ちょうど2ヶ月ぶりのM崎です。
おかげさまで受験が終了しまして、なんとか打ち出せてます。
遅くなってすみません。
それでは、9話、どうぞ。
広島県東広島市高屋町、西高屋駅。
今この場所には、10人程度の人間が存在していた。
半分の人間は
跪いているのは
見下しているのは、2人を追う、工作員の上司であった。
彼らは身がすくむような剣呑な気配を放ち、西高屋の駅に存在している。
誰も口を開かず、ただ空気だけが重い。
空気の重圧に朝の爽やかな大気圧が重なり合って、工作員の1人は圧迫感に咳き込んだ。
「こほっ」という小さな音が、神経を逆撫でするかのごとく鼓膜を駆け抜ける。
それは小さな音だった。
重たすぎる空気に耐え切れなくなった肺が行った、人間の条件反射だった。
だがその瞬間、射殺すように強烈な視線が、咳き込んだ工作員の身1つに降り注いだ。
目線だけで殺される。
これ以上下手なことを言えば、自分の命はなくなる。
顔面を蒼白にさせた工作員は平謝りして、またもとの空気が帰ってくる。
重苦しい沈黙だけが場を支配する。
そんな中、見下す側の1人が、空気を壊すように、その口をゆっくりと開けた。
「―――それで?お前たちは、2人を捕らえるのに、失敗したのか?」
その言葉1つに、工作員は身じろぎする。
6人の工作員だけでは、支えきれない痛烈なプレッシャー。
これが罪悪感と失敗に対する悔悟と一緒に降りかかってきて、
「も、申し訳ございませんっ!!私どもの、対応の悪さが原因でございましたっ!!!」
故に、ただひたすら許しを乞うしか、道は許されていなかった。
自分たちが犯した過ちを胸に、工作員6名は精一杯土下座する。
お盆真っ只中の今日8月15日、ここで大捕り物劇が繰り広げられたのは記憶に新しい。
駅員に扮した工作員が、宇和島海斗とお嬢様―――香倶夜を捕らえようと、西高屋の駅を走り回ったのだ。
しかし―――結果は失敗に終わった。
宇和島海斗と香倶夜は、機転と智恵と俊足を生かして、縦横無尽に西高屋の駅を動き回り、工作員の手を掻い潜って、改札から逃走を果たしたのだ。
敵ながら天晴れ、といってやりたいが、生憎今そんなことを言ったら問答無用で殺される。
「―――そうか…失敗したのか…」
見下す側の1人―――宇和島海斗に黒スーツ、と呼ばれた少女―――は、その報告に目を細める。
ゾッとするような笑みだ。
まるで狐のような、裏の窺える微笑。
工作員は震えるしかない。いるとも知れない女神に、己の幸運を祈るしかない。
「………………」
無言になった西高屋の空気の中。
彼女がたん、たんと木刀を床に叩いてリズムを取る音が響く。
メトロノームのように規則的なその音が、死神のカウントダウンのように聞こえるのは気のせいか。
今すぐに首を刈り取らんとする、狂気と衝動に与した不可思議な笑みだと考えてしまうのは何故か。
「………………」
そんな、息を殺さないとこの場にいられないような沈黙の中。
―――突如、風が薙いだ。
(―――あ、これ終わった)
その風が頬を梳いたと同時、その場にいた6人の工作員は悟った。
それはいっそ清々しい気持ちですらあった。
何故なら、6人は判っていたからだ。
風が意味する、自らの社会的人生の終焉と、これから続くであろう断罪の日々を。
空気が斬り刻まれるヒュッ、ヒュッ、という音が、耳をつんざく。
この音は終わりと始まりを同時に告げるファンファーレなのだ。
新しい人生の門出を祝い、これまでの人生を無かったものとして送り出す一種の儀式なのだ。
6人の工作員はそれが自らに向けられた唯一の手向けだと知っていたから。
気持ちを無にして、いざそのときになっても、落ち着いていられた。
かくて視界は暗転する。
暗転する刹那、瞬きの先に見た明い世界の中には。
―――彼女、
★
「―――はぁっ、…はっ、げほっ、ごほっ」
「だ、大丈夫か、か、
駅員の猛威から逃げ切った俺と
車の陰に隠れ、周りを数秒窺ってから、ふぃーっ、と息を吐き出す。
あー疲れた。づがれだー…。久しぶりに猛ダッシュして呼吸が定まらない。そして8月だからすっげぇ
肺の空気を総とっかえしようとゼハゼハ言っていると、香倶夜が同じように息を整えながら話しかけて来た。
俺は自分の暑さも忘れて彼女に見入る。当然性的な意味ではない。
十二単、見るからに重そうだ。俺にアレを着て炎天下の中走る勇気はない。
「―――それ、は、こっちの、セリフ、ですよ…暑く、ないんです、か…?」
「…ふ、わらわは、この装束で、走ることくらい、慣れておる…心配は、無用、じゃ」
念のため香倶夜が失神しないかと確認をとると、見事なまでのブイサインが返ってきた。
指がほっそりしてて可愛い。そしてハンドクリームを極限まで塗りこんだかのようにしっとりすべすべだ。握手したい。…いや待て前した気がする。夢だった気がするけど。
