…今回海斗くんのグチ話になってしまっているような…。
それでは、どうぞ。
広島県東広島市、高屋町
俺―――
外界をシャットアウトして、座禅を組むかのような静寂で、じっと。
訳がわからないだろう。
恐らくこの一文を見ただけでは何も解らないと思う。第一に意味不明だし、説明が要領を得ていないし、何より3サルの後に「参加せざるを得ない」が出てきていないのもおかしい。
だから視覚聴覚が塞がれている今、あの後のことについて少し話しておこう。
そうすれば、今のこの状況に説明がつくはずだ。
少し長くなるが、付き合って欲しい。
結局制服は、電話に出た奴のお姉さんが直々に届けに来てくれた。マジ感謝感激雨アラレ。もうお姉さんが天使にしか見えない。つーか最早
しかし一度そうと決めるとそうとしか見えないのだから人間の目は不思議だ。言葉に表すなら「補正」とでも言うのだろうか。半分は気持ちの問題で、半分は目の問題。
つまり100パーの「お姉さん天使補正」がかかっている今の俺には、彼女は天使としか言いようが無いのだ。異論反論暴論は全て認めない。彼女を汚す奴は俺が許さん。ガッデム。
だが、俺がお姉さんを天使と判断した理由はそれだけではない。今回に限ってはもうひとつ理由がある。別に普段からこんなに気持ち悪いわけではない。…おれ、キモく、ないよな?
俺が彼女から制服を受け取ったときのことだ。
彼女は時間通りにやってきた。制服の入った手提げ袋をその手に持って。これで「ごめ~ん、待った~?」とか言ってくれるのならよかったのに。いややっぱダメだな。速攻でデートに連れていかれる。主にお姉さんが。
そのお姉さん(天使)は俺のもとに近寄ると、「はいっ」というもう太陽としか言いようのない笑顔を浮かべて、袋を手渡してくれた。…はっ、いかん。危うく俺が昇天するとこだったぜ…。でもあの子いるから昇天できずに戻ってきた。でも
そんな賢者モードの俺がかろうじて「ありがとうございます…」とだけ返し、袋を手に取ろうとすると。
「…何か事情があるんでしょ?…私で良ければ、いつでも頼っていいよ?」
とだけ言い残し、俺に手提げ袋を託して何も言わずにいなくなってくれたのだ。
ああもう本当に天使。超かっこいい。惚れそうどころか現在進行形で惚れてる。大好きですお姉さん、と、思わず月に叫んでしまうほどには。…ふ、月が綺麗だな…。
とまあそんな想いがお姉さん(女神)に届くはずもないことは百も承知だ。
彼女がいなくなった直後、俺は受け取った手提げ袋を、真後ろにいるであろう美少女―――
そしてすぐに着替えさせた。
香倶夜も意図を察してくれたのか、車の陰に隠れ、やがてごそごそという音を響かせ始めた。うん、この子は真面目でよい子だ。すごく。
十二単はこの世の中で最悪なまでに目立つ。追われる身である以上は、それなりに世に溶け込む必要性があるだろう。だから俺は制服を用意させたのだ。俺の学校の女子制服を持つ友人の姉に頼み込んで。俺割と策士じゃね?…いや普通だな…。
俺はそんなくだらないことを考えながら、香倶夜が着替えるのを待ち続けた。
そして話は一番上の行に返る。
これで分かっただろう。俺が聴覚視覚、ついでに言えば好奇心まで封印してる理由が。
…いや分からんな。別に俺何にも説明してないな。
―――仕方ない、それでは教えてやる。
とりあえず聴覚だけ解放してみよう。
「…んっ…んっ…!!…う、うまく、出来ぬ…っ!…こ、こうか…?…あ、ち、違っ…か、絡まって…っ!!…ぬ、抜けん…っ」
聴覚、遮断!!
…思わずロシア語で叫んじゃうほど衝撃的だった。もはや天然凶器。恐ろしい子。
あ、ちなみに俺はハラショーって言う子が大好きだ。デレ○テのアナスタシアさんとか、艦○れのヴェールヌイちゃんとか、ラブラ○ブ!のエリーチカ様とか、みんな大好きだ。普通に愛してる。
…あれ?これは俺が2次元のロシア人を好きなだけなのでは?
すまん、話が脱線した。でもロシア人いいだろ…?
とにかく、これでようやく、俺が3サルになってる理由が分かったはずだ。美少女の着替えを堂々と覗ける度胸は俺にはありません。チキンで悪かった!!
っつうかこれ…むちゃくちゃ怖いだろ…天然でこれだぜ…美少女の
おれは おそろしさに ふるえた!
…もうこの子に十二単は着させないと固く心に誓った俺でした。
そんな誓いを持ったまま、待つこと8分32秒。
香倶夜が隠れている車の後ろから、突如どんどんとリズムが鳴った。
どうやら何かあったか、着替えが終わったかしたらしい。むしろそうじゃなかったら死ぬしかないだろう。
俺が「どうしましたー?」と、3サルを解除して振り返ると、彼女の怯えるように震えた声が、俺の耳に聞こえてきた。
おお、香倶夜も終わったか。制服は様になってるかな―――。
「―――そ、その、海斗…終わった、ぞ…?」
おずおずと出てきた彼女が視界に入った瞬間、俺は普通に昇天した。
………………。
…やべ、マジ可愛い。
思わず口から光を出して叫んでしまうほどやばかった。
いい!!運命マジグッジョブ!!いい仕事したよお前は!!さっきのセリフ全力で撤回してやる!!お前は最高だ!!
