colors! -a school idol another story- 作:瀬戸蒼志
人間には生きてる内に必ずすること、無意識の内にしていることが幾つかある。
―――それは、食べること。
―――それは、歩くこと。
―――それは、笑うこと。
―――それは、泣くこと。
―――それは、眠ること。
ちょっと変わったことだけど、夢を見ること。
これも当て嵌まると思うんだ。
人生で一度ぐらいは誰しもが何かしら夢を見ていると思う。まあ、一部例外はいるかもしれないけど。
夢は自由だ。
普通じゃ出来ない事も、夢の中なら簡単に出来てしまう。
空も飛べるし、水の中で息も出来るし、好きな人と付き合う事だって出来るし、現実では会えない人に会うことだって出来る。
そして、その夢には必ず一つ一つに意味があると言われている。
その意味について時々考えてみるのも良いかもしれないって今なら思うんだ。
*****
翌日の早朝。
まだ日も昇り始めたばかり、そんな時間にふと目が覚めてしまった。
「ふわぁあぁあ……。んぅ〜~……。」
もう一度眠るわけにはいかず、仕方なしと判断して起き上がった。足の関節がパキパキと鳴る。
「っ、眩し……。」
リビングに出てカーテンを数センチ開ければ、眩いほどの光が一気に視界を埋めつくし目を開けられなくなってしまう。無意識のうちに足を一歩引けば、足元に置いてあったダンボールにぶつかり身体をふらつかせた。
朝から転けるなんてことは流石になかったけれど、親指をぶつけてしまった。
普通こういう時って相場が決まって小指じゃないのか。いや、親指でも充分痛かったんだけど。まあ、それでも軽くだったから傷にはならないだろう。
「……いってぇ、……ったく昨日から怪我ばっかしだな俺。……つか、片付ける前に寝ちゃったんだ。」
無造作に積まれたとんぼの絵柄がプリントされたダンボールと新品の家電が入ったダンボールたち。
先日、引っ越したばかりで荷解きがまだ終わってないのだ。大した数の荷物ではなかったので、もう一日もあれば全て片付け終わるだろう。
「そーいや、コンポ買ってくんの忘れたんだっけ。」
部屋の間取りは3SLDK。とあるマンションの9階に位置する。
一人で暮らすには広すぎるぐらいだが、この部屋は勝手に母親に決められた為に文句は言えなかった。あ、正確には文句は言った。寧ろ言いまくった。だが、そんなの
含んだ笑いを残していきなり電話を切られたのだからどうしようもない。
キッチンに移動してコップに水を注いで口に含み、喉を潤す。ついでに面倒臭くてそこで顔を洗ってしまった。
「ふぅ……。そろそろ準備すっかな。」
ソファーにスウェットを脱ぎ捨て、ポールに掛けてあった音ノ木坂学院の制服のあるハンガーを手に取った。
実は制服、スクールバッグ、革靴、教科書等のものが一式が引っ越してきた当日の夜、郵送で届けられた。いきなり青いお兄さんが訪ねてきた時は何かと思ったが、宅配業者の方で荷物の送り主は理事長だった。
音ノ木坂は女子校だったので、男子生徒の制服は元々ないのだけれど、入学や転入に間に合うようにしっかり手配してくれたらしかった。
デザイン自体は女子のそれと何ら変わりはないようだから、発注かけるだけで楽だったのは楽だったのかな。
「んーと、これが……こうで。こっちのが、こうだっけ。」
新品の皺一つ無いシャツを着てネクタイを締める。小学校の頃からネクタイをしていたので、結ぶのは問題ない。
ネクタイは赤を基調としていた。
これは学年によって色が変わるらしくて、三年生が緑、一年生が青とのことだった。
下もスラックスに履き替え、靴下は自前の黒色のものを選んだ。最後に、ジャケットに袖を通して完成。サイズは見事なまでにピッタリだった。
「………お、おお!」
洗面台の前に立ち自らを見てみれば、今日から自分は高校生なんだなということを大いに実感する事が出来た。なんだか少し感動すらしてしまったのだが、寝起きで髪があちらこちらに飛び跳ねてしまっていたので、感動は一瞬にしてさようなら。
寝癖用スプレーは俺にとって必需品だ。
隈なく掛けて、櫛で梳かす。そして、ドライヤーである程度乾かすとワックスを手に取り、多少遊ばせるようにセットした。
音ノ木坂の生徒会がどんな感じなのかはよく分からないが、あんまりやると怒られそうだから程よくにした。まあ、そうは言っても殆どいつもと変わらないのだけれど。飽くまで、気持ち的にはいつもよりも大人しめ。
厳しくて呼び出されるのは勘弁して欲しいから、その辺も理事長に聞いておくべきだったなと後悔した。
