偽書魔法少女サツキ☆マギカPSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI SATUKI MGICA 作:ジャックノルテ
「随分と久しぶりやなあ。この街に帰るのも」
呟きながら歩く彩月の瞳に映るこの街の景観は色あせて見えていた。
何故か分からないが、今はもう色あせて見える。
《無数の魔法少女》の因果を吸収してからどうにも景色が色あせてしまった気がする。
戦っている時、《魔法少女》として戦っている時だけは、この瞳に映る世界が輝いて見えている気がする。正確には眼帯となったソウルジェムを通してみる世界だけが輝いて見えていた。
「彩月」
聞き覚えのある声に振り向くとそこには、クラスメートの石菖香乃木(せきしょうかのき)が帰宅する様子を見せていた。
「香乃木か。久しぶりやな」
「学校サボって何してんのさ?」
「色々や。つまらない学校よりも夢中になれる事を見つけたんや」
「それ、あてといるのがつまらないと言ってるさ?」
「そうは言ってへんやろ?」
「そう聞こえたさ。学校、サボってこれからどうするんさ?心配してる人もいるさ」
「心配?そうかあ。けどなあウチの事を理解してる人なんておらんやろ?」
「何が言いたいんさ?」
「ウチの理解者なんていないやろ?」
「それは・・・。否定しないさ。彩月は分かりにくい人間さ」
「それは否定できへんな」
「本心が見えない様に妙な言葉遣いを使って誰からも本心を隠してるんさ」
「・・・」
「達観した振りをして高見から下界を見下ろすつもりになっている。今の彩月はそんな所じゃないんさ?」
「!?」
本質とも言える部分を香乃木に当てられて彩月は反射的に手に魔力を貯めていた。
それは心の本質を覗かれた事への憤りか、怒りか。
魔力を貯めた右手が香乃木に向かい動こうとした瞬間、車のクラクションが響いたと同時にハッと我に返り今の瞬間に自分が行おうとしていた行動に動揺した。
(ウチは!?ウチは今、香乃木を・・・。何でそんな事・・・)
「どうしたんさ?彩月」
急に沈黙した彩月の顔を覗き込む香乃木に彩月は、恐ろしさを覚えていた。
これ以上、この場にいたら何をするか分からない事が恐ろしかった。
駆け出し香乃木から直ぐに離れた。
「彩月!」
香乃木が叫んだが無視して走り続けた。
とにかく彩月は今、この場から離れたかった。慌てて自分が《魔女》を支配下に置いて結界を操作出来ると思い出し結界の中に入り込んだ。
先程の行動への驚きと疲弊からその場に座り込んだ。
「どうして・・・。ウチは、どうしてあんな行動を取ったんや?」
(ウチを侮辱したんだから殺して当然やろ)
「違う。ウチは、香乃木に指摘されるまでも無くウチがそうだと知っていた。知っていてそうし来た」
(心の秘密を知られるのは、許さへん。ウチの心はウチだけの物や。誰かに指摘されて得え物や無い!!)
「嫌や。ウチは、友達を殺したくない!?何でウチは!?ウチは今まで人を、《魔法少女》を殺して・・・。えっ!?ウチは・・・。人を・・・。殺していた・・・」
(そうや!!お前は殺している。殺して楽しんでいた。怒り、楽しみ、悔しがり、努力した。人を殺す為の努力をしていたんや!!)