今日は8月15日。
制服は当然夏服だ。冬服と比べて、布面積は圧倒的に少ない。「露出が増えたあぁぁぁぁ!!」と7月1日に叫んでた友人はその日のうちにゴミ認定されてた。あいつはバカ。そういうことは普通口には出さないもんだと思う。それに俺は冬服のほうが好きだ。たまにドキッとするから。
…また脱線したな。でも今回はそのまま話す。すまん、許してくれ。
うちの学校の制服はいたってシンプル。
男子は半袖カッターシャツに学ランの黒ズボン、女子も半袖カッターシャツに膝上の黒スカートを合わせるくらいと、段階で言えば中の中くらいの普通の制服だ。
俺の友人は「超ダッセェよな!!」と言ってゲラゲラ笑っていたが、俺は結構気に入っている。だって見た瞬間にそいつの人となりが分かるから。着崩してたり、クソ真面目に着てたりする、俺にとっての面倒な奴を避ける指標にもなるだろ?だから俺は割と好きだ。
女子の夏服も、俺は涼し気でスカートが短いから気に入ってる。但しBUSは別ー、という差別はしない。俺は制服が好きなのだ。女子に関しては着てる人なんてどうでもいいのです。第一女子に話す奴なんかほとんどいねぇし。
とまあこれが俺の制服に対する見解。「可もなく不可もなく」とかそんな感じだ。
それがどうだ。
香倶夜が着たら、制服だって光り輝く。
シンプルなデザインのはずなのに、香倶夜と一緒に見ると非常に可愛らしい。
シャツの白色と、髪の夜色とのコントラストが非常に目に優しい。
カッターシャツの袖やスカートの裾から覗く手足はスレンダーで非常に美しい。
そして極め付けには、黒いハイソックスが、彼女の白磁のようにきめ細かい肌をひときわ目立たせており、非常に素晴らしい対比だ。
―――お師匠様、天竺が見えましたよ!!!
そんな言葉を幻聴するくらい、俺はこの世に生まれてこれたことに心から感謝した。
「…どうじゃ?…似合っておらんか?」
香倶夜の上目遣いの問いにも、放心状態の俺はがくがくと頷くのみ。
だって動けない。頭のほとんどが運命の神様を崇め奉ってるから。ついさっきまで祟ってすいませんって謝ってビンタされてるし。あこれ許してもらえてないな。「崇める」と「祟る」って漢字すっげえ似てるし。間違えたんじゃね?
だが香倶夜はそんな俺の軽い反応でも満足だったらしい。
不安そうな顔がさっと取れて、あの時
「…よかった」
………………。
…ええっと。
…お、おはようのオーディションしたら、女の子ってこうなるのか…?
と見当違いのことを考えてしまうほど、今の香倶夜は可愛かった。
やばい。普通に惚れそう。ついさっきお姉さんに惚れたのに10分足らずで浮気しそう。
「可愛いは正義」って、よく俺の親友が言ってる理由がようやく分かった…。
こりゃ男が骨抜きにされるわけだ。
「…とっ、とりあえず、学校行きましょう…」
その絶賛骨抜かれ中の俺は、僅かに残っていた精神力だけで首を動かした。
…さて、この子どうしようか…。
★
結局そのあと、俺はいろいろ動き回った。仕事しました!!妹の紗奈ちゃん見てるー?
まずカバンはお姉さんの手提げの中に入っていた。用意良すぎぃ!!もう素敵すぎる。大好き。アイドルは最高。ドルオタが世界を支えてるんじゃないの?
次に香倶夜の十二単を手提げとそのカバンの中に詰め込んだ。香倶夜ちゃんがたたむのを俺がスペース考えて入れる形。紗奈とよく買い物行くからなー…片付けだけ無駄に上手くなったんだよなぁ…。
3番目に何食わぬ顔して登校。あの駅員さんを警戒しながら。でも通学路の途中では来なかった。ヨカッタ。香倶夜は誰にも渡さない。別に俺のもんじゃないけど。
そして保健の先生が休みであることを利用して、保健室に香倶夜を隠した。というかベッドに寝かせた。「海斗は残らないのか…?」ってむっちゃ潤んだ目で言われた。…やめて下さい。
…まあ、何はともあれ、これで俺の仕事は終了。あとは「あの美少女誰だ!?」っていう事態にならなきゃいいんだが。…まあ大丈夫だろう。バレたらそのときだ。
ということで俺は今教室に向かっている。ちなみに時刻は9時27分だ。…考えてみると、電波時計って地味にむごいよな。信じたくない現実見せられるし。
いくら理由があるとはいえ、遅刻確定ということに憤ると同時に死にそうな俺氏だが、悩みの種は俺の中で大繁殖して全く勢いを衰えさせない。それどころかさらに現実を見せてくる。…そうか、俺は、既に社畜だったのか。
軽く鬱になりながら俺は教室のドアを開ける。
今日は疲れた。遅刻でもいいから寝たい。睡眠が足りぬ。どっと疲れた。寝ぬ。いや寝ないわけじゃないし。寝るぬって言えばよかった。
ガラッ、という音は教室に一際大きく響き渡った。
教室の中にいる全員が、驚いたような顔でこちらをじっと見てくる。
驚く気持ちも分かる。俺はあいつみたいに遅刻常習犯じゃないし、不良生徒でもない。
至ってクソ真面目で根暗な奴なのだ。
別にアホみたいに運動神経がいいわけでもなく、かといって頭がいいわけでもなく、イケメンでもない。
そんな奴が突然30分近い遅刻してきてみろ。
こうなるのは自明の理だ。
「…すんません」
俺は軽くため息をついて、先生に向かって儀礼的に頭をひょこっと下げると、自分の席についた。
―――ああ、もう、本当に面倒だ。
いかがでしたでしょうか?
当日打ち出したもので、検閲とか全くしてないです。
11話は、もしかしたら早めに投稿するかもしれません。
それではまた、11話で。