でもその手首の先には汗でピッタリ張り付いた着物が見える。罪悪感で死にたい。
俺はその罪悪感からか、気持ち優しく提案した。
「…月夜見さん、そりゃいくらなんでも重いでしょう」
「そうかのう…わらわは大丈夫なんじゃが」
「いやいや超辛そうですって。…着替え、必要ですか?」
「んむ~…そうじゃのう…正直着替えたいのじゃが…でも、用意してもらうのも申し訳ないしのう…ん~~~!」
彼女はその提案にうんうん唸っている。
良心と本能が対決しているらしく、しきりに首を左右にひねっていた。
正直見ててむっちゃ面白い。
でも俺としても彼女に風邪を引かせるわけにはいかないので、すっと助け舟を出した。
「…それ乾いたら風邪引きますよ?最近の冷房は超寒いですし」
「…そうか…では、お言葉に甘えるとするかの」
俺のアドバイスに香倶夜も頷いてくれたらしい。
こくん、と小さく首を縦に振って、肯定の意思を示した。
…おお、なんか小動物みたいだ。ハムスター的なやつ。つまり可愛い。頭ナデナデしたい。
―――感想の語彙力少ねぇな俺…。
とまぁそれは置いといて。
こうして要望があった以上、俺も応えなければなるまい。
「…んじゃ、ちょっと待っててもらえますかね?」
俺は短く問うと、香倶夜の返事も待たずにスマホを引っ張り出した。
…友人からのメール着信数が37、というえげつないことになっているが、華麗に無視して電話アプリをタップ。っつーか別に見なくてもいいだろ。スルーだスルー。
電話帳から検索機能を使って目的の名前を見つけ出し、そいつのアドレスページに飛ぶ。
―――と、あとは「通話」と書かれたボタンに手で触れるだけ、というところで、香倶夜が興味深げに近寄ってきた。
おそるおそる、といった感じで、俺の左手に鎮座しているスマホを指差す。
…いったいどうしたんだろう。
「………か、海斗よ」
「?何ですか、月夜見さん」
問うた香倶夜は、声が震えている。ぶるぶるしてる。
本当にどうしたんだろう。ヤバい、怯えるウサギみたいだ。例えがヘタクソだね俺。そして自虐的にしかなれんのね俺。アリになりたい…わきゃあるかい。
そんな迷える子羊、月夜見香倶夜さんは、俺の葛藤(笑)なぞ露知らず、その震えた声色のまま、地球が滅びるんじゃないかといった風体で、こう、話しかけてきた。
「―――…そ、それは、何じゃ…?」
――――――。
(――――――は?)
イヤイヤイヤイヤ。
マジですか。
この子スマホ知らない系女子ですか。
箱入り娘お嬢様系ですか。
そうですか。
………………。
(―――いやまあ見てくれから想像してましたけどね?現代のこの時代に十二単着てたらそりゃそう思いますけどね?)
俺は口に出さずに誰かに言い訳する。
ひとしきり脳内で疑問を処理する。
(あなた自動改札知ってたでしょう?でも文明の利器スマートフォン様々は知らないんですね?そうなんですね?そう信じていいんですね?)
数行の疑問の後、行き着いた結論は、「やっぱこれ
確信はないが、彼女は恐らく本気で知らないのだろう。
家庭環境か、また別の環境が故に。
俺はため息をつきながら、スマホとは何ぞや、ということを説明し始めた。
「―――…こいつは『スマートフォン』って言うんすよ。ざっくり説明すれば、超多機能電話って感じですね。これひとつでネットも通話もメールもゲームも出来ます」
「…その…ねっと、や、めえる、とは何じゃ?」
(…あっ。
俺は彼女の切り返し方に納得。
そりゃそうだ。スマホ知らないんならメールもネットもゲームも知りはしないだろう。
俺は更に説明を追加。
「ネット、っていうのは世界中の色々なサービス…たとえば、買い物をしたりだとか、遠く離れた人と会話したりとか、そういうことが出来る、いわば仮想空間のようなもんです。まぁ俺らは入れないんですけどね」
「…ふむ。それで、めえる、とは?」
「メールは、人と人とが直接会えないときなんかに、小さなメッセージ…ああ、月夜見さんには手紙、って言ったほうが解りやすいですかね?」
「うむ」
「その手紙ってのを、先に説明したこの『スマートフォン』とかを通して、一瞬で相手に送る機能のことです」
「…その機械を通して、か?」
「そうですそうです。こいつはその手紙を送ったり受け取ったり、書き溜めておいたりが出来る、言葉で表すなら媒体ですね」
「…なんとか了解した。…それで、海斗が最後に言っておった、その、げ、げ…」
「ゲームですか?あれは俺らの遊びですよ。仮想空間にいる人間を俺らが動かして遊ぶんです」
「?どういうことじゃ?」
「えっと、ちょっと難しかったですかね。…月夜見さんから見れば、自分以外の人を自分び思うとおりに動かして、蹴鞠とかカルタとかをさせるっていうことになるんですかね?」
「…!…なるほど、そういうことか!」
