偽書魔法少女サツキ☆マギカPSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI SATUKI MGICA   作:ジャックノルテ

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楽しませて貰おうか

 朝焼けがあすなろ市を包み込む中、ホテルの屋上に立つウチは少し思案していた。どの様にして《プレイアデス星団》と戦うのかを。

 まともに戦っても勝ち目は無い。ましては6対1ではいくらウチでも敗北する可能性を捨て切れなかった。

 幸い《プレイアデス星団》は普段、あすなろ市内において3ヶ所に分かれて街を監視していた。それを踏まえて考えれば、前の時間軸にいた時と同じ様にこのあすなろ市の3ヶ所に同時に《使い魔》を出現させれば《プレイアデス星団》としては恐らく合流するよりも《使い魔》を倒す事を優先する筈である。

 ウチは優木沙々の魔力を使いあすなろ市内の3ヶ所にウチが操る《使い魔》の結界を出現させた。同時にウチの目には《プレイアデス星団》のメンバー、御崎海香、牧カオル、宇佐木里美、神那ニコ、浅海サキ、若葉みらいは2人ずつに別れて《使い魔》の結界へと向かって行くのが見えた。

 まず狙うのは分析魔法の御崎海香と肉体強化魔法の牧カオルのコンビ。

 思うと同時にウチは魔力を足に込めて跳躍していた。跳躍しながらウチの姿はエレガンテ・ファンタズマを使い佐倉杏子の姿へと変化して行く。

 この姿なら、もしかしたら《プレイアデス星団》の油断を誘えるかも知れないと思いウチは佐倉杏子の姿を選んでいた。ただし武器は浅古小巻の持つポールアックスにしていた。

 跳躍の勢いを押さえる事無くウチはそのまま結界の中へと飛び込んだ。

 同時に結界の崩壊を感じ取ったウチは自分が《操る魔女》にテレパシーで命令し崩壊して行く結界を再構成させ御崎海香と牧カオルの入り込んでいる結界の最深部へと至る最短ルートをも構築させ勢いを付けたまま結界の最深部へと降り立った。

「アンタは!?」

 突如として結界の内部に降り立った佐倉杏子の姿をしたウチに牧カオルは驚いた表情をしていた。

「佐倉杏子・・・」

 対照的に御崎海香は驚きを見せる事無く冷静さを保ったままだった。

「よお!プレイアデス!今日はお前達に死んで貰いに来てやったぜ!」

 ウチはなるべく佐倉杏子の口調を真似ながら御崎海香と牧カオルと対峙した。

「何を言っているんだ!?別にアタシ達とアンタは戦う必要が無いだろう!」

 牧カオルの叫びにウチは特に反応を見せなかった。なるべく佐倉杏子が見せた不敵な笑みをウチは再現しているつもりだった。

「何を言ってるんだ?風見野にもお前らが魔法少女狩りをしているって話は届いているんだぜ。だったら狩られる前にプレイアデスを倒すのが当然だろ!」

 これはウチが佐倉杏子の記憶から得た情報だった。

 ウチの答えを聞いた牧カオルは絶句した表情を見せていたが御崎海香は表情を崩す事無く口を開いた。

「でも私達だってあなたが必要以上のグリーフシードを得る為に他の魔法少女と抗争しているのは聞いているわよ。縄張りを広げるのにそんな言い訳はいらないんで無くって?」

 手に両刃の槍を変形させた魔法書を持って答えた御崎海香に合わせて牧カオルも戦いの構えを見せた。

「そうだな・・・。もう言葉はいらない。お前等が死ねば良いよねえ!」

 叫ぶと同時にウチは走り出しながらエレガンテ・ファンタズマを使い10人程に分身をした。

「海香!」

「ええ!」

 牧カオルに答えて御崎海香は魔法陣で牧カオルを包み込んでウチと同じ数に分身させた。

「ウォオオ!」

「悪いけど同じ魔法で対抗させて貰うわよ」

 御崎海香の言葉に答える様に分身した牧カオルとウチが化けた分身した佐倉杏子が一気にぶつかった。

 ウチの瞳は確実に牧カオルの本体を見抜いていた。分身と分身の戦いはウチの作り出した分身が次々と牧カオルの分身を消滅させて行った。ポールアックスを盾の様に使いウチは素早い牧カオルの動きから身を守っていた。

