月夜の悪戯   作:M崎

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 また会いましたね、M崎でございます。

 どうぞ、2話です。

 時間が無くて、検閲もしていません。
 誤字脱字などがあれば、報告をお願いします。

 それでは、どうぞ。

 期待しないで読んでください。


2番目の選択を、俺は間違えた。

 

 広島県三原(みはら)市、糸崎(いとざき)駅、『5番ホーム』。

 

 

 俺は今、そこにいる。

 糸崎駅にあるはずの無い、5番ホームに。

 

 そこは深夜の糸崎駅とは思えないほど繁昌しており、混雑していた。

 老若男女、十人十色のさまざまな人間が、ただっぴろいホームにごった返していた。

 頭上には煌々と明かりが灯り、夜中の街を演出する。

 壁に貼られているのは多様な広告。それらが、この世界に色をつける。

 そして、たくさんの人間が、この世界を運営する。

 まるでそれは都会の通勤ラッシュのよう。

 あるいは、大混雑している東京駅のよう。

 少なくとも、ここ糸崎でそんな光景が見られるはずも無かった。

 

 そして目の前に見えるのはえもいわれぬ綺麗な新幹線。

 黄色と金色が入り混じったような色をしており、薄くブルーのラインも見える。

 見たことの無い色。

 そしてこの世界ではありえない、24両編成の新幹線。

 人がそこから降り、人がそこに乗る。

 幻の5番ホームの中心に、我が物顔で鎮座し輝きを放つこの新幹線。

 これが、おそらく「ひかり107号」。

 月の輪公園行き、0時23分発の、電車。

 

 糸崎の町に降り立った、見紛うことなき非日常(イレギュラー)である。

 俺の退屈な世界をいっぺんにブチ壊してくれた、神聖な異常事態(イレギュラー)である。

 

 それを見た俺は呆然と、その場を見渡す。

 

 それは見える風景が、いつもと違うから。

 俺が普段見ている寂れた田舎の駅とは、全く違うから。

 

 具体例を挙げるとするなら、

 

 「ひかり107号」の前、5番ホームではキオスクが営業しており、道行く人に物資を提供しており。

 新幹線の反対側に軒を連ねる土産屋は、巧みな呼びかけで顧客を獲得せんと奔走し。

 5番ホームの中心に陣取る時計台の周りでは、人と人との出会いが展開され。

 

 都会の駅と負けず劣らずの、活気に満ち溢れた駅が、そこに存在していた。

 

 俺はそれを見て、純粋に驚く。

 

 俺の知らない、俺の見たことがない糸崎の駅。

 俺にはまだ、未知が眠っていたのか。

 それも、こんな近くに。

 

 俺は驚く。

 

 ここが糸崎の駅か。

 これほどまでに人間ドラマに溢れたのが、あの寂しい最寄り駅か。

 

 俺はただただ、驚きっぱなしだった。

 

 「―――ほら、ボーッと立つな。私は急ぐから、これにて失礼するよ」

 

 いつの間にか、俺をひきずっていた紳士は、俺に一言をかけて、そのまま急ぎ足で去ってしまった。

 

 ただ、今はそんなことどうでもいい。

 俺の心には、それを気にも留める心など、1つも残っていない。

 

 俺の心にあるのは只一つ。

 

 「未知」への期待に、胸を膨らませるだけだ。

 

 見たい、見たい!

 この先を!この、未知の5番ホームを!

 知りたい!知りたい!

 隅々まで、隅々まで、知り尽くしたい!

 

 「退屈」によって押さえ込まれていた欲求が、爆発する。

 俺の本能が、理性を壊しにかかる。

 しかし、俺はすんでのところで思いとどまる。

 

 ―――こんなところではしゃぐ気か?

 ―――子供かよ、鬱陶しい。

 ―――だからお前は、何かが()()()()んだ。

 

 爆発した欲求を、「退屈」の2文字で押さえつけようとする。

 俺の理性が、唱えて、罵って、俺の本能を崩しにかかる。

 

 理性と本能が、俺の心の中で、互いを主張する。

 

 あとは、俺が選ぶだけ。

 

 俺が、選ぶだけ―――。

 

 俺が悶々と悩んでいると、隣から声が響いてきた。

 俺はふっと、その言葉に耳を傾ける。

 若い、男2人の声だ。

 

 「―――ねぇ、今日、月夜見(つくよみ)のお嬢様が、糸崎に来てるらしいぞ」

 「マジかよ…ウサギと餅撞くのに飽きたのか?」

 

 俺は迷わず、本能を優先させた。

 

 

 

                   ★

 

 

 

 糸崎駅5番ホームは、一言で言えば、豪華だった。

 

