ようやく打てたぜ!!
それでは、どうぞ。
「―――んん~♪我ながらいい出来♪」
「確かに美味いな、このスクランブルエッグ」
8月15日。
俺と
目の前にあるのは割とアメリカンなテイストの食材。
紗奈お手製のふわとろスクランブルエッグに、ハムやらサラダやらを添えた本当に標準的な朝食だ。
それでも美味いんだから、紗奈の料理スキルのすごさは計り知れない。
もぐもぐと咀嚼し、絶品料理を味わっていると、唐突に紗奈が話しかけてきた。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?ふぁんふぁ?」
「お兄ちゃん、食べながら喋らない!」
そう言われても、話しかけてきたのはそっちだろ。
俺はそう言いかけたが、涙を呑んで口の中のものと一緒に飲み込んだ。
コーヒーで喉を潤しながら、再度尋ねる。
「…で、なんだ?」
「昨日、なんであんな帰るの遅かったの?普通の塾だったのに」
その質問に、俺はあーと頭を抱える。
そういえば、今日朝起きてから、紗奈にはあのことを何も説明してなかった。
一瞬、教えておこうか、という気持ちが心をよぎる。
だが、あの事実無根、荒唐無稽な夢の話をしたところで、信じてくれるわけがないだろう。
今回ばかりは致し方ない。何も言わんでおく。
俺は結論付けて、さらっと嘘をついた。
「…別に。ちょっと寄り道してただけだ」
「寄り道ぃ?…お兄ちゃん、本当に?」
「本当だよ。ちょっと公園で缶コーヒー飲んでただけだ。気にすんな」
「まぁ、お兄ちゃんがそういうならいいけど…本当に早く帰ってきてよ?お兄ちゃんが帰らなかったら、私、本当に心配するから」
「―――ああ、大丈夫だ。約束する」
俺が約束すると、紗奈はもうこの話に興味をなくしたのか、朝食に戻った。
俺としてもそちらのほうがありがたいので、普通に朝飯を食べさせてもらうこととしよう。
というか、妹の作った飯を残すわけには行かないからな。
そう考えて、俺はスクランブルエッグをひとつまみ、口に放り込む。
「…ん、やっぱ美味いわ、これ」
そのスクランブルエッグを味わいながら、俺は考えていた。
★
「それで、今日これからどうするの?お兄ちゃんは」
「ちょっとあいつに呼ばれたもんでな。学校に行って来る」
「そんなー、ヤンキーじゃあるまいし」
「俺は不良じゃねぇ。不良みたいな甲斐性が俺にあるか」
「そーだねー。お兄ちゃんには不良なんて出来なそうだし。ケンカの時はさっさと逃げてそう」
「いや、流石にそこまでじゃないとは思うが…」
紗奈と他愛のない話をしながら、俺は今後の予定を頭の中でシミュレートする。
今日は…本当に学校に行くだけだな、うん。別にイオンとかに行くわけでもないし。
ていうか、お盆休みなのに学校に呼び出されるとか、どんだけ運ないんだ俺…。
「んじゃ、ちょっと着替えてくるわ」
「んー、了解。洗濯機回しといてね?」
「わーった。紗奈は今日何も無いのか?」
「うん、特にはねー。でも、卵がもうそろそろなくなるから、
「そうか」
あーなんかこの会話新婚夫婦みてーだな、なんて考えながら、俺は部屋に戻る。
ベッドと勉強机しか見当たらない、俺のシンプルな部屋。
別に不満はない。日常生活を過ごす上で、これ以上のものは望まない。というか、むしろ邪魔だ。
そんなシンプルな部屋で、俺は着ていたパジャマを脱ぎ、制服を引っ張り出して装着する。
シャツを着て、ズボンをはき、ネクタイを締める。
カフスを留め、上着を羽織り、ポーズを決める。
(―――うん、大丈夫だろこれで)
ちょっと満足した俺は、部屋を出て玄関へ向かう。
最後に、忘れ物がないか確認するのも忘れずに。
前日にきちんと準備しておいたカバンを、左手で持ち上げる。
―――俺、ナルシストじゃないんだけどな…。
制服が格好よく決まってるかどうかなんて、鏡の前でちょっと確認とかしてみるだろ?あれだよあれ。
そんなくっそどうでもいいことを言い訳しながら、俺は玄関へと向かう階段を下りる。
そのドタドタという音に、紗奈が反応して降りてきた。
「お兄ちゃん、もう行くの?」
「ああ。―――あ、洗濯機回すの忘れてた」
