月夜の悪戯   作:M崎

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 さあ6話です!

 ようやく打てたぜ!!

 それでは、どうぞ。


6腑は、下手したら機能していないかも知れない。

 「―――んん~♪我ながらいい出来♪」

 「確かに美味いな、このスクランブルエッグ」

 

 8月15日。

 俺と紗奈(さな)は、朝食の席で同じように朝飯にありついていた。

 

 目の前にあるのは割とアメリカンなテイストの食材。

 紗奈お手製のふわとろスクランブルエッグに、ハムやらサラダやらを添えた本当に標準的な朝食だ。

 それでも美味いんだから、紗奈の料理スキルのすごさは計り知れない。

 

 もぐもぐと咀嚼し、絶品料理を味わっていると、唐突に紗奈が話しかけてきた。

 

 「ねぇ、お兄ちゃん」

 「ん?ふぁんふぁ?」

 「お兄ちゃん、食べながら喋らない!」

 

 そう言われても、話しかけてきたのはそっちだろ。

 俺はそう言いかけたが、涙を呑んで口の中のものと一緒に飲み込んだ。

 

 コーヒーで喉を潤しながら、再度尋ねる。

 

 「…で、なんだ?」

 「昨日、なんであんな帰るの遅かったの?普通の塾だったのに」

 

 その質問に、俺はあーと頭を抱える。

 

 そういえば、今日朝起きてから、紗奈にはあのことを何も説明してなかった。

 一瞬、教えておこうか、という気持ちが心をよぎる。

 

 だが、あの事実無根、荒唐無稽な夢の話をしたところで、信じてくれるわけがないだろう。

 今回ばかりは致し方ない。何も言わんでおく。

 

 俺は結論付けて、さらっと嘘をついた。

 

 「…別に。ちょっと寄り道してただけだ」

 「寄り道ぃ?…お兄ちゃん、本当に?」

 「本当だよ。ちょっと公園で缶コーヒー飲んでただけだ。気にすんな」

 「まぁ、お兄ちゃんがそういうならいいけど…本当に早く帰ってきてよ?お兄ちゃんが帰らなかったら、私、本当に心配するから」

 「―――ああ、大丈夫だ。約束する」

 

 俺が約束すると、紗奈はもうこの話に興味をなくしたのか、朝食に戻った。

 俺としてもそちらのほうがありがたいので、普通に朝飯を食べさせてもらうこととしよう。

 というか、妹の作った飯を残すわけには行かないからな。

 

 そう考えて、俺はスクランブルエッグをひとつまみ、口に放り込む。

 

 「…ん、やっぱ美味いわ、これ」

 

 そのスクランブルエッグを味わいながら、俺は考えていた。

 

 

 

                    ★

 

 

 

 「それで、今日これからどうするの?お兄ちゃんは」

 「ちょっとあいつに呼ばれたもんでな。学校に行って来る」

 「そんなー、ヤンキーじゃあるまいし」

 「俺は不良じゃねぇ。不良みたいな甲斐性が俺にあるか」

 「そーだねー。お兄ちゃんには不良なんて出来なそうだし。ケンカの時はさっさと逃げてそう」

 「いや、流石にそこまでじゃないとは思うが…」

 

 紗奈と他愛のない話をしながら、俺は今後の予定を頭の中でシミュレートする。

 今日は…本当に学校に行くだけだな、うん。別にイオンとかに行くわけでもないし。

 ていうか、お盆休みなのに学校に呼び出されるとか、どんだけ運ないんだ俺…。

 

 「んじゃ、ちょっと着替えてくるわ」

 「んー、了解。洗濯機回しといてね?」

 「わーった。紗奈は今日何も無いのか?」

 「うん、特にはねー。でも、卵がもうそろそろなくなるから、エブリイ(スーパー)に買いに行くくらいかな」

 「そうか」

 

 あーなんかこの会話新婚夫婦みてーだな、なんて考えながら、俺は部屋に戻る。

 

