「これ以上穢す事は許さん」
【天
【天地乖離す開闢の星】と【人よ、神を繋ぎ止めよう】がぶつかる直前、前へと出て、エルキドゥの標的を此方へと無理やり切り替えさせる。
「―――お前は俺を粛正出来ないだろ?」
抑止力では抑止力を裁けない。究極的に星と人類の為に活動するシステムである抑止力に対して、対粛清宝具は”完全に無力”になる。エルキドゥの宝具は俺という存在の前では完全に無力化され―――【天地乖離す開闢の星】に食い荒らされる。一気に食い破る様に抜けた宝具がそのままアンリ・マユとエルキドゥを飲み込み、その姿を一瞬で、多数の黒化英雄達共々一気に滅ばした。だがその先で汚泥の中に浸っているアンリ・マユの姿は無傷だった。今度は最初の時の様に汚泥を盾にするとも武器にする事もなかった。ただそこに立っているだけで無力化したのだ。
「もーぐもぐ」
まるで気にする事無く汚泥が天蓋を生み出した。巨大な津波の様に降り注ぐ汚泥、それを【王の財宝】から射出された数本の剣が空間に突き刺さる事によって氷結させ、そして凝固させる。
「【死は明日への希望なり】」
そうやって実体を得た汚泥をアンリ・サンソンが一撃で処刑し、アンリ・マユと此方の間にあるすべての汚泥を一撃で殺し消した。対悪の究極処刑人。アンリ・マユの一部をそうやって蹴散らした瞬間、二撃目の【天地乖離す開闢の星】がアンリ・マユへと向かって放たれた。天と地を断つ神話の”権能”が地上に新たな神話を刻む様に放たれた。生み出された魔力の嵐はそれだけ冬木の天に暗雲を生み出し、雷鳴を響かせながら狂える時間の世界に罅を入れ、崩壊を進める。それを正面から受けたアンリ・マユはしかし、無傷の状態で新たに生み出した汚泥の中にいた。その背後の大聖杯も完全に無傷であり、【天地乖離す開闢の星】からのダメージは一切受けている様には思えない。
「威力が足りない、というわけではありませんね」
「戯け、彼我の神話強度と伝承保護による防壁だ。崩すには少々骨が折れ様が―――」
神話強度と伝承保護。即ちサーヴァントが保有するルールだ。神霊として召喚されているアンリ・マユは宝具ではなく神話の時代の”権能”を保有している。今は物理法則になる事で失われてしまった”権能”という神々のシステム、神霊と大聖杯という形があるおかげで、それを一切遠慮する事無く相手は行使する事が出来る。そしてアンリ・マユは神話において創造神に当たる存在であり、同時に”究極の悪”として描かれる存在でもある。故にその存在を打倒できるのは”究極の善”でしかない。即ちアンリ・マユにダメージを通す事が出来るのは、
アライメント:秩序・善の存在のみになる。
即ち善悪二元論。悪を倒せるのは善のみである。
そして究極の悪を倒せるのは究極の善のみである。
半端な善では絶対に悪を倒せない。
ギルガメッシュのアライメントは混沌・善。シャルル=アンリ・サンソンのアライメントは秩序・悪。アンリ・マユの条件である秩序・善のサーヴァントは別の場所で戦っているアルトリアやイリヤスフィールを含めて、一人も存在しない。対悪特攻宝具である【死は明日への希望なり】は間違いなくアンリ・マユを一撃で殺すだけの能力を持っているが―――その前に伝承保護を破壊するか、或いは突破する手段が必要になってくる。それさえ突破すれば、アンリ・サンソンで一気にあの相手を殺す事が出来る。
「迷い、悩むか? 安心しろ、我が貴様の妄言を叶えてやる。遠慮なく大言壮語を吐くが良い、マスター」
「うし―――攻めるか」
前へと一歩踏み出した此方の姿を見て、あぁ、と間桐桜の姿をして悪神は呟く。
「来るんですか。抗っちゃって。可愛いですね」
汚泥が溢れ出す。大地から、聖杯から、空から、空間を割る様に溢れ出す。創造神でもあるアンリ・マユの権能は悪という属性に染まっているが、その範疇であれば好きに万物を生み出す事にある。故に溢れ出す汚泥はそれと同時に無数のサーヴァントを生み出す。影の英霊達。それは黒化しており、そして理性を蒸発させられている。しかし、それでも本当の英霊達である。宝具を保有し、そして戦う力を持っている本物の英霊を大聖杯の魔力を通して無尽蔵に生み出している。無限に生み出される戦力は普通のマスターとサーヴァントであれば間違いなく即死する環境ではあるが、