「もうっ!!…すぐに持ってきて!!」
「えー、今~」
「そうだよ!いいから早く!」
「へいへい…」
ここで大きな忘れ物が発覚。
俺はリビングから部屋へと引き返す。
(―――これぞ、振り出しに戻る、か…)
心で乾いた笑いを漏らしながら、俺は部屋に戻り、洗濯物を抱えて戻る。
そしてストレスと共に、洗濯機へとそれらをブチ込んだ。
「………………」
入りきらずに溢れてしまった洗濯物を見て、俺は1人、ふと思いつく。
これは、俺の今の心だ。
ストレスやら胡散臭さやらを、心に溜め込みに溜め込んだ結果。
挙句、昨日の夢のせいでそれが爆発して、ずぶ濡れにもなってしまった。
不安定な俺の心。
表面張力の働いた水のように、あと1滴で崩壊してしまうような俺の心。
さまざまな色が入り混じって、黒くなってしまった俺の心。
今のこの状況は、まさに、それだった。
(―――辛気臭ぇな…)
そして俺は、自分の考えたことに、勝手に嫌悪する。
それが俺の悪い癖。
考えたことが、どう頑張っても、マイナス方面に直結してしまう。
直そうとしても直らない、俺の変な癖。
(あーもう、直さなきゃいけねぇんだよな、くそ…)
そんな嫌悪感を胸に抱いて、俺は玄関へと向かった。
「うん、よろしい」
上機嫌の紗奈に見られつつ、俺は靴を履き、カバンを提げる。
そして俺は、立ち上がってドアを開けた。
振り向きざまに、紗奈の方を向いて、ぼそっと告げる。
「…そんじゃ、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい、お兄ちゃん」
満面の笑みの紗奈を背に、俺はバタンとドアを閉めた。
曇り空と水溜りの世界が、途端に俺の視界に入ってくる。
俺は深呼吸すると、自転車のキーをポケットから取り出した。
―――さあ、今日もくだらない日常の始まりだ。
★
8月。
お盆真っ盛りの今、制服を着て電車に乗ってるのは俺くらいだろう。
7時45分発、
2人がけのシートを1人で占領しながら、俺は1人ごちる。
今は
お盆休みだからか、乗ってくる人はほとんどが私服。
ちらほらスーツの人が見受けられるが、本当にそれだけだ。
つまりは、俺が1人、浮いている状態。
俺だけが、お盆休みに、日常生活をエンジョイしているのだ。
ほら、あそこの若者集団から、「うーわあいつこんな時期に学校とかカワイソー(笑)」という視線をひしひしと感じる。
というかついには声に出し始めた。
「うーわあいつこんな時期に学校とかカワイソー(笑)」
「確かにー。盆休みくらい休憩しろよなー、真面目か!!」
「てゆーかウケる」
「だっしょー!今日学校行くとか、俺だったらマジ運ねーわー!!って叫んでるわー!」
一言一句、俺の思ったとおりの言葉を。全くウケない。
本当に、面倒くさい。
俺はそういう視線を基本スルーして、ひたすら音楽に励む。
もちろん、作曲のほうじゃない。リッスンのほうだ。
シャカシャカという音を聞きながら、俺は窓の外に目を向ける。
「―――面倒くせぇ」
いーやもう本当にその通り。
この世界は、ただひたすらに、面倒くさい。
そろそろ降りる駅だ、と俺が身構え始める辺り。
俺の両耳が、何か良く分からない会話を拾った。
「おい、そっちはいたか!?」
「いいや、いないぞ!!」
「チクショウ、どこにいったんだ!?」
飛び交う怒号。
前方車両がにわかに騒がしくなっている。
どうやら、駅員さんかなんかが、誰かを探しているようだ。
現に今ちらっと、車掌さんっぽい格好をした人が、ドアの向こうに見えた。
あっちゃこっちゃと走り回っていて、忙しそうだ。
(―――頑張ってるねぇ)
俺はそんな駅員さんを、どこか他人事のように眺める。
だって俺には完全に関係ないのだ。
関わるほうが面倒くさい。
俺はだんまりを決め込むと、イヤホンに音楽を流す。
流行のJ-POPチューンが流れるのを聞いていると、さらに会話が聞こえてきた。
「おい、こっちはいたか!?」
「いや、いない!!」
「どこにいるんだ!?」
「十二単を着た女の子なんて、聞いてないぞ!?」
「
「この電車の中にいるはずが無い!!」
――――――。
―――え、今あいつらは何て言った?