 ベッドと勉強机しか見当たらない、俺のシンプルな部屋。

 別に不満はない。日常生活を過ごす上で、これ以上のものは望まない。というか、むしろ邪魔だ。

 

 そんなシンプルな部屋で、俺は着ていたパジャマを脱ぎ、制服を引っ張り出して装着する。

 シャツを着て、ズボンをはき、ネクタイを締める。

 カフスを留め、上着を羽織り、ポーズを決める。

 

 (―――うん、大丈夫だろこれで)

 

 ちょっと満足した俺は、部屋を出て玄関へ向かう。

 最後に、忘れ物がないか確認するのも忘れずに。

 

 前日にきちんと準備しておいたカバンを、左手で持ち上げる。

 

 ―――俺、ナルシストじゃないんだけどな…。

 制服が格好よく決まってるかどうかなんて、鏡の前でちょっと確認とかしてみるだろ?あれだよあれ。

 

 そんなくっそどうでもいいことを言い訳しながら、俺は玄関へと向かう階段を下りる。

 そのドタドタという音に、紗奈が反応して降りてきた。

 

 「お兄ちゃん、もう行くの?」

 「ああ。―――あ、洗濯機回すの忘れてた」

 「もうっ!!…すぐに持ってきて!!」

 「えー、今~」

 「そうだよ!いいから早く!」

 「へいへい…」

 

 ここで大きな忘れ物が発覚。

 俺はリビングから部屋へと引き返す。

 

 (―――これぞ、振り出しに戻る、か…)

 

 心で乾いた笑いを漏らしながら、俺は部屋に戻り、洗濯物を抱えて戻る。

 そしてストレスと共に、洗濯機へとそれらをブチ込んだ。

 

 「………………」

 

 入りきらずに溢れてしまった洗濯物を見て、俺は1人、ふと思いつく。

 

 これは、俺の今の心だ。

 

 ストレスやら胡散臭さやらを、心に溜め込みに溜め込んだ結果。

 挙句、昨日の夢のせいでそれが爆発して、ずぶ濡れにもなってしまった。

 不安定な俺の心。

 表面張力の働いた水のように、あと1滴で崩壊してしまうような俺の心。

 さまざまな色が入り混じって、黒くなってしまった俺の心。

 

 今のこの状況は、まさに、それだった。

 

 (―――辛気臭ぇな…)

 

 そして俺は、自分の考えたことに、勝手に嫌悪する。

 

 それが俺の悪い癖。

 考えたことが、どう頑張っても、マイナス方面に直結してしまう。

 直そうとしても直らない、俺の変な癖。

 

 (あーもう、直さなきゃいけねぇんだよな、くそ…)

 

 そんな嫌悪感を胸に抱いて、俺は玄関へと向かった。

 

 「うん、よろしい」

 

 上機嫌の紗奈に見られつつ、俺は靴を履き、カバンを提げる。

 そして俺は、立ち上がってドアを開けた。

 

 振り向きざまに、紗奈の方を向いて、ぼそっと告げる。

 

 「…そんじゃ、行ってきます」

 「うん、行ってらっしゃい、お兄ちゃん」

 

 満面の笑みの紗奈を背に、俺はバタンとドアを閉めた。

 

 曇り空と水溜りの世界が、途端に俺の視界に入ってくる。

 糸崎(いとざき)の、少し排気ガスのたまった朝の空気が、俺の肺一杯に入り込んでくる。

 

 俺は深呼吸すると、自転車のキーをポケットから取り出した。

 

 

 

 ―――さあ、今日もくだらない日常の始まりだ。

 

 

 

                      ★

 

 

 

 8月。

 お盆真っ盛りの今、制服を着て電車に乗ってるのは俺くらいだろう。

 7時45分発、岩国(いわくに)行きの電車に乗ってる奴なんて、いるわけが無いか。

 

 2人がけのシートを1人で占領しながら、俺は1人ごちる。

 

 今は三原(みはら)を過ぎて、本郷(ほんごう)へと向かう最中だ。

 

