偽書魔法少女サツキ☆マギカPSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI SATUKI MGICA 作:ジャックノルテ
希望を守る者よ
「あれが箱庭を包む魔法陣なんや・・・」
あすなろ市と風見野市の境目にある地域の送電線の天辺にウチは立っていた。
ウチの《魔法少女》としての姿には新たにオレンジ色が加わっていた。《魔女》を操る力を手に入れたウチの背後には優木沙々が操っていた《魔女》や《使い魔》が群れを作って待機していた。
道端を歩いてすれ違う人がいると結界に引き込んで捕食する事もあったが別段、気にする事でも無かった。
それで《魔女》や《使い魔》の飢えが満たせるのならば安いモノだとウチは思っていた。
物思いに耽るウチの瞳にはあすなろ市全体を包み込む《インキュベーターを認識出来ない》と言う魔法陣がはっきりと見えていた。
この魔法陣を破壊する必要性は無かったが影響を受ける事をウチは避けたかった。
ソウルジェムを通したウチの視界が持つ強大な感知力からウチはこの魔法陣の影響を受けない方法を既に編み出していた。
それはエレガンテ・ファンタズマを使い魔法陣の影響を受けていると魔法陣に誤認させると言う方法だった。
試しに《虚像のウチ》を出現させてあすなろ市へと向かわせて見る。勿論、エレガンテ・ファンタズマを使い魔法陣の影響を受けていると誤認させた状態で歩かせた。
《虚像のウチ》は簡単にあすなろ市へと入る事が出来た。それを見たウチは《虚像のウチ》を消し去ると鉄塔を飛び降り道に立つと緊張した足取りであすなろ市へと向かった。
エレガンテ・ファンタズマは発動している。ウチは一歩一歩、大地を踏み締める感覚を楽しみながらあすなろ市へと向かった。
後、数歩であすなろ市へと入る・・・。
あすなろ市へと入った。
けれども影響は無かった。ウチの記憶の中ではベータ―ことキュウべえはいつもの姿のままだった。ウチの持つベータ―の記憶は決して筒地綾女の記憶にある様なジュウべえに変わったりはしていない。
ジュウべえこと従属するインキュベーターの事をウチは筒地綾女の記憶を通して知っていた。筒地綾女は死ぬ寸前までキュウべえと共にあすなろ市で行われた実験に関する意見を話し合っていたからだ。
「まず、今夜のホテルを探すべきやな」
ウチはあすなろ市街へと向かうとホテルを探した。まずは拠点を確保してから《プレイアデス星団》との戦いに備えるべきやった。
ホテルは簡単に見つかり泊まる事も簡単だった。エレガンテ・ファンタズマを使えばトランプのカードも運転免許証や保険証等の身分を現す物に変える事は簡単やった。
一番、安い客室を確保するとベッドの上に横になった。
まずはどう戦うのかを整理しなければならない。
この時間軸の《プレイアデス星団》は6人。いくらウチでも6対1では勝負にすらならない事は自覚していた。
幸い《プレイアデス星団》は普段、2人一組であすなろ市内の三ヶ所に分かれて行動していた。それだけパトロールの範囲が大きいと言う事が感じ取れたが逆を言えば普段は6人全員で行動する事が無いと言う事だった。
佐倉杏子の記憶から《プレイアデス星団》に所属する《7人の魔法少女》の能力は大体、解っている。
そんな事を思いながらウチは佐倉杏子が《プレイアデス星団》と出会った時の事を思い出していた。今や佐倉杏子の記憶はウチの記憶と言っても良い位、ウチと同化していたのだから・・・。
ウチは他人の追憶に心を浸らせる事にした・・・。
○