「違う!?あああああああああああああああああ」
愕然とした彩月が叫び終えたと同時に目の色が虹色へ変わった。
「そう。だからウチは、《魔法少女》を殺し強くありたい」
そう語る彩月は、今までの彩月では無かった。多くの《魔法少女の因果》を取り込む事によって強くなる《魔法少女、菖蒲彩月》。
因果を取り込む過程で、因果の持ち主である《魔法少女》の人格が持つ正も不も取り込んでしまう。本人は気が付いていなかったが、彩月自身の人格に取り込んだ因果が作用して二重人格に近い状態になっていた。
そして今、人間だった菖蒲彩月の人格が殺人者の人格に飲まれた。
「さあ、次の街へ行くで」
狂気的な笑みを浮かべ彩月は新たな街へ向かう。
《魔法少女》を殺す為に。
〇
夜のホオズキ市に到着した彩月はビルの屋上に立って魔力を探っていた。
「近い・・・。近くに4人、いや。も一人、魔力を隠しとるけど確実におる・・・」
呟く事で実感を新たにしながら彩月は魔力だけで相手の動きを察知していた。
「4人がバラバラに分かれた。周囲のパトロールかいな?熱心な事やな。まあ、ウチには都合がええけどな」
相手の動きを魔力で感じ取ると彩月は一番近い位置にいる相手の元へ跳躍する。
数個のビルを蹴りながら跳躍すると、お目当ての相手がいるのが目に入った。
ピンク色の髪に大きな鎌を持ちビルの間を走っている。だから先に回り目の前に跳躍して降り立つことにした。
「なっ!?あぶなっ。アンタ、同業者!?」
何か言っているが無視して呉キリカから奪った速度低下魔法を使い魔力の源、ソウルジェムの位置を探って見る。背後にある事が分かり直ぐに背後に赴くと手に出現させた呉キリカの鎌で一気にソウルジェムを破壊した。相手の魔法少女は声を上げる事無く絶命した。
「まずは一人。成見亜里紗。ウチの糧になって貰ったで・・・」
成見亜里紗の記憶が激流の様に頭に流れ込むが、この因果を取り込む儀式もだいぶ慣れて来た。
「随分と勝手な事をしてくれるね。お姉さん」
突然、響いた声に驚くウチの目の前に闇の中から一人の少女が姿を現した。
胸には蝶の様なアクセサリーを付けているが、発する魔力から《魔法少女》である事は明白だった。それよりも問題なのは、発している魔力が先程感じていた5人とは異なる物だと言う事だった。どうやら気配を隠すのに長けている《魔法少女》らしかった。
「キュウべえの言った通り、《各地の魔法少女》を殺し回っている《虹色の魔法少女》の話は本当だったんだね。他の街がどうなろうと私はどうでもいいけど、この街で好き勝手されるのは、迷惑何だよね!!」
突如として目の前にいた少女の姿が消えた。驚き同時に
「あははは。こっちだよ」
彩月の背後から声がしたと同時に後ろにいるのが見えた。咄嗟に佐倉杏子の編み込み結界を展開する事で攻撃は防げた。
「ふぅん。キュウべえの言う通り、色んな魔法が使えるみたいだね。でもそれだけじゃ私に勝てないよ!」
再び少女の姿が消えようとした時、彩月は咄嗟に別の魔法を展開した。
「そんな魔法で!?」
少女が彩月の死角から現れて手にした短刀を彩月のソウルジェムである眼帯に突き立てた瞬間に違和感があった。手ごたえが無い。咄嗟に少女が跳躍してその場を離れると彩月が、先程まで少女が背後を向けた位置に立っていた。
「何をしたの?」
少女は彩月が何をしたのか分からず不愉快な様子を隠さなかった。
「簡単や。どうやらウチの視界に干渉した見たいやけど、生憎やな。ウチは幻惑使いやで。こんな事も出来る!」
彩月がそう告げると彩月の隣にもう一人の彩月が具現化した。
「なっ!?」
「言うとくけど、攻撃は実体やで!!」
そう言って二人の彩月が少女に迫る。
二人の彩月が赤い槍を構えて少女に次々と攻撃を加えて行く。
「・・このッ・・」
追い込まれ思わず距離を取った少女はその時、異変を感じ取った。
どうやら少女の策略が計画通りに上手く働いたらしい。
それなら策略を守る為に時間稼ぎと危険因子の排除の為にここで戦う必要は無い。
「残念だけどここまでだね。お姉さんとは、また遊んであげるよ」
少女は彩月にそう告げると現れた時と同じ様に姿を消した。
彩月に追うつもりは無かった。深追いして罠にハマっては今までの苦労が水の泡となる。
それに彩月も異変に気が付いていた。
初めに感じた《魔法少女》の反応は五つ。
ここで殺して四つになり、今感じるのは三つになっていた。
どうやら戦闘があったらしく一人死んだらしい。
「まあ良いさ。ウチも一つは手に入った。次はどうするか、考える時間が欲しいしな」
彩月も《操る魔女》の結界を開いてその場から姿を消した。
後に残ったのは《魔法少女》だった少女の死体だけだった。
〇
「さてと今日はどうするかあ?」
結界で一晩過ごした彩月は朝食のパンを食べながらホオズキ市内を散策していた。
これからどうするのかは、正直決めていない。
あの少女を探そうにも何処にいるのか見当も付かない。
むしろ向こうがウチを探している気もする。
(来るなら来てほしいで。探す手間も省ける)
それが正直な彩月の感想だった。
(年齢が中学生位なこの辺りの中学校周辺を当たるか?)
