偽書魔法少女サツキ☆マギカPSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI SATUKI MGICA 作:ジャックノルテ
結界内でアンジェリカ・ベア―ズを出るとウチは結界内の一番、頑丈で深い階層へと降りて行った。
これから行う実験がどの様な影響を与えるのか予想が仕切れないからだ。
ジュウちゃんは一つ前の階層で置いて行きこの階層には風見野中学のセーラー服を身に纏ったウチ1人だった。
「さて・・・。初めて見ましょうか」
小さな呟きと共にウチの実験は始まった。
まずは実験の概要を再確認して見る。
○実験1
巴マミのソウルジェムを用いた実験の場合にはまずソウルジェムに解析魔法、イクス・フィーレを行いある情報を抜き取る事が必要だった。
それは肉体を構成する遺伝子やDNA等の情報。
ソウルジェムの内部に収められていた肉体構成情報を元に神那ニコの再構成魔法、プロドット・セコンダ―リオを応用して巴マミの肉体をクローン再生して見る。
既に双樹姉妹との戦いで行った事であり魔法の精度に関して不安は無かった。
双樹姉妹と同じ様にクローン再生した肉体にソウルジェムを埋め込み、魂の接続をウチの魔法で補助すれば理論上、巴マミは復活する筈や。
この実験を応用してもう1つの実験をウチは閃いていた。
○実験2
《矛盾の魔女》こと筒地綾女のグリーフシード。このグリーフシードにも解析魔法、イクス・フィーレを用いて筒地綾女の記憶を取り出す。
ここまでは実験1と同じだった。違うのはここからである。アンジェリカ・ベア―ズに保管している《かずみシリーズの一体》の合成ソウルジェムに筒地綾女の記憶を上書きして筒地綾女の復活を試みる。
肉体の方は合成ソウルジェムを書き換えた《かずみシリーズの一体》の肉体を再構成魔法、プロドット・セコンダ―リオで筒地綾女の肉体に作り変えれば問題は無いと思われた。
しかしこの実験2には不安点も存在していた。特にグリーフシードから元になったソウルジェムの記憶を抜き取り合成ソウルジェムに記憶を上書きすると言う部分は《プレイアデス星団》の作り出した《合成魔法少女》、《かずみシリーズ》の製造過程で同じやったからだ。
《かずみシリーズ》は和紗ミチルのソウルジェムから羽化した《魔女》のグリーフシードから抜き取った和紗ミチルの情報を元に作られていると言う事が《プレイアデス星団》の記憶から知る事が出来た。
《プレイアデス星団》の記憶によれば和紗ミチルの記憶を埋め込まれ蘇った《合成魔法少女》は《魔女》と戦うと戦闘本能に支配された殺戮者となってしまっていた。
これでは筒地綾女を蘇らせても同じ様に暴走する危険性が存在していたが対応策をウチは考えていた。
佐倉杏子が使う幻惑魔法、ロッソ・ファンタズマの発展系魔法、エレガンテ・ファンタズマを蘇った筒地綾女に使い身体に何の異常も感じられないとソウルジェムと身体の感覚を惑わせてしまえば良いと考えていた。
エレガンテ・ファンタズマの持つ強力な幻惑作用ならば、相手の身体とソウルジェムの感覚をウチの望む方向へと惑わす事は簡単だとウチは思っていた。
○概要の確認は終えた。実験とは名ばかりの戦いをウチは始めようとしていた。
SIDE M・T
「ようやく出来たみたいやね」
そう呟いたウチの目の前には1人の裸の少女が裸体を露わにしたまま横たわっていた。
巴マミの肉体である。
けれども目の前の肉体には魂は存在しない。魂たるソウルジェムはウチの手の中に握られている。最も目の前にあるこの巴マミの肉体はウチが新たに作り出した物で巴マミのソウルジェムとは何の繋がりも持たなかったが・・・。
「それにしても・・・。流石に裸のままじゃ気が引けるやね」
目の前に横たわる裸体は同性のウチが見ても見事なプロポーションを持っていた。
ウチでも視界に入れ続けては気が散ってしまう。
そのままウチはプロドット・セコンダ―リオを発動させた。
物体を再構成する魔法で巴マミに見滝原中学の制服を身に纏わせた。