その日、風見野市において佐倉杏子は師匠である巴マミと共に《狼の魔女》と戦っていた。《狼の魔女》は自身の《使い魔》と共に群れを作り巨大な結界の中で人を襲っていた。
けれども巴マミと佐倉杏子、《2人の魔法少女》が力を合わせれば勝てない相手では無かった。次々と《使い魔》を倒し2人は《狼の魔女》に肉薄していた。
「マミさん!あたしが《魔女》を引き寄せるからその隙に!」
そう言って佐倉杏子は赤い槍を構え6人に分身して《狼の魔女》に突っ込んで行った。
「分かったわ。佐倉さん!」
そう答えながら巴マミはリボンを解いて大きな銃を出現させた。その間にも《狼の魔女》は佐倉杏子の分身に翻弄され次々と傷を負って行った。
不利を悟ったのか《狼の魔女》はそのまま逃走しようとしていた。けれどもその逃げようとした方向こそが佐倉杏子の誘導したい方向だった。
「ティロ・フィナーレ!」
《狼の魔女》は巴マミの放った魔力の渦に呑まれて消滅した。
「やったね。マミさん!」
佐倉杏子は笑みを浮かべて巴マミの方を振り返った。
「佐倉さん!まだよ!結界が崩れていないわ!」
巴マミは油断する事無く銃を構え続けていた。それを見て佐倉杏子も槍を構え直す。
すると突如として結界が大きく揺れ始めた。
「佐倉さん!」
瞬時に巴マミは両手からリボンを伸ばすと結界の地面や壁、天井の突起物に引っ掛けると自分と佐倉杏子の体を安定させた。
「何が起こってるんだ!?」
「この魔力・・・。どうやらこの結界には他にも《魔女》がいて結界ごと移動しているみたいね」
驚く佐倉杏子とは対照的に巴マミは落ち着いていた。
「でも!《魔女》が移動するのなら私たちは結界のあった場所に残される筈じゃあ!?」
「恐らく私たちが結界の最深部に入り込んでいたのと、この結界がよほど強固に出来ていると言う事よ」
振動は収まらない。巴マミも佐倉杏子も臨戦態勢を保ったまま体勢を維持する事しか出来なかった。
不意に振動が止まった。互いの顔を見て頷いた佐倉杏子と巴マミはすぐさまリボンを離すと結界の中を再び探索し始めた。
「さあ。他の《魔女》のいる場所を探しましょう」
巴マミに促された佐倉杏子は頷き槍を構えると巴マミに続いて結界の通路へ進んだ。
その時、魔力によって結界が大きく揺れた。その魔力は2人にとって馴染み深い物でもあった。
「この魔力は・・・。魔法少女のだわ!」
「魔法少女・・・」
巴マミは少し嬉しげに佐倉杏子は少し緊張を持った表情を取っていた。
2人は《魔法少女》の魔力が感じられる方向へ足早に向かって行く。
結界内部にある部屋と部屋を結ぶ通路には2人を通すまいと《使い魔》が次々と出現するが2人の《魔法少女》の敵では無かった。
《魔法少女》の魔力を最も強く発する扉を2人は同時に開いた。
そこでは7人の《魔法少女》が《狼の魔女》を相手に戦っていた。
「みんな!行くわよ!合体魔法!」
眼鏡をかけシスターの様な服装をした少女、御崎海香の号令を合図に6人の魔法少女が魔法陣で《狼の魔女》を包んで行く。
「エピソーディオ・インクローチョ!」
6人の魔法少女の魔法陣は《狼の魔女》をしっかりと押さえ付けていた。
「今だ!ミチル!」
軍服の様な服装をした浅海サキの叫びを聞き黒い帽子を被り白と黒の衣装を身に纏う和紗ミチルは手に持った杖を《狼の魔女》へと向け叫んだ。
「リーミティ・エステールニ!」
和紗ミチルの手にした杖から放たれた光は真っ直ぐに伸びて《狼の魔女》に向かって行くが突如として《狼の魔女》を包んでいた魔法陣が崩れ落ちると《狼の魔女》はその場から離れた。
「私たちの魔法陣がどうして?」
「みんなあれを!」