俺は硬直する。
おいおい、今さっきの人たちが探しているのって、誰だって言った!?
十二単の女の子、と………。
―――「宇和島海斗」って、言ったよな…。
……………………。
(―――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?)
俺は心中で絶叫する。
俺、当事者かよ!?
あいつらが探してるの、俺かよ!?
この電車に、もう1人宇和島海斗さんがいるのならまだしも。
んな確率絶対にゼロだろ!?
「無関係だ」っつった15秒前の自分を殴ってやりたい!!
俺は頭をガシガシとかきむしる。
でも、まだ大丈夫だろう。
名札さえ隠せば、大丈夫だ…。
「こんな感じの顔の人に見覚えありませんかー!?」
俺の軽い目論見は一瞬で塵と化した。
手配書ありかいな!?
んじゃ名札隠しても意味ないやん!?
つまりバレるのを待つだけ…!!
ヤバいじゃねぇか!!
―――完全に指名手配犯となってしまった俺は、少しでもバレないようにと、窓のほうに顔を向ける。
応急の措置だ。たぶんほぼ確実にバレる。
まあそれも、ここに駅員さんが来れば、の話だが…。
ああ、頼むから来ないでくれよ!!
ドキドキしながら待つこと30秒。
「宇和島海斗、か…?」
はいバレました。
速攻でバレた。
(ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)
俺は心中で悲鳴を上げる。
誰だ俺の名前呼んだ奴!?
今その名前で呼ぶなバカタレ!!
俺は今、絶賛指名手配中なんだよ、分かれよ!?
お前のせいで俺捕まったらどーすんだよ!?
―――と、勿論声に出して言えるはずもなく、俺は「ひ、人違いでしょう?」とキョドるのみ。
これで引いてくれればいいんだが…。
まあ、絶対退くわけ無いよな。
思ったとおり、全く動く気配がない。
頭で超念じているのに、全く。
ああもう、いいからとっととどいてくれ!!
俺のそんな願いもむなしく、後ろの人影は俺に寄りかかって来て―――。
何か、重さを肩に感じる。
そこで俺は、今の状況のおかしさに気づいた。
―――え、寄りかかって来た?駅員さんが?
何で?
俺は条件反射的に、後ろを振り向く。
何故か、ゆっくりと、恐る恐る。
―――そして、俺の首が90度回った瞬間、俺の時間は停止した。
否、俺の時間だけではない。
今この車両の中にいる、すべての人間の時が止まった。
勿論、物理的に止まったわけではない。
彼女に見惚れて、動かなくなっただけだ。
彼女の、あまりにも整いすぎた容姿に。
その美しさは神をも凌駕し、人を停める魔性の魅力。
魅せつけ、惹きつけ、自らへと意識を誘う悪魔の美貌。
そして、俺が夢で見た、その端整な横顔。
彼女が、俺が知る彼女なのならば、今横にいる少女の名前は、―――
月世界の人間にして、人力車に乗っていた、あのお嬢様であった。
(な、何で彼女がここに!?…夢じゃ、なかったのか…!?)
俺の脳は限界をとうに振りきれ、オーバーヒートして湯気が出始めている。
夢と現実が繋がる、という事態のイレギュラーさに、脳が理解を拒んでいる。
つまりは、俺は微動だにせず、ただなすがままに抱き枕となるのみ。
そんな俺に、出会った時と同じ、十二単姿で抱きついている彼女は、
「―――海斗…!…わらわを、助けて、おくれ…!!!」
泣いていた。
涙を流していた。
それも、嬉し泣きではない。
懇願するような、藁にすがるような、そんな、哀しさすら垣間見える涙。
夢の中では毅然としていた彼女が、初めて見せた涙に、俺はただただ困惑するのみ。
どうしたらいいのか分からない。
彼女の涙は、俺にとってとんでもなく重い。
だからなのか、次にかかってきたアナウンスが、俺には救いの声に聞こえた。
『えー、まもなく、
(―――よ、よし!…ひとまず、ここで降りる!!)
俺はとっさにそう決めると、未だ泣いておいでの彼女の手を引く。
「ふえ…?」
「ちょ、ちょっと、降りよう!!―――狙われるかもしんねぇ」
そう、俺が言った瞬間に、電車は西高屋駅に滑り込んだ。
どうでしたでしょうか…?
相当頑張ったつもりなのですが…。
駄文にしか見えないですね不思議。
次は多分、10月終わりから11月くらいの投稿だと思います。
それか、11月15日ごろですね。
それでは、また次の話で!!