「……てかちょっと赤くなってんじゃん、でこ。まあ、仕方無いか。」
前髪を上げ、赤くなった一箇所を撫でれば、少しばかり痛んだ。でも、これなら大丈夫そう。手の方はまだガーゼ、その上から黒のサポーターをつけてある。昨日シャワーの後、自ら貼り替えたのだが、それだけでは寝ている時に剥がれそうだったので、サポーターをつけることにした。
ほら、朝起きて布団が血だらけだったら恐ろしいじゃん。それに、買ったばかりだから困る。血って中々落ちないから洗濯するの大変なんだよな。
「……よし、完璧じゃね。」
最後に再び鏡へと目を向ければ、人前に出れるいつも通りの自分自身がそこにいた。
一つだけ違うとすれば、それはやはり制服を着ているということだった。
「ちょっと早いけど、出るか。」
朝食に、と買っておいた菓子パンをつまみながら、鞄の中身をチェック。
今日使うであろう教科書、ルーズリーフ、筆記用具各種、タオル、制汗剤、音楽プレーヤーなど。
まあ、こんだけあれば大丈夫であろう。
そこに更に充電の終えたスマホと財布を突っ込んで出来上がり。
「んー、こりゃいい天気だなぁ……。」
何度か欠伸を繰り返しながら、音ノ木坂への道を歩いていた。
空は雲ひとつない快晴で、耳を澄ませば小鳥の
途中途中、朝の散歩だろうか―――行き会うおじいちゃんやおばあちゃんたちに"おはよう"と元気に挨拶してくれるので、眠いながらも挨拶してくれる全員に返した。
こんだけ早く起きてしまったのは偶然だったが、早めに家を出たのには理由があった。
昨日挨拶をした際に、理事長に自身が今日より転入するクラスが何処になるのかを聞くのを忘れてしまったからであった。
みんなと同じ時刻に登校して、無駄に注目を浴びることになるのも嫌だったので、こうして早めに出たのだった。
「………にしても、早すぎたかな。」
前方に音ノ木坂が見えた時、時間を確認してみれば、まだ六時になったばかりだった。門が開いているのかさえ不安になったが、問題はなかったようだ。
「ラッキー、今日はいいことありそうだ。」
門を抜けて学院内にへと足を進めた。
昨日来ているから理事長室までの道のりは頭に入っているのだが、この学院は中々大きい。
だから、何処に何があるのか全てを覚えるのにはまだまだ時間が掛かりそうだった。取り敢えず、迷子になることだけは避けたい。
誰かに案内してもらえたら嬉しいんだけどなぁ……と少しばかり思う。
「……流石に開いてないか。」
理事長室前。
目の前のドアノブを捻るも、がちゃがちゃと無機質な音がするだけで開きはしなかった。どうやら、理事長はまだ学院には到着していないようだった。
居ないにしても開いてれば、中で待ってられたんだけどなぁと思うが、中は理事長室。重要な資料が置かれているその室内に鍵をかけない訳にはいかないだろう。
さて、どうしたものかと頭を悩ませ辺りをぐるりと見回した。
「取りあえず、探検でもするか。」
"探検"とざっくりとした名目をたて、歩き出した。
恐らく数人の教師と警備員以外は誰もいないであろう学院内。自身の足音だけがカツカツと廊下に響いていた。
音ノ木坂は四階建ての校舎。
一階、二階、三階と色んな教室を見て回ったのだが、どこも大して変わった様子も無くつまなかった。
椅子と机のセットがあり、黒板があるだけの教室だから仕方がないだろう。女子の教室を物色するのもどうかと思うし。
「んー……。」
そのせいか、収まっていたはずの眠気が再来してきた。ふわつく脳内、覚束ない足取りで特別棟の方へと足を進めた。
特別棟とは……。
家庭科室や図書室やインターネット室、そして各部活の部室がある。
そしてその奥にはグラウンドや体育館、弓道場等がある。
「やべ、ね…んむ、い。」
突然の睡魔に思考がどんどん阻まれる。
限界だと思い、そこから一番近い教室へと入り込んだ。廊下から一番近い席に腰を降ろすと、我慢できずに机に顔を伏した。その際に肩に掛けられたスクールバッグが床に落ちていった。
しかし、そんなことを気にすることもなく穏やかな春の気候に誘われて、そのまま俺は意識を手放したのだった。
「………。」
緩やかな風が吹き抜け教室前の表札が揺れた。
―――――入り込んだ教室は、【音楽室】だった。
そして、こちらに向かうように廊下を歩く一つの足音に俺は気付くはずもなかった。
「待っててくれんの?」
「な!? ち、ちがうわよ!!!」
続
更新遅くなり申し訳無いです。
次回、きっと予想されているであろうあの方が出ます!!
投稿予定は二〜五日後!
んで、明日はもう一個の方を更新しようと思います。