驚く宇佐木里美の脇に立つ飄々とした雰囲気を持つ神那ニコが《狼の魔女》のいる場所を手に持つバールで指し示す。
その方向にはなんと《狼の魔女》が3体いたのだ。
「なっ。3体もいやがったのか!?」
驚いていた牧カオルだったが臨戦態勢を崩す事は無かった。
「関係ない!ボクたちなら・・・。たとえ相手がどんな魔女でも勝てる!」
そう言いながら若葉みらいは脇で武器を構える浅海サキに視線を向けていた。
「そうだよ。希望はある!あの魔女に勝って私たちがその希望になるんだ!」
和紗ミチルの声を聞いて6人の魔法少女たちは頷いた。
その様子をずっと見ていた佐倉杏子は脇に立つ巴マミを見た。巴マミは少し驚いた表情をしていたが佐倉杏子の視線に気が付くと頷き答えた。
「佐倉さん。あの人たちは私たちと同じ志を持った魔法少女よ!」
巴マミの瞳と発した声には確かな確信を感じ取らせた。
「そうだね・・・。きっと、あの子達もあたしとマミさんと同じだよ!」
「行きましょう!」
「うん!」
そう言って巴マミは結界の扉を開き和紗ミチルたち、《7人の魔法少女》の元へ向かい走り出した。佐倉杏子がそれに続いた時に《3体の狼の魔女》は《7人の魔法少女》へ向かってその鋭い爪を振り下ろそうとした。
「レガーレ・ヴァスターリア!」
巴マミがそう叫ぶと同時に黄色いリボンが防護壁となってミチルたち7人を包み《3体の狼の魔女》の攻撃から守った。間髪居れずに巴マミは胸のリボンを解くと巨大なマスケット銃を出現させ決め技を放った。
「ティロ・フィナーレ!」
瞬時に動いた《3体の狼の魔女》は巴マミの放った攻撃を易々と回避してしまった。
しかしそれを見ても巴マミの表情は崩れる事は無かった。隣にいた佐倉杏子からも分かる様に巴マミは《3体の狼の魔女》の動きを見る為に意図的に威力を押さえたティロ・フィナーレを撃ったのだ。
「危なかったわね・・・。けれどあなたの言う通り、私たち魔法少女は人々の希望を守る者よ!」
突如として現れた巴マミと佐倉杏子を見てミチルたち7人は驚いていた。
「安心しなよ。別にアンタたちの縄張りを奪うとかそんなんじゃ無いからさ」
和紗ミチルたち7人を安心させる為か槍を肩に担ぎながら佐倉杏子は比較的、穏やかにそう語っていた。
「あなたはあの時の!?」
和紗ミチルは驚きの表情を巴マミに向けていた。同じく巴マミも驚いた表情を見せていた。
「あなたは・・・。そう。あなたも魔法少女になってしまったのね・・・」
巴マミは少し悲しげな表情を見せていた。同時にリボンの防護壁が大きく揺れた。
その場にいた9人の魔法少女たちが視線を向けると何と《3体の狼の魔女》は合体して1つになると三つの首を持った地獄の番犬、《ケルベロスの魔女》へと変貌したのだ。
「ミチル!今はあの《魔女》を!」
浅海サキの叫びを聞いて巴マミと和紗ミチルは表情を引き締めると《ケルベロスの魔女》へと視線を戻した。
「もう一度、さっきの様な魔法陣を張る事は出来ないの?」
状況を瞬時に飲み込んだ巴マミは和紗ミチルたちに語りかけた。
「それは可能よ。けれどあの《魔女》が合体してより強くなった以上、さっきのより強力な魔法陣を敷くのは魔力を溜める時間が必要よ」
御崎海香は持っていた双刃の槍を本に戻しながら答えた。
「なら、アタシが囮になって魔法陣を敷く時間を稼いでやるよ。見てなよ!ロッソ・ファンタズマ!」
そう言って佐倉杏子は10人に分身するとリボンの防護壁から出ると《ケルベロスの魔女》に向かい飛び掛って行く。それを見ながら巴マミは少し溜息を付くと和紗ミチルたちの方に向き直った。