…頭痛くなってきた。
目をキラッキラさせて俺を見る香倶夜とは裏腹に、俺の右脳はキリキリと痛んでいた。
なんだろう、この、なんともいえない気持ちは…。
俺が何か間違ったことをしたかのような、この罪悪感はいったい…。
説明とはこんなにムズカシイものだったのか。
先生に敬礼。
(…っと、忘れるとこだった)
俺はつい先ほどまで完全に忘れていたことを思い出す。
電話電話っと。
そういえばそのためにスマホ持ってんだよ。
忘れてたよ。何でだか知らんけど。
俺は消えた液晶を復活させて、今度こそ「通話」のボタンに指を滑らせた。
…左耳にスマホを当てる俺に向ける香倶夜の視線が痛いです。
超興味津々だよあの子。俺の一挙一動まで詳細に見ようとしてるよ(自意識過剰)。
プルルル、っていうコール音が聞こえてきたけど、なんかそれ以上にあっちのほうが気になるよ。
つーか、十二単の女の子と駐車場で2人きりって、まった奇妙な状況だな…。
今気づいた。
香倶夜が説明を貰うのを諦めたのか車にもたれかかり、俺がふっと深呼吸をしたそのとき、電話が繋がった。
『―――もしもし?海斗?』
「…もしもし。こちら海斗」
『いきなりボケかまして来んな!何の用だ!?』
いきなりすっとぼけた俺に、通話口の向こうのお相手は大層お怒りのご様子。
怒鳴りかかってきた。すっげーうるさい。ウワァァァァァンって感じの声。
そんな声が突然聞こえてきたもんだから、俺は思わずスマホから耳を離してしまう。
香倶夜がビクッ、としたのが見えた。
俺は再びスマホを耳に近づけ、迷惑そうに話しかける。
「………そういうお前はなんでんなうっせーんだよ。お前バカなの?」
『それはこっちのセリフだよバカ海斗!』
「そりゃ聞き捨てならないな。俺がお前よりバカなわけがないだろう」
『うっせー!朝っぱらから一々電話かけて来んじゃねぇよ!』
「なんで?今8時40分過ぎだぞ?流石にもう朝っぱらじゃねぇぞ?」
『俺今の今まで寝てたんだよ!!』
「…え、お前寝てた!?」
『悪いかよ!!』
「―――…お前、呼び出し食らわなかったのか?
俺が矛盾を指摘した途端、通話口が無言になる。
これは図星だろう。彼は多分忘れていた。今日の呼び出しのことを。
まったくしょうがない奴だ。
俺は苦笑しつつ言葉をかける。
「…お前、マジで寝てたんなら大バカじゃなくて大アホだぞ?」
『―――…すまん、もうその評価でいい』
「おっ、図星か。まーそんなことだろうとは思ってた」
『今から急ぐ!用件だけ聞かせろ!!』
苦虫を噛み潰したような声の次に、慌てたような焦るような声。
流れるような声のコラボレーションに、俺は思わず笑ってしまう。
さて、用件でも言いましょうか。言わなきゃ始まらないし。
向こうから聞こえるドタバタという音をBGMに、俺は出来る限り短い言葉で用件を伝えた。
「―――用件は単純だ。よーく聞いとけ」
『…ああ一応な!!…くそっ、カフスが留まらん…!!』
「…んじゃ手短に言うぞ?お前の姉貴の制服を貸せ」
『………………』
急いで説明したら急に静かになるってどういうことですか。
さっきと約束が違うだろう、と俺は憤る。
自分の言ったことぐらい自分で守れないのか。お前は風見鶏か。なんかそれも違う気がするけど。
『…お前変態かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
と、また金切り声のような怒鳴り声が聞こえてきたので、俺は左耳を塞ぐ。
流石に二の舞は食らわん。またスマホふっ飛ばすわけにゃいかんからな。
まあ、変態評価は不服の一言に尽きるので、俺は弁解する。
「俺が個人的に愉しむためじゃねぇ」
『じゃあ何が目的だよ!?燃やすのか!?匂いを嗅ぐのか!?』
「だから変態じゃねぇって言ってんだろうが!!…困ってる女子がいんだよ。いいからさっさと貸せ!!」
『は?困ってる女子?』
「そうだ!!具体的には…あんまし大きな声で言えないんだが、追っ手から逃れたお尋ね者女子。言っとくが美少女」
『………………いや、貸すのは別にいいんだけどよ』
「分かった。それが聞けりゃ十分だ。10分以内にあの眼科の駐車場まで来いっ!!!」
『…分かった、了解。10分以内に必ず行く』
あいつからの賛同を得られたので、俺は電話を切る。
用の済んだスマホをポケットに滑り込ませると、まだ車の傍にいた香倶夜に微笑みかけた。
安心させるように、大丈夫だ、ということを伝えるために。
「…大丈夫です。着替えのアテはつきました。…そのあと、ウチの学校で匿ってもらいましょう」
いかがでしたでしょうか。
正直言って書き方を忘れてるような気がしますが…。
なんとか10話を3月15日に投稿したいです。
それではまた、10話で!
感想や評価など、お待ちしております。