見滝原中学の制服を選んだのは佐倉杏子の記憶に映し出される巴マミの姿は見滝原中学の制服姿の方が印象的に写っていたからだ。
「これで良しと。最後の仕上げか」
見滝原中学の制服姿となり横たわる巴マミの肉体にウチは巴マミのソウルジェムを投げ付けた。と同時にコネクトの魔法で巴マミのソウルジェムに接続をしてコントロール下に収める。
ウチのコントロール下に収められた巴マミのソウルジェムから魔力が肉体に向かって流れて行く。
魔力の流れはウチが誘導した物だった。ウチの誘導に従って巴マミの肉体に魔力が流れて行きウチが作り出した巴マミの肉体に魂が宿されて行く。
僅かだが巴マミの肉体が痙攣した。もう直ぐや。もう直ぐ、巴マミは復活する。
そんな事を感じて数分すると巴マミは閉ざされていた瞳を開いた。
「ここは・・・!?あなたは!?」
起き上がりながらも周囲の状況を確認した巴マミは傍らに落ちていた自身のソウルジェムを拾いウチの存在に気が付いていた。
ウチに注意を向けながら巴マミは周囲の様子を確認していた。
「ここは結界・・・。どうして私はここに?それよりも・・・。あなた《魔法少女》ね?」
驚く事の無い当然の帰結とも言えた。結界の中で平然としているウチを《魔法少女》だと巴マミが認識するのは当然の事だった。
「その通りや。ウチは」
そう言いながらウチは紫色の光に包まれて《魔法少女》としての姿に変身していた。
否。ウチを包み込む光は紫色から虹色へと代わりウチの髪やソウルジェムは虹色に輝いていた。
多くの《魔法少女》の因果を取り込んだ結果、ウチのソウルジェムの色は魔力を高めた時に虹色へと変わる様になっていた。
ただしフリルの付いたドレスは相変わらず黒いままだったが気に入っているので変える気はは無かった。
「久しぶりやね。巴マミ。と言ってもアンタは今のウチと初対面やろうけど?」
ウチの言葉を聞いて巴マミは怪訝な表情を見せた。
「あなたの言う通りね。初対面なのは確かだけどあなたは私を知っているの?」
「知ってるで。前に会った時はこんな姿をしていたんやからな」
同時にエレガンテ・ファンタズマでウチの姿は佐倉杏子へと変わった。
「佐倉さん!?けどこの魔力は佐倉さんその物!?あなたは一体!?」
巴マミの表情は険しさが増しウチに対する敵意を感じ取れた。佐倉杏子の姿を解きながらウチは巴マミとの言葉遊びに興じてみる事にした。
「そうや。佐倉杏子はウチが殺した。だからウチは佐倉杏子と同じ魔力を持っている。ウチは倒した《魔法少女》の魔力を取り込むことが出来るんやからな」
「!?」
かつては弟子だった佐倉杏子が殺されたと知って巴マミはショックを受け硬直していた。
攻撃するチャンスとも言えたがウチは攻撃するつもりは無かった。
「どういう事なの?あなたが佐倉さんを殺したのなら・・・。私は何故、ここにいるの?あなたは私をどうするつもりなの?」
怒りと敵意の入り混じった巴マミの視線がウチを射抜く様に見つめていた。
「簡単や。ウチはアンタに勝ちたいんや!真っ向勝負でアンタと戦い勝ちたいんや!前の戦いは不本意な結果に終わってしまったから、ウチはアンタを眠らせてここに閉じ込めていた。けれど今のウチはアンタを越える力を得た。だから巴マミ!ウチと戦え!この菖蒲彩月と戦って貰うで!」
明らか虚言が混じっていたがその事に巴マミが気付く事は無い。巴マミからはウチが首を跳ねた部分の記憶は消去している。それに巴マミの本当の肉体は結界の中に置き去りにされ何処に行ったのか分からなかった。今の巴マミの肉体はウチが魔法で作り出した代用品に過ぎない。
ウチの叫びを聞いても巴マミは沈黙していた。
巴マミが顔を上げた時、その表情にウチは驚いた。怒り。ただ純粋な怒りだけがウチに向けられていた。
「そんな事の為に佐倉さんを殺して、私をここに閉じ込めたのね。私はあなたを許さない」