 お盆休みだからか、乗ってくる人はほとんどが私服。

 ちらほらスーツの人が見受けられるが、本当にそれだけだ。

 

 つまりは、俺が1人、浮いている状態。

 俺だけが、お盆休みに、日常生活をエンジョイしているのだ。

 

 ほら、あそこの若者集団から、「うーわあいつこんな時期に学校とかカワイソー(笑)」という視線をひしひしと感じる。

 というかついには声に出し始めた。

 

 「うーわあいつこんな時期に学校とかカワイソー(笑)」

 「確かにー。盆休みくらい休憩しろよなー、真面目か!!」

 「てゆーかウケる」

 「だっしょー!今日学校行くとか、俺だったらマジ運ねーわー!!って叫んでるわー!」

 

 一言一句、俺の思ったとおりの言葉を。全くウケない。

 

 本当に、面倒くさい。

 

 俺はそういう視線を基本スルーして、ひたすら音楽に励む。

 もちろん、作曲のほうじゃない。リッスンのほうだ。

 

 シャカシャカという音を聞きながら、俺は窓の外に目を向ける。

 

 「―――面倒くせぇ」

 

 いーやもう本当にその通り。

 この世界は、ただひたすらに、面倒くさい。

 

 

 

 

 

 白市(しらいち)を過ぎたあたりだろうか。

 そろそろ降りる駅だ、と俺が身構え始める辺り。

 

 俺の両耳が、何か良く分からない会話を拾った。

 

 「おい、そっちはいたか!?」

 「いいや、いないぞ!!」

 「チクショウ、どこにいったんだ!?」

 

 飛び交う怒号。

 

 前方車両がにわかに騒がしくなっている。

 どうやら、駅員さんかなんかが、誰かを探しているようだ。

 

 現に今ちらっと、車掌さんっぽい格好をした人が、ドアの向こうに見えた。

 あっちゃこっちゃと走り回っていて、忙しそうだ。

 

 (―――頑張ってるねぇ)

 

 俺はそんな駅員さんを、どこか他人事のように眺める。

 だって俺には完全に関係ないのだ。

 関わるほうが面倒くさい。

 

 俺はだんまりを決め込むと、イヤホンに音楽を流す。

 

 流行のJ-POPチューンが流れるのを聞いていると、さらに会話が聞こえてきた。

 

 

 「おい、こっちはいたか!?」

 「いや、いない!!」

 「どこにいるんだ!?」

 「十二単を着た女の子なんて、聞いてないぞ!?」

 「宇和島海斗(うわじまかいと)、って誰だよ!?」

 「この電車の中にいるはずが無い!!」

 

 

 ――――――。

 

 ―――え、今あいつらは何て言った?

 

 俺は硬直する。

 

 おいおい、今さっきの人たちが探しているのって、誰だって言った!?

 十二単の女の子、と………。

 

 

 ―――「宇和島海斗」って、言ったよな…。

 

 

 ……………………。

 

 

 (―――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?)

 

 

 俺は心中で絶叫する。

 

 俺、当事者かよ!?

 あいつらが探してるの、俺かよ!?

 

 この電車に、もう1人宇和島海斗さんがいるのならまだしも。

 んな確率絶対にゼロだろ!?

 

 「無関係だ」っつった15秒前の自分を殴ってやりたい!!

 

 俺は頭をガシガシとかきむしる。

 

 でも、まだ大丈夫だろう。

 名札さえ隠せば、大丈夫だ…。

 

 「こんな感じの顔の人に見覚えありませんかー!?」

 

 俺の軽い目論見は一瞬で塵と化した。

 

 手配書ありかいな!?

 んじゃ名札隠しても意味ないやん!?

 

 つまりバレるのを待つだけ…!!

 ヤバいじゃねぇか!!

 

 ―――完全に指名手配犯となってしまった俺は、少しでもバレないようにと、窓のほうに顔を向ける。

 応急の措置だ。たぶんほぼ確実にバレる。

 

 まあそれも、ここに駅員さんが来れば、の話だが…。

 ああ、頼むから来ないでくれよ!!

