月夜の悪戯   作:M崎

1 / 10
 ちょっとよく分からない3作目です。
 なぜかオリジナル作品のほうがインスピレーション湧くんですよねー…。

 「2週間」は全然進まないのに。

 では、どうぞ。
 完全に私の地元を舞台としています。

 期待しないで読んでください。


1番ホーム、列車が参ります

 広島県尾道(おのみち)市、尾道駅改札。

 

 尾道の夜は、どこか暗い。

 昼間は人で賑わっているが、夜はコンビニ以外のほとんどの店がシャッターを下ろしているからだ。

 夜の帳に隠されて静かになると、えもいわれぬ寂寥感が漂ってくる。

 そこでいつも、人間とは、ここまで空気を操作するような生き物だったのかと、俺は驚かされてしまう。

 別に、それ以上に能力など、持ち合わせてもいないのに。

 

 暦が示す日付は8月15日。

 旧暦のお盆、ご先祖様が帰ってくる神聖な日付。

 そんな日でも、月は、等しく俺たちを月光色に染め上げる。

 俺の日常も、なんら変わらずやってくる。

 

 俺は定期券をズボンの右ポケットから引っ張り出し、もう誰もいない自動改札機を通り抜ける。ここは改札のすぐ前が1番ホームだ。ゆっくりと歩けばすぐにつく。

 1番ホームにやってくる電車をぼーっと待ちながら、俺はふと考える。

 

 いつからだろうか、俺が日常を「退屈だ」と思い始めたのは。

 いつもどおりに塾に通い、いつもどおりに電車に乗り、いつもどおりにうちへと帰る。

 そんな、平和で静かな日常に、飽きてしまったのは。

 

 俺は、刺激が欲しいのかもしれない。

 無感動になってしまった毎日を、この手で終わらせたい、かもしれない。

 お盆だろうが正月だろうが、毎日毎日やってくるこの日常を、俺はやめたい、のかもしれない。

 

 俺は空を見上げる。

 

 月が、満面の笑みを魅せて、微笑んでいるように見えた。

 雲すら見えず、星すら見えない、完全な月夜。

 そんな月が、俺を、どこかへ連れて行ってはくれないだろうか。

 

 最終電車がやってくる。

 俺は思考を中断すると、慌てて電車の中に身を投げる。

 

 そして、電車が尾道の駅を発車する。

 俺はドアに寄りかかり、窓から空をまた見上げる。

 

 閉じたドア越しに見えた夜空は、いつもよりも月が輝いて見えた。

 まるで、夜空というスペースの中で、自分が孤独になるのを嫌がっているかのように。

 

 俺は、その月が泣いているように感じて、窓の先をしばらくじっと見ていた。

 

 

 

 電車は7分ほど走った後、終点、糸崎(いとざき)の駅に滑り込んだ。

 俺の地元の駅だ。長いこと使っていると、愛着も少しは湧いてくる。

 それを何故か今日、実感する。

 

 閉じていたドアが開く。

 

 俺は電車を降りて、改札に向かうための階段を上る。

 上りながら、俺は中断していた思考を再開させる。

 

 退屈な日常はどこでも変わらない。

 運命の神様なんていやしない。

 俺は、変わるわけが無い。

 

 平凡な高校生として、俺は生涯を終える。

 そうに違いない。

 

 俺は思考にそうキリをつけ、頭のスイッチを切る。

 俺は40段と少しの階段を上りきり、改札のある方向に向かうため、角を右に曲がろうとする。

 

 しかしそこで、俺は気になるものを見つけ、階段の正面に歩み寄る。

 

 なぜなら。

 

 普段どおりの日常。

 糸崎駅の、改札の方向を示す看板。

 その下に小さく、書かれていたのだ。

 

 ―――『月夜の悪戯:5番ホーム』と。

 

 それを見て、俺は心中で首を傾げる。

 

 糸崎駅は東京などの都会の駅と比べて、凄く小さな駅だ。

 別に16番ホームとか、そんなものが存在するほど、繁昌はしていない。

 故にホームは、4番ホームまでしか、存在しない。

 

 なのにそこに描かれているのは、紛うことなき5の数字であった。

 

 怠惰を絵に描いたような日々に、非日常を演出する5の文字。

 俺はそれを見て、少しワクワクしてしまった。

 

 平凡な日常は、ここで終わりか。

 この数字が、俺を、俺の日常を、非日常の色に染めてくれるのか。

 俺を、この退屈なツタ(日々)から、解き放ってくれるのか。

 

 今日というこの日から、俺の世界は非日常の世界となるのか。

 そう、気持ちを高ぶらせる。

 

 ―――が、そう思ったのも一瞬のこと。

 

 俺はすぐに、またいつもの通りに歩き出す。

 冷めた気持ちと頭で、考える。

 

 あんなファンタジーみたいなこと、俺にあるわけがない。

 糸崎の町で、三原(みはら)の街で、そんな滑稽なことが起こるはずは無い。

 

 俺はそう言い聞かせて、改札へと、また歩道橋の階段を降りる。

 

 1段、1段と歩く。

 やるせなくて、独り言とか呟いてみる。

 

 「…あーあ、俺、何をしたんだろうな、ハハ」

 

 本当に、俺は何処で何をしたのだろうか。

 何をしたら、ここまで惨めで退屈な生活を送らねばならないのか。

 

 俺はそう悔悟して、階段の上から17段目を降りた、

 

 そのときである。

 

 

 「――――っ!―――っ…っ!――っっ、は…!!」

 

 

 声が、聞こえた。

 さっきの5番ホームと書かれていた場所あたりからである。

 それも、中年の駅員さんの気だるい声ではなく、幼い少女の声。

 鈴を転がしたときのような、凛と澄んだ声。

 

