colors! -a school idol another story- 作:瀬戸蒼志
前回のからーず。
学院からの帰り道、お腹が空いていた俺。
そこで俺が寄ろうとしたのは……。
和菓子屋【穂むら】という店だった。
久しぶりの和菓子にハイテンションな俺だったが、とんでもない
そこの店員であろう女の子と真正面からぶつかってしまった。
今世紀一番という痛みと戦いながら、謝り倒す女の子を必死に宥める。
彼女の妹さんも出てきて、その妹さんも謝りまくって、俺はてんやわんや。
必死で大丈夫だと伝えると、ようやく笑顔を見せてくれた。
これで終わったかと思いきや、ぶつかった後に手から血を流す程の怪我をしていた俺。
さぁ、どうなる?
無事に家に帰ることはできるのだろうか……。
*****
「……大丈夫ですか?」
手当のされた俺の左手を取り、心配そうに尋ねるゆきほちゃん。
手は消毒されガーゼが貼られた。そして、額には小さくも丁度いい大きさに切られた湿布が貼られていた。
これらを手当してくれたのは目の前にいるこの可愛らしいお嬢さんである、ゆきほちゃんだった。まさか、額の傷にも気付くとは思いもしなかったので驚いた。
まあ、見つかった時にはなんで自分から言わないんですかと軽く怒られましたけど……。
「大丈夫だよ。それにしてもごめんな。部屋にまで上がり込んじゃって。」
ゆきほちゃんと俺は、和菓子屋【穂むら】の二階へと上がっていた。
お店の二階は完全な生活区らしく、この部屋はゆきほちゃんの部屋とのこと。部屋に入るときは気にならなかったが、落ち着いて観察してみると意外と女の子らしくまとめてある。
「あー、全然へーきです。寧ろ無理やりごめんなさいって感じで、うちのお姉ちゃんっていつもあんな感じなんですよね。」
自身の姉の猪突猛進さに苦笑いを浮かべながら、机に散らばった血のついたガーゼたちをゴミ箱へと捨てていた。
手伝おうと手を出そうとしたら安静にしててくださいと釘を刺されてしまい、元の位置に戻った。
遡ること数十分前。
ゆきほちゃんが手の怪我へ気付いた直後、恐ろしい勢いで姉に右腕を引かれたかと思えば有無も言わさずに家の中へとお邪魔することになってしまった。
そして、二階へ上がった途端に目の前で姉妹のバトルが始まった。
意味が分からず呆然と立ち尽くすしかない俺には一切目もくれず、姉妹は口論を繰り広げはじめたのだ。
その内容とは、どちらが俺の怪我の手当をするのかということだった。
知らない
姉は、"怪我をさせてしまったのはわたしだから"という最もな理由から。
そしてゆきほちゃんは、"お姉ちゃんには絶対に任せられない"というある意味で当たりなんだろうなという理由から。
この言葉を聞いて姉は心底不器用な娘なんだろうなと勝手に悟った。
結局、勝負はあっという間にゆきほちゃんに軍配が上がることになった。
何故かといえば……。
ゆきほちゃんが"回覧板"という単語を出した途端に姉は渋々諦めたようで、それを置きに再び外へと出て行った。
そして、その発言によってあの額に当たった"物体X"が"回覧板"だったということを知った。
(そりゃ、な。痛いわな。)
手当のお礼をしなくてはと思い、片付け終え目の前に座ったゆきほちゃんに向き直る。
「ありがとうな。えっと、ゆきほちゃんであってる? 助かったよ。」
「あ、はい雪穂であってます。漢字はふつーなんですけど、雪(ゆき)に
「うん。大丈夫だと思う。」
「それに私なら大丈夫ですよ。よくお姉ちゃんが怪我するんで、こーいう手当は慣れてますから。」
「あー、確かに。しそうだね。」
「でしょ? ほんと馬鹿なんですよね、お姉ちゃん。」
顔を見合わせて笑う。
なんせ、雪穂ちゃんの言葉に姉が小さな怪我をよくするところが思い浮かんでしまったのだから。雪穂ちゃんにもそれが伝わったんだろう。
姉が居ないことを良いことにふたりで笑い合ってしまった。
すると直後、ただいまという声と共に階段を駆け上がってくる音が聞こえた。
どうやら、姉が丁度いいタイミングで帰ってきたらしい。
雪穂ちゃんは「帰ってきちゃいましたねー」と苦笑いを浮かべた。しかし、その苦笑いは決して姉が戻ってきたのが嫌だというわけではない。ただ、そのタイミングの良さにあった。
一切部屋の外からの音が聞こえなくなった刹那、扉が開きそのままの勢いで壁へぶち当たりガシャンと音をたてる。
そして、そこには肩ではぁはぁと息をしている姉の姿があった。サイドのポニーテールがゆらゆらとブランコの様に揺れ動き、額には幾分か汗が滲んでいた。余程急いで帰って来たのだろう。
「……終わった~~~~~~。雪穂ぉ、行ってきたよ~~~~!!!」
「お疲れ様、思った以上に早かったね。」