 それを見過ごす御崎海香では無く手に持った魔法書を開きウチに向けている。

「そうは行くか!」

 ウチの意思を瞬時に伝達したウチの分身は次々と御崎海香へと向かって行く。

「くっ!」

 魔法書を両刃の槍に変化させるとウチの分身を次々と切り刻んだ。視線を向ける事無く魔力の流れでその事を感じ取ったウチはポールアックスの盾を御崎海香へと向けた。

 同時に盾は消失し御崎海香を魔力の壁に包み込んでしまう。

「海香!」

 魔力の壁に驚く御崎海香を見て驚く牧カオル。それを見てウチは更に指先に魔力を溜め牧カオルに向け放った!

「アンタ!何を!?」

 驚く牧カオルの真正面に走り寄ったウチはそのままポールアックスを真横に振り回した!

「カピターノ・ポテンザ!」

 叫びながら牧カオルは両肘でポールアックスを防ぐ為にウチへと向ける。

 普通に考えれば無謀な選択と言えた。けれど佐倉杏子の記憶によれば牧カオルは体を硬質化する魔法、カピターノ・ポテンザの使い手だった。

 両肘を硬質化させウチの攻撃を凌ごうとしているのやろう。

「だが甘いで!」

 ウチの叫びと同時に牧カオルの両肘は硬質化する事無くそのまま両断されてしまった。

「うぁああああああああ!?」

 驚愕の表情を見せた後に響き渡る牧カオルの悲鳴。

 カピターノ・ポテンザが発動しなかった理由。それはウチが直後に牧カオルに仕込んだ速度低下の魔法の効力だった。

 呉キリカから奪った速度低下の魔法を牧カオルの魔力にのみ施す。それによって牧カオルは任意のタイミングで魔法を使う事が出来なかった。

 そのまま崩れ落ちる牧カオルの体の上からウチは次々とポールアックスを何度も何度も繰り返し振り下ろした。

 ウチの魔力の壁に阻まれた御崎海香の聞こえない叫びを感じ取りながらウチの瞳は牧カオルのソウルジェムの位置を感じ取っていた。

 牧カオルの右足にあるソウルジェムをウチはポールアックスで砕いた。

 目の前には既に人の形を僅かに保っていた牧カオルから魔力と生気が消滅して行く。

 牧カオルは死んだ。

「カオル!」

 怒りを帯びた叫びにウチが振り向くと御崎海香は魔力の壁を突破して魔法書をウチに向けた。

「イクス・フィーレ!」

 怒りに満ち指先に強い力を込めて御崎海香は魔法書でウチを解析していた。

(まずい!)

「これは!?あなたは一体!?」

 驚き動きを止めた御崎海香を見てウチは正体を見破られた事を悟り佐倉杏子の姿を解きウチの《魔法少女》としての姿を現した。

「始めましてやね。ウチは菖蒲彩月。アンタを殺す魔法少女や!」

「よくもカオルを!」

 言い終わらないウチに御崎海香は両刃の槍でウチに切り掛かって来たが、ウチは旨く右手の鎖を放って絡め取ると槍を封じ左手に魔力を溜め再度、速度低下の魔法を御崎海香に向かって放った!

 動きが緩慢となった御崎海香の額にあるソウルジェムに向けウチは右手の鎖を両刃の槍から解くとそのまま飛ばした。

 真っ直ぐに宙を飛んだ鎖は御崎海香のソウルジェムを頭蓋ごと砕いた。

 目の前で再び魔力と生気が消滅し御崎海香は呆気なく死んだ。

「これでウチは更に強くなった。あはははははははははは!」

 結界の中でウチは高笑いをしてながらウチに操られている《魔女の群れ》を呼び出した。

「悪いけど後始末は頼んだで」

 ウチの言葉に答えて《魔女の群れ》は御崎海香と牧カオルの死体に群がり2人の《魔法少女》の遺体を貪り食して行った。

 それを横目で見ていたウチは以前よりも何も感じなくなっている事に気が付いた。

 ウチが強くなった証とウチは解釈していた。

 残る《プレイアデス星団》は後、4人。

 