 ゴージャスで煌びやかなのに、実態はファンクショナルで実用的なこの駅。

 

 三原(みはら)はおろか、福山(ふくやま)でも、広島(ひろしま)でも、ここまで機能的な駅は見たことが無い。

 

 俺は興味を維持したまま、無遠慮に歩き回る。

 

 すると、やたら繁昌している1つの店の前で、俺の足は止まった。

 

 行列がものすごく長い。店の中から、店の外まで長く、伸びている。

 そのくせ、ものすごい勢いで、並ぶ人数を減らしている。

 

 なのに、行列が短くなっている気配が、微塵も見当たらないのだ。

 

 これは、どういうことだろう。

 

 「へいらっしゃい!!兄ちゃん、この福田屋(ふくだや)饅頭(まんじゅう)、見てってくれよ!美味いぞ~?月での美味しい饅頭ランキング、堂々の1位だからな~?買ってみてくれよ!!」

 

 どうやら、ここは饅頭屋らしい。

 宣伝しているお兄さんの好意をありがたく受け取って、暖簾(のれん)をくぐる。

 

 店の中も、外と同じように人でごった返していた。

 和をモチーフとした、神社のような内装。

 神木の中身のような綺麗な肌色と、厳島神社の、抜けるような朱色のコントラスト。

 中央には神社の本殿のようなものが築かれており、そこに向かって拝んでいく人も絶えない。

 

 正直、俺はこういう内装は好きだ。

 落ち着いた感じがして、自分の心までクリアになっていく。

 

 俺は店内をゆっくりと回りだす。

 

 なるほど、人気は本当だったらしい。

 目の前に置かれては消え、置かれては消える饅頭。

 置いたそばから注文に回されてしまうのだろう。

 人気の証である。

 

 そして、店の外で見た行列は、入り口付近にある、レジを待っている行列だったらしい。

 

 和風美人な店員さんが、これまた赤と白の、巫女さんのような服装を着て、笑顔でレジを回している。

 彼女たちの仕事はすばやい。

 人が来たらレジに呼び、個数を聞いて、箱に詰め、代金の支払いをして、お客さんに商品を渡す。

 

 この間、わずか30秒足らずの超高速回転。

 

 俺はその人外のスピードに驚くと同時に、なるほどと思い手を打つ。

 

 このスピードなら、行列を上手く回せるだろう。

 並んでいるのに行列が短くなっていくのにも、頷ける。

 

 俺は再び、店内を周回する。

 

 ここの商品は饅頭だけのようだ。

 他のどんな製品も売っていない。

 それなのに、これほどの人気が出せるとは、饅頭が余程美味しいのであろう。

 

 確かに、それは美味しそうだった。

 

 周りの生地は白雪のように真っ白で、中に入っているものが全く窺えない。

 形は均等に丸く、3口くらいで食べられそうだ。

 圧力にも負けず、その丸い形を保っている。

 そのくせ一度かじると、中身がぶわっと溢れてきそうだ。

 

 これは絶対に美味しい。

 間違いは無いであろう。リピーターもつきそうだ。今度、皆に紹介してあげようか。

 

 ああいかん、このままでは食べてしまいそうだ。

 店の戦略にハマってしまうところだった。

 

 口の端から、よだれがツーッとたれそうになり、俺は慌てて右手で口をぬぐう。

 

 そうこうしている間にも、ひっきりなしに店に人が入ってくる。

 レジ前は窮屈そうで、このタイミングを逃すと一生出られなくなりそうだ。

 

 人が増えてきたし、そろそろ店を出ようかな、と考え、俺は人を押しのけながら外に出る。

 

 その途端、俺の体一杯に、人ごみのムンとした空気が流れてきた。

 

 糸崎では感じることの無い空気。それが夏の暑さとあいまって汗が止まらない。

 俺のTシャツの背中には、流れ出た汗が芸術的なシミを(かたど)っていた。

 

 暑い。もうこれ以上ここにいたら、俺は熱中症で倒れてしまいそうだ。

 人口密度も高くなってきて、隙間もだいぶなくなってきた。

 

 よし、帰るか。

 

 俺はぱっと判断し、ゆっくりともと来た道に足を向ける。

 

 人に押されながら、少しずつ、少しずつ、前に進んでいく。

 

 だがしかし、人ごみのせいで前が満足に見えない。

 これでは、どこに向かっているのかもわからないではないか。

 

 じっくりと頭をすえて考えたいのに、汗が邪魔をして全く頭が働かない。

 

 考え事が、出来ない。

 

 それでも前に、前に進もうと、俺は人波に揉まれる。

 

 2分ほど経っただろうか。

 