黄色い光に包まれ巴マミは《魔法少女》としての姿に変身し、同時に右手に出現させたマスケット銃をウチに向け躊躇無く発砲した。同時に巴マミの周りには同種のマスケット銃が大量に並び一度に多数の銃弾がウチに撃ち込まれて来た。
ウチは右手の鎖に魔力を集中すると一気に鎖の先端から発射した。
「リーミティ・エステールニ!」
この魔法は和紗ミチルのクローン。通称、かずみシリーズの能力をイクス・フィーレで解析する過程でウチの物となっていた。
ウチの鎖の先端から放たれた光はウチに向かって来る銃弾を消し飛ばし巴マミに向かって照射されていたが巴マミは既に地面を蹴りながらウチの方へ向かって来ていた。それを見ながらウチは使用する魔法を思案していた。杏里あいりのコルノ・フォルテ?いいや。直線的過ぎて直ぐに交わされる。それなら範囲の広い魔法が望ましい。ならば・・・。結論を出したウチは左手の魔力で魔法を瞬間発動させた。
「ピエトラディ・トゥオーノ!」
魔力を十分に溜めずに強制的に詠唱発動させた為に本来の威力は無かったが牽制になった。巴マミは電撃魔法、ピエトラディ・トゥオーノを警戒し地面を蹴りながら近付くと右手からリボンを放った。放たれたリボンは巴マミの手から離れながらも地面に達するとウチが放った電撃魔法、ピエトラディ・トゥオーノに伸びて来ると同時にアースとなって全ての電撃を結界の地面に流し込んでしまった。
「なっ!?」
ウチが素直に巴マミの戦闘技術の高さに驚いていると直ぐ目の前に巴マミが近付いて来て両手から無数のリボンを放っていた。ウチは右手の鎖全体に魔力を通すと鎖その物に切断力を持たせ巴マミの放った無数のリボンを引き裂きウチは身を守ったつもりだった。
「!!」
ウチの視線の先には巴マミが既に必殺技であるティロ・フィナーレを放つ際に使う大型のマスケット銃が構えられていた。まずい!
「ティロ・フィナーレ!」
速度低下は間に合わない。間に合うとすれば!
ウチの思考は瞬間的に浅古小巻の盾付きのポールアックスを選択すると左手に出現させ盾を巴マミに向けて展開した。
展開された盾は巴マミの正面から広がり、そのまま巴マミを円形状の空間に閉じ込めてしまったが巴マミは動じる事無く魔法を発動させた。
魔力の光線が巴マミを閉じ込めた円形状の空間を破壊して走り抜けて行ったがウチはそれをギリギリの所で交わす事が出来た。
魔力の光線が消え去ると同時にウチは再び円形状の空間に巴マミを閉じ込めリーミティ・エステールニを放とうと構えようとした。
が巴マミは大型のマスケット銃の銃身を折るとそこに魔力で精製した弾を装填するとティロ・フィナーレを再度、撃って来た。
円形状の空間は再び吹き飛ばされた。
「うっ!?リーミティ・エステールニ!」
慌ててウチはリーミティ・エステールニを放つと2つの魔力の光線がぶつかり周囲を破壊して行った。
大きな威力の魔法と魔法がぶつかった結果、視界が遮られ今ウチと巴マミのいる結界の階層その物が崩壊しかけていた。
ウチはリーミティ・エステールニを放ち続けながらも巴マミがティロ・フィナーレを弾込めして連射して来ると言う事を見抜けなかった自分の驕りにいら立っていた。
考えてみれば単純な事でもある。銃ならば弾を込め直せば再度、撃つ事は可能なのだ。
それに気が付かなかったウチはまだまだ観察力が不足しているとも言えた。
けれども巴マミが切り札として意図的に連射出来る事を隠していたのかも知れないとも思えたが直ぐにその考えを締め出し目の前の戦いに集中し直した。
お互いに膨大な魔力を撃ち合っていたがこんな事は何時までも続けられる訳では無い。
魔力の量が幾らあっても一度に使える魔力の量には制限があるのだから。
と同時に巴マミの放ったティロ・フィナーレの威力が減退して来た。
チャンスと思ったウチが更に魔力を高めようとした時、不意に上から何かが来るのを視界が捉えた。
見ると巴マミが飛び上がりながら新たに出現させた大型のマスケット銃を構えてティロ・フィナーレを撃とうとしていた。
今、ウチに向けられているのは大型のマスケット銃だけの囮だった!?