 

 

 

 窓から差し込む朝日の眩しさでウチは目を覚ました。

 時計を見ると御崎海香と牧カオルを殺してから一昼夜が経過した事が分かった。

 昨日は殺した2人の記憶と魔力を馴染ませるのに時間を使ってしまった。

 いくらウチでも2人分の記憶を一度に吸収するのは時間が掛かると言う事が認識出来た。

 ホテルのベッドの上から起き上がるとウチは再びホテルの屋上に出た。

 屋上への通路は存在しなかったが《魔法少女》であるウチには関係無かった。

 ウチが操る《魔女》の結界を限定的に出現させて屋上までの通路を形成させれば良いだけの話だからや。

 屋上へと出たウチは《魔法少女》としての姿を取ると再びあすなろ市を見渡して見た。

 格好の雨模様であった。空から降り注ぐ雨粒の一粒一粒が光を反射してウチの視界を広げてくれる。

 どうやら残る《プレイアデス星団》の4人、宇佐木里美、神那ニコ、浅海サキ、若葉みらいは御崎海香と牧カオルと連絡が取れない事に気が付き2組に別れて探し回っている様だった。

 それならばやるべき事は決まった。

 また2人ずつに死んで貰うまでや・・・。

「宇佐木里美、神那ニコ。次はお前たちの番や!」

 叫ぶと同時にウチは魔力を足に集中し跳躍する。

 昼間だったが誰かに見られても構わなかった。別にウチは《魔法少女》である事を隠すつもりは特に無かったのやから。しかし戦う前に見つかっては本末転倒やと思い直すとエレガンテ・ファンタズマを発動させるとウチの姿を周りの景色に同化させて姿を隠した。

