Fate/Grail Seeker   作:てんぞー

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神は言われた”光あれ”

 カンカンカン、と鉄を叩く様な音が聞こえる。人が作業する声に耳を傾けつつも、フード付きのパーカーの下に素顔を隠し、歩く。

 

 周りには崩れた建築物を撤去し、その代わりに仮設住宅としてテントなどを張っている姿が見える。比較的損傷が少ない家や店舗に関しては崩さず、そのまま修復しようとしている大工の姿が見える。急ピッチで建設作業が周りでは進められており、多くの人々が作業に興じている。その誰にも、暗い表情はない。皆前を向いてこの街を復興させようと、頑張っている姿が見える。何せ、ここから始まり、そして国が終わったのだ。ならば再び爆心地であるここから始めるのも、道理なのだろう。そう言う事もあって、数日前までは一切見る事のなかった多くの人手がここにはあった。僅か数日、数日だけで環境は激変した。

 

 ―――アンリ・マユ討伐。

 

 この日本と東アジアを汚染していた特大の巨悪、アンリ・マユを潰した事により、影の英霊と汚泥の怪物、そして霊脈に対する汚染は終了した。既に生み出された分と汚染された分は確かに残っているが、大聖杯の一つは確かに破壊された。故に大聖杯によって押し込まれていた星の自浄機能が僅かばかりながら復活し、日本が再生し始めている。今、冬木に来ている建築家達は冬木解放、大聖杯の破壊を聞いて宮内庁より派遣された貴重な職人たちであり、冬木を対策本部として使うために建築を進めている働き手達である。まぁ、確かに大聖杯、或いは聖杯戦争が始まったのはこの地だ。だとしたら調査の為にも、対策本部をここに立てるのは正しいのかもしれない。

 

 パーカーの下で姿をジャンヌの方へと変態させる―――自分本来の姿は割と有名になってしまった為、有名人であるジャンヌの方が今は目立たない、とはなんとも皮肉な事なのかもしれない。そんな事を考えながら歩く先は決まっている。空を見上げれば夜の闇も、火災の黒煙も、暗雲も存在しない。それらは全てアンリ・マユの打倒と共に消滅し、綺麗な朝日が降り注いだ。今では晴天が頭上を祝福する様に輝き、今までの闘争が嘘だったかのように世界を彩っている。そう、終わった。戦いは終わったのだ―――少なくとも日本では。

 

 アンリ・マユが倒れたら後は【最果てにて輝ける槍】と【天地乖離す開闢の星】を大聖杯へと叩き込むだけの簡単な作業。それで大聖杯はこの世から跡形もなく完全に消滅した。それで、この国を苦しめた最悪の悪意は消え去った。

 

 何ともあっけない終わりだった。

 

 歩く。

 

「復興が始まってるなぁ」

 

『それは勿論そうですよ。人は諦めず、前へと進み続ける力を持っているのですから。これぐらいの事では諦めませんよ』

 

『戯け、人は傲慢なだけだ。己の境遇に納得できないのであれば納得するまで探求し、変えて行く。それだけの話だ』

 

 まぁ、大体ギルガメッシュの言った通りだろうし、同時にジャンヌも正しい。満足できないし、前へと進む気持ちもある。両方といった所だろう。ともあれ、冬木の新都から大橋を渡って旧都へと向かう。新都は比較的無事な建造物が多かったのだ。爆心地である大空洞は冬木の西端に存在し、それは冬木の旧都の近くにある。つまりは旧都が一番の被害を受けていたことになるのだ。実際、旧都の光景は酷い。焼け落ちた家屋、崩壊している道路、荒らされ切った住宅街―――此方は新都よりも復興が大変になるのは目に見えている事だ。だが現状、国と魔術師が支援に力を入れている今、何時かはここも再生するだろうとは思っている。

 