「いえい! ……あ、えっと、ごめんなさいっ! まさか目の前に人がいるなんて思わなくて。……痛い、ですか?」
本日、何度目か分からない謝罪の言葉を口にした彼女。本当に何度聞いたことだろうか、部屋に上がった時も言っていたし部屋から出る時も言っていたし。
きっと、三ヶ月分ぐらいのごめんなさいは余裕で聞いたかもしれない。
「いやいや、平気だって。この通りさ、雪穂ちゃんに手当してもらったし。寧ろ、ありがとう。」
姉は雪穂ちゃんの隣に腰を降ろした。
心配そうに怪我した場所を見つめていたが、最終的に笑顔を見せれば安心したようにほっと息を吐いた。
「あ、そうだった。名前、言ってなかったよね!? わたし、高坂穂乃果って言います!」
そこから、彼女の自己紹介が始まった。
彼女は、
此処、和菓子屋【穂むら】の長女。雪穂ちゃんと二人姉妹で、雪穂ちゃんが一つ下で姉は同い年だった。
たまに交代制で此処の店番をしている。なんでも、お小遣いが月々決められた額の他に店番や手伝いによって貰えるらしい。だから、欲しい物が出来たときには代わってもらったりもあるとのこと。
因みに今日はお母さんとお父さんが二駅先の激安で有名なスーパーまで買い物に行ってしまった間、姉が店番をしていた。
ただ、前から今回の回覧板を置きに行く担当になっていた姉だったが今回はギリギリまで忘れていたらしく、思い出し届けに出たところを俺と接触したと言われた。
なんだろう。この自己紹介は自己紹介なんだけど、ちょっと変わってるのは。
「……とまあ、こんな感じかな。で、で、あなたのお名前は?」
一通り話し終えると今度は尋ねられた。
「俺は鳴海陽葵。字は太陽の陽(よう)に、葵(あおい)。」
「え、青!? ぶるー!?」
「いや、違うでしょ。」
ボケかと思ったが、大真面目だったらしい。冷静なツッコミをありがとう雪穂ちゃん。
痛む左手の掌を出して、葵という漢字を書いてみせる。
「草かんむりに、こういう感じ。それで、葵。」
「あーーー!!」
「好きに呼んでくれていいからさ、雪穂ちゃんも穂乃果ちゃんも。」
「んじゃあ、わたし陽葵くんって呼ぶね!」
「私は陽くんって呼びますね。」
各々、呼び名を決めてくれた。
穂乃果ちゃんは陽葵くん。雪穂ちゃんは陽くん。
くん付けで呼ばれるのが久しぶりのことで、日本に帰ってきたんだなぁと一人で感慨に浸った。
「陽くんは、何歳なんですか?」
「俺は16で、今年高2「ええ、わたしと同じだよっ! ねぇねえ、どこの高校!?」」
同い年ということが分かった途端に目を輝かせ机に身を乗り出した。あまりの近さにびっくりして、少し身を引いてしまった。それでも彼女にはお構いなしのようで、どんどん近付いてきた。
そして、言おうとしていた高校名を尋ねられた。
「お、音ノ木坂学院。今年から転入することになったんだ。」
「えええええええ! わたしも音ノ木坂だ……ってあれ、音ノ木坂って女子校だったよね!? え、女の子!?」
「んなわけないだろ。正真正銘男だって。」
ようやく、目の前から退いてくれ安堵する。
「え、雪穂どういうこと???」
「はぁ……お姉ちゃんは全くもう。
今年から共学化したんでしょ。まあ、共学化って言っても今年度に関してはテスト生と入学希望者が数名入学した程度なんだけどね。……っていうか、なーんで中学生の私が知ってて通ってるお姉ちゃんが知らないのか不思議で仕方ないんですけどー。」
「あはは、あー、そんな話を聞いたような……聞いてないような……。」
雪穂ちゃんのあまりに的を得た発言に不自然に目を泳がせた穂乃果ちゃんであった。穂乃果ちゃんはどうやら、相当抜けているらしい。
雪穂ちゃんはそんな姉の様子にため息をつき、呆れた表情を見せた。
そんなときであった。
――――ぐううううううっ
お腹が鳴った。
はじめは誰のだろうと思ったが、二人に出会うまでの自身の状況を思い出して、はっとする。
あまりに大きな音だったようで、不思議そうにこちらを見つめるふたり。
やはり紛れもなく俺のお腹の音だった。恥ずかしくて頭を掻く。
これは説明するべきだなと思い、爆笑されるのを覚悟して口を開いた。
「ご、ごめんな。実はさ、朝から結構バタバタしてたっていうか、海外から帰ったばかりだし。その、ちょっとばかしお腹空いてて、あはは。………申し訳ない。」
机に手をついてこれでもかと頭を下げる。
「……なぁーーんだっ。そういうことだったんだね! それなら早く言ってくれれば良かったのに~~。ちょっと待ってて!」
「へ?」
何やら一人で自己完結まで至った穂乃果ちゃんは突然部屋を出て階段を降りていった。なんだろうと思って残った雪穂ちゃんを見れば、笑顔で
「待ってて下さい」
と一言と告げられる。
(……………?)