”星”という味方が存在し、ギルガメッシュが本気を俺の為に出してくれる今、もはやそんなものは関係ない。
「邪魔だ―――」
乖離剣エアが放たれる。赤い真空波がそれだけであらゆる英霊を滅ぼし、道を生み出す。【王の財宝】から放たれた巨大な
それを迎撃する様にサーヴァント達が前へと飛び出すが、即座に処刑台が形成され、一瞬でサーヴァント達の首が撥ね飛ばされる。そうやって空いた隙間に着地し、刃を振るいながら正面のアンリ・マユへ接近する。泥の中に溺れる様に座り込んでいるアンリ・マユはそのまま動くことなく、服装のスカート部分がまるで鞭の様にしなり、動きながら襲い掛かってくる。それを【紅蓮の聖女】弾き返し、ジャンヌと意識を完全にシンクロさせながら彼女の経験と意識を同化させる。フルスペックの状態で刃を振るい、アンリ・マユの一撃を弾いた所から刃を返し、
アンリ・マユの頬に傷痕を生んだ。
「っ―――」
アンリ・マユの表情に初めて、完全な驚愕の表情が生まれた。それはそうだ、Cランクの宝具でその体にかすり傷とはいえ、傷が生み出されたのだから。それはアンリ・マユが保有する概念が突破されたという事にしかならない―――そう、ジャンヌだ。ジャンヌだけがアライメントで秩序・善という属性を保有しているのだ。究極の善という位置に存在するジャンヌは唯一アンリ・マユを害する可能性を持ったサーヴァントである。それ故にアンリ・マユは汚泥を使った汚染を行おうとしたのだ。だがアンリ・マユが驚いた本当の理由はそこではない。
今、アンリ・マユを保護する伝承が崩壊した、という事実にある。
「
「【死は明日への希望なり】―――」
処刑台が形成される。一瞬でアンリ・マユを捉えた処刑人のギロチンにはアンリ・マユが掛かっており―――それは崩れる様に別の英霊へと姿を変えた。神代の魔術を用いて下僕と場所を入れ替えたアンリ・マユは必殺される事が可能になったため、逃れた。ギロチンが堕ちた瞬間には既に離れていた姿はしかし、
「ふははははははぁ―――!!」
【天地乖離す開闢の星】が放たれた事によって失敗する。真っ直ぐ大聖杯へと向けて放たれた神話はその前へと出現したアンリ・マユの泥とアンリ・マユ自身によってガードされ、相殺される。瞬間、汚泥の波と影の英霊が数百騎、戦闘を終わらせるために襲いかかってくる。展開される【王の財宝】を受けて消滅しながら新たに生み出される影の英霊の軍団は、もはやギルガメッシュか、或いはそれと完全に同格のエルキドゥが聖杯クラスの魔力を保有するマスターと契約していなければ、間違いなく全滅している状況だ―――そう、ピンポイントにこの状況を打破する為の手札は揃えられている。それでも手番を間違えれば、全滅する。そういう綱渡りの状況で戦っているのだ。
だからそれを抱きつつ、アンリ・マユを殺す為の手を取る。
左手を前へと伸ばし、アンリ・マユが【天地乖離す開闢の星】を喰らって硬直した瞬間を狙い、令呪を二画、消費する。
「今がチャンスだぞ―――」
そうやって発動されたのは強化や回復ではなく―――転移現象だった。別地で戦闘を繰り広げていたアルトリアが出現し、動かないアンリ・マユへと【最果てにて輝ける槍】を迷う事無く放ち、相手が回避する動作に無理やり移行させる。そしてそうやって回避した相手の動きの先で、
背後に転移でサーヴァント・イリヤスフィールが稲妻の様にジグザグの刀身を持つ短刀を逆手に握り、出現した。
「―――
突き刺さった。
「か―――」