「まったく、しょうがないわね。じゃあ魔法陣の方は任せるわ。魔法陣であの魔女を動けなくしたら私とあなたの攻撃魔法で魔女を倒しましょう」
巴マミにそう言われて和紗ミチルは少し照れた様な表情を見せたが頷いた。
「はい。これで私、お姉さんに恩返しが出来ますね」
「ええ。けど今は・・・。戦いましょう!」
巴マミの視線の先で佐倉杏子は多数の分身と共に《ケルベロスの魔女》を翻弄していた。
しかし《ケルベロスの魔女》も負けてはいない。口から青白い炎を吐き出していた。
佐倉杏子がその炎に思わず怯んだ時、突如として佐倉杏子の分身の数が増えたのだ。
ロッソ・ファンタズマを再度、使用した訳ではないのに20人程に増えた。
「なっ何だ!?」
「私が手を貸したのよ」
驚く佐倉杏子に仲間たちと魔法陣を作り上げる魔力を溜めていた御崎海香が答えた。
「驚かないで。私は他者の魔法を読み取る事が出来る。だから魔法を増幅させる手伝いも可能なのよ」
「なるほどな。サンキュー!」
御崎海香の説明を聞いて納得した佐倉杏子は再度、《ケルベロスの魔女》を翻弄し、その間に魔法陣の準備は終わっていた。
「今度こそ・・・。合体魔法!」
御崎海香の号令を聞いて牧カオル、宇佐木里美、神那ニコ、浅海サキ、若葉みらいはそれぞれ《ケルベロスの魔女》を取り囲む位置へと移動した。
「エピソーディオ・インクローチョ!」
再度、放たれた魔法陣は《ケルベロスの魔女》を完全に押さえ付けていた。間髪いれずに巴マミと和紗ミチルが同時に《ケルベロスの魔女》に向かい走りながら必殺の魔法を発動させる!
「ティロ・フィナーレ!」
「リーミティ・エステールニ!」
同時に放たれた2つの強力な魔力は《ケルベロスの魔女》を飲み込み、完全に消滅させた。結界は崩壊し《ケルベロスの魔女》がいた場所には三つのグリーフシードが落下した。
この場所は元のあすなろドームへと戻った。
「ここは・・・?」
佐倉杏子は見覚えの無い場所に少し戸惑っていた。
「あすなろドーム。あすなろ市にあるドーム会場さ」
戸惑う佐倉杏子に牧カオルは答えた。
「じゃあ、ここはあすなろ市に間違いないのね?」
「そうだよ。お姉さんが何処から来たかは分からないけどこれで安心したでしょう?」
和紗ミチルの答えを聞いて巴マミは少し安心した様子を見せた。
「そうね。それから自己紹介がまだだったわね。私は巴マミよ」
「うん。私は和紗ミチル。それからみんなを紹介するね!」
巴マミと佐倉杏子は和紗ミチルたちプレイアデス星団と互いに自己紹介を行った。
「まさか少し離れた街に大勢の魔法少女のチームがいるなんて思わなかったわ」
「私もマミさんが以外と近い場所にいるなんて思わなかった」
巴マミと和紗ミチルは自己紹介を終えて笑いあっていた。
その隣では佐倉杏子も御崎海香たちと会話して笑顔を見せいてた。
「じゃあ夜も遅いから私と佐倉さんは元の街へ帰る事にするわ」
暫く9人で話した後に巴マミは時間が深夜に入った事を知るとそう告げた。
「えー?もう少し良いじゃんかよ」
「駄目よ。佐倉さん。夜更かしは体に良くないわよ」
「はーい」
巴マミにそう言われて佐倉杏子は素直に従う事にしていた。
「待って!」
和紗ミチルに呼び止められて巴マミと佐倉杏子は足を止めた。
「あの。これを!」
そう言って和紗ミチルは2つのグリーフシードを巴マミと佐倉杏子に差し出した。
「貴重なグリーフシードを良いのかよ?」
佐倉杏子は驚きを見せていた。
「良いの。このあすなろ市は私たち《プレイアデス星団》が守ります。そして風見野市を佐倉さんが。見滝原市をマミさんが守るのならマミさんと佐倉さんに渡すのが良いと思います」