ウチがその事を理解した時、巴マミはウチに止めの一撃を撃とうとした。
「これで!うっ!?」
突如として苦しみ出した巴マミはウチの目の前で苦しみながら地面に落下した。
呻き声を上げながら苦しむ巴マミを見ながらウチの目は巴マミの魔力の流れに異常がある事に気が付いていた。
魔力を精製する巴マミの魂、ソウルジェムに無数のヒビが見え始め同時に急速な魔力の消耗による穢れが出始めていた。
「これは・・・。一体、どうして!?」
困惑する巴マミの目の前で突如として身体が崩れ始めた。
巴マミのソウルジェムとウチが作り出した肉体との繋がりが断線し始めていた。
ウチが魔法で新たに作り出した巴マミの肉体は肉体その物を維持する為の魔力を巴マミのソウルジェムからの魔力によって補う形となっていた。
けれどこれは一般の《魔法少女》全てに当てはまる事でもあった。
肉体が急速に崩れ始めた理由。
恐らくは巴マミが自分の限界を超えて急激に魔力を消耗した事が原因だと推測する事が出来た。
「何が起こっているの?ナ・ニ・・・が・・・?」
《魔法少女》の姿を維持する事も出来ず、地面に倒れ込み、自身に起こった異変を認識する事が出来ないままに巴マミの新しい肉体はただの土塊に戻った。
土塊の中からウチは巴マミのソウルジェムを拾い上げた。
そのソウルジェムには無数のひびが入っていた。
「どうやら失敗したようやね」
そう言いながらもウチは既に気持ちを切り替えていた。
次は筒地綾女を実験するだけや。
SIDE A・T
「なるほど。それで私を蘇らせたと言う訳ね。けれどそれは間違いじゃないの?私はあなたを殺して自由になるわ。朱奈を取り戻す為に!」
そう言いながら筒地綾女は左手に握った箒の穂先をウチに向け躊躇無く撃って来た。
巴マミとの戦いで凸凹だらけとなったこの階層には隠れる為の障害物が多数ありウチはその内の1つに身を隠して攻撃を凌いでいた。
お互いに《魔法少女》としての衣装を身に纏いウチと筒地綾女は直ぐに戦い始めていた。
「まさかこうなるやんてね・・・」
呟きながらウチは筒地綾女を蘇らせた直後の事を思い返した。
ウチが蘇らせた筒地綾女はウチの姿を認識すると同時に瞬時に《魔法少女》としての姿に変身すると同時に攻撃を仕掛けて来た。
左の掌に出現させた魔法の種(マジックシード)を割り武器である箒を出現させるや否やウチに飛び掛りながら穂先で突いて来た。
針の様に鋭い穂先がウチに刺さろうとする寸前で幸いウチも《魔法少女》としての姿を取っていた為に左手の鎖で弾く事が出来たが。
勢いは落とせずウチは後方に吹き飛ばされた。
結界の壁にめり込んだウチに対して筒地綾女は膝蹴りの体制で飛んで来るのが目に写りウチは右手の鎖を目の前に向かって伸ばした。
魔力の通った鎖は筒地綾女に引き寄せられる様に伸び先端から五本に分裂すると筒地綾女に向かい伸びて行った。
5本の鎖が自分に向かって来るのを見た筒地綾女は直ぐに膝蹴りの構えを解くと右手から何かを投げ付けて来たとウチが認識したと同時に巨大な塵取りが出現して五本の鎖の行く手を阻んだ。
勢いを付けたままの筒地綾女は正面に出現した巨大な塵取りを蹴って後方へと下がるとウチと距離を取った。
巨大な塵取りが消失した時にはウチはこの階層にある障害物の1つに身を隠していた。
「そう言えば、あなたの顔は見覚えがあるわね」