周囲を見渡すと中学生と思しき生徒達が登校している様子が映った。
彩月自身も年齢や外見的にも中学生に見えかねないが、今は幻惑魔法、エレガンテ・ファンタズマによって自身の姿を、スーツを着た成人女性に見える様にしていた。
その時、彩月の目にセーラー服を着た少女の姿が目に映った。その少女の顔は昨日、彩月を衝撃して来た少女その物だった。少し髪型が違う様に思えたが、《魔法少女》への変身前だからだと考えれば合点が言った。
(見つけたで!)
駆け出す彩月は、一気に呉キリカの速度低下魔法を使用して距離を詰める。
そして少女のソウルジェムの反応を直ぐに見抜くと直ぐに少女の足元に魔法陣を展開して浅見サキから奪ったピエトラディトゥオーノを最大出力で放った。
全身を燃やしながら少女は声にならない悲鳴を上げている。
今回の攻撃は彩月だからこそ成功したと言える。そもそも速度低下魔法とピエトラディトゥオーノを同時に発動させる魔力等、《普通の魔法少女》は得られない。
菖蒲彩月が他人の因果を取り込む《規格外の魔法少女》だからこそ成し得た攻撃だった。
そしてもう一つ、《魔法少女の不文律》を無視したからこそ成立したからとも言える。
《魔法少女の不文律》とは、明確な定義は無いが、どんなに対立している《魔法少女》でも一般人に感知される様な場所、白昼堂々の戦闘は避けると言う傾向がある。
それは《魔法少女》の存在が一般人に漏洩するのを防ぐ事で余計な騒動を持ち込まないと言う暗黙の了解とも言える事だった。
今回、彩月はそれを無視して白昼堂々の攻撃を決行した。彩月の姿は幻惑魔法で他人の姿に置き換えている。周囲では少女が突然、燃え上がった事でパニックが起きて警察や救急車を予防している人もいた。
その時、少女のソウルジェムが砕けて因果が魔法陣を通して彩月に吸収された。
「!?この子は・・・。別人・・・。なんか・・・!?」
因果と記憶を取り込んだショックで足をふらつかせる彩月は、その時空気を切って飛んで来る何かの音を捉えた。驚いてその場から離れた彩月の視界に飛んで来た手裏剣の様な刃物が目に入り、避けられた刃物が飛んで戻る先に、昨日戦った少女の姿があった。
先程、戦った少女とは瓜二つの顔をしている。
「双子なんか・・・」
「よくも茉莉を・・・。私の妹を!!」
少女は直ぐに《魔法少女》に変身するやいなや彩月に襲い掛かって来た。
流石に彩月も幻惑魔法を解き《魔法少女》に変身して佐倉杏子の槍を構えて白昼堂々の戦闘を決行した。
「なんだ!?」
「何!?」
「えっ!?」
周囲にいる一般人は驚いていた。中には携帯電話のカメラを向けている者もいる。
少女の握る二刀の手裏剣と彩月の槍がぶつかり合いながら彩月は戦いながら優木沙々の支配魔法を使い《魔女》を呼び出すと周囲の人間を次々と捕食させた。周囲に阿鼻叫喚の地獄が広がって行く。
「なっ!?どうして《魔女》が!?」
「感謝するんやな。目撃者はウチが処分させて貰ったで」
「バッカみたい!!そんな事に意味なんて無いでしょ!?」
武器のぶつかり合いでは、埒が明かないと判断した彩月は搦め手の魔法を使う事にした。
「ここいらで勝負を決めさせて貰うで!エレガンテ・ファンタズマ!」
彩月が魔法陣を展開した瞬間に少女の視界が一瞬揺らいだが直ぐに元に戻った。
気にする事無く少女は彩月に武器を向け明確な殺意をぶつけようとする。
「これであなたを壊してあげる!!」
少女が彩月に向かって一気に距離を詰めようとした時、突然何かにぶつかった。
「いた・・・。何が!?」
少女の少し先には彩月がいる。警戒した少女が手にした手裏剣を目の前に突き出すと何かにぶつかる手ごたえがあったが、目の前の景色に変化は無かった。
「これ、幻惑!?」
少女は理解した。幻惑魔法で自分の視界が操作されていると言う事を。
「遅いで」
少女の理解は遅すぎた。理解した瞬間、少女の視界に映らない彩月の握る魔力で伸ばした槍が少女のソウルジェムを砕いていた。砕いたソウルジェムから因果と記憶が流れ込む。
