月夜の悪戯   作:M崎

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 どうも、M崎です。
 ギリギリ投稿できました…。

 それでは5話です。
 それほど話は進みませんが…。




5臓は、俺の言うことを聞かない。

 

 広島県三原(みはら)市、糸崎(いとざき)2丁目。

 8月15日、午前0時33分。

 

 

 糸崎でも、夜の暗さは尾道(おのみち)と変わらない。

 

 帰り道の途中にあるファミ○ーマートで缶コーヒーを買い、そのプルタブをプシュッと開けながら、俺はふと考えた。

 そして空を見上げて、また視線を地面に戻して、力なく笑う。

 

 ははっ、笑えて来る。

 なんで俺は、あんな夢を見てしまったんだろうか。

 俺は何時、夢に落ちてしまったのだろうか。

 

 頭を振り絞って考えても分からない。

 完全なる「未知」の領域。

 完全なる「未体験」の出来事。

 

 どうしてだろう。

 何故俺は、あの夢での出来事を、

 

 ―――名残惜しい、と思っているのだろうか。

 起こり得るはずの無い出来事のはずなのに。

 

 俺は気持ちの整理をつけるために、もう一度、天を仰いだ。

 星を、見つける。

 

 普通なら輝いて見えるはずの星が、今日は5等星くらいの明るさに見える。

 目を擦ってみても、その星の明るさは暗いまま。

 

 暗くどんよりとした雲が、その星の周りを纏わりついているからだ、と気づいた。

 まるで、俺の今の心のように、真っ黒い雲が。

 

 俺はそれを見て、さらに微笑を零す。

 哀しげで、物憂げな、小さな小さなため息とともに。

 

 ああ、こりゃダメだ。

 雑念が多すぎる。

 

 それに、あの雲―――。

 …一雨、来るな。傘持ってないんだけど…。

 

 俺は雨の気配を感じるが、あえて動かない。

 場所を移し、真夜中の公園のベンチに独り、腰掛ける。

 誰もいない、闇が支配する、子供の遊び場に。

 

 雨を、あえて、待ち望んで。

 飲みかけの缶コーヒーを、ぐいっと(あお)る。

 

 するとその瞬間、雫が天から、1滴、また1滴と、俺の髪に滴ってきた。

 

 そしてそれらは勢いを増し、やがて滝のような雨になって、黒雲から降り注ぐようになる。

 勿論、野晒しの俺の体を、濡らし尽くす。

 

 しかし俺は、それでも動かなかった。

 雨に打ち付けられながら、水が滴る世界を見渡す。

 

 ―――雨が雑念を、綺麗さっぱり、洗い流してくれることを、願いながら。

 

 

 

                    ★

 

 

 

 雨は数十分ほどで止んだ。通り雨だったらしい。

 気づけば時刻は午前1時07分。日本の神々が、8月15日を認識し始める時間帯。

 

 俺は雨の去った公園で、上着を絞っていた。

 さっき外にいたおかげで、俺の体は際限なくビショビショ。塾の教材も多少濡れてしまった。

 これでは水も滴るいい男を通り越して、水を大量に含んだ湿度魔だ。

 

 俺は雑念を搾り出すかのように、上着をギュッと握る。

 そうすると、水が俺の上着から搾り出され、水溜りを拡大させる。

 

 まるで俺の心に、大小さまざまな波紋が広がっていくかのように。

 

 ゆっくりと、波が水溜りを広がっていくさまを見て、俺は軽くため息をつく。

 ああもう、俺は鬱になってしまっているな、全く…。

 

 俺は気持ちを強引に切り替えて、上着をばさっと羽織る。

 正直ジメジメしてて気持ち悪いけど、この際しかたがない。

 このくらいは必要経費だと、諦めて襟を整える。

 

 そして今度こそ、家に帰る道についた。

 

 

 

 「ただいまー…」

 

 雫の垂れているカバンをリビングに置きながら、俺は静かに、帰ってきたことを宣言する。

 今の時間は午前1時15分過ぎだ。当然、誰も起きているはずがない。

 声を潜めて、「ただいま」を告げる。

 

 誰の声も返ってこない。本当に、誰も起きていないようだ。

 家の中に、静寂のみがたゆたっている。

 

 「…よし、誰もいないな…?」

 

 俺はそれを確認すると、濡れた体を洗い流すため、シャワールームにゆっくり進入した。

 脱衣所で生まれたままの姿になると、風呂場の電気をつけ、入浴する。

 

 といっても、こんな時間に風呂なんて沸かしている余裕は無い。

 軽くシャワーで、体を洗い流すだけだ。

 ただの流れ作業、とシャワーのノズルをひねる。

 

 しばらく冷たい水が左手にかかり、やがてそれが熱を帯び始める。

 お湯が出始めた証だ。

 俺はシャワーを全開にすると、それを頭からブッかけた。

 

 頭に42度のお湯が降り注いでくるのを感じながら、俺はずっと、頭を動かしていた。

 当然、―――先ほどの夢に関してだ。

 

 俺は夢について想像する。

 

 昨日の夢は、妙にリアリティの無い、脈絡の無い夢だった。

 一昨日の夢は、ファンタジーだと一発で分かるような、ふわふわとした夢だった。

 その前の日は、悪夢だった。

 そのさらに前の日は、夢を見なかった。

 5日前の夢は、もう覚えていない。

 

 俺は、夢は実体を持たない、ファンタジー世界なものだと思っていた。

 

 なのに先ほどの夢はどうだ。

 ―――あれほどまでに、リアリティに溢れた夢は、未だかつてあっただろうか。

 

