英霊という存在は本当に凄い。
忘れられた技術、知識、それらを宝具やスキルという形で保有し、自由に使う事が出来る。それでいて人を遥かに超える身体能力を保有している存在だ。普通の人間が戦えば勝てないのは道理だ。勿論、魔力という制限が英霊には存在する。だがそれさえ抜けば、英霊は恐ろしく強力な存在であり、通常では成しえない目的を達成する事さえできる。それに頼れば良いのだろうが、頼りすぎは慢心と油断を生む。何時、どこでサーヴァントが襲って来るか解らない状況で、安易な選択肢を選ぶ事は出来ない。とはいえ、安全策を取らなきゃいけないこともある。
面倒な話だ。
拠点にしているデパートへの侵入者を探知して一番最初にやったことは勿論、アサシンであるシャルル=アンリ・サンソンを偵察に出す事だった。【気配遮断】がDしかないのはアサシンとしては致命的だが、それは対サーヴァントを考えた場合の話だ。或いは魔術の世界でも戦える程の能力を持った存在を相手にする場合だ。ランクがDであろうとも、それは脅威的である。昼間の大通りの中、堂々と歩いても誰も気づかない。それぐらいにはスキルというものは人外染みている。故に不得意なアンリ・サンソンであっても、【気配遮断】で軽く走ってくれば、
それだけで情報収集が終了するのだ。
「ヘルメットに銃を装備しているが、どうやら一般人の様だぞ。魔術回路が存在していないようだからな」
「安心して顔を合わせられるな」
『マスタ、成功率を上げる為にも私に変身して話し方を練習してから行きましょう、そっちの方が絶対に受けがいいですから!』
この聖女返品できないかなぁ、なんて事を思いながら装備を確認し、そして白い布の形をした【礼装】を手に取り、マフラーの様に首に巻いて装備する。【礼装】とは魔術師が魔術をサポートする、或いは魔術を行使する為の道具だったりするのだが、ジャンヌには【聖人】というスキルが存在し、これを通して【礼装の作成】という能力を得ている。これを行う為にはジャンヌ変身しなくてはならないのだが、特殊な能力を持った【聖骸布】を礼装として作成する事が出来る。ジャンヌ本人がやっている訳ではない為に多少下手だが、ジャンヌに変身していない間の体の動きをサポートする、身体の強化礼装であれば作れる。
おかげでサーヴァントでいうEからDクラスの身体能力は発揮できる。
少なくとも落とし子相手にはバゼラードだけで戦えるぐらいには動ける。またアステリオスと出会ったら即座に殺される自信はあるのだが。ともあれ、相手が普通の人間であればこれ以上不安に思う事もない。準備を完了した所で、アルトリアとアンリ・サンソンを霊体化させた状態で移動を開始する。向かう場所はこの休憩室のある五階から地下のスーパーへ、
そこへと迷う事無く移動した事を考えれば、食料を探しに来た生還者、といった所だろう。自分が調べた限り地下のスーパーは既に荒れつくされており、缶詰一つ見つけるのにかなり苦労するところだ。外で野生化した犬や鹿を狩った方が遥かに楽だし、量も多いと思う。それに塩や胡椒といった調味料はほとんど盗まれてはいない、それ単体では意味がないからだ。だから最近のサバイバル飯にはバリエーションが増えてきている。
狩ってくるのは主にアルトリアだし。料理するのはジャンヌの知識だし。最近は生活も割と楽になった感じがある。
そんな事を考えつつも、足はしっかりと目的地へと向かって歩いて行く。特に気配を消すとか、厄除けとか、そんな事が出来る訳ではないので、普通に落とし子がいないかどうか、それを片手にバゼラードを握った状態で気を付けつつ、確かめ、そしてクリアリングしながら進んで行く。霊体化したサーヴァントを先行させればもう少し楽なのだろうが、彼らは英霊であって、便利屋ではないのだ。使い魔として認識する魔術師が多いとジャンヌは教えてくれたが、とてもだが自分はそう思えない。
ジャンヌは間違いなく聖女で俺の心を守ってくれたし、
アルトリアは王の威厳と武勇を披露し、
アンリ・サンソンに関してはドルオタだからそのうちの活躍に期待する。だけど人類史上二番目にたくさん人を殺したとか言う称号はさすがにキチガイすぎて若干恐怖を覚える為、ドルオタ成分で軽く緩和されているからいい感じなのでは? と思う所がなくもない。