 これで普通の人々にはウチの姿が見える事は無くなった。

 まあ魔力で相手の気配を探知する事が出来る《魔法少女》には余り意味が無い行動やも知れへんやったが・・・。

 跳躍を続けるウチの視界は確実に宇佐木里美と神那ニコとの距離を縮めている事を示していた。

 結界に取り込める範囲へと届いたと同時にウチは《操る魔女》に対してウチと宇佐木里美、神那ニコを巻き込み強固な結界を発生させた。

「何!?」

「里美。気を付けて。どうやら結界に取り込まれたみたいだね」

 驚く宇佐木里美に対して神那ニコは冷静に動じる事無く《魔法少女》としての姿に変身した。それに促された宇佐木里美も《魔法少女》へと変身する。

 それを見てウチは凸凹した結界の影から姿を現した。

「ようこそ。ウチの結界に」

「《魔法少女》!?」

「・・・」

 ウチの事を見て宇佐木里美は驚きを見せていたが神那ニコは相変わらずポーカーフェイスだった。

「早速やけどあんたらに死んで貰うで。ウチはもうあんたらの仲間を2人、殺したんやからな」

 思いっきりの笑みを作ってウチは2人に語りかけた。この言葉に流石に2人はビクッとした表情を見せた。

「まさかあなた・・・。海香ちゃんとカオルちゃんを・・・」

「許せないね」

 思わず手で口を覆い悲しみを隠さない宇佐木里美に対して神那ニコはポーカーフェイスだがはっきりと分かる怒りの視線を見せていた。

「ウチは許して貰おうなんて思って無いで。だから試させて貰うで!」

 そう言いながらウチは右手の中指を掲げた。そこには《魔法少女》として変身しているのならばあり得ない物が嵌められていた。

 ソウルジェムが変化した指輪が嵌められているのだ。

 ウチの行動を理解出来ずに驚く2人の前でウチは黄色いソウルジェムを出現させた。

「変身!」

 黄色い閃光と共にウチの姿は変化して行く。巴マミの姿へと。

「まさか!?」

「あれって!?」

 ウチの変化に宇佐木里美と神那ニコは今度こそ驚きを隠せなかった。黄色い閃光の収まった場所には《魔法少女、巴マミ》の姿をしたウチがいたのだから。

 これこそがウチが新たに試してみたい事だった。

 ウチは手に入れた巴マミのソウルジェムをどうするべきかずっと悩んでいた。

 因果律と魔法を奪う為にさっさと砕いてしまうべきかとも考えた。

 しかし御崎海香の魔法を手に入れ新たな利用価値を見出した。

 御崎海香の魔法、イクス・フィーレは解析能力を持った魔法だった。ウチはイクス・フィーレを使い巴マミのソウルジェムを解析するとエレガンテ・ファンタズマの幻惑効果「よって巴マミのソウルジェムを完全にコントロール下に置く事に成功した。

 勿論、巴マミのソウルジェムをコントロール下に置いたと言っても姿までは変わる訳では無い。今のウチが巴マミの姿に変化したのはエレガンテ・ファンタズマの幻惑効果に過ぎない。けれども巴マミの魔法は全て使う事が可能となっていた。巴マミのソウルジェムから魔力を使う事でウチは二重に魔力を持った存在となっていた。

 最もウチが本来持つ魔力は既に巴マミの魔力を大幅に越えていたので余り意味を持たなかったが。

「巴マミの力を試させて貰うで。トッカ・スピラーレ!」

 ウチの叫びと同時に宇佐木里美、神那ニコに向かって伸ばした右手から幾重にもリボンが伸びて行く。瞬時に神那ニコは宇佐木里美の前に立つと両手の指先を真っ直ぐに伸ばし呟いた。

「プロルン・ガーレ」

 次々と神那ニコの指はミサイルへと変化するとウチのリボンに命中し爆発してリボンを千切れさせて行く。

 けれどもミサイルの爆煙がウチの視界から宇佐木里美と神那ニコの姿を隠してしまった。

 瞬時にウチは左腕から糸の様に極細に絞ったリボンをウチの周囲に張り巡らせた!

 極細のリボンがウチの回りを防御する間にウチは視界が開くのを待っていた。

 銃撃によって視界を開くのは自分の位置を相手に晒す事になるのはウチにも理解出来た為、回りを警戒しながら待ち続けた。

 煙が晴れるとそこにはウチの予想通りに多数の数に分身した宇佐木里美と神那ニコが全方位からウチに武器を向けていた。

「プロドット・セコンダ―リオか・・・」

 分身を作り出す再構成の魔法を見抜いたウチがこの行動を予想出来たのは御崎海香の記憶のお陰だった。

 神那ニコは視界を遮りプロドット・セコンダ―リオの分身を多用する事が多かった。

「手加減はしないよ」

「海香ちゃんとカオルちゃんの仇!」

 そう言いながら全ての2人の分身は手に持った武器に魔力を集中する!

 分身までもが全て同じ動きをする事にウチは宇佐木里美がファンタズマ・ビスビーリオを用いて分身全てをコントロールしている事を見抜いた。つまりは分身全てが同じ威力の攻撃を完璧なタイミングでウチに向けて来る!

