Fate/Grail Seeker   作:てんぞー

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求めよ、さらば与えられん Ⅴ

 アインツベルン城を出て更に南西へと進めば、巨大な山が見えてくる。この地下に大聖杯は安地されている。森を抜けてきたため、山の裏手から到着する。身を低く、気配を殺しながら【ハデスの隠れ兜】を被ったまま、ギルガメッシュとアルトリアに確認する。

 

「……ここから宝具の真名解放で貫ける?」

 

『そこの駄王はともかく、我なら可能だが、その場合一斉に感知したサーヴァントが全方位から襲い掛かってくる―――我らに逃げ場はないぞ。まぁ、自殺したいのであれば話は別だが、貴様がそこまで死に急いでいるとは我は知らなかったぞ』

 

「ひでぇ。……まぁ、つまり正面の入り口から中に入らなきゃダメ、って事か。はいはい、解りましたよ。ズルは駄目なんですねー。クソが、正面から堂々と行けばいいんだろ! 戦術の基本は奇襲と暗殺なのに……」

 

『間違ってはいないんですけど、どちらかというとそれをされる側のサーヴァントだらけなんですよね』

 

 身を低くしたまま山の正面へと回る様に歩きだしながら考える。英雄王も騎士王も暗殺されてもおかしくない王様サイドの生物だし、ジャンヌは聖女だから魔女裁判にかけられて殺された。全体的に殺されるサイドの人間ばかりだよなぁ、なんて事を思いながらゆっくり、ゆっくりと、気配を何とか殺しながら進む。だがそれでも解っている。山の正面、おそらくは入口にはずっと立っていて、動かないサーヴァントの気配があるという事に。ルーラー特権でそれを感知している。だからこそ背後から一発決めたかったのだが、そんな簡単に物語は終わらせてくれないらしい。

 

 そんな事を想いつつ時間をかけ、大空洞の正面を確認する事の出来る場所へとやってくる。林の中から確認する大空洞の正面は荒地であり、唯一の入り口らしき場所の前には、人影が存在している。それは目を瞑るように静かに佇んでおり、守護する様に不動のままである。ここから狙撃すれば殺せるか? と一瞬だけ考えるが、【啓示】がそれをするな、と警告して来る。直後にカウンターで殺されるイメージが脳内に湧き上がってくる。狙撃すれば逆に此方が殺されるらしい。

 

『……気付かれているな、隠れるだけ無駄の様だ』

 

 アルトリアがそう言った直後、入口の前で目を閉じていた姿が目を開き、此方へと視線を向けてくる。アルトリアの言う通り、無駄らしい。唾をゆっくりと飲み込みながら、今、ジャンヌに変態している事を再確認しつつ【ハデスの隠れ兜】をギルガメッシュへ返し、立ち上がり、荒れ地に立つ。此方へと向かって来るサーヴァントの気配はない。その唯一の気配は目の前の、守護している存在だけだ。正面、50m程の距離を開ける様に相対すると、相手の姿が良く確認できる。

 

 それは一人の男の姿だった。

 

 肌はまだ浅い褐色の色であり、髪色は軽い赤みが残った灰色をしている。服装は上半身が袖のないプロテクターの様な黒いボディスーツに、下半身が動きやすい黒のロングパンツだった。不動のままの姿は此方へと視線を向けてくる。射抜く様なその視線に捉えられ、動きが一瞬だけ止まるが、何かを口にする前に、

 

「―――久しいな、シロウ」

 

 アルトリアが姿を現した。それに反応するように相手は―――おそらくは衛宮士郎は、驚く様な表情を浮かべる。それは解放されている鎧姿のアルトリアへと向けられており、全身を確認してから胸へと向けられ、そして首を横へと振る。

 

「アルト―――あ、いや、すまない。初対面だ。アルトリアではないな、うん」

 

「貴様もランスロットも確認するところはそこか、ぶち殺すぞ貴様ら」

 

 迷う事無く【最果てにて輝ける槍】を持ち上げるアルトリアの姿をなだめるようにまぁまぁ、とその肩を抑えて宝具の真名解放を抑え込む。今の軽い会話で、まだ士郎が正気を保っているというのは良く解る事だ。だからアルトリアを抑え込みつつ、視線を士郎へと向ける。視線を受けた士郎は少しだけ笑いを零していた。それはなんだか、悲しげな笑いだった。

 

「……お前が衛宮士郎か」

 

