なぜかオリジナル作品のほうがインスピレーション湧くんですよねー…。
「2週間」は全然進まないのに。
では、どうぞ。
完全に私の地元を舞台としています。
期待しないで読んでください。
広島県
尾道の夜は、どこか暗い。
昼間は人で賑わっているが、夜はコンビニ以外のほとんどの店がシャッターを下ろしているからだ。
夜の帳に隠されて静かになると、えもいわれぬ寂寥感が漂ってくる。
そこでいつも、人間とは、ここまで空気を操作するような生き物だったのかと、俺は驚かされてしまう。
別に、それ以上に能力など、持ち合わせてもいないのに。
暦が示す日付は8月15日。
旧暦のお盆、ご先祖様が帰ってくる神聖な日付。
そんな日でも、月は、等しく俺たちを月光色に染め上げる。
俺の日常も、なんら変わらずやってくる。
俺は定期券をズボンの右ポケットから引っ張り出し、もう誰もいない自動改札機を通り抜ける。ここは改札のすぐ前が1番ホームだ。ゆっくりと歩けばすぐにつく。
1番ホームにやってくる電車をぼーっと待ちながら、俺はふと考える。
いつからだろうか、俺が日常を「退屈だ」と思い始めたのは。
いつもどおりに塾に通い、いつもどおりに電車に乗り、いつもどおりにうちへと帰る。
そんな、平和で静かな日常に、飽きてしまったのは。
俺は、刺激が欲しいのかもしれない。
無感動になってしまった毎日を、この手で終わらせたい、かもしれない。
お盆だろうが正月だろうが、毎日毎日やってくるこの日常を、俺はやめたい、のかもしれない。
俺は空を見上げる。
月が、満面の笑みを魅せて、微笑んでいるように見えた。
雲すら見えず、星すら見えない、完全な月夜。
そんな月が、俺を、どこかへ連れて行ってはくれないだろうか。
最終電車がやってくる。
俺は思考を中断すると、慌てて電車の中に身を投げる。
そして、電車が尾道の駅を発車する。
俺はドアに寄りかかり、窓から空をまた見上げる。
閉じたドア越しに見えた夜空は、いつもよりも月が輝いて見えた。
まるで、夜空というスペースの中で、自分が孤独になるのを嫌がっているかのように。
俺は、その月が泣いているように感じて、窓の先をしばらくじっと見ていた。
電車は7分ほど走った後、終点、
俺の地元の駅だ。長いこと使っていると、愛着も少しは湧いてくる。
それを何故か今日、実感する。
閉じていたドアが開く。
俺は電車を降りて、改札に向かうための階段を上る。
上りながら、俺は中断していた思考を再開させる。
退屈な日常はどこでも変わらない。
運命の神様なんていやしない。
俺は、変わるわけが無い。
平凡な高校生として、俺は生涯を終える。
そうに違いない。
俺は思考にそうキリをつけ、頭のスイッチを切る。
俺は40段と少しの階段を上りきり、改札のある方向に向かうため、角を右に曲がろうとする。
しかしそこで、俺は気になるものを見つけ、階段の正面に歩み寄る。
なぜなら。
普段どおりの日常。
糸崎駅の、改札の方向を示す看板。
その下に小さく、書かれていたのだ。
―――『月夜の悪戯:5番ホーム』と。
それを見て、俺は心中で首を傾げる。
糸崎駅は東京などの都会の駅と比べて、凄く小さな駅だ。
別に16番ホームとか、そんなものが存在するほど、繁昌はしていない。
故にホームは、4番ホームまでしか、存在しない。
なのにそこに描かれているのは、紛うことなき5の数字であった。
怠惰を絵に描いたような日々に、非日常を演出する5の文字。
俺はそれを見て、少しワクワクしてしまった。
平凡な日常は、ここで終わりか。
この数字が、俺を、俺の日常を、非日常の色に染めてくれるのか。
俺を、この退屈な
今日というこの日から、俺の世界は非日常の世界となるのか。
そう、気持ちを高ぶらせる。
―――が、そう思ったのも一瞬のこと。
俺はすぐに、またいつもの通りに歩き出す。
冷めた気持ちと頭で、考える。
あんなファンタジーみたいなこと、俺にあるわけがない。
糸崎の町で、
俺はそう言い聞かせて、改札へと、また歩道橋の階段を降りる。
1段、1段と歩く。
やるせなくて、独り言とか呟いてみる。
「…あーあ、俺、何をしたんだろうな、ハハ」
本当に、俺は何処で何をしたのだろうか。
何をしたら、ここまで惨めで退屈な生活を送らねばならないのか。
俺はそう悔悟して、階段の上から17段目を降りた、
そのときである。
「――――っ!―――っ…っ!――っっ、は…!!」
声が、聞こえた。
さっきの5番ホームと書かれていた場所あたりからである。
それも、中年の駅員さんの気だるい声ではなく、幼い少女の声。
鈴を転がしたときのような、凛と澄んだ声。
俺は動かしかけていた足を止める。