「フィリ・デル・トアノ!」

 全方位から魔力を帯びた光線が次々とウチに向かって放たれて来る。

 慌てる事無くウチは自分の回りにリボンを張り巡らせる。ただ張り巡らせるのでは無くウチの回りを守る盾の様に張り巡らせ魔力を流し表面を鏡の様な鏡面状に構成する。

「アイギスの鏡」

 ウチが小さくその技の名前を呟いた時、宇佐木里美と神那ニコの放ったフィリ・デル・トアノはまるで鏡に光が反射する様に来た方向へそのまま反射された。

 驚いた2人だったが即座に回避しようとした。分身の何人かは動きが遅れ反射されたフィリ・デル・トアノに貫かれて行く。

 その結果を見るまでも無くウチは飛び上がると即座に解いた胸のリボンで巨大な銃と回転する台座を作り上げその銃身に降り立った。

「ボンバルダメント」

 ウチの小さな呟きと同時に足元にある巨大な銃から光弾が放たれた。

 それもただ放たれるだけではなく台座が回転して全方位の宇佐木里美と神那ニコの分身を次々と灰と化して行った。

 その時、不意に極細に張り巡らせたリボンが揺れたのをウチは感知した。

 リボンの揺れた方向を見る事無くウチはリボンの拘束魔法、レガ―レ・ヴァスタアリアを発動させると宇佐木里美と神那ニコを拘束する事に成功した。

 全身を拘束され口も塞がれている宇佐木里美は恐怖の色が、神那ニコにはただ冷めた瞳でウチを見つめていた。

 このまま拘束魔法で引きちぎろうかと思った時、ウチは重みを感じた。

 それは魔力を消耗しすぎた時の重みだった。

「どうやら限界のようやね・・・」

 巴マミのソウルジェムに蓄えられていた魔力は残り少なくなっていた。

 ウチは右手から2人を拘束するリボンだけを残して巴マミの姿を解きウチの《魔法少女》として姿に戻った。

 ウチの《魔法少女》としての姿は御崎海香と牧カオルの色が加わってますますカラフルになっていた。

 口をも拘束されていた宇佐木里美と神那ニコの視線から驚きを察する事が出来た。

「せめてトドメは仲間の魔法にしてやるわ」

 ウチは左手が魔力を帯びる。

「トッコ・デル・マーレ」

 そう呟くとウチは宇佐木里美と続け様に神那ニコの体からソウルジェムを抜き取った。

 左手で握り締めた2人のソウルジェムをウチが握り潰すと同時に2人は死んだ。

 宇佐木里美も神那ニコもその魔法と因果をウチに奪われ死んで行った。

「アハハハハハハハハハ」

 ウチは何故か可笑しさを感じ取って高笑いを発していた。笑いながらウチが指をパチンと鳴らすとウチが《操る魔女達》が現れた。

「食事やで。綺麗に残さず食べな」

 ウチの言葉を聞いた《操る魔女達》は拘束魔法を解いた宇佐木里美と神那ニコの遺体に群がって2人の遺体を瞬く間に食べ尽くした。

 残るプレイアデス星団は後、2人。

 

 

 

 

 あれから数時間後・・・。

 大雨の降る中、ウチはアンジェリカ・ベア―ズと言うテディベア博物館を見つめていた。

 ここには残る《プレイアデス星団》のメンバー、浅海サキと若葉みらいがいる。

 2人がいる事はウチの目を通して確認をしていた。

 同時にウチはあすなろ市を包み込む《インキュベーターを認識出来ない》と言う魔法陣が崩れかかっている事を確認する事が出来た。

 恐らく、残りの《プレイアデス星団》の2人を倒せば魔法陣は崩れ去るだろう。

 傘も差さずにいるウチを不信な目で見つめる人々も多かったがウチはそれ程、気にならなかった。

「始めるとしやすか」

 そう呟いてウチは先がCの字状に曲がっている魔法の杖を出現させた。

 優木沙々の杖である。杖を通して魔力を発動させウチが《操る魔女達》に命令を下した。

 結界を発動させる事。それもただ結界を発動させるのでは無くアンジェリカ・ベア―ズごと取り込む程の巨大な結界を《操る魔女達》に作らせていた。

 通常、《魔女》の結界は《魔女》にとっての捕食対象である人間だけを取り込んでいた。

 しかし実際には生物だけでなく無機物をも結界に取り込む事も理論上は可能だった。

 けれど検証する為には《魔女》を操ると言った特殊な魔法が必要だったが、そんな魔法を持った《魔法少女》はそう多くは存在していなかった。

 だとしてもこんなくだらない事に魔法を使う《魔法少女》もウチ位とも思えた。

 アンジェリカ・ベア―ズごと結界に取り込まれた事に2人は気が付いただろう。

《魔女》や《使い魔》の進入を防ぐ為の魔法陣がアンジェリカ・ベア―ズには施されていたがその魔法陣ごとウチはアンジェリカ・ベアーズを結界に閉じ込めていた。

 ウチは結界の最深部に《操る魔女達》と共に現していた。

《操る魔女達》によって作られた結界は優木沙々の持つ魔女を操る力と御崎海香の分析魔法、イクス・フィーレと神那ニコの持つ再形成の魔法、プロドット・セコンダ―リオ、宇佐木里美の感覚共有の憑依魔法、ファンタズマ・ビスビーリオの4つの魔法を組み合わせる事でウチが《操る魔女達》の結界を完全にコントロール下に置く事に成功していた。