和紗ミチルの言葉を聞いて御崎海香たち《プレイアデス星団》の面々も頷いた。
その様子を見た佐倉杏子は巴マミを見た。巴マミは佐倉杏子に向かって頷いた。
「そうね。それじゃあ、ありがたく使わせて貰うわ」
「悪いな。じゃあ貰っとくよ」
そう言って巴マミと佐倉杏子はグリーフシードをそれぞれ1つずつ受け取った。
「それじゃあ。《プレイアデス星団》のみんな。また!」
「また今度な!」
別れの挨拶を済ませた巴マミと佐倉杏子はあすなろドームを出ると自分の街に向かって跳躍して行く。
「マミさん。佐倉さん。ありがとう!」
あすなろドームの入り口では和紗ミチルと《プレイアデス星団》の面々が手を振っていた。
○
それこそ佐倉杏子が《プレイアデス星団》と出合った記憶だった。
ウチは更に佐倉杏子の追憶に意識を委ねてみる事にする。
佐倉杏子と巴マミ、《プレイアデス星団》の関わりはそう長くは続かなかった。
《プレイアデス星団》との出会いから数ヵ月後に巴マミと佐倉杏子はある出来事を境に決別し2人はそれから《プレイアデス星団》と会う事は無かった。
巴マミは見滝原市を守り、佐倉杏子は風見野を縄張りに、《プレイアデス星団》はあすなろ市を守る為に戦い続けたのやから。
だが佐倉杏子と和紗ミチルだけは違った。2人はもう一度、顔を合わせる事になる。
とても良くない形で・・・。
○
巴マミと決別してから佐倉杏子は荒々しい生活と戦い方をする様になった。
常日頃から何かを食べ《使い魔》を放置して《魔女》に成長してから倒すと言う手段で必要以上にグリーフシードを集めていた。
そんなある日、佐倉杏子は買い食いしたパンを頬張りながら風見野市内に発生した新たな結界のチェックへと向かった。
《使い魔》の作った結界ならば放置し《魔女》の作り出した結界ならば入り込んで《魔女》を倒せば良いだけの事だった。
あすなろ市と風見野市の境目にある結界だったがこの結界は風見野市内にある大量のコンテナの置いてある埠頭街にあった。
一瞬、あすなろ市を守る《プレイアデス星団》の事が頭を過ぎったが直ぐに打ち消した。
巴マミとも決別した今、佐倉杏子にとっては《プレイアデス星団》も敵となる可能性を持った《魔法少女》に過ぎなかった。
佐倉杏子がそう思いを過ぎらせた時、突如として目の前で結界が崩壊した。大きな魔力と同時に。
「何だ!?」
そう呟きながらも佐倉杏子には何が起こったのか理解していた。
結界の崩壊が大きな魔力の反応と同時に起きたと言う事は自分以外の《魔法少女》によって結界が破壊された事を意味していた。
《魔女》や《使い魔》がどうなったのかは分からないが佐倉杏子は大きな不快感を味わっていた。
「アタシの縄張りにちょっかい出すなんて良い度胸してるな!」
瞬時に《魔法少女》としての姿に変身すると同時に崩壊した結界のある方向に目を向けるとツインテールの髪型をした《金髪の魔法少女》が肩で息をしながら片ヒザで立ち竦んでいた。
「おい!お前!アタシの縄張りでよくも勝手な真似をしてくれたな!」
瞬時に怒りを沸騰させた佐倉杏子は槍を構えると《金髪の魔法少女》へと向けた。
それを見て《金髪の魔法少女》は戸惑った様な表情を見せた。
「え!?一体、どうして?」
どうやら《金髪の魔法少女》は《魔法少女》の事情を知らないらしい。しかし自分の縄張りを守る事に集中している佐倉杏子には関係が無かった。
「どうやら《使い魔》を倒した様だけどここでこれ以上、好き勝手な真似をさせる訳には行かないんだよ!」