 1人1人の表情が、言動が、仕草が、すべて鮮明に脳裏にちらつく。

 本当に、まるで()()のように。

 

 俺の本能が、思い出を喚起させてくる。

 

 

 (―――んなわけあるかい。俺は仮にも高校生、ファンタジーに迷い込むなんてテンプレ的展開、あるわけがない)

 

 

 だがしかし、俺の理性がそれを全力で否定する。

 ありえない、と脳を判断させる。

 

 肯定の本能、否定の理性。

 2つが(せめ)ぎ合い、火花を散らす。

 

 俺はその対決を、頭をふって追放した。

 

 (…もういい、俺は疲れてるんだ、早く寝よう…)

 

 そう決心して、俺は体を洗うことに集中する。

 その後は、思考の音も行動の音も全部阻害した、シャワーの音だけが聞こえて来た。

 

 

 

                   ★

 

 

 

 ―――朝。

 夏の朝。

 セミが大音量で喚き散らし、お盆の中日を人々に知らせてくる、うるさい朝。

 さまざまな音が、朝の喧騒を物語る、朝。

 そんな中でも、目覚ましの音は、しっかりと自分の領域を主張してくる。

 

 時刻は8月15日、午前7時25分。

 俺はまどろみタイムの中、乱暴に目覚ましを叩く。

 

 ベルが静かになったのを見計らって、俺は再び二度寝の体勢になる。

 そして2度目の睡魔に、身を委ねそうになったその時だ。

 

 

 「お兄ちゃん朝ぁーーーー!!!寝坊するぞー!?」

 

 

 耳をもつんざくソプラノヴォイスが、俺の意識を引きずり起こした。

 俺はキンキン鳴っている両耳を押さえながら、その声の主にジト目で語りかける。

 

 「―――言われなくとも寝坊しねぇよ、紗奈(さな)

 

 白いエプロンを纏った少女に、俺は言い放った。

 

 彼女は我が妹、御年15歳、高校入学試験を見据える中学3年生。

 名を、宇和島紗奈。

 俺が言うのもなんだが、超美少女だ。

 

 そして献身的で社交的。

 内向的で独善的な俺とはエラい違いだ。

 俺のいいところを、すべてこの子に分け与えてしまったみたいに、俺と紗奈は性格が違う。

 

 だがまあ、一応は仲良くやっているから、よしとしよう。

 

 紗奈が腰に手を当てて、ぷんすかと怒る。

 

 「いーや、お兄ちゃんはそう言っていつも寝坊してきたからね!」

 「二度寝の魔力には逆らえないんだよ…」

 「ほらそうやってすぐ言い訳する!!それもお兄ちゃんの悪い癖だよ?」

 「しゃーないだろ?俺は2時寝で疲れてるんだ、5時間じゃ睡眠時間が足らん」

 「昨日1時に帰ってきたの!?―――大丈夫?ケガとかしなかった?」

 「お前は俺の母ちゃんかよ」

 「うん、だってお母さんがいない以上、私が代わりにお兄ちゃんを叱らなきゃいけないし」

 

 紗奈が無邪気に告げた言葉に、俺の顔が少し曇る。

 それを見た紗奈が、慌てたように口を塞ぐがもう遅い。

 

 言葉は出てしまったのだ。覆水は盆には帰らない。

 

 ―――ウチには両親がいない。

 それも共働きだから、というようなヤワな理由ではない。

 

 3年前のある事故で、誘拐犯に連れ去られたまま、行方が分からないのだ。

 

 世間ではもう死んだのでは?と囁かれている。

 俺も、そう思っている。

 

 だからこの家では、俺が父親で、紗奈が母親代わりだ。

 行方不明の両親に代わって、俺たち2人で、「宇和島家」を支えるのだ。

 

 もし2人が帰ってきたときに、褒めてもらえるように、って。

 紗奈の格言だ。

 

 俺が昔の出来事に思いを馳せていると、紗奈がしおらしげに謝ってきた。

 

 「―――ごめんなさい、あんなこと言っちゃって」

 「いいって。俺は大丈夫だ、心配すんな」

 「ホント?」

 「ああ、ホントのホントだ」

 

 そういいながら、俺は紗奈の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 この子は強い。俺なんかとは比べ物にならないくらいに。

 そして、俺はこの子を、命に代えてでも護らなければならない。

 

 俺が悲壮な決意を固めている最中も、紗奈は気持ちよさそうな顔をしながら、俺に撫でられるがままだ。

 そしてその体勢のまま、俺に言ってきた。

 

 「そうなの、ならいいや。ごめんね、お兄ちゃん」

 「おう、それでいいんだ」

 

 そう俺が言った途端、紗奈はぱっと俺から離れる。

 そのままトテトテと部屋の出口に向かう。

 

 俺は伸びをして、ベッドから起き上がる。

 ゆっくり立ち上がって、パジャマを着替えようとする。

 

 すると紗奈は部屋からでる直前、

 

 「ねー、お兄ちゃん」

 

 後ろ向きのまま俺に向かって声をかける。

 怪訝そうな顔をする俺に、紗奈は振り向きざまに、こう言ってきた。

 

 「―――朝ごはん出来てるけど、食べる?」

 「…ああ、貰おうかな」

 

 俺がそういった途端、紗奈はスキップしながら部屋を出る。

 ―――さて、俺も行くとしますかね。

 

 妹の手料理を軽く承諾した俺は、漏れ出る欠伸を噛み殺しながら、部屋の出口へと向かった。

 

 

 

 

 




 どうでしょう?今回も短めで行ってみましたが…。

 妹キャラって難しいですね。

 ではまた6話で。

 次は10月15日ごろの更新となります!!


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