突如として筒地綾女はウチに声を掛けて来た。けれどウチは直ぐには答えずに様子を窺う事にした。
これは筒地綾女の駆け引きの一種かも知れなかった。
「そうだ。確か私の記憶を埋め込む実験を施した子ね。確か・・・。菖蒲彩月(ショウブサツキ)だったかしら?どうしてあなたは契約しているの?契約は出来ないと《キュウたん》から聞いていたのに?ねえどうして私はここにいるの?私は朱奈と別れた後、《魔女》になる筈だったのにどうして?落ちない程の穢れが溜まった筈なのにどうして私のソウルジェムは濁っていないの?」
筒地綾女は現状に困惑している様だった。ウチは引き抜いた記憶から《魔女化》する部分だけを引き抜いて筒地綾女を再生させていたが、筒地綾女は自身が《魔女化》しない事に違和感を覚えている様だった。
「教えてあげてもええで」
ウチは筒地綾女の駆け引きに乗る事にした。どの道、ウチの瞳は集中すればどの角度からでも筒地綾女の事を覗く事は可能だった。
「全てはウチの実験の為や」
ウチはそう言ってウチ自身が契約を行った時点から今に至る事を筒地綾女に話した。話の間、筒地綾女は攻撃して来る事は無く黙ってウチの話しに耳を傾けていた。朱奈が《魔法少女》となった事を知った時には怒気とも思える気配を発したが、それを無視してウチは話を続けた。
「そう。《究極の魔女》となる事があなたの目的なのね。菖蒲彩月さん。朱奈を《魔法少女》にして破滅する世界から救ってくれたのは礼を言うわ。けれど分からない事が1つだけあるわ。どうして私を蘇らせたの?そこだけは理解に苦しむわ。敵にチャンスを与えるなんてあなたどうかしているんじゃない?」
筒地綾女もウチの行動を理解出来ない様だった。
「簡単な事や。ウチはウチに記憶を与えて《魔法少女》となるチャンスを与えたアンタを乗り越えたいんや。だからウチはアンタにもチャンスを与えたんや。ウチに勝利して自由になるチャンスを」
ウチの言葉を聞いて筒地綾女は暫く沈黙していた。数秒か数分に渡る沈黙の末に左手に握り締めた箒の穂先を躊躇無くウチに向け発射した。
「なるほど。それで私を蘇らせたと言う訳ね。けれどそれは間違いじゃないの?私はあなたを殺して自由になるわ。朱奈を取り戻す為に!」
「まさかこうなるやんてね・・・」
障害物に身を隠しながらウチは筒地綾女の切り替えの良さに驚きを感じていた。
もう筒地綾女はウチを殺して自由になるつもりでいた。少しだけウチは筒地綾女を蘇らせた事に対して後悔を感じていたが、倒せば済む話だとウチも気持ちを切り替えていた。
そう思ったと同時に筒地綾女が左手に握った箒の穂先をドリルの様な物に変えて障害物に隠れるウチを障害物ごと砕こうとする筒地綾女の姿がウチの目に写り慌ててその場から跳躍し離れた直後に筒地綾女が障害物を破壊したのがウチの目に写った。
ウチを捉えた筒地綾女の視線とウチの視線が重なりウチと筒地綾女はお互いの顔を見た。
「ふふふふふ。ふぁはははははは!」
筒地綾女は声を上げて笑っていた。ちょっとだけウチは驚いたけれどウチも笑顔を作り声を上げる事にした。
「あはははははははははは!」
ウチも声を上げて笑い出す。出来るだけの笑顔を見せて。
笑顔の筒地綾女が床を蹴ってウチに迫って来る。
ウチは佐倉杏子の槍を出現させると槍の刃を開いて面積を大きくした。