 そのまま旧都へと入ると、入手した情報に従う様に崩れた道路や家屋を抜け、比較的旧都の奥の方へと来る。ある種の高級住宅街になっているこのエリアの一角に、大きく土地を取る豪邸が、武家屋敷の様な家が見える。此方も壁は崩れてはいるが、旧都の方にしては割と綺麗に家の形が残っている場所でもあった。崩れている門を踏み越える様に中に入ると、屋敷の横の庭らしき場所に立っている二つの姿が見える。一人目は赤い外苑を装着している白髪のサーヴァントの姿、イリヤスフィールであり、もう一人は完全に灰色になった髪色の男の姿、衛宮士郎だった。パーカーを降ろしながら元の姿に戻ると、その魔力の反応からか士郎が此方に気付く。

 

「お、おはよう涯。その様子からすると、あんまり楽しそうじゃないな」

 

「そりゃあお前も一緒だろ」

 

「俺は元々準封印指定だし、悪い意味で目立っているから注目される事には慣れているんだよ」

 

 固有結界。それは世界を塗り替え、塗りつぶす魔法に近い魔術。それを行使する事が出来る士郎の存在は貴重であり、サーヴァントの宝具を抜きにしてそんな事が出来る存在はもはや片手で数える事が出来る程度にしかいないだろう。少なくとも自分の知識の範囲内では、二人ぐらいしか知らない。そんな士郎が悪目立ちするのも難しくはない話だろう。何せ、この男は”正義の味方”なのだから。

 

「全く、変わらんな貴様は」

 

 そう言って出現したアルトリアに対して士郎が言葉を放つ。

 

「セイバー……いや、今はランサーだったっけ。お前の方が変わりすぎで俺的にはもはや何がなんだか、って感じだよ。俺が知っているアルトリアはもっと小さかったんだけどなぁ……」

 

「初めに行っておくぞシロウ―――私はあの少女の姿でも中身的には三十路前後だぞ。私の今の姿は多少のイレギュラーはあるが、聖剣の呪いがなかった場合の私だ。故に本来はこれぐらいあるぞ。背も、胸もな!」

 

「そこで胸を張るなよアルトリア。俺が恥ずかしい」

 

 後ろからアルトリアの頭の後ろを軽く叩く。振り返ったアルトリアが不満そうな表情を向けてくるが、ギルガメッシュは笑っているのでこれでいいだろう、と思う。軽く息を吐きながら士郎、それからイリヤスフィールへと視線を向ける。

 

「んで、そっちの調子はどうよ」

 

「おー、魔力の量が多くて割と自由にさせてくれるマスターで私的には一切問題なし! 成長した弟の姿を確認する事も出来て、お姉ちゃん属性としては非常に大満足って感じよ。しっかし実家は何時か滅ぶんじゃないかなぁ、とか思ってたけど皆殺しかぁ―――ざまぁ」

 

「おいおい、イリヤ……」

 

「いやぁ、だってどっからどう見ても外道連中だし? 生まれてきたのはアインツベルンのおかげだけど、何処からどう見ても擁護可能な所はないし。寧ろ早めに滅んだ方がいいでしょ、全体的に。何処からどう考えても馬鹿ばっかりだし。今、はっきり言うけどバーサーカーの召喚に成功したとき、あのまま本家潰そうかどうか一瞬考えた」

 

「おい」

 

 士郎の声にイリヤは笑って、そして霊体化して応える。まぁ、サーヴァントが楽しそうにやっているならそれでいいが、士郎が若干怒っている様な姿を見せている。とりあえず、着物、あるいは浴衣で楽な姿を見せている士郎へと視線を向ける。ここ数日全く会っていなかったが、どうやらアンリ・マユに捕らわれている状態から大分復調してきているらしい。

 

「ま、元気そうで良かったよ。間桐桜の方は?」

 

「あぁ、桜はまだ目覚めないよ。衰弱しているとか肉体的に問題があるとかそういう訳じゃないんだけど―――やっぱり長期間自我を押し込められて肉体を強奪されていたのが響いているみたいなんだ。たぶん目覚めるまではあと数か月はかかるかもしれない。……悪い、とりあえずは桜が目を覚ますまではどこにも行かないって決めているんだ、助けになれなくて悪いな」