 人ごみが絶えない糸崎の駅、5番ホームに、あの声のアナウンスが流れてきた。

 

 『まもなく、0時23分発、月の輪公園行、ひかり107号が出発致します。危ないですから、黄色い線の内側まで、お下がりください』

 

 とうとう、あの金色の新幹線が出発するらしい。

 人の間で腕時計を確認すると、「00:22」の表示が「00:23」に変わった、ちょうどその瞬間だった。

 

 アナウンスの時間と、ちょうど一致している。

 

 すると、今までこれだけたくさんいた人が、スマホや携帯電話を構え、一斉に新幹線へと群がり始めた。

 写メでも撮るつもりなのだろうか。

 その割には勢いが激しすぎるような…。

 

 それでも面白そうなので、俺も流れに身を任せて、そちらに向かっていく。

 金色の新幹線に、近づいていく。

 

 俺はそのまま、ゆっくりと終着に近づいたが、やがて進めなくなった。

 

 何故か。

 

 流れの終着は、すさまじいことになっていたからである。

 人の量が多すぎるのだ。

 

 身じろぎすることすらも許されない、極限のすし詰め状態。

 前にも後ろにも、1歩も進めない。

 

 そんな中で、人々は空高く手を伸ばし、携帯を構え、シャッターをふかせる。

 

 パシャ、パシャという音だけが耳に入ってくる。

 それも、大量に。

 

 当然、うるさい。

 

 (―――新幹線なんて撮って何が楽しいんだよ…)

 

 俺は辟易しながら、唯一動かせる頭を最大限働かせる。

 ここから抜け出す方法を、探すために。

 

 だがそれも、徐々にフェードアウトしていく。

 

 なんせ、この一角は人口密度が高すぎるのだ。

 暑すぎる。汗はもう滴り落ちるほどだ。

 

 ふらふらの頭で、俺はさらに考える。

 

 どこか、開いているスペースは無いのか、と。

 

 缶詰の中で、頭をゆっくりと左右に振って、スペースを探す。

 汗が周りに飛んでしまうが、そんなこと自分も、周りも気にしていない。

 

 ただひたすらに、1つの目的のために、他を捨てている。

 

 無論、俺と周りとでは目的が違うが。

 

 俺がきょろきょろと見回していると、不意に、右側に不自然なスペースが開いた。

 そう、本当に突然。

 

 まるで、大名行列の前を、誰も通さないかのごとく、スッと、人がどいたのだ。

 

 俺はこれ幸いと、人を掻き分け掻き分け、開いたスペースへと滑り込もうとする。

 

 ―――まぁ、少し考えれば分かったことなのだ。

 不自然に人がどいた、ということは、そこに誰かがやってきた、ということ。 

 そしてそれは、世間一般で言う「一般人」ではない。

 金持ち、腐臭のする汚い人間、―――そして、どこぞのお嬢様などだ。

 

 つまり、面倒ごとのカタマリ、みたいな人たちである。

 俺が、極力関わりたくない、と考える人種だ。

 

 だがこのときに限っては、俺は暑さのせいで考えている余裕など無かった。

 人ごみを抜けたい一心で、開いたスペースへと入ろうと、なんとかして涼もうとしたのである。

 

 

 

 だが…―――今回は、それが(あだ)となった。

 

 

 

 俺は開いたスペースに、なんとかして入り込んだ。

 セーフ、あぁ良かった、などとのんきに考えていた俺は、

 

 ―――背後から忍び寄る影に気づかなかった。

 

 突如、俺の後ろから、耳を聾する大音量が聞こえてきたのである!

 

 

 「―――貴様、何をしているかッ!!!!」

 

 

 「え、はい?」

 

 俺は耳鳴りのする両耳をおさえながら、面倒くさそうにくるりと後ろを向く。

 その瞬間、俺は目を剥く。

 

 そこには、木刀を構えた、黒いスーツを着た小柄な少女と、

 

 ―――えもいわれぬ高貴なオーラを漂わせた、和服を纏う1人の美少女がいた。

 

 まさに和服美人。

 狐が化けた美女は、このような感じになるのではないか、と錯覚するほどの美少女。

 夜色の長い髪を、結わえ、束ねて、髪飾りで固定している。

 平安時代の十二単をその身に纏い、人力車の上から周りを気だるそうに眺めている。

 

 そんな、作り物めいた、人形のような美少女。

 

 彼女を見て、俺は思わず頭を抱える。

 

 ―――ああ、これは、面倒な事態になった、と。

 

 

 そして、その瞬間、糸崎から、金色の新幹線が、動き出してしまった。

 

 

 

 

 




 いかがでしたか?

 次の3話は、たぶん明日投稿します。

 それでは。
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