colors! -a school idol another story-   作:瀬戸蒼志

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#02  仄かな予感を感じたから【橙】

 

 

 

 ―――――"運命(うんめい)"。

 そう、彼女が言ったんだ。

 それも、真顔で。

 

 言われた時は勿論、お前は阿呆(アホ)かって彼女の頭を軽く叩いて笑ってしまった。

 だって、そんなこと真剣な顔して言うのはドラマや漫画、曲の歌詞の中だけだと思っていたから。

 現実でそんな胸の奥がむず痒くなるような言葉、言う奴なんて誰もいないだろうなって信じて疑わなかったから。

 

「もう、陽葵くんってば痛いよ~~!! 一応、これでもわたし女の子なんだからね。」

 

「はいはい。悪かったな。」

 

「ぶぅ〜~。はーるーきーくーん、もー。人の話、ちゃんと聞いてってば。あのね。」

 

 それでも、彼女は続けたんだ。

 少しも言葉を濁すことなく、真っ直ぐに俺だけを見つめて続けたんだ。

 

「陽葵くん。……きっとね、穂乃果たちと陽葵くんがこうやって出会って仲良くなれたのは"運命"なんだよ。」 

 

 今度は曇ることのない太陽みたいな笑顔で言ってのけた。

 なにをどう話したらいいか、どう返せば良いのかわからなくなった。

 だから……。

 やっぱお前は阿呆だなぁとか軽口叩いて彼女から自然と背中を向けたんだ。

 

 彼女の笑顔も……彼女も……。

 どっちも、俺にはどうしようもなく眩しかったんだ。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 ―――――ぐぅぅうぅー

 お腹が鳴った。

 それも今までに数度しか聞いた事無いような、とんでもなく大きな音でお腹が鳴ったのだった。

 

「あー、腹減ったなぁ。」

 

 ぎゅるるる……、ぐぅー……。

 更に続けて幾度か、立て続けに鳴りました。それはまるで"お腹が限界だよ、(ぬし)様早く飯をくれよ〜"と悲鳴をあげているかのようだ。

 そのあまりの大きさに正面背面左右と確認してしまったのは言うまでもないだろう。事細かく周りをチェックして、人ひとり居ないことに安堵した。

 もし、聞かれてたら恥ずかしすぎて生きていけない。大袈裟だろうが、実際問題そんぐらいキツイと思うんだ。飽くまで思うだけ。

 大した気休めにはならないだろうが、せめてもの抵抗として軽く右手をお腹へ添えて(つね)った。これ、地味に痛い。

 

「……あぁ、もう早く帰ろ。」

 

 とりあえず、帰路を急ぐことにした。

 真っ直ぐに家に帰って、ご飯食べてシャワー浴びて明日の準備を軽くして、そんでベットに入ってやるんだ。

 うん。そう決めた。

 

 しかし、食欲とは人間の三大欲求の一つ。その欲求には逆らえないもので時折視線を辺りに走らせては何かしらでも食べれるものがないだろうかと店を探していた。

 

 だが、ここまで歩いてきて未だに一軒も見つかっていない。

 更に言ってしまえば、何十分前かの出来事になる。暗闇から突然出てきた野良猫に威嚇(いかく)された。動物が大好きな俺からしたら、その出来事がショックで仕方なかった。

 あぁ、この道を選んだのが間違いだったんだな……と自分の選択を恨んでしまったのはついさっきであり、今もだった。

 

 「……はぁ~。」

 

 口から無意識にため息が漏れる。

 

 (さかのぼ)ること数時間前。

 つい先程まで、国立音ノ木坂学院の理事長室にいた俺。実は、月曜(あした)からそこに転入することになった。その為、理事長である南ひなこさんへ挨拶をしなくては、と思いお昼頃学院に訪れたのだ。

 だが久しぶりにあったせいなのか、話が弾んでしまい思いの外長居をしてしまった。

 外は既に暗くなっており家には明かりが灯り、街灯と夜空へと浮かぶ月が道の行く先を照らしていた。

 

 (ひなさんは家についたかなぁ……大丈夫だったかな。あんな時間まで悪かったよな。……ん? あれ、今って何時だ?)

 

 ふと、時間が気になってしまった俺は淡い青のチェック柄パーカーのポケットへ手を突っ込み、お目当ての"モノ"を取り出した。

 ―――スマートフォンである。

 実を言うと、スマートフォンを弄るのはこれで三度目である。いや、四度目だったか。ってそんなことは大して重要なことではない。こっちに戻ってくる時にきっと必要になるからと親名義で買ってもらった。

 電源を入れ、準備が整うのを待つ。

 フューチャーフォン、所謂ガラケーと呼ぶものは初期動作までが早かったがスマホはこれに結構な時間を要する。まあそれも機種によるらしいのだが、聞いた話だからイマイチ分からない。

 元々、機械に対して苦労を覚えたこともなかったのでスマホに変えたところで難しいだとかは何も思わなかった。

 

 画面が切り替わり、ロック画面で時間が表示された。時刻は午後八時を示した。

 

 (うわー……。まじかよ。夕飯作る気なくした。どーすっかなぁ……。あ、母さんからメール来てるし。)

 

 メールが二通届いているのを確認し、一通目を開いてみれば母親からであった。

 

 

 はーい、母さんだよ~~(はーと)

 ハルくん、ハルくん!(はーと×3)

 もうそっちの生活には慣れたかなぁ?

 大丈夫そう?

 あ!!

 もしかしてー、寂しい!?