「ああ・・・。そう言う事なんやな・・・。日向茉莉(マツリ)、華々莉(カガリ)。アンタらの因果頂いたで」
一度に《二人の魔法少女》の因果を取り込んだ影響か激しい頭痛を感じた彩月は《支配下の魔女》の結界に入り込んで座り込むと一息付いた。
「さて・・・。暫く休んだら・・・。狩りの再開やな・・・」
魔力を極端に消耗した彩月は気が付く間もなくその場で眠りに付いてしまった。
〇
「起きろよ!彩月!」
「なんや?ジュウちゃんか?どうしたんや?」
「外で異変が起きてんだぞ?見に行かなくて良いのか?」
「異変?なんや?一体?じゃあ見に行くかぁ・・・」
ジュウべえに促されて彩月は仕方なく結界の外に出ながら《魔法少女姿》に変身すると幻惑魔法で自身の姿を周囲から隠した。直ぐに妙な魔力を感じ取った。ソウルジェムが、はめ込まれた眼帯を通して魔力の流れる方向を覗いてみる。
この片目眼帯は空気中の水分に乱反射する光を通して何処でも見通す事が出来る。
彩月の目に映ったのは、茜ヶ咲中学校と言う学校だった。
校内はパニックに陥っている。彩月は結界の中を集中して覗いてみる。
それは《魔女》が出現して次々と生徒や教師を結界に取り込み殺戮していたから。
一人の《銀髪の魔法少女》が《魔女》に戦いを挑もうとしたが何故か頭を押さえて苦しんでいた。
そこへ《魔女》が次々と攻撃を加えて《銀髪の魔法少女》に致命傷を負わせてしまった。
全て諦めた表情を見せた《銀髪の魔法少女》は、全ての魔力を握った剣に集中した。
「まさか!?」
慌てた彩月だが、もう間に合わない。
銀色の髪に炎の輝きを照らし返しながら炎の魔法を集束させて行く。
爆発が起こった。彩月には直ぐに分かった。
自爆だ。
あの《魔女》を倒すのが困難と考えた《銀髪の魔法少女》は全ての魔力を集束させて爆発させる事で自爆したのだ。
「全く。これじゃあウチが因果を奪えんやないか・・・。まあ、しょうがないんやな・・・」
苦笑して自嘲しながら彩月は再び結界に戻った。
「オイラの言う通りだったろ?」
「ジュウちゃんの言う通りやな。今回は骨折り損のくたびれ儲けやな」
ジュウべえの指摘を失敗として認めながら彩月は結界の中に取り込んでいたアンジェリカベアーズの内部に戻った。中に置いていた椅子に座ると天井の一点を見つめていた。
差し当たってのやる事が無くなり暇を持て余してしまっていた。
「退屈やし・・・。記憶でも覗くか・・・。ジュウちゃん。ウチは記憶を覗いているから暫くほっといてくれや」
「分かったよ。じゃあオイラも昼寝してるぜ」
ジュウべえはその場で丸くなると昼寝を始めた。
それを見届けると彩月は退屈しのぎの遊びとして記憶を覗いてみた。
成見亜里紗、日向茉莉の順に記憶を見ていて違和感があった。どうやら両者は記憶を操作されている形跡がある。先程、殺した日向華々莉は、日向茉莉と双子の姉妹であり、何故か妹にも記憶を操作していた。
「なら・・・。日向華々莉の記憶を覗けばええ訳やね」
続いて日向華々莉の記憶を見る。華々莉が契約した経緯が分かり何をしようとしていたのかも導き出す事が出来た。しかし華々莉が行おうとしていた事は、全て彩月によって破綻してしまった。目的が見いだせた以上、これ以上、華々莉の記憶を覗くのは意味が無い様にも思えたが覗き続ける事にした。記憶によれば、華々莉は契約してから暫くして筒地綾女に出会っていた。筒地綾女と出会って記憶操作の魔法を使う技術を授けるとそのまま分かれた。朱奈とも顔を合わせていた。華々莉は日向茉莉の仲間である《魔法少女》も全員、華々莉による記憶操作によって導かれる様に茉莉の仲間となっていた。
記憶を覗いていると意外な者が映りだした。
「朱奈!?」
予想外の朱奈が映りだして彩月は華々莉の記憶を読む事への集中力を上げていた。
〇
日向華々莉の記憶
その日、日向華々莉は記憶操作をした天乃鈴音に廃墟に出現した《魔女》を倒させていた。鈴音に施した記憶操作は、《魔女》と戦う事が出来るまで操作する事が出来ていた。