爆笑され盛大にからかわれるのを想像していた俺からしたら、この状況は意味が分からなかった。
寧ろ未だに、これからからかわれるんじゃないかと不安にすらなる。
「お待たせ!」
それから程なくして穂乃果ちゃんは戻ってきた。手には何だか分からないけれど、箱があった。
そして、その箱を俺の前へと差し出した。意味が分からないが、ずっとそのままでも仕方がないのでそれを受け取る。
目の前に置き、それが何なのか凝視。
だが、分からない。分かるはずもなかった。
びっくり箱にしては小さ過ぎるし。
穂乃果ちゃんは開けて開けてとせかすから、恐る恐るその箱の蓋に手を掛けた。
「じゃーーーん! これね、うちの名物なんだよっ。穂むらの特製お饅頭、略してほむまん。良かったらこれ食べて?」
穂乃果ちゃんの口頭効果音付で開けたそこには、ひとつひとつ丁寧に包装された美味しそうなお饅頭が並んでいた。お腹が最高潮に空いている俺の目にはきらきらと光り輝いているように見えた。
―――――ぐぅぅぅっ
お腹は再び鳴り響き、口の中では既に唾液が分泌されていた。
「……い、いいのか?」
今にも手が伸びそうになるのを必死に堪えて、恐る恐る尋ねれば笑顔で頷かれた。その瞬間に俺は素早い動きで穂むら饅頭を手に取った。それはまるで狩りをする肉食動物のスピードだった。
「い、いただきますっ!」
喉を鳴らし、包み紙を剥ぎ取ると丸々ひとつを千切らずそのまま口の中へと放り込んだ。
ひと噛みすれば、口の中に甘い餡がぶわぁーと染み渡るように広がり空腹を軽く埋めていく。
「……んめ、ぇ。」
無意識のうちに溢れ出た言葉だった。
そんな俺の感想に、穂乃果ちゃんと雪穂ちゃんは顔を見合わせて微笑んだ。
「陽くん! それ、好きなだけ食べていいですよ?」
なんとも魅力的な提案をしてくれた雪穂ちゃん。何故だろう、彼女が女神様に見えた。
ひとつ食べ終えたところだったが、まだお腹は満たされてはいなかった。それに穂むら饅頭を気に入ってしまった。だから、出来る事なら目の前にある全て食べてしまいたかった。
それを良いと
「ほんとに、ほんとにいいのか?」
「勿論、足らなかったら下にまだありますからね!」
「よっしゃ!! ……んわぁ、…………くぅ、んめぇ。……あ〜~。」
口いっぱいに頬張る俺の頬はきっと、リスみたいになっていることだろう。
そんな幸せそうな俺を見て穂乃果ちゃんと雪穂ちゃんはやっぱり微笑んでいた。
「わたし、お茶いれてくるー!」
「私はなんか違うの持ってきますね。」
「あむが、ひょう!!(ありがとう)」
―――――そして、その後穂乃果ちゃんと雪穂ちゃん、更には買い物から帰って来た二人の両親とも打ち解け晩御飯までご馳走になってしまう俺であった。
「やっべえ、これって幸せだわ。」
#02 仄かな予感を感じた
(―――――その出会いは、きっと"━━"だった。)
了
はい、喉ががらがらな瀬戸です。←
皆さん、台風は大丈夫でしたか?
何もない事を祈ってます。
ようやく、第二話が三部にかけて終わりを告げました〜!
最初は穂乃果ちゃんでした。
まあ、タイトルの横見て直ぐ気付いた方のが多いでしょうけど(笑)
(そして、途中なんかダジャレみたいになった……)
あ、お気に入りに入れてくれた三十二名の読者様ありがとうございました。
次の第三話ですが……、誰だと思いますか?
展開の都合上次は二部に分けてます。
第三話は二部とも既に書き終えたので、第四話の一部が清書が終わり次第にアップしようかな…どうしようかなと考えております。
楽しみにしてくださってる方がいると、早くあげたくなるという(笑)
それと、もうひとつお知らせを。
実は、書きためていた小説がこのからーずの他に小連載が二つあるんです。そのうちの一つを近日中にあげようかなぁ……なんて考えたりもしてます。
えー、そちらは完全なる恋愛小説でヒロインはScarlett Princessさまです。はい、そうです。西木野真姫です。真姫ちゃんだよ、真姫ちゃん推しの方お楽しみに。(え)
なんと言いますか、ちょっとした練習を含めての投稿でして…。もし、見てくださる方がいるならそちらも是非。
てか、からーずの読者様は誰推しが多いんだろうかと疑問が湧いたこの頃です。
では次回もお楽しみに。瀬戸でした〜。
コメや評価、もし良かったらしてやって下さい。