 ファンタズマ・ビスビーリオとプロドット・セコンダ―リオの2つを合わせた事で結界の構造をもウチの意思で自在に変える事が可能となっていた。

 更には今、結界の壁は全てウチの目となり耳となりアンジェリカ・ベア―ズから2人の《魔法少女》が出て来たのが見えた。

「まさかボクのアンジェリカ・ベア―ズごと結界に取り込まれるなんて・・・」

「みらい。気を付けろ。この結界、何か異様だ・・・」

 驚く若葉みらいの脇で浅海サキは冷静さを崩す事無く警戒心を最大まで高めていた。

「分かっているよ。サキ。ボクも同じ異様さを感じるんだ・・・」

「ああ。この結界はみんなとも連絡を付かない事にも関係があるのかも知れない・・・みらい。側から離れるな」

「うん」

 ウチの瞳には完全な臨戦態勢を整えた《2人の魔法少女》が結界の中を進んで行くのが見えた。

 どうせ戦うのなら楽しまなきゃつまらないやね。

 ウチが楽しめる様に2人を殺してしまおう・・・。

 さあ。楽しい遊びの始まりや・・・。

 まずは2人を分断する事が先決や。

 ウチが右手を上から縦に振ると突如として結界の天井が崩落して浅海サキと若葉みらいに多数の破片が降り注いだ。

 浅海サキは瞬時に反応すると若葉みらいを抱き抱えると跳躍して破片を避けた。

 ならばと、ウチが左手に持つCの字型の杖を振ると次々と《使い魔》が浅海サキと若葉みらいの周囲に次々と現れ襲い掛かって来た。

「みらい!」

「サキ!」

 浅海サキは鞭を構え若葉みらいは魔法のステッキを大剣へと変形させた。

「ピエトラディ・トゥオーノ!」

「ラ・べスティァァァァ!」

 浅海サキの鞭は電撃を放ち次々と《使い魔》達を焼け焦げさせて行く。

 大剣を振る若葉みらいの回りからは次々と現れた縫合跡の目立つテディベア達が《使い魔》に噛み付きその爪で引き裂いて行く。

 次々と現れる《使い魔》との先頭の中で僅かだが浅海サキと若葉みらいの距離が離れた。

 それを見逃す訳が無くウチは右手を上の方向へと盾に振った。

 同時に結界の地面が突如として隆起すると壁となって浅海サキと若葉みらいを分断してしまった。

「しまった!みらい!?」

「サキ!」

 既に互いの声もソウルジェムを使った魔力によるテレパシーも届かない。

 周囲の使い魔を一掃した浅海サキと若葉みらいはそれぞれ目の前に出現した結界の扉を開いて結界の奥へと進んで行く。

 しかしその通路は交差する事の無い通路であり浅海サキと若葉みらいが合流する事は出来ない様にしていた。

 まずは若葉みらいから楽しむ事にしよう。

 ウチは結界の維持を《操る魔女達》に戻すとウチの魔法、エレガンテ・ファンタズマを発動させると佐倉杏子の姿に変化した。

 両の手から呉キリカの魔法である鎌の様な爪を出現させウチは若葉みらいの元への扉を出現させ躊躇無く扉を開いた。

 扉の開いた先には大剣を構えた若葉みらいがこちらを睨み付けていた。

「おまえは!?佐倉杏子!サキを何処へやった!」

「さあな。それよりもお前らに死んでもらうぜ!」

「殺せるものなら殺してみろ!」

 間髪入れずに若葉みらいはウチに向かって跳躍すると大剣を振り下ろして来た。

 ウチは魔力で出現させた鎌の様な右爪を若葉みらいへと向け小さく叫んだ。

「ステッピング・ファング!」

 同時に右爪は蛇口から飛び出る水の様に勢いに乗って若葉みらいへと飛びその体を傷付けた。

「がは!?」

 ウチの攻撃でバランスを崩した若葉みらいはそのまま落下して地面に叩き付けられたが直ぐに大声を上げた。

「ラ・べスティァァァァ!」

 若葉みらいの魔法に呼応して多数のテディベアが表れウチに襲い掛かって来る。

 ならば・・・!