「あぁ、そうだ。君は……その様子を見るからに、大聖杯を破壊しに来た魔術師といった所か。ご苦労様、とできたら労いたい所だけど、生憎、完全に縛られていて歓迎する事が出来ないんだ。悪い事は言わない。今すぐ逃げろ。その気がないならここで俺を殺して先へと進め。ここまでやって来たのなら何も言わずともそうするのだろうけどな」

 

 自虐する様な色が士郎の言葉にはあった。それを見て、アルトリアが口を開いた。

 

「シロウ―――貴様、しくじったな」

 

 アルトリアの言葉に士郎はゆっくりと頷いた。

 

「俺は―――遠坂が失踪したと聞いて、桜がアンリ・マユに体を奪われたと聞いて、俺は倫敦を出て、単身で冬木へと戻って来た。桜を解放して、遠坂を見つけるつもりで来た」

 

 遠坂凛、間桐桜、そして衛宮士郎は密接な関係にあった、という話は知っている。どこで聞いたかは思い出せない。きっと暇な時にアルトリアから聞いたのだろう。

 

 士郎は話を続ける。

 

「結局、大聖杯まで到着した俺はそこで桜がもはや彼女じゃなくて、彼女の姿をした全く別の生き物である事を理解した―――だから彼女を殺そうとしたんだ。予め対策を施してあったし、撃破する直前にまでは追い込めたんだ」

 

 だけど、と士郎は言う。

 

「俺には殺せなかった。最後の最後で、桜の姿をしているという事で刃を振り下ろす事が出来なかった。一を切って九を救う事も、九を切って一を救う事もできなかった―――」

 

 自分自身に失望するかのような色が士郎の声にはあった。

 

「その結果、今ではこうやって縛られて仲良く奴隷(サーヴァント)の一つだよ。こうやって意識だけは抵抗しているけど、駄目だ。ここから離れる事は出来ないし、体は言う事を聞きやしない。ここを通りたかったら絶対に俺と戦う必要にはなる」

 

 成程、とアルトリアは頷きながら士郎から視線を外し、此方へと視線を向ける。

 

「ではさっきの恨みがあるからサクサク殺して進むとしようマスター」

 

「感慨もクソもねぇのな、お前」

 

「竜の逆鱗に触れたのだから当然だろう」

 

 ぶんぶんと振り回すアルトリアの姿を見て溜息を吐いていると、大空洞の向こう側、士郎の横へと着地する様に飛んでくる姿があった。両足で大地を踏みしめながら真っ直ぐアルトリアへと視線を向ける姿は黒い甲冑に包まれている。秋葉原で目撃した事のあるサーヴァント―――バーサーカー・ランスロットだった。吠える様に登場したサーヴァントの直ぐ横で士郎は剣を生み出し、それをランスロットは掴み、赤黒く侵食し、己の宝具へと変える。それを確認しつつ、右手のポケットに手を突っ込み、聖晶石を取り出す。

 

「これ以上語る必要もないだろう、止まる気もないなら」

 

 そう言って士郎はその両手に黒と白の中華剣を生み出す。それは士郎が戦闘状態に入った、と言う事の証拠でもあった。直後、ランスロットが首を捻る。

 

「Arrrrrthuuuuuuurrrrr―――?」

 

「何故疑問形なんだというかまた胸を見て判断したなこの騎士の屑が! 良し、解った、貴様は絶対に殺す」

 

 正面からアルトリアとランスロット、そして士郎が放った宝具がぶつかり合い、大空洞の前で爆発と突風が発生する。その瞬間に親指で聖晶石を上へと弾き、そして心臓と一体化している聖杯を起動させる。この体が一つの聖杯であると認識すれば、もはや召喚の為に魔法陣を利用する必要はない―――なにせ、聖杯の使い方に関してはたっぷりと、見せて貰ったばかりなのだから。だからイメージする。衛宮士郎に対してぶつけるべき英雄を。

 

 ランダムにではない。

 

 聖杯を通して、この場に一番召喚されたがっている英霊を、その縁を因果の中から選んでピックアップする。

 

 そうやって召喚される英霊は一人。

 

「お前の家族ならお前できっちりケリを付けろ―――キャスター!!」

 

 聖晶石が空間に溶けるよう消費され、召喚が成される。

 

 宝具の衝突によって起きた爆風を吹き飛ばすように魔力が発生し、集束し、そして合わさる事によって一つの女の姿を生み出す。赤い外縁を着て、編まれた白髪、赤い瞳の女は士郎が握り締める黒と白の中華剣と全く同じ剣を握りながら着地し、召喚されるのと同時に前へと向かって、士郎へと向かって直進し、宝具をぶつけ合う。直後、士郎とキャスターの武器がぶつかり合い、破壊され合う。