 

「いや、最後の固有結界だけでも助かったし、これ以上ヒーローが増えたら俺の活躍まで喰われちまうから、後からゆっくり俺の武勇伝を聞きながら悔しがって追いかけてくるんだな! ま、追いついたころには俺が世界を救っているんだろうけどな」

 

「ははは……まぁ、活躍の場が残っていないのが一番なんだろうけど、困ったらいつでも呼んでくれ。桜の事に関して目処が付いたら飛んでいくからさ」

 

 手を叩きあう様に合わせ、がっしりと握手を組んでから手を離す。士郎は悪い奴ではない。心には歪さを抱えているが―――寧ろ、そう言う部分がないと”突き抜ける”事が出来ない。そしてこの混沌の時代、こういう突き抜ける事の出来ない人間は淘汰されて行くばかりだ。だから歪んでいても、それでも真っ直ぐ歩いて貫ける者であれば、歓迎すべきなのかもしれない。ところで、と士郎が声をかけてくる。

 

「涯はこれからどうする予定なんだ? 確か抑止力の端末なんだっけ? 俺が知っている奴よりは全力で人生をエンジョイしている様に見えるけど、結局はどう動く予定なんだ?」

 

 そうだなぁ、と呟く。まぁ、ほぼ確実に日本を出て海外に出る、という所は確定しているのだ。もはやその事に迷いはない。自分の意思で抑止力が敷いたレールを歩き、そして自分らしさを貫きながら世界を救うつもりなのだ。だからやっぱり、世界に出るしかない。なら目的地はどうするか、という話だ。

 

「個人的に考えているのはアメリカ、或いはイギリスとフランスなんだよな。ルーマニアの”吸血帝国”に関しては聖堂教会が専門のチームを組んで戦争中らしいし、手を出す必要はなさそうな気がする。アメリカはマザーハーロットが落ちたから大聖杯の守備能力が落ちているらしいし、イギリスとフランスに関しては―――」

 

 アルトリアが出現する。

 

「私がいるからな。私の宝具は【最果てにて輝ける槍】だ―――つまりこれを握ってカムランの丘へと向かえば、円卓の崩壊を再現する事が出来る。モードレッドがいなくてもクラレントであれば英雄王の蔵を漁れば出てくるだろう。そこでいい感じに、こう、霊核に突き刺さらない感じで刺し違えればいい感じに再現して円卓を滅ぼせるだろ」

 

「頭大丈夫? 平気? 結婚する?」

 

「其方の方が頭大丈夫か」

 

「……ふふ……俺の知っているアルトリアと違う……」

 

 あぁ、やはり士郎の召喚したアルトリアと、このアルトリアとでは性格が全く違うらしい。まぁ、それも当たり前かもしれない。サーヴァントは召喚される際に、”側面”なんてもんを抽出されて召喚される場合もある。その事を考えると同じサーヴァントでも、全く違う属性やアライメントを持っていたりする場合がある。セイバー・アルトリアと、ランサー・アルトリアもそういう話なのだろう。

 

「んで、今日はどんな用事なんだ?」

 

「あぁ、いや、そろそろ戦力補充しようと思ってライダーを追加しようかなぁ、って思って。だから召喚する土地借りようかな、って。少し広めの場所があった方が召喚しやすいし」

 

「お、んじゃあ是非とも使ってくれ。土地だけなら余ってるしな」

 

 士郎の言葉に苦笑を漏らして横へと視線を向けると、

 

 頭にマリーハチマキを装備し、何時もの黒いコートの代わりにマリー法被を装着し、テニス選手が取る様な待機の構えを取りながらこっちを無言で見つめる、ドルオタなサーヴァント、シャルル=アンリ・サンソンの姿があった。こいつ、これで人類史で二番目に多く人間を殺しているんだよなぁ、と思い出すが、全くそうは思えない。しかしこいつ、あのアンリ・マユ討伐戦では間違いなくMVPというか、こいつがいなかったら固有結界から逃げられ、戦闘が更に長引いていた上に大聖杯と融合させられていたかもしれないんだ。