「カピターノ・ポテンザ!」

 小さく叫ぶと同時にウチの体は硬質化して襲って来るテディベアの攻撃を弾くと同時に反撃の一撃を放った!

 左手に魔力を集中し両の手に出現させて鎌の様な爪を全て左腕に集め繋げて行く。

 鎌の様な爪は爪同士が繋がって鎖の様になり爪の数を伸ばしてその長さを伸ばして行く。

「ヴァンパイアファング!」

 小さく叫びウチは長く伸びた鎌の様な爪を若葉みらいへと振り下ろした。大剣を自分の前に翳し更には魔法で呼び出したテディベアをも集めて若葉みらいはウチの魔法から身を守ろうとした。

 大剣もテディベアも貫いてウチの爪は呆気無く若葉みらいの体を引き裂いた。

 声にならない悲鳴が響き渡るがそれを無視してウチは倒れ、意識が朦朧として抵抗する魔力を生成出来ない若葉みらいの体に上に跳躍し降り立った。

「せめてもの情けだ。仲間の魔法で死ね」

 ウチは魔力を左手に集中するとトッコ・デル・マーレを発動させた。若葉みらいの体からソウルジェムを引き抜く為。左手が若葉みらいの体に触れようとした時、ウチの脳裏に悪趣味な閃きが過ぎった。その閃きにウチは半ば苦笑するとエレガンテ・ファンタズマを発動させウチの姿を浅海サキへと変えた。

《プレイアデス星団》の御崎海香、牧カオル、宇佐木里美、神那ニコの記憶から若葉みらいは浅海サキに好意を抱いているのは分かっていた。

 だからこそウチはせめてものウチなりの情けとして止めは浅海サキの姿で行おうとした。

「みらい。私の為に死んでくれるか?」

 既に意思も朦朧なのか若葉みらいは浅海サキの声色を真似たウチの声に合わせて頷いた。

「良いよ・・・。サキの為なら・・・。ボクは死ねる・・・」

 随分簡単に了承した事にウチは内心、拍子抜けしたが左手にトッコ・デル・マーレを発動して若葉みらいから簡単にソウルジェムを抜き取った。

 左手に握られたソウルジェムの輝きに反射して若葉みらいの遺体が移った。

 その表情には僅かな安らぎが感じれた。

 ウチが化けたとは言え若葉みらいは随分と簡単に浅海サキに従っている様にも思えた。

 盲目的とも言える様に・・・。

「不気味やね。まるで・・・。そう。筒地綾女に似ている・・・」

 世界から目を背けてただ朱奈やキュウべえと共に在ろうとした筒地綾女。

 浅海サキを盲目的に慕う若葉みらいは似た者同士だとウチには感じ取れていた。

 ウチの感傷を乱すかの様に突如として結界の内部に大きな魔力の波が響いた。

 大きな魔力を使用すればそれは空間その物に波となって作用して回り全てに影響を与えるのだった。

 つまりこの結界で今、大きな魔力が使われたと言う事だった。

 再び優木沙々の魔女を操る魔力を用いて結界内の状況を見てみるとどうやら浅海サキは結界内の通路を進む事を拒むと結界の壁を魔法で破壊して進んでいた。

「後1人か・・・。せいぜい楽しませて貰おうか」

 そう呟いたウチの口は笑みを浮かべていたに違いない。ウチは左手で握り締めていた若葉みらいのソウルジェムに魔力を集中した。

「イクス・フィーレ」

 御崎海香の持つ分析魔法によってウチは他人のソウルジェムを解析して完全な支配下に置く事が可能だった。

 これで若葉みらいのソウルジェムも巴マミのソウルジェムと同じくウチの魔法の支配下に治めた。早速、試してみる事にする。

「変身」

 小さく呟くウチの声に合わせてウチの姿は若葉みらいへと変化した。

 全身から放出する魔力は若葉みらいのソウルジェムから供給されウチの外見はエレガンテ・ファンタズマを使い若葉みらいその者となっている。

 同時にウチは《操る魔女達》に命じて、若葉みらいの遺体を結界の構造変化によって《操る魔女達》の元へ送らせると数匹の《使い魔》をウチの元へと送らせた。

 ウチの目の前に数匹の《使い魔》が現れたのを見るとウチは意図的に《使い魔》を魔力の支配下から抜いた。

 突如としてウチの魔力による支配下から抜け出た数匹の《使い魔》は困惑していた。

 若葉みらいの姿をしたウチは大剣を手に《使い魔》を一匹、叩き切った!