そう言って佐倉杏子は多節棍へと変化させた槍を目の前にいる《金髪の魔法少女》へと振り下ろした。それを《金髪の魔法少女》はぎりぎりの所で回避すると後ろにあるコンテナの上に飛び下がった。
「くっ。何を言っているの?《魔女》や《使い魔》から人々を守るのが《魔法少女》の筈でしょう!?」
《金髪の魔法少女》の言葉に佐倉杏子はより不機嫌な表情を見せた。それは過去に決別した巴マミと同じ様な台詞を言って来ている・・・。
つまりはこの《金髪の魔法少女》も巴マミと同じで他人の為に戦うと言うタイプらしい。
「くだらねえな。アタシは他人の為に魔法を使ったりしない。魔法ってのは、自分の為に使う物だ!」
自分の中に現れた苛立ちをぶつけるかの様な発言に《金髪の魔法少女》は、いぶかしむ表情を見せていたが意を決したのか注射器を連想させる様な武器を出現させた。
「ふーん。ようやくやる気になったのか。すぐに終わらせて貰うよ!」
佐倉杏子は本気で戦おうと槍を構え直そうとした。
「待って!戦うの止めて!」
そこへ聞き覚えのある声が響いて佐倉杏子は驚いて動きを止めた。それは相手の《金髪の魔法少女》も同様だった。
「お前は!?」
コンテナの陰から現れた声の主を見て佐倉杏子は驚きを味わう事になった。声の主は和紗ミチル。《プレイアデス星団》の一員だった。《金髪の魔法少女》も新たに現れた《魔法少女》に驚きを隠さないでいる。和紗ミチルは佐倉杏子と《金髪の魔法少女》の間に入ると双方に手を向けた。
「佐倉さん。待って。今、キュウべえから聞いたの。この子はあすなろ市で新しく契約したばかりの魔法少女なの。風見野市に入った事は謝るから。けど、どうして戦おうとしたの?私たちは戦う必要なんて無い筈だよ!」
和紗ミチルの言葉に佐倉杏子は何も言い返せなかった。それをごまかす為に持っていたパンを頬張ったが今は素直に味を楽しめなかった。
「人には色々と事情があるんだ。色々と変わる事もあるのさ・・・。それとも何か?アタシがアタシのやり方で戦う事に文句でもあるってのか!?」
そう言われて和紗ミチルは少し悲しげな表情を見せた。
「変わっちゃったんだね。佐倉さん。やっぱりあのニュースは佐倉さんの事だったんだね・・・」
どうやら和紗ミチルは佐倉杏子の身に何かが起こった事をおぼろげながら知っているらしかった。
「けど・・・。これ以上、この子と戦うと言うのなら・・・。プレイアデス星団、全員であなたの敵となるから!」
強い決意を見せた和紗ミチルの瞳に佐倉杏子は思わず視線を逸らし横目で2人を見た。
《プレイアデス星団》のメンバーは和紗ミチルを入れて7人。更には目の前にいる《金髪の魔法少女》をも相手にしなくてはならない。
どう考えても勝つのは難しかった。各個撃破を狙うにしても《プレイアデス星団》はチームで行動している。
「分かった。今日の所は見逃してやるよ。その代わり、二度と風見野に入って来るなよ!」
そう言って佐倉杏子はその場から去った。
とても気分は悪かった。
まるで巴マミと決別した事を繰り返した様な物だった。
嫌な思いを振り切る様に佐倉杏子は風見野市内へと消えて行った。
○
追憶には飽きた。
そう思うやウチはホテルの部屋を出るとそのままホテルの屋上に出た。
《魔法少女》としての姿に変身するとあすなろ市全体を見つめる。
《プレイアデス星団》の顔は分かっている。
直ぐに彼女たちは見つかった。
御崎海香、牧カオル、宇佐木里美、神那ニコ、浅海サキ、若葉みらい。
彼女たち6人こそ今のウチが倒すべき敵だった。
いいや。敵では無い。ウチが強くなる為の贄でしか無い。
ウチはこれからの事を考えて笑みを浮かべていた。