今の声の主は、誰なのだろうか。
尾道から先、俺以外の人間は、終電に乗っていなかった。
それも、糸崎の駅の職員の声だとは考えにくい。
第一、 今の時間は8月15日、午前0時17分。
こんな時間に、幼い女の子が起きていられるはずが無い。
俺は客観的に、ありえない、と判断する。
そして、ありえない=面白いと、方程式を結んでしまう。
聞こえるはずの無い、少女の声。
謎の『月夜の悪戯:5番ホーム』という文字。
どこかのホラーなのかとは、思わなかった。
ただひたすらに、
糸崎の駅は狭い。
1~4番のホームと、簡単な駅舎、休憩所、トイレ、自動販売機ぐらいしか、設備はない。
普段の俺なら、(もっと設備つけろや)と、最寄り駅に文句の1つでも言っていただろう。
しかし、今回は、それが大助かりした。
階段を上ればすぐに目的の場所へいけるので、探す時間が短くて済んだのだ。
「――――――――!!」
つまり、件の声の主はすぐ見つかった。
糸崎の駅に、謎のスピーカーが鎮座していたのだ。
声は、ここから絶えず流れ出ていた。
同じ事を何度も何度も何度も繰り返して。
そこから綺麗なクリアヴォイスが、真夜中の糸崎に響く。
『0時23分発、月の輪公園行き、ひかり107号が、間もなく到着致します。お乗りの方は、糸崎駅5番ホームまでお急ぎください。繰り返します。0時23分発―――』
俺は己の耳を疑った。
終電はもう行ってしまったのに、まだ電車が来ると、こいつは言っているのだ。
それも、前に見た、あるはずの無い、『5番ホーム』に。
頭の処理が追いつかず、しばらく立ったまま。
まぶたをこすって、もう一度耳をすませる。
しかし、聞こえてきたのは前と同じ声。
月の輪公園、なる場所に行く、終電後の電車が来るという、アナウンスのみ。
ひかり107号という、聞いたことも無い電車が―――。
「―――いや、まさか、あり得ないだろう」
俺はファンタジーみたいなそれを、一笑に付そうとする。
それでも、そのアナウンスは鼓膜を容赦なくノックしてくる。
どれだけ受け流そうとしても、絶えず、耳に入ってくる。
おかしい。
「…疲れてんのかな」
俺は結局、そう強引に納得して、家に帰ることにした。
今日までほとんど寝る時間は日付をまたいでいる。
慢性的な寝不足で、幻聴でも聞いてしまったのだろう。
そう結論付けなければ、俺は安心して眠れない。
俺は階段をくだり、改札に向かおうとした。
今度こそ、家に帰るためである。
もと来た道をまた引き返して、階段を1段1段降りていく。
そこまでは、前と変わらない。
―――しかし、またも俺は、17段目より先に下りることが出来なかった。
何故か。
糸崎の駅の改札が、大混雑していたのからである。
東京でもあり得ないのではないのか、というレベルの大混雑が、起こっていたのである。
少なくとも、ここ糸崎では、見受けられることは滅多にない光景。
人が、糸崎の駅に溢れかえる。
それも彼らは口々に、
「―――ヤベェ、乗り遅れるぞ!」
「こいつを乗り逃したら、次の電車が来るのは3ヵ月後だぜ!!」
「急げ、急げ~!!」
「月の輪に帰らなきゃ~ぁ…」
「クソ、真由美にお別れ言ってないけど…ええい、ままよ!!」
といいながら、俺の横を素通りしていくのだ。
絶対に、日常の光景ではない。
糸崎はおろか、都会でだって、こんな光景は見ないだろう。
俺は唖然として、立ちすくむばかり。
俺を人の波が覆うが、動かずに立ったまま。
俺の周りで、今何が起こっているのか。
誰かに説明して欲しかった。
しかし運命とは、時には思いも寄らぬ方向に動くもの。
俺のあずかり知らぬところで、勝手に動き回る。
そしてそれは今日、発現した。
「―――おい、そこの少年!!」
頭から湯気を噴きながら、ぼーっと突っ立っていた俺に、1人の紳士が怒鳴ってきた。
考え事をしていた俺は、その言葉を適当に聞き流してしまう。
「…あ、はい、何でしょう」
「キミも、ひかり107号に乗るのだろう?」
「―――え?ええ、そうですけど…」
「ならそんなところに立っていないで、早くこっちにきなさい!!」
俺はいきなり、その紳士にむんずと首根っこをつかまれた。
そしてそのまま、ものすごい勢いで引きずられていく。
ズズズ、という引きずるときの音すらおいていくほどの、高速のペースで。
「ちょーーーーーーっ!!!??」
上の空だった俺は、当然とっさには反応できない。
そのまま、なすがままに歩道橋を引きずられていく。
そして人々は、静かな1番ホームから4番ホームへの入り口を素通りすると、
―――歩道橋の突き当たりの壁に、俺もろとも飛び込んだ。
いかがでしたでしょうか?
2話は明日投稿します。
ではまた!