 母さんはね、

 寂しいよおおおお!!!(号泣の顔文字)

 また、メールするからね〜(はーと×5)

 返事ちょーだいね!(はーと×2)

 

 P.S

 こっちからとあるモノを送ったので

 その内届くと思いまーす!(はーと)

 ではでは、お楽しみにー(はーと×3)

 

 

「……削除していいかな。」

 

 ハートマークで溢れかえっているメールだった。内容より真っ先にハートに目が行ってしまう。母親からこんなメールを貰うなんて、誰にも絶対メールボックスは見せられない。この他に五通ほど似たような内容の母親からのメールがある。

 あぁ……、もう恐ろしい。お陰様でまだ友達一人できてないのに、ロックは二重です。こんなの誰にも見られたくない、見られちゃいけない。

 気を取り直して、二通目を開いてみると妹の柚子(ゆず)からだった。

 

 

 お(にい)、日本に着きましたか?

 お母さんからメアド聞きました。

 勝手にごめんね?

 きっと、お兄なら

 許してくれると思ってるよ。(ニコ)

 また、一人にさせてしまってごめんね。

 あたしもお兄について

 日本に行きたかったなぁ……なんて。

 とりあえずはお兄、体に気をつけて。

 しっかりとご飯食べるんだよ!!

 それと時折連絡下さい。

 じゃあ、また連絡するね〜。おやすみ。

 

 

「柚子、ありがとう。」

 

 何処かの誰かさんとは違って終始身を案じたように思わせるメールに少しだけ感動してしまった。ハートマークはひとつもないし顔文字もにっこり笑った可愛らしいやつ、ひとつだけだし。

 

 柚子は俺の二つ下で十四歳。

 無邪気で可愛らしい、正に柚子こそ自慢の妹である。

 シスコンと言われてしまいそうだが、こんな事を言えるようになったのはつい最近のことで、それまでは冷め切っているまではいかないが、何処か兄妹にしてはよそよそしかった。

 そのわだかまりを無くし、ようやく互いに打ち解けた。それからというもの、柚子はブラコンまではいかないが、かなりの心配症にはなってしまったらしく煩い時は煩い。

 

 しかしながら、この親子の差は一体なんなんだろうかと思う。疑問に思う。

 まあ、あの親だから"こそ"なのか。それに習わないように妹がしっかりしたのか。

 

 日本に来たのは俺ひとりだけなので、ふたりと父親は相変わらずの海外暮らしだった。

 これからはひとりでご飯を作るしかない。というか、今までもひとりの方が多かったので自炊することが多かったのだけど。

 ただ、時間を確認した途端に今日のやる気は消え失せた。

 

 (あとで、返信するとして。……今日はカップラーメンにしようかな。)

 

 妹には怒られるであろうが、明日からはきちんとした食生活を送るので今日ぐらいは勘弁して貰おう。

 と、見られるはずもないのだが一応自己完結させたあたり、やはりお前はシスコンなんじゃないかと言われそうだがそこはやはり否定しよう。

 

 栄養面を考えてみれば、決していいものではないだろう。寧ろ、身体に良くないと言える。しかし、三分から五分もあれば箸を持ててしまうそれ。美味しい上に、なんと言っても価格に注目していただきたい。コンビニを利用しても、三百円も出せばほとんどの種類が一食分買えてしまう。これがスーパーならば、百円以下なんてのもある。得だろ。

 なんだか、通販番組のお兄さんみたいになってしまったがそんぐらい推したいのだ。

 カップラーメンを偉大と言わずに、何を偉大と言おうか。

 開発した人、ほんと最高です。いっそ、神様と呼ばせてください。なーんて、そんなこと言ってたら世の中神様だらけになるんだろうな。

 

「何味にすっかなぁ………。うーん、味噌か。いや醤油。いやいや、豚骨。それとも、塩。……カレーも捨てがたいしな、チリトマトも久しぶりに食ってみたい気もする。いーや、ここは敢えての焼きそばという手も、パスタもあるしなぁ……。あ、店あった。」

 

 道の左手に【()むら】という和菓子屋を見つけ立ち止まった。

 気分的にはガッツリ行きたかった。だから、ラーメン屋とか定食屋とかファミレスを探していた。だが、生憎この通りでは一軒も無かった。

 増して、食べ物を売っている店を見つけたのが初である。空腹も、もう限界だ。

 

 そして(しばら)くの間、海外に滞在していた俺にとって和菓子屋を見たのは久しぶりのことであり、テンションが上がる。

 

 速攻で和菓子屋【穂むら】へ寄ることに決めたのだった。

 その足取りは先程までとは比べ物にならないぐらい軽い。

 

「いやー、ラッキーラッキー。和菓子かー、羊羹(ようかん)とかないのかな? ……いや、大福もいいなぁ。うわ、悩むわ。どーすっかな。」

 

 頭の中は既に和菓子のことでいっぱいだった。

 帰り道に手を汚さずに片手で食べられるものと、明日からゆっくりと家で食べれる日持ちの良さ気なものを幾つか買っていこうとウキウキしながら目の前にある扉へ手をかけたそのときだった。

 

「―――え。」

 

 五分後、家の近くにあるコンビニに寄って帰るべきだったと後悔することになるなんて思いもしなかった。

 

 

 

 

 ―――そう、これが女神様とのはじまりだった。

 

 

 

 

「~~~~~~~~っ!」

 

「い、いったーーーーーーーい!!」

 

「お姉ちゃん、なにしてんの!?」

 

 

 

 

 

 続

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