アンリ・マユが放てた言葉はそこまでであり、間桐桜とアンリ・マユにあった契約が強制的に解除され、その姿が剥がされる。桜の体から剥がれる様に黒い泥とその衣服が剥がれ落ち、桜の姿を抱いたイリヤスフィールが跳躍して一気に離れる。桜というマスターと依代を失ったアンリ・マユはそこで消える―――事はなく、汚泥を集め、吸収し、固め、そして数百という無尽蔵に生み出したサーヴァント、それを圧縮しながら自分の体の骨として集めて融合させ、人の背丈を超える、神話の黒い怪物の姿へと変貌する。大聖杯への繋がりは汚泥を通して未だに存在しているらしく、その魔力は溢れあまり、肉体を失って弱まるどころか強化されている。
―――月の青年がこれを見れば、数百の英霊を取り込んで強化した様子をまるでかの女の様だというだろう。
実際、そう言う次元の存在に神霊とはある。英霊とはそもそも次元が違う存在であり、大量の魔力を喰らう代わりに、ありえない権能を行使する事が出来る、究極の幻想。故にその姿は衰える事無く、咆哮が響き、それだけで次元が震動し、
「―――
炎が走った。それは悪神と大聖杯を分断する様に、汚泥を悪神から分断する様に、決戦の世界を生み出すように展開される。ギルガメッシュの宝物庫から展開される宝具がそれを支援し、そして世界を押し広げる。
「
桜が解放された事により、同時に彼も破戒すべき全ての符を通して解放されていた。故に出現するその歩みと共に世界は侵食されて行き、悪神はそのリソースから分断されて行く。悪神アンリ・マユを討伐する為の最後のキーであり、切り札―――それは無限に再生し、そして永遠に戦い続けられる無限のリソースを保有した悪神をそのリソースから分断する為の人材。
「幾た
「
それはありえない光景だった。贋作者と罵られる存在を同じ戦場で許容し、肩を並べる行為等。だがそれは今、発生した。或いはそれこそ星が導き出した必然の流れの一つなのかもしれない。だがそんな事は当事者たちにはどうでも良かった。広がった炎は一瞬で世界を荒れ地へと作り変え、そして贋作の剣をそこに突き刺した大地を生み出す。
「
「ならば我
「
だが立った。剣の丘に。もはや躊躇する理由も、敗北する理由も、悪に屈し続ける理由も、その全てを捨て去った、正義の味方が―――衛宮士郎が、その本気を、そして殺意を見せる事の出来る完膚無き悪を見据える。
「―――
固有結界・無限の剣製が展開される。それは展開されるだけでその役割を終えた。固有結界という空間を形成する事により、完全に悪神アンリ・マユをその供給源である大聖杯から切り離し、その汚泥からも切り離し、その身一つの状態へと隔離した。これが通常の英霊であれば、全く無意味だと言っても良い。だが神霊は違う。神霊という存在は大聖杯のリソースを占領して漸く召喚できる存在。その暴威はあらゆる次元を突破し、空間を拳一つで粉砕する程にある。だが、それを維持する為の大聖杯から離れたとなると、話は変わってくる。
その姿が揺らぎ始める。
もはや語る言葉はなく、伝える事も何もない。
アンリ・マユが世界を破壊しようと咆哮を轟かせながら拳を振るい、世界に亀裂を叩き込むのと同時に【天地乖離す開闢の星】と【最果てにて輝ける槍】が同時に放たれる。超級の宝具の掃射により、一瞬でアンリ・マユの両腕が消し飛ぶ―――再生する為の汚泥も、魔力を供給する大聖杯も存在せず、
もはや逃れる術はない。
「良き来世を―――」
闇色の群集の手が伸びる。狂気に染まり、まるでスポーツを求めるかのように処刑を求めた民衆の手がアンリ・マユを人間の様に捉え、その処刑台へと連行した。入れ替わる為の影の英霊も、泥ももはやない。絶対悪の存在をもはや逃がす事はなく、ギロチンの刃がセットされる。紐に繋げられ、そして吊るされている極厚のギロチンの刃、アンリ・サンソンがこの悪神の為だけに用意した特別な刃、
「【死は
それを握った刃でロープを切り裂き、
断罪のギョティーヌを落とした。
―――数百という保有されていたサーヴァントの命やあらゆる耐性を貫通し、アンリ・マユの首が落とされ、即死した。
悪神アンリ・マユ―――その完全討伐が完了された。
Qなんで勝てたの?
Aメタしか用意しないから
おそらく次回、最終話かな。それにしてもドルオタが真面目な姿に違和感を感じる(困惑