刺突力は落ちるがウチには使い易い形だった。 銀色の穂先の箒とウチの槍がぶつかり合い、摩擦による火花が引き起こされ筒地綾女が箒を振り下ろせばウチは槍でそれを受け返し、ウチが槍を振り下ろし筒地綾女も受け返し、ウチに箒を振り下ろす。
そんな攻防が幾度か続いた後にいきなり筒地綾女は右手に握っていた物をウチに向かって投げて来た。
三つの魔法の種(マジカルシード)。種類は恐らく痛み(ペイン)か武装(ウエポン)のどちらかだと当たりを付けたウチは瞬時に左手からチェーンを出現させ回転させ、その際に生じる突風で魔法の種を吹き飛ばしウチは次の攻撃に移ろうとした。
「甘い」
筒地綾女が呟き地面を蹴って飛び上がったと同時に吹き飛ばされた三つの魔法の種から茶色の箒の穂先が出現しウチに向かって針の様に鋭い穂先を発射して来た。
無数の針がウチに迫って来るがウチは臆する事無く筒地綾女の狙いを悟った。
三つの魔法の種から出現した穂先から放たれた針の様に鋭い穂先によってウチの移動出来る方向は限定されていた。
上空に飛び上がった筒地綾女は唯一残した逃げ道に現れたウチを狙うつもりなのは明白だった。ならばウチは意表を付く事にした。
「メテオーラ・フィナーレ」
呟きと同時にウチの身体は破壊の魔力に包まれウチは魔力を推進力として飛び上がりウチに迫る針の様に鋭い穂先に飛び込んだ。
ウチの身を包み込む破壊の魔力が針の様に鋭い穂先を次々と破壊して行く。
驚く筒地綾女の表情が見えたと同時にウチは筒地綾女の方へメテオーラ・フィナーレを発動したまま飛び上がっていた。
筒地綾女は危うく身を交わしたが、すれ違い様に破壊の魔力に包まれたウチの身体が筒地綾女の右手を吹き飛ばしていた。
メテオーラ・フィナーレを解除し落下しながら筒地綾女とウチは向き合っていた。
右腕を吹き飛ばされたにも関わらず筒地綾女は笑顔のままだった。ここまで来るとウチも筒地綾女に対して狂気を感じていた。
笑顔でいられる理由は感じ取っている。痛覚を遮断し続け痛みを感じていないからだ。
余裕の表れだとしても右腕が吹き飛ばされてなお笑顔でいられ続ける筒地綾女の心の強さをウチは凄いと感じていた。
しかし・・・。どうにもおかしいと言う事も感じていた。表情に変化が無さ過ぎる。
まるで何も感じる事が出来なくなっているかの様な・・・。
次の攻撃をどうするかウチが思案しつつも相手から目を離す事は無かった。
筒地綾女とウチの視線が交差するが筒地綾女の表情に変化は現れなかった。
「おかしい・・・」
その時、突如として筒地綾女の顔が歪んだ。
見間違いではなく歪んだのだ。何が起こったのか分からないウチの目の前で突如として筒地綾女の失った右腕が再生した。
それもただ再生したのではない。
その腕は《矛盾の魔女》の腕だった。
驚くウチの目の前で笑顔のまま、筒地綾女はその姿を《矛盾の魔女》へと変貌させ、この結界から出ようと暴れ始めていた。
「これも失敗と言う事やね」
ウチは既に実験の失敗を悟っていた。筒地綾女からは自身が魔女化した記憶は消去した筈だった。素体として使った《かずみシリーズ》の肉体も少し作り変え、元の人格は完全に消去した筈だった。
「原因は・・・。ウチが全てを知っていると言う事やね・・・」
つまりは筒地綾女が魔女化して《矛盾の魔女》となった事をウチが知っていたが故に引き起こされたと感じ取る事が出来た。