 

 が、即座に同じ武器が二人の手には握られていた。

 

「平行世界の果てよりお姉ちゃん参上ぅ! グレてしまった弟に気合いを入れる機会に感謝するわマスター!」

 

 アーチャーとキャスターのクラスを二重召喚(ダブルサモン)されたキャスター・イリヤスフィールは士郎と全く同じ、投影術による宝具投影を行ってそれをぶつけ合い、相殺しながら戦闘を開始する。その横ではランスロットとアルトリアがぶつかり合う様に戦闘を開始する。困惑する素人は他所に。楽しそうに笑いながら成長した女の姿をしているイリヤスフィールが再び士郎と宝具をぶつけ合い、砕き、そして新たに宝具を投影しながら相殺する。そうやって踊る様に、宝具を砕き合いながら戦闘を始める。

 

「イリヤ……!」

 

「どうしたんだよシロウ、グレちゃって。何があっても諦めないのが正義の味方じゃなかったの? ま、お姉ちゃんが軽く焼き入れてあげるから覚悟するんだね!」

 

「ヘラクレス連れていた時から容赦のなさが変わってないなぁ!」

 

 そう言ってイリヤスフィールの攻撃を迎撃する士郎はどこか楽しげだった。それを見つつ、振り返る。ルーラーの感覚に他のサーヴァントの接近を感じる。派手に戦闘を始めてしまったのだから、やはり感知されてしまったのだろう。アルトリアとイリヤスフィールが察してくれたようにランスロットと士郎を押し退け、大空洞への道を開けてくれる。本当ならここで更に戦力を足止めに置いておきたいが、対アンリ・マユ用のシャルル=アンリ・サンソンと、そして対大聖杯用のギルガメッシュは絶対にはずす事が出来ない。もっとサーヴァントを召喚できていれば、と悔やみながら迷う事無く疾走する。

 

「負けるなよ!」

 

「当たり前よ」

 

「其方も幸運を」

 

 サーヴァントの身体能力で駆け抜ければ一瞬で中へと飛び込む事が出来る。背後から聞こえてくる剣戟を振り払いながらそのまま奥へと進んで行けば、段々と体に纏わりついてくる”悪意”のプレッシャーが増して行くのが解る。走りながら盗み見るギルガメッシュの表情は一切変化がないが、アンリ・サンソンの方はどこか、ピリピリしている様にも見える。確実に大聖杯へと近づいてきている。それを確信しつつ、足を止める事なく、一気に前へと進んで行き、

 

 三十秒ほど、足を止める事もなく全力疾走すれば、そこに到達する。

 

 大空洞と呼ばれるその空間は凄まじく広く、思った以上に埋め尽くされている空間だった。

 

 大空洞の一番奥には黒い泥に染まった赤黒い異形のオブジェが存在し、それから泥が絶え間なく流れ出ており、どこかへと注がれているのが見える。それが空洞の八割を占めており、僅かに残ったのは今ある岩肌の足場と、ここへと通じる空洞への道だった。

 

 感じる強烈な”ハイ”サーヴァントの気配に視線を泥の海の中へと向ければ、そこには一つの姿が見える。

 

「あぁ」

 

 白い髪にしなやかな肢体持つ、女の姿。まるで泥を服の形に固めたかのような奇妙な衣装に身を包んでおり、毒々しい色と気配をする、そんな存在だった。彼女が間桐桜であり―――悪神アンリ・マユであると理解し、即座にギルガメッシュを攻撃の為に出そうと口を開こうとし、

 

 ―――体も口も動かない事に気付いた。

 

 それは妙な感覚だった。意思はそこにあるのに、体が言う事を聞かず、唇を動かす事も出来るのに、言葉だけが出てこない。ジャンヌの【対魔力】が機能していないという事は魔術以外の干渉だろうと、そう判断しながら響いて来た声を聴く。

 

「ようこそ、私の腹の中へ―――いただきまぁす」

 

 直後、理解したのは部屋の全てを埋め尽くすように泥が溢れ出した事だった。

 

『マスター! 令呪で―――』

 

 ジャンヌの焦る声に反応して令呪を消費した直後、

 

 泥が世界の全てを埋め尽くした。




 このお話は割とサクサクというか、30話前後で終わらす予定で書いてあるので、割とクライマックスです。いつもいつも詳細に話を書き込んでいるせいで話数が伸びつつあるので、主人公視点のみで書いてると大分早い感じに。

 術弓:アチャ子、或いはイリヤ

 士郎&バサスロ「not arthur」
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