死角から鈴音の視界を操作する事で自らの姿を隠しながら鈴音が《魔女》を倒す所を目撃していた。
「ふふ・・・。記憶の操作は上手くいってるね・・・」
華々莉の視界には、《魔女》の肉体が崩壊して、油断無く武器の構えを解かない鈴音の姿が映り自身の操る記憶操作魔法の精度の高さを確信していた。
《魔女》の肉体が崩壊した時、華々莉は違和感があるのに気が付いた。
鈴音も同時にその事に気が付いた様子を見せていた。《魔女》の肉体が崩壊してグリーフシードがあれば出て来るのだが、代わりに一人の少女が出て来たのだ。
リュックを背負って薄汚れた服を着ている少女は胸に致命傷と言える傷を負い、誰が見ても死が間近に迫っている事が明らかだった。うつ伏せに倒れた少女の横顔を見た瞬間に華々莉は見覚えがあり直ぐに思い出す事が出来た。
華々莉が唯一、魔法を教えると言う取引に応じた《魔法少女、筒地綾女》が連れていた《呪いの右目》を持つ少女、朱奈。
その時、鈴音は少し悲し気な表情を見せていたが、朱奈に止めを刺す為に手にした剣を振り上げた。表情は動揺し涙を流している。
「ごめんなさい・・・。さよなら」
(まずい!?)
この様子では鈴音の記憶操作はまだ完成していない。ここで朱奈を殺させたらこれまでの精神操作が無駄になる危険性がある。華々莉は、慌てて鈴音の意識を操作した。
鈴音の視界から自分と朱奈の姿を消して驚いた隙に更に記憶を操作する。
《魔女》を倒してグリーフシードは落ちなかった為、帰宅しようとしていたと。
記憶操作は上手く行き鈴音は武器を降ろすとその場から立ち去った。
廃墟から立ち去った鈴音は、華々莉が用意した帰宅場所へ帰っていたのは魔力を感知して確認できた。
「あーあ。せっかく助けて上げようとしたのに、これじゃあ助からないか・・・。まあ仕方ないよねー」
華々莉は足で朱奈の身体をひっくり返すと息をしているか確認した。
もう虫の息なのは明らかだった。朱奈はこのまま死ぬ。
華々莉はもう朱奈の存在に興味を失いこの場から去ろうとした時、
(こんばんわ。華々莉。どうやら君の計画は順調みたいだね)
と華々莉の脳裏にキュウべえからのテレパシーが届き廃墟の窓にキュウべえが姿を見せていた。
「キュウべえ。うん順調だよー。まあ、この子は死んじゃうけどねー」
(ふむ。朱奈がこんな所にいるなんて僕にも予想外だったよ。華々莉、一つだけ訂正しても良いかな?)
「何を訂正するの?」
(朱奈は死なないよ。いや。死なせない方法があると言った方が良いのかな?)
「どういう事?」
(華々莉。朱奈の右目にある呪いに魔力を注いでご覧。そうすれば君にも有益な事が起こるよ)
「ふーん。まあ試してあげても良いよ」
華々莉は朱奈の生死その物は、どうでも良かったが、キュウべえの言う事も少しだけ気になったのでやってみる事にした。
虫の息の朱奈の右目にある呪いに魔力を注ぎ込む。すると呪いが発動して周囲にいた《使い魔》をこの場に誘導して来た。
《使い魔》は早速、結界を張った。華々莉は少し苛立ちを覚えていた。
「はあ。呪いに魔力を注ぎ込めば《魔女》や《使い魔》を引き寄せられるんだ。《使い魔》じゃ外れだね。バイバイ!」
憂さ晴らしを兼ねて武器である手裏剣を出現させて《使い魔》を切り刻み消滅させた。
「キュウべえ。これの一体、何の意味があるの?」
(朱奈を見てごらんよ)
華々莉が朱奈の方を見ると何と朱奈の胸にあった大きな傷が治っていた。先程まで虫の息だった息も整っている。
「これはどう言う事?」
(朱奈の右目にある呪いが、結界の修復作用によって朱奈の身体が負っていた致命傷を修復したんだ。朱奈は例え死んだとしても右目の呪いがある限り仮死状態になる。仮死状態か重症を負った状態で《魔女》の結界の内部に入れば結界の修復作用によって傷は立ち所に治るんだ。たとえ朱奈の死体を燃やしてもその瞬間に呪いが強制的に発動して《魔女》をおびき寄せて朱奈を生き返らせるよ。それに右目の呪いは、魔力を注ぎ込めば曜日を問わずに使用する事も出来るから君にも有効だろう?)