 

「検索したけどマリー・アントワネットはヒーラーとして凄く優秀なサーヴァントだし、召喚するつもりだから安心してくれ」

 

「……」

 

「無言で体を揺らすなよ」

 

 お前、タンバリンでも叩きそうな動きをしているよな。それを口から吐きだすのを我慢しつつ―――大聖杯破壊、及びアンリ・マユ討伐で得た拳サイズの聖晶石、それを使う事にする。これだけ良質な触媒であれば、間違いなく最大スペックの状態で召喚する事が出来るだろうと思う。抑止力としての機能を利用すれば、狙ってサーヴァントを召喚する事など容易い。ただ一応、振り返りながらアンリ・サンソンに確認する。

 

「……マリーさんってどんな感じ?」

 

「特徴を捉えるなら赤の装飾、白髪、そしてスラットしているが無駄のない体形ですよ。彼女こそがフランスとも言える、絶世の美女です」

 

「おう、解ったから高速で体を揺らすのを止めろよ」

 

 ドルオタを視線から外しながら聖晶石を指で弾き上げる。魔法陣を描く必要なんてない。召喚を行う事は聖杯の機能に刻み込まれている。それを理解し、そしてその機能を稼働させるだけでいいのだ。後はマッチングした条件のサーヴァントを英霊の座より引き上げれば良い。魔力を、聖晶石を消費し、そして聖杯を稼働させる。

 

 目の前で魔力の嵐が吹き荒れ、それが一瞬で広がり、そして終息して行く、一つの形へと。

 

 赤い装飾を見に纏い、

 

 美しく長い白髪を持っていて、

 

 スラっとしてはいるが、一切無駄のない肉体をその服装の下に隠している、

 

 絶世の美―――男子だった。

 

 黄金の鎧を見に纏った美男子は光の中から出現する。

 

「サーヴァントライダー・カルナだ。召喚に従い―――」

 

 そこまで召喚されたライダー、カルナが喋ったところで、

 

「あぁああああぁぁぁぁァァァァァ―――!! マリー! マリーじゃない! うわぁぁ!! マリ―――」

 

 光景を目撃していたドルオタが一瞬で正気を蒸発させて血涙を流しながら発狂した。それを数秒間、何かをするわけでもなく士郎とカルナと三人で眺めると、

 

「……」

 

 空気を読んだのか、見ていたカルナがそっと、光に溶ける様に消えて行こうとする。

 

「消えるなぁ―――!!」

 

「そんなことしなくてもいいから!!」

 

「マリィ―――!! マリア―――! マリアじゃなぁぁい―――!」

 

 ドルオタの絶叫と英雄王と騎士王の爆笑が響く中で、

 

 冬木は、そして日本はここしばらくは存在していなかった、完全な平和を取り戻していた。

 

 ―――だがこれは、長い旅の始まりでしかない―――。




 くぅー、疲れました! これにて完結です。日本解放で終了しましたが、後六つもある聖杯を追い掛けるのは200話超えるシリーズになるのでみんなの脳内で留まらせておいてください。

 とりあえず実装前のアルトリア・オルタランサーを一番乗りでSSにぶち込めただけで満足です。

 ついでにFGO系列SSで一番乗りで完結出来た感じでも割と満足。

 ついでに言えば女帝ギルがマスターに対してデレたので満足です。

 ドルオタァ!

 ジャンヌも好きだけど女帝ギルの金髪巨乳っぷりはストライクなんだよなぁ、これが……。ともあれ、言いたい事は色々とあるので、裏設定とかプロットの開示とかで、それは次回のあとがきにてと言う事で、

 1か月間、お疲れ様でした
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