《使い魔》の悲鳴が辺りに響き残る《使い魔》は驚き自らの目の前にいる敵であるウチに向かい闇雲に攻撃をして来た。ウチは躊躇う事無く次々と《使い魔》を切り刻んで行く。

 その最中、結界の壁の一部が突如として破壊されてそこから1人の少女が飛び出して来た。浅海サキである。

「みらい!大丈夫か!」

 ウチの予想通りに現れた浅海サキは状況を一瞥すると直ぐに鞭を構えた。

「みらい!こっちに来るんだ!ピエトラディ・トゥオーノ!」

 浅海サキの両手から電撃が放たれ次々と《使い魔》達を倒して行く。

 その光景を目撃しながらウチは浅海サキの脇に近付いた。《使い魔》が倒された事を見計らってウチは左手に魔力を集中させ浅海サキの身体に指先を伸ばし硬質化した左手を躊躇い無く突き刺した。

「うっ!?みらい!?一体、何を!?」

 突然のウチ=若葉みらいの行動に浅海サキは衝撃を受けている様だった。

 けれどもお構い無しにウチは浅海サキの身体に魔力を流し込んだ。すると浅海サキの身体は硬質化して身動きすら取れず彫像の様になってしまった。顔だけはそのまま残されて。

「みらい!?どうしたんだ?みらい?」

 困惑する浅海サキの様子はますますウチの心に喜びを感じさせていた。左手を引き抜きながらウチはその様子に答える為にとびきりの笑顔を作り浅海サキの目を見て言葉を発した。

 

 

「ボクね・・・。欲しい物があるんだ。それはボクの目の前にあるけれど簡単には手に入らないんだ。だってそれは心だから。心だけはどんなにやっても思い通りにはならないから。思い通りにしてしまったら、それは相手の心を否定してしまうからボクが欲しい心じゃ無くなる。けれどボク達は魔法少女だから心はソウルジェムに変化しているよね?もう解っているよね?ボクはサキの心が欲しいんだ。ボクはサキの事が大好きだから。だからサキの心を全てボクに頂戴!」

 

 

 他の《プレイアデス星団》の記憶から推測した若葉みらい像から想像した台詞を言ってウチはトッコ・デル・マーレを発動させた左手を浅海サキの身体に突っ込んだ。

「みらい!?やめるんだ!みらい!?」

 浅海サキの懇願とも取れる声を聞いたけれどウチは無視した。無視して浅海サキの身体からソウルジェムを引き抜いた。

 トッコ・デル・マーレの魔法によって引き抜かれたソウルジェムは肉体との繋がりを魔力によって封じ込まれ浅海サキの身体は死体となった。

 元の姿に戻ったウチは《操る魔女達》の元へ浅海サキの死体を送った。

 今ごろ、《操る魔女達》は浅海サキと若葉みらいの遺体に群がって貪り食っているだろう。

 ウチは右手に若葉みらいのソウルジェム。左手に浅海サキのソウルジェムを握り締めるとそのまま握り潰した。

 魔力と因果、それに新たな記憶がウチの中に入って来るのを感じ取る事が出来た。

 頭の中にあすなろ市を包み込む《インキュベーターを認識出来ない》と言う魔法陣が崩れた筈だと考えが過ぎったがそれはどうでも良かった。

「これで《プレイアデス星団》は全滅した。ウチ達成したんや!あははははははははははははははは」

 結界の中でウチは高笑いを上げ久々に感じる達成感を感じ取っていた。

 ウチはより強くなっている。その思いは確信があった。

 

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