キュウべえの説明を聞いて華々莉は顔をしかめていた。
正直な所、キュウべえの性格は熟知していたが、余りに趣味の悪い話に嫌悪感も抱いていた。
その時、朱奈が目を開いた。
「気が付いたの?」
華々莉が朱奈の顔を覗き込むと朱奈は口を開いたり閉じたりしたが、言葉は出なかった。
朱奈の瞳の焦点は合っていない。誰がどう見ても正気を失っているのは明らかだった。
「ねえ、朱奈は正気を失っているみたいだけど何があったの?」
(そうだね・・・。色々あったよ。見てみたいかい?)
「そうだね。暇つぶしに見てあげるよ」
華々莉はキュウべえの提案に乗る事にした。
〇
キュウべえから見た朱奈の記憶
その日、朱奈を隠れ家に捕らえていた《3人の魔法少女》から解放された。
捕らえていた《3人の魔法少女》は、ヒュアデスと言う協力者から情報を得た《二重人格の魔法少女、双樹姉妹》によって肉体を破壊されて、ソウルジェムは双樹姉妹のコレクションに加えられていた。
「へー。あなたが《魔女を引き寄せる少女》なんだ。何だか男の子みたいな服装をしてるのね」
双樹姉妹はそう言って隠れ家の中で蹲っている朱奈を見ながらそう言った。
「さて・・・。《ヒュアデス》の情報通りに三つのソウルジェムを手に入れました。あなたの事はどうしましょうか・・・」
そこまで言葉を続けて双樹姉妹は異変に気が付いた。朱奈は何の反応も示さない。
不思議に思ってリュックを抱えて蹲る朱奈の顔を無理にこちらに向けると完全に正気を失っている事が直ぐに分かった。顔も含めて全身に打撲の後があり虐待を受けてるのは明らかだった。
「成程・・・。話には聞いていましたが、既に正気を失っているんですね。可哀想に」
口に出した言葉には何の同情心も含まれていない。
「何をしているの?」
その時、隠れ家の入り口にフードを被った少女が表れた。声と体格から少女だと察する事が出来るが顔は影に隠れて見えなかった。
「ああ。ヒュアデスさんですか?言えねえ。情報通りにソウルジェムを入手したんですけど、この子をどうしたら良いのか判断が出来なくて」
「・・・。正気を失っている」
「ええ。生憎ですけど、この子の精神を治す術は持ち合わせていませんわ。これ以上は、私達には助けられないでしょう?」
「そうだね。じゃあこうしよう」
そう言ってヒュアデスは朱奈を立たせてポケットから出したグリーフシードと似て非なる種、後にイーブルナッツと呼ばれる種を朱奈に投げ刺した。
その瞬間に瘴気が朱奈の身体に蔓延して朱奈の身体を包み込んで、朱奈の姿を《魔女モドキ》へと変貌させていた。
「ははは。確かに正気を失っているのなら、この方が幸せなのかも知れませんね」
「行け。行って人間を襲え」
ヒュアデスと言われた少女の命令に従って朱奈が変貌した《魔女モドキ》は隠れ家から出て行った。
「行っちゃったわね。スキくないから見逃してあげるわ」
双樹姉妹は聞こえてはいないが《魔女モドキ》に向かってそう告げた時、ヒュアデスは姿を消していた。
「まあ良いでしょう。有益な情報を流している間は利用させて貰いますよ。ヒュアデス」
そう告げると双樹姉妹も隠れ家を後にした。
それから《魔女モドキ》に変貌した朱奈は各地で人を襲い《魔法少女》と戦い血を浴びて行った。時折、朱奈の姿に戻っても正気を失っている朱奈は何も覚えていられなかった。
〇
日向華々莉の記憶
「ふーん。何だか私以外にも、色々と企んでいる人がいるんだね」
筒地綾女と別れて朱奈が正気を失い、《魔女モドキ》となった経緯を知って華々莉(カガリ)は少しだけ朱奈に同情していた。
「勿論、私と同じ様に交換条件で協力しているんでしょ?」
(いいや。彼女達、ヒュアデスの一派は僕たちが干渉できない場所で行動しているから僕たちは協力はしていない。干渉できなくなる前に助言だけはさせて貰ったけどね)
「協力しているじゃない。さて・・・。この子の事はどうしようかな?」
華々莉は少しの間、思案して直ぐに答えを出した。
「そうだね。あのお姉さんには色々教えて貰ったから、お姉さんの代わりにあなたに借りを返してあげる」
自分でも気まぐれな回答だと思ったが、筒地綾女への借りを返すのに朱奈を利用する事にした。朱奈の頭に手を翳して記憶を操作し始める。
(何をするんだい?華々莉?)