ウチがいくら蘇らせた筒地綾女から記憶を消去したとしてもウチ自身が知っていたのでは、いいや。知り過ぎていた事が僅かな因子となり筒地綾女は《矛盾の魔女》へと変貌してしまったのだ。
もしかすると蘇った筒地綾女はウチとの会話や視線等と言った行動から僅かながらも本来の自分が《魔女化》した事を感じ取ったのかも知れなかった。
暴走する《矛盾の魔女》はウチの事を無視してこの結界から出ようとしていた。
「悪いけど、逃がす訳には行かないで」
ウチは優木沙々の先がCの字状に曲がった杖を呼び出すと《矛盾の魔女》をコントロールしようと試みたがまったく通じる事は無かった。
考えてみれば簡単な事である。《矛盾の魔女》は相反する二つの感情を持ち相反する事を属性としている。恐らくは矛盾の属性を持つが故にコントロールする事は困難なのかも知れなかった。
「仕方ない。じゃあこうさせて貰うで」
ウチは呉キリカの速度低下の魔法陣を発動させ《矛盾の魔女》のスピードを極端に遅くした。
矛盾の魔女の動きが緩慢になるのを見て取ったウチは、そのまま走り寄ると若葉みらいの大剣を呼び出すと《矛盾の魔女》を一刀両断の元に切り裂いた。
「グギャアアアアアアア」
《矛盾の魔女》は大きな悲鳴を上げてグリーフシードを落とす事無く絶命した。
「せめて・・・。筒地綾女のままで殺したかったなぁ・・・」
ウチは素直な感想を思わず口から漏らしていた。
それこそがウチの偽り無い気持ちだったのだから・・・。
○実験報告
ウチがジュウべえことジュウちゃんのいる階層に戻って見るとジュウちゃんは退屈そうに欠伸をしている所だった。
欠伸をすると言う事は本物のベータ―ことキュウべえと違って眠気があるのかも知れなった。と言う事はジュウちゃんには精神的な疲れも存在するのだろうか?
そんな事を思いながらウチはジュウちゃんに声を掛けた。
「ジュウちゃん。実験を終えて来たわ」
「随分と粘ってたな。彩月」
近付きウチの肩に乗っかったジュウちゃんは言葉を続けた。
「けれど彩月も諦めが悪いよな。同じ実験を10回も繰り返すなんてな」
「それだけ戦いたい相手だったと言う事なんよ」
そう・・・。ウチは実験を10回も繰り返していた。
巴マミを5回。筒地綾女を5回、生き返らせて戦い、身体が途中で崩れるか《魔女化》するかで満足の行く戦いを行う事が出来なかったが僅かな楽しさがあったのが救いだった。
巴マミ。筒地綾女。この2人はウチが永遠に戦う事が出来ない相手となってしまった。
けれどもそれでも良いと思う心情がウチにはあった。永遠に追い越せないかも知れない相手を追い越そうとするが故に人は進歩を止めないと何処かで聞いた事がある。
《最強の魔女》を目指すウチは出来るだけの進歩を止める訳には行かなかった。
「さて・・・。疲れたしウチは眠る事にするわ。ジュウちゃんも一緒に寝ましょう」
「何でオイラが彩月と寝なきゃ行けないんだよ?」
「あーら。ウチはこう見えて以外と寂しがりやなんよ。一緒に寝てくれてもええやない」
「随分とあからさまな嘘だな。まあ仕方が無いから一緒に寝てやるよ」
「ありがとう。ジュウちゃん」
「まあ一応は主人だからな・・・」
ジュウちゃんと気晴らしの会話をしながらウチは結界内にあるアンジェリカ・ベア―ズを目指して結界の中を進んで行った。