ともあれ、エレベーターやエスカレーターは壊れていて使えない。だから階段を使って下の方へと移動して行く。三階ぐらいなら飛び降りても平気なぐらいには非変身時でも身体能力は高くなっている。それでもそうやって動いてしまうと派手に目立ってしまう為、無駄な存在の気まで集めてしまいかねない。だから慎重に、警戒しつつ一気に一階まで降り、そこから地下へと移動する。スーパーの食品エリアに間違いなくいるであろう生存者の姿と合流をめざし、探し出そう、
そう思った直後、
「―――うああああああ―――!?」
銃声が連続で響き、静かになったと思い―――男の悲鳴が響く。神秘を保有する存在に対して、銃などの武器は効きが悪いらしい。だからもっと原始的な武装、剣や格闘、鈍器とかの方が良いらしい。それはともかく、急いだ方が良いのだろう。声のする方へと走って行けば、スーパーの食品売り場、そこで棚を背にする男が二体の落とし子に追いつめられているのが見えていた。
その黒いヒトガタ目掛け、迷う事無くバゼラードを投げつける。
背後から頭の裏にバゼラードが突き刺さり、飛びかかる様に接近し、両手でバゼラードを掴み、それを全力で下へと引っ張り、頭から背中を綺麗に捌いて開き、落とし子を殺す。それに驚愕した男が声を出す前に、蹴りを落とし子へと叩き込む。
吹き飛ばしたその姿へと飛びつくようにバゼラードを逆手に握り、顔面のあるべき場所へと飛びつきながら突き刺す。
「死ね!」
殺意を込めて何度も顔面へと突き刺す事を繰り返す。長く触れていればアンリ・マユの悪性に汚染されるらしいが、聖骸布、そしてジャンヌが保有する規格外の【対魔力】EXの能力があらゆる呪いをこの身に降りかかる事を拒否し、そして無効化する。故にアンリ・マユの落とし子から発生する怨嗟の呪いを撥ね飛ばしながらバゼラードを何度も何度も顔面へと突き刺し、そして急速に薄れて消えて行くその姿に、撃破に完了したという事を理解し、息を吐きながら立ち上がる。
「はぁ、はぁ……大丈夫ですか……」
「いや、君の方が大丈夫か、って感じなんだけど」
『戦い方が落第点だ』
『僕は個性的だと思いますよマスター』
解りやすく敵対しているというのを体で張って教えたつもりなのだが、サーヴァントたちからは不評だった。やっぱりもうちょっと普通に戦った方が良かったか。まぁ、敵ではない事を伝える事は今の動きで出来たんだ。だとしたらこれで正解ではなかろうか。ともあれ、埃を掃いながらバゼラードを鞘の中へと戻し、そして片手を上げて挨拶をする。
「どうも、生存者……の方ですよね?」
「あ、新宿シェルターの者ですけど……君は見た事がないよね」
「あ、自分は決して! 決して怪しいものじゃないんです! ちょっと上の休憩室に寝泊まりしているだけの旅の者なんですけどね、決して怪しい者じゃないんですよ!」
「……」
少しだけ大げさに、そう言う。
『ふざけるな、と怒る人間も間違いなくいます。だけどこの場における対応としては正解です。なぜなら人間というのは”解らない”存在に対して恐怖、もしくは否定を覚えるからです。こういう場合、自分から砕けた様子を、或いは人間らしさを見せる事で安心感を抱かせる事が出来ます。つまり何を言うとなるとヴィヴ・ラ・フランス! マリー! マリーを召喚しましょう!! ライダーでマリーを! 宿業で結ばれているんです僕ら!』
『最後の最後で何故お前は話を台無しにした』
『何度確認しても【精神汚染】はなしですか……おかしいですねぇ……』
暗に人格否定を始めるジャンヌが一番酷い。精神汚染でも喰らってなきゃありえない発言とかお前流石に酷過ぎないかそれ、聖女なんだろお前、一応。……一応。
そんな事で念話を使ってサーヴァント達と遊んでいると、相手は、助けられた男はふ、と笑みをこぼす。そして握手の為に手を伸ばしてくるので、しっかりと両手でその手を掴み、固い握手を交わす。
「正直ね、もうだめかと思ったよ。一応はライフルを持ってきたのに撃ってもまったく通じないし……だから私もね、もう駄目かなぁ、って思ったら君に助けられたんだ。本当に、本当にありがとう。それはそれとして、ここら辺に食料の類は残っていないかな? 探しに来たんだけど……」
「意外とオッサン、図太いね―――……このスーパーだったらもう何度か見回ったけど、もう見つけられる食べ物や缶詰の類はないよ。肉と魚は腐ってるし、野菜も勿論駄目。缶詰は持ち出されていて残っているのは調味料ばかり。それでいいなら調味料コーナーに行けばあるよ。基本的に保存が出来て食べられる者は全部持って行かれちゃってるよ。だから基本的に肉の類は狩猟しないと見つからないよ」
