偽書魔法少女サツキ☆マギカPSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI SATUKI MGICA 作:ジャックノルテ
アンタしだいやで
あすなろ市を後にしてから数日間が経った。各地の街を流浪したウチは今、見滝原市に戻っていた。
今、ウチは菖蒲彩月としての《魔法少女》姿で見滝原市のビルの上にジュウべえことジュウちゃんと2人で夕焼けを見つめていた。
「綺麗ね。ウチは夕焼けって好きよ。抗えない終わりがあると言う事を認識させてくれるんやから」
「ふーん。そうかい。オイラには理解出来ないな。何事にも終わりがあると言う事だけは認めてやるけどな」
「ジュウちゃんらしい答えよね」
答えを呟きながらウチの目は夕焼けを見ながら他のモノを見つめていた。ソウルジェムを通したウチの目は空気中の水分の乱反射等を利用して様々な角度からモノを見る事が出来た。ウチが見ていた他のモノ。それは鹿目まどかだった。
ウチはコネクトの魔法でジュウちゃんと繋がる事でジュウちゃんの持つ《インキュベーター》の持つ感知能力を一部、コピーしていた。感知能力の概要は視認した相手が持つ因果律を正確に把握出来る事だった。擬似的な《インキュベーター》の感知能力を手に入れた事でウチのソウルジェムを通した目は視認した相手の因果律を正確に知る事が出来る様になった。
これからは無差別に少女を襲って因果律を奪う必要が無く因果律の高い少女だけを襲うと言う効率的な行動が可能となった。
今、ウチの瞳に写る鹿目まどかからはとてつもない因果律を感じ取る事が出来た。
数日前に見滝原に立ち寄った際には鹿目まどかの因果律は平均的な物だった。鹿目まどかの持つ因果律が突如として上昇した理由は明白だった。数日前には見滝原市にいなかった暁美ほむらが現れてから鹿目まどかの因果律は突如として増大した。
以前の時間軸でキュウべえことベータ―から聞いた暁美ほむらが何度も同じ時間軸を繰り返しその度に鹿目まどかの因果律が上昇しているのでは?とするベータ―の推測が正しかった事が立証されていた。前の時間軸と同じ様に暁美ほむらはこの時間軸でも鹿目まどかを契約させない為に戦っている事は様子を観察すれば分かる事だった。
ただこの時間軸ではもう1人、時空を越える《魔法少女》が見滝原市に現れていた。
朱奈。筒地綾女が奇跡によって作り出した、愛する存在。
ウチの策略で《魔法少女》となった朱奈はどうやら見滝原市で暁美ほむらと行動を共にしている様だった。
正直、朱奈の存在はどうでも良かった。時空を越える魔法は魅力的だが、その身に宿る因果律の数値は余り高くは無かった。おまけに魔力が余り安定していない、極めて不安定な《魔法少女》だった。
恐らくはウチが他人の因果律を強引に朱奈に取り付けた事が原因で不安定な《魔法少女》となってしまったのだろう。
いや。それだけや無いのやろう。暁美ほむらと朱奈が2人で《使い魔》や《魔女》と戦っている所も観察して見たが朱奈には戦うと言う行為を肯定し切れていない様に見えた。
《使い魔》や《魔女》との戦いすら肯定し切れない、戦うと言う事を認められすらしない幼すぎる心の持ち主。魔力が不安定なのも心の幼さが要因なのかも知れなかった。
これがウチの朱奈を観察した感想だった。正直、もう関心は無い。
そう言えば見滝原市全体には《インキュベーターが鹿目まどかを認識出来ない》と言うウチが作った魔法陣が張られていたがウチが魔法で再現した擬似的な《インキュベーター》の持つ感知能力を使用する分には問題は無いらしかった。
「さて・・・。じゃあジュウちゃん。行くで」
「そうだな。で何処へ行くんだい?」
「そうやね・・・。とりあえずは風見野に帰るわ。まだ時間があるから焦る事も無いんやからね。まずは手に入れた全てのソウルジェムを取り込んでからでもええやろ」
「まあ彩月が言うんならそれで良いじゃないか?」
ジュウちゃんはそう言ってウチの肩に飛び乗った。それを見たウチはビルの裏側にある路地に向かって飛び降り《魔法少女》としての姿を解くと幻惑魔法、エレガンテ・ファンタズマを使い自分の姿を和紗ミチルに変化させ通りに向かい自然に歩いた。