 

 ドキドキしながら待つこと30秒。

 

 

 

 

 

 「宇和島海斗、か…?」

 

 

 

 

 

 はいバレました。

 速攻でバレた。

 

 (ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)

 

 俺は心中で悲鳴を上げる。

 

 誰だ俺の名前呼んだ奴!?

 今その名前で呼ぶなバカタレ!!

 

 俺は今、絶賛指名手配中なんだよ、分かれよ!?

 お前のせいで俺捕まったらどーすんだよ!?

 

 ―――と、勿論声に出して言えるはずもなく、俺は「ひ、人違いでしょう?」とキョドるのみ。

 

 これで引いてくれればいいんだが…。

 まあ、絶対退くわけ無いよな。

 

 思ったとおり、全く動く気配がない。

 頭で超念じているのに、全く。

 

 ああもう、いいからとっととどいてくれ!!

 

 俺のそんな願いもむなしく、後ろの人影は俺に寄りかかって来て―――。

 何か、重さを肩に感じる。

 

 

 そこで俺は、今の状況のおかしさに気づいた。

 

 

 ―――え、寄りかかって来た?駅員さんが?

 何で?

 

 俺は条件反射的に、後ろを振り向く。

 何故か、ゆっくりと、恐る恐る。

 

 

 

 ―――そして、俺の首が90度回った瞬間、俺の時間は停止した。

 

 

 

 否、俺の時間だけではない。

 今この車両の中にいる、すべての人間の時が止まった。

 

 勿論、物理的に止まったわけではない。

 彼女に見惚れて、動かなくなっただけだ。

 

 彼女の、あまりにも整いすぎた容姿に。

 

 その美しさは神をも凌駕し、人を停める魔性の魅力。

 魅せつけ、惹きつけ、自らへと意識を誘う悪魔の美貌。

 

 

 そして、俺が夢で見た、その端整な横顔。

 

 

 彼女が、俺が知る彼女なのならば、今横にいる少女の名前は、―――月夜見香倶夜(つくよみかぐや)

 

 月世界の人間にして、人力車に乗っていた、あのお嬢様であった。

 

 (な、何で彼女がここに!?…夢じゃ、なかったのか…!?)

 

 俺の脳は限界をとうに振りきれ、オーバーヒートして湯気が出始めている。

 夢と現実が繋がる、という事態のイレギュラーさに、脳が理解を拒んでいる。

 

 つまりは、俺は微動だにせず、ただなすがままに抱き枕となるのみ。

 

 そんな俺に、出会った時と同じ、十二単姿で抱きついている彼女は、

 

 

 

 「―――海斗…!…わらわを、助けて、おくれ…!!!」

 

 

 

 泣いていた。

 涙を流していた。

 

 それも、嬉し泣きではない。

 懇願するような、藁にすがるような、そんな、哀しさすら垣間見える涙。

 

 夢の中では毅然としていた彼女が、初めて見せた涙に、俺はただただ困惑するのみ。

 どうしたらいいのか分からない。

 彼女の涙は、俺にとってとんでもなく重い。

 

 だからなのか、次にかかってきたアナウンスが、俺には救いの声に聞こえた。

 

 

 『えー、まもなく、西高屋(にしたかや)―、西高屋です』

 

 

 (―――よ、よし!…ひとまず、ここで降りる!!)

 

 俺はとっさにそう決めると、未だ泣いておいでの彼女の手を引く。

 

 「ふえ…?」

 「ちょ、ちょっと、降りよう!!―――狙われるかもしんねぇ」

 

 そう、俺が言った瞬間に、電車は西高屋駅に滑り込んだ。

 

 

 

 




 どうでしたでしょうか…?
 相当頑張ったつもりなのですが…。

 駄文にしか見えないですね不思議。

 次は多分、10月終わりから11月くらいの投稿だと思います。
 それか、11月15日ごろですね。

 それでは、また次の話で!!

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