周りへと視線を向けていた男が此方へと視線を向け直す。
「狩猟」
「探せば鹿とか熊とか出てくるよ。動物園から脱走した動物とかだと思うけど」
実に世紀末チックな話になるが、動物園とかの施設は基本的に潰れている。そして動物たちは脱走し、自由気ままに暮らし、生きている。そのせいか、街の中でも鹿や熊の様な動物を見かける事がある。基本的にそれらを狩って食っているのが今の主食だ。本当だったらそろそろ野菜も食べたい所だが、農家は見つからないし、スーパーに並んである野菜も腐っているか強奪済みのものばかりだ。つまり、一切食えないという事だ。非常に面倒な話だが、一番安定する食料の確保の方法が現状、狩猟なのだ。
【最果てにて輝ける槍】で。
贅沢すぎる気がする。宝具を使って狩りして食事とか経験しているのは自分ぐらいだろう。正規の聖杯戦争であれば宝具使ってハンティングとかしなくてもいい筈だし。
「一応こっちでは簡易的な農業にも手を出していたんだけど……そうか、やっぱり狩猟を始めないと辛いのか……農家で飼っていたのも逃げだしちゃっているって話だしなぁ……」
「今ん所牛や豚は見かけてないかなぁ……? もっと郊外とかに出れば話は変わるかもしれないけど。とりあえず俺は涯、天白涯ってんだ」
「あぁ、ありがとう涯くん。私は三城武だよ」
自己紹介をして軽く握手した所で、
『マスター、この人には気を付けてください。悪魔の類に魅入られている、そんな気配が彼からはします』
ジャンヌがそんな言葉を放ってくる。勿論、無意味に彼女がそんな事を言うわけがない。だから軽く警戒しておくことに越したことはないが、それでも悪魔。英霊が存在するのであればまた存在しそうなものだが、
落とし子を殺せもしない男が悪魔に魅入られている? ちょっと信じにくい。それでも一応警戒だけはしておく。
「そうだ、涯くんは私と一緒にシェルターに来ないかい? 助けてくれたから個人的にお礼がしたいし、そして欲しいが色々とあるんだ。君が旅をしてきたというなら色々と何か持っているんだろう? 物々交換でいいから、一旦シェルターの方に来てみないか?」
「あー……」
『警戒する意味はないな』
『純粋に好意から誘われていますね』
『警戒さえしておけば大丈夫ですよ、今は。……今は』
なんでジャンヌはそういう言い方をするのだろうか。もし肉体を持っていたら間違いなく蹴りを一発叩き込んでいる所だろう。一瞬だけ悩んだ姿に、男、武は少しだけそれに、と口を上げ、軽くジェスチャーを取る様に言って来る。
「会わせたい人もいるんだ。君と同じ旅の方なんだけど、どうやら困っている、という話だし。きっとそれだけ強い君になら解決できるさ。だからさ、来ないかい、シェルターへ」
『怪しいようだけど、観察する限り、この人は100%善意で言葉を放っているにすぎません。……善意ってこういう状況だとなんとも疑わしく聞こえる物なんですね。まぁ、マリーの善意は全く疑わないんだけどね』
『おい、マスター。こいつ気持ち悪いぞ』
アンリ・サンソンはそう言う事を話す前にそのドルオタっぷりをまずはどうにかしろ。アルトリアも我慢しろ。一応有能なんだよソイツ。
とりあえず、他の生存者たちと会って、そしてこの日本に関する情報屋、冬木市へのルートや移動手段も探したい。シェルターがあるのであれば、訪れるのは決して悪い選択肢ではないと思いたい。
「はいはい、降参降参。行きますよ」
「おぉ、ありがとう! ここからはそんなに離れていないんだ、直ぐに案内するよ。っと、そう言えば荷物が上にあるんだっけ?」
「あー……そうだった。まぁ、全部鞄に詰めてあるし、拾って来るよ」
「じゃあデパートの前で待っているから早く来てね」
「あいよ」
手を軽く振り、背を向けて歩き出す中、僅かに男の声が聞こえる。
「―――これでキアラさんも助けてあげられるな、良かった―――」
そんな声を聴きつつ、荷物を取りに急ぐ。
ヴィヴ・ラ・フランス!(挨拶
シャルルくんがドルオタ拗らせてるけどこれも全部キアラとアンリ・マユが悪いんだ! あぁ、ナントカ院キアラさんって誰なんだろうな!
ジャンヌちゃんにフォウの丸焼きを食べさせられるだけ食べさせながら今日も生きる。