 俺は動かしかけていた足を止める。

 今の声の主は、誰なのだろうか。

 

 尾道から先、俺以外の人間は、終電に乗っていなかった。

 それも、糸崎の駅の職員の声だとは考えにくい。

 

 第一、 今の時間は8月15日、午前0時17分。

 こんな時間に、幼い女の子が起きていられるはずが無い。

 

 俺は客観的に、ありえない、と判断する。

 そして、ありえない=面白いと、方程式を結んでしまう。

 

 聞こえるはずの無い、少女の声。

 謎の『月夜の悪戯:5番ホーム』という文字。

 

 どこかのホラーなのかとは、思わなかった。

 

 ただひたすらに、非日常(イレギュラー)を求めて、俺はもと来た道を引き返した。

 

 

 

 糸崎の駅は狭い。

 1~4番のホームと、簡単な駅舎、休憩所、トイレ、自動販売機ぐらいしか、設備はない。

 普段の俺なら、(もっと設備つけろや)と、最寄り駅に文句の1つでも言っていただろう。

 しかし、今回は、それが大助かりした。

 階段を上ればすぐに目的の場所へいけるので、探す時間が短くて済んだのだ。

 

 「――――――――!!」

 

 つまり、件の声の主はすぐ見つかった。

 

 糸崎の駅に、謎のスピーカーが鎮座していたのだ。

 声は、ここから絶えず流れ出ていた。

 同じ事を何度も何度も何度も繰り返して。

 そこから綺麗なクリアヴォイスが、真夜中の糸崎に響く。

 

 『0時23分発、月の輪公園行き、ひかり107号が、間もなく到着致します。お乗りの方は、糸崎駅5番ホームまでお急ぎください。繰り返します。0時23分発―――』

 

 俺は己の耳を疑った。

 終電はもう行ってしまったのに、まだ電車が来ると、こいつは言っているのだ。

 それも、前に見た、あるはずの無い、『5番ホーム』に。

 

 頭の処理が追いつかず、しばらく立ったまま。

 まぶたをこすって、もう一度耳をすませる。

 

 しかし、聞こえてきたのは前と同じ声。

 

 月の輪公園、なる場所に行く、終電後の電車が来るという、アナウンスのみ。

 ひかり107号という、聞いたことも無い電車が―――。

 

 「―――いや、まさか、あり得ないだろう」

 

 俺はファンタジーみたいなそれを、一笑に付そうとする。

 それでも、そのアナウンスは鼓膜を容赦なくノックしてくる。

 

 どれだけ受け流そうとしても、絶えず、耳に入ってくる。

 おかしい。

 

 「…疲れてんのかな」

 

 俺は結局、そう強引に納得して、家に帰ることにした。

 今日までほとんど寝る時間は日付をまたいでいる。

 慢性的な寝不足で、幻聴でも聞いてしまったのだろう。

 

 そう結論付けなければ、俺は安心して眠れない。

 

 俺は階段をくだり、改札に向かおうとした。

 今度こそ、家に帰るためである。

 

 もと来た道をまた引き返して、階段を1段1段降りていく。

 そこまでは、前と変わらない。

 

 

 ―――しかし、またも俺は、17段目より先に下りることが出来なかった。

 

 

 何故か。

 糸崎の駅の改札が、大混雑していたのからである。

 東京でもあり得ないのではないのか、というレベルの大混雑が、起こっていたのである。

 

 少なくとも、ここ糸崎では、見受けられることは滅多にない光景。

 

 人が、糸崎の駅に溢れかえる。

 

 それも彼らは口々に、

 

 「―――ヤベェ、乗り遅れるぞ!」

 「こいつを乗り逃したら、次の電車が来るのは3ヵ月後だぜ!!」

 「急げ、急げ~!!」

 「月の輪に帰らなきゃ~ぁ…」

 「クソ、真由美にお別れ言ってないけど…ええい、ままよ!!」

 

 といいながら、俺の横を素通りしていくのだ。

 絶対に、日常の光景ではない。

 糸崎はおろか、都会でだって、こんな光景は見ないだろう。

 

 俺は唖然として、立ちすくむばかり。

 俺を人の波が覆うが、動かずに立ったまま。

 

 俺の周りで、今何が起こっているのか。

 

 誰かに説明して欲しかった。

 

 しかし運命とは、時には思いも寄らぬ方向に動くもの。

 俺のあずかり知らぬところで、勝手に動き回る。

 

 そしてそれは今日、発現した。

 

 

 「―――おい、そこの少年!!」

 

 頭から湯気を噴きながら、ぼーっと突っ立っていた俺に、1人の紳士が怒鳴ってきた。

 考え事をしていた俺は、その言葉を適当に聞き流してしまう。

 

 「…あ、はい、何でしょう」

 「キミも、ひかり107号に乗るのだろう?」

 「―――え?ええ、そうですけど…」

 「ならそんなところに立っていないで、早くこっちにきなさい!!」

 

 俺はいきなり、その紳士にむんずと首根っこをつかまれた。

 そしてそのまま、ものすごい勢いで引きずられていく。

 

 ズズズ、という引きずるときの音すらおいていくほどの、高速のペースで。

 

 「ちょーーーーーーっ!!!??」

 

 上の空だった俺は、当然とっさには反応できない。

 そのまま、なすがままに歩道橋を引きずられていく。

 

 そして人々は、静かな1番ホームから4番ホームへの入り口を素通りすると、

 

 

 ―――歩道橋の突き当たりの壁に、俺もろとも飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 いかがでしたでしょうか?

 2話は明日投稿します。

 ではまた!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。