「うん。可哀想だから正気に戻してあげようかなって。少しだけ記憶をいじれば問題無いでしょ。あの双樹姉妹とか言う子が解放したと言う記憶にね」
キュウべえに答えながら華々莉は朱奈への記憶操作を開始していた。
これから朱奈は《魔女モドキ》になる前、双樹姉妹に発見された時には正気のままであり双樹姉妹によって自由の身となり解放され各地を彷徨っていたと言う記憶を付け足す。
朱奈が《3人の魔法少女》に囚われる前には行っていた事と同じ事の筈だった。
「ところでキュウべえ。お姉さんは《魔女化》したの?」
(綾女の事かい?《魔女》になって何処かにいるのは確かだよ)
「ふーん。もしかしたら《魔女》になったお姉さんと、この子が再会するかも知れないね。そうしたらドラマチックなんじゃないのかな?」
(僕には分からないよ)
「相変わらずだね。まあ別に良いんだけどね」
話している内に朱奈に対する記憶操作は完了した華々莉は、付いてくる気の無いキュウべえをその場に置いて朱奈を廃墟から公園に連れ出した。夜の公園の中で朱奈をベンチに寝かせると華々莉は自身の《魔法少女》としての変身を解くと朱奈を揺すってみた。
「ねえ起きて。こんな所で寝るなんて良くないよ」
華々莉が声を掛けながら揺すると朱奈は目を覚ました。
「あれ・・・。わたし・・・。どうしてこんな所に・・・」
「私がさっき公園を通ったらベンチに寝てるのを見たんだよ」
朱奈の反応を見て華々莉は記憶操作が上手く行き、朱奈が正気を取り戻している事を確認出来て満足だった。
「そう・・・なんだ。わたし・・・。行かなきゃ。ありがとう」
朱奈はそう答えて華々莉の前から去って行った。
視界から朱奈の姿が見えなくなると華々莉も公園を後にした。
「元気でね・・・。せっかく記憶を操作して正気を取り戻したんだから、少しはマシになったでしょう?」
誰に言う事無く華々莉は呟いたが誰も答えない。
「これから私の復讐が始まるんだから、余計な物には出て行って貰わなきゃ」
〇
「成程。そう言う経緯だったんか。けど全部お終いやな」
日向華々莉の記憶を一通り見た彩月は華々莉の行おうとした復讐の意味を知った。
「これからどうするんかなあ・・・」
先の見通しが無かった彩月だったが、朱奈の姿を華々莉の記憶で見た事で、自分を未来から過去に連れて来た朱奈もこの時間にいる事を確信していた。
「そろそろ風見野に帰るか・・・。それに見滝原の様子も見ないといかんなあ・・・」
これからをイメージした彩月は暫く眠りに付く事にした。
いかに《魔法少女》でも眠気には勝てない。眠る事は人間と《魔法少女》、双方にとって必要な精神衛生上必要な行動と言えた。
だからこそ、彩月は眠る。
これから大きな戦いが待ち構えている事を無意識に悟り眠り始める。
《最強の魔女》になると言う目的の為に。
これでサツキ☆マギカのエピソードは完成しました。
ようやく物語を作り終えて一段落付きました。