吐きながら外れか、そんな事を想っていると視界の端に光るものが見えた。視線をそちらへと向ければ、写真立てが見える。その中におさめられているのが制服姿の子供たちが並ぶ姿だった。見た事のない制服姿だが、三人の女が一人の赤毛の青年を囲む様な写真だった。年齢はおそらく高校生ぐらいだろうか、まだ平和だった時代の記録だ。

 

『―――シロウ、だな』

 

 そう呟くのはアルトリアの声だった。確か衛宮士郎という青年が前のアルトリアのマスターだったという話は聞いている。経験ではなく記録としての話だが、それを記録として能に保有しているのだから、アルトリアもどこか感慨深げな声が混じっていた。ただギルガメッシュは士郎に思う事があるのか、何処か嘲笑する様な、そんな声で呟く。

 

贋作者(フェイカー)か、この時代であればさぞや理想を叶えやすそうであろうな』

 

贋作者(フェイカー)?」

 

 聞いた事のない単語だ。アルトリアが霊体化したまま、説明を入れてくる。

 

『衛宮士郎という魔術師はとある理由から固有結界という魔術を保有している。その為、特異な事に、剣であるならば、それがたとえ宝具であろうと劣化したコピーを生み出す事が出来るという異常さを保有していた。その凄まじさを其方なら解るだろう?』

 

 衛宮士郎という魔術師は人間のまま、ある程度の制限を無視して宝具を使用できる―――本来は英霊の専売特許であるそれを人間が使えるって時点で凄まじくバランスブレイカーな所、一つではなく複数という点でもはやどうにもならない。つまり衛宮士郎は相手の弱点を把握する事が出来るなら、それに対応した宝具を使って戦う事が出来るのだ―――まあ、あくまでも想像と理論上の話だが。だがそれにしたって凄い事だ。

 

『ふん、だが所詮は贋作よ。本物には到底届かん』

 

『とか言っているがコイツのクリティカル的弱点だからな』

 

『騎士王貴様ぁ!』

 

『ん? やるのか? やるのか英雄王? エアを抜くか? 抜いちゃうか? 怒ったから直ぐにエアを抜いちゃうのか?』

 

『貴様、クラレントを投げつけるぞ! 余程カムランりたいようだな!』

 

『英雄王貴様ぁ!』

 

『騎士王も英雄王もほんと仲がいいですよね。口論にとどめてくれている辺りが』

 

 アンリ・サンソンの言葉の通り、アルトリアもギルガメッシュもここら辺は口論だけにとどめてくれているから助かっている部分だ。おそらくこの二人が本気で戦えば、またあのアキハバラの時の様に、地形が変わってしまうのだろう。まぁ、最終的にギルガメッシュが勝利しそうなイメージだが。【天地乖離す開闢の星】を見て以来、アレに勝てそうなサーヴァントというものがまるで思いつかない。現状、ギルガメッシュを殺せるのは本当にエルキドゥぐらいではないのかと思っている。だからエルキドゥを警戒していればいいのだが、エルキドゥには最高クラスの【気配察知】のスキルが存在し、おそらくは冬木に入った瞬間、此方の存在を察知される。つまりは簡単に冬木へと踏み込む事も出来ない。

 

 ―――残された武器は三体のサーヴァント、ジャンヌの力、そして令呪三画だ。

 

 これでどうにかやりくりして冬木へと潜入し―――そして大聖杯を、アンリ・マユを破壊しなくてはならない。それがまるで使命感の様に胸に焼き付いていることが一番気になるが、それでも冬木まで来てしまった自分が今、やるべき事なのはそれぐらいだと思っている。少なくとも、大聖杯を見れば何か、何か自分の存在に関するヒントを得られるはずだ。溜息を吐きながら衛宮士郎の写真のある部屋から出て、そして再び商店街の方へと出る。相変わらず冬木は炎に染まっており、その炎は燃え広がる姿を見せない。状況は若干面倒だと言える。今は【ハデスの隠れ兜】が機能しているがいいが、これ以上の宝具をギルガメッシュから借りるのは難しい。その財に頼るのはギルガメッシュの特権であり、此方の権利ではないのだから。

 

「しかし、その衛宮何某は一体どこで何をしているんだろうねぇ。聖杯戦争の生き残りって事なら間違いなく戦力になりそうだけど」

 

『さあ……? しかし私が聞いた話ではリン―――あぁ、冬木のセカンドオーナーだが、彼女が付いて一緒に行動していた、という話だな。ただリンは聖杯の解体へと冬木に戻り、その際失踪している。その時シロウが同行していたのであれば―――』

 

『良くて死んでいて、最悪取り込まれていますね』

 

 取り込まれる、そんな場合があったら実に恐ろしい話だ。ギルガメッシュに対する唯一のメタ存在との話でもある。そんな存在を相手にしたいとは思わない。何せ、ギルガメッシュが倒れれば、その瞬間に敗北する事はほとんど決まっているようなものなのだ。せめて、この体の内にある聖杯、それがもう少し自分の意思で使う事が出来れば話は違っていたのだろうが、それでもそれは出来ない事なのだからしょうがない。それよりも、今はもっと建設的な話をするべきだろう。竜牙兵に聞こえない様に、見つからないように瓦礫の中へと体を潜ませ、霊体化したサーヴァント達だけに聞こえる様に小さく呟く。

 

「ぶっちゃけ、どうやって冬木に入る?」

 

『言っておくが、空は無理だぞ。もう解っているかもしれないが、狙撃されている上に飛行して来るサーヴァントにも狙われる。【天翔る王の御座】でかなり速度は出せるが、それでも因果率に干渉する様な宝具があれば、迎撃し難いという弱点がある。空から行けばどこからでも見られてしまうという事はどこからでも狙えるという事だ』

 

『ついでに言えば陸路も駄目だぞ。既に地平が雑兵と怨霊共で溢れかえっておるわ。我が手を下せば容易に切り開く事が出来そう―――あの贋作者がいても、だ。もはや我に慢心し続ける理由はない。早急に事態を終わらすべく開幕からエアを抜く事に否はない。だがそれとは別に、【斬り抉る戦神の剣】等を食らわされれば流石の我であろうと死なない道理はない。そこらの雑種に負けると言っている訳ではないが、それでも”万が一”が存在する。雑種、貴様が案を出してみろ、どうやってこの状況を突破するかを』

 

 楽しそうに笑い声を零すギルガメッシュは今日も絶好調だなぁ、なんて事を思いつつ、視界を冬木の方へと向ける。

 

 炎上している冬木は大きく枠分けて二分できる。新都と旧都の二地区だ。中央に流れる川によって二分されているこの冬木市の内西側に位置する旧都の方、その奥の山になんでも大聖杯は存在しているらしい。そこに行くのが、今の目標だ。森で囲まれているから道から外れて森の中を通って、何かを一瞬考えるが、

 

 良く考えたら短い距離ならともかく、長い距離を歩けば確実に見つかりそうな気がする。

 

「うーん……―――ん?」

 

 地形を確認し、首を捻り、警戒網を想定し、

 

 そして理解した。

 

「これならノーマークで行けそうだわ」

 

『ほう』

 

 冬木潜入作戦が始まる。




 三枝ちゃん……。

 というわけで次回、冬木へ。エンディングが段々と見えてきたなぁ。
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