和紗ミチルの姿を選んだのには理由がある。今までウチが相手にした《魔法少女》は大抵の場合、ウチが結界の中で殺してしまう為に死体が見つからず行方不明者として警察が捜索している場合があった。一度、呉キリカの姿で歩いていて警察の職務質問に巻き込まれた事があり、ウチはそれから他人の姿を使う場合には一応の吟味をする様になっていた。
佐倉杏子と和紗ミチル。この2人の姿は警察の職務質問に合う事は殆ど無かった。佐倉杏子は住所不定で声をかけて来る相手もいなかった。和紗ミチルは家族が既に葬儀を済ませている死亡者である為に問題は生じなかった。なおジュウちゃんはその姿をウチにしか見えないように調整させていた。
色々な思いを瞬時に抱き考えを深めたりしながら歩いていると病院の前に差し掛かり《青い髪の少女》がウチの方へ歩いて来るのが見えた。暁美ほむらと同じ見滝原中学の制服を着た青い髪の少女は少し残念そうな表情をしていたがウチには《青い髪の少女》が持つ高い因果律を視認していた。《魔法少女》として十分通用するレベルの因果律である。
すれ違う一瞬にウチは《青い髪の少女》からコネクトの魔法とウチの魔法を組み合わせて因果の具現化した鎖を引き抜き握り締め取り込んだ。
「え!?」
《驚いた青い髪》の少女だったがどうする事も出来ずにそのまま倒れてしまった。
直ぐに回りの人たちがざわめき始める。
「さやかさん!」
後ろを振り返る事無くウチの瞳は事態を見つめる事が出来た。《緑の髪の少女》が《青い髪の少女》に駆け寄っている。
「待っていて下さい!すぐに人を!」
必死な様子を見せる《緑の髪の少女》には《魔法少女》として十分な因果を感じ取る事が出来なかった。ふと少し悪戯をしてみたくなった。ウチはコネクトの魔法を使うとウチの中にある因果の一部を鎖にして《緑の髪の少女》に投げ付けた。《魔法少女》として契約を結ぶ事が出来る程の因果を・・・。
そんな事をした理由は単純に語れば実験だった。種を蒔き芽が出て立派な実を成した時に収穫を行えるかの実験だった。
つまりはベータ―ことキュウべえと契約を結べる程の因果を《緑の髪の少女》に与えたのだ。これは一種の博打とも言えた。《緑の髪の少女》がどんな願いで契約をして収穫の時まで生きているのかも分からない。極端な話、願いによってはウチが不利益を被るかも知れなかった。けどウチは今、博打をしたかった。
「芽が出るかどうかはアンタ次第やで」
ウチの呟きは《緑の髪の少女》には届かない。けれど実験と言う名の博打は始まっていた。
○
風見野市に戻ったウチは直ぐに手近な森林に入るとウチが《操る魔女達》の作り出した結界の中に入り込むとアンジェリカ・ベア―ズに入り神那ニコの研究室の椅子に腰掛けていた。
《操る魔女達》には腹が減ったら人間を襲っても良いと命じていた。口数の多いジュウちゃんも傍らで眠りに付いている。
目の前にある机には巴マミのソウルジェムと《矛盾の魔女》のグリーフシードが並んでいた。巴マミのソウルジェムは《プレイアデス星団》との戦いで強引に使用した為に穢れが溜り傷だらけとなっていた。ソウルジェムが傷だらけとなっているために魔力の流れが不安定となっている為に、まだ《魔女化》する事は無かった。
筒地綾女のソウルジェムが変化した《矛盾の魔女》のグリーフシード。こちらもまだ穢れが溜まっていない為に《魔女》が羽化する心配は無かった。
ウチは黙って右手に御崎海香の魔法書を呼び出すと解析魔法、イクス・フィーレで解析をして見た。思った通りの解析結果が得られた。
やはりソウルジェムが変化するグリーフシードには元になった《魔法少女》の記憶が残留している事がある。特に《魔女》から分離した《使い魔》から得られるグリーフシードよりも《魔法少女》のソウルジェムが変化したグリーフシードならば元になった《魔法少女》の完全な記憶が入っていた。
この《矛盾の魔女》のグリーフシードには筒地綾女の完全な記憶が保存されていた。
巴マミのソウルジェム。筒地綾女こと《矛盾の魔女》のグリーフシード。
これから始まる実験は命を賭けた物となるだろう。
けれどウチは実験をやめるつもりは無い。
これは巴マミへリベンジを行うチャンスだった。
それだけでは無くウチに記憶を差し込んだ筒地綾女を乗り越えるチャンスでもあった。
2つの大きなチャンスと言う名の壁をウチは乗り越える決意を固めていた。
「さあ。壁を越えて見せやしょう」