偽書魔法少女サツキ☆マギカPSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI SATUKI MGICA   作:ジャックノルテ

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魔法少女になれるんやね

 ウチが目を覚ますとそこは見覚えの無い天井だった。

 起き上がり周りを見ると腕に刺さっている点滴や独特の匂いからここが病院だと言う事が分かった。

 時間は夜中だったが傍らにあるナースコールを使い看護士を呼んで見た。

 ウチはお医者さんと看護士さんから診断を受けながらも事情を聞く事に成功した。

 それによるとウチは一週間前にヒイラギ町の公園で倒れていた所を発見されて病院に運ばれたらしい。

 外傷は無かったが意識は不明のままだった。

 その為にウチは入院していたと説明された。

 説明を聞きながらウチは眠っている間に見ていた夢の事を思い出していた。

 

 

 

 

 しばらくするとウチは病院を退院する事が出来た。

 退院後、ウチは眠っている間に見た夢の事を暇さえあればノートに書き記していた。

 

 

《人の記憶は所詮、忘却に過ぎない》

 

 

 誰が言った言葉かは忘れたがウチはその言葉がとても印象的に残っていた。

 今は筒地綾女の記憶がウチの中に残っているかも知れないがいずれは忘却してしまう。

 だからこそウチは自らに刺しこまれた筒地綾女の記憶を書き記していた。

 

 

 その少女は愛を知らなかった。

 だからこそ少女は愛を知る為に奇跡を起こした。

《魔法少女》としての契約の対価として少女が望んだのは自分を愛する少女を作り出す事だった。

 筒地綾女。流浪の《魔法少女》。キュウべえことインキュベーターから全てのルールを聞きながらもあえて《魔法少女》となる事を選んだ異端の存在。

 ウチは眠っている間、筒地綾女の人生を追体験していた。筒地綾女がまだ××××と名乗っていた時を含めて記憶の種をウチに差し込むまでの人生を追体験していた。

 ××××と言う名前だった頃の筒地綾女は確かに愛を知らない人物だった。

 だからこそ綾女はキュウべえとの契約に応じたのだった。契約と言う名の奇跡を使い筒地綾女は1人の少女を産み出した。

 朱奈。奇跡によってこの世界に産まれた筒地綾女を愛する少女。筒地綾女と朱奈は奇跡によって互いを愛する様に仕向けていた。

 ウチに記憶の種を仕込む、あの時までの筒地綾女の人生をウチは追体験していた。

 だからこそウチは筒地綾女と同じ位、《魔法少女》の契約を熟知し始めていた。

 けれどウチは契約内容を知れば知る程、ウチが《魔法少女》となる事が難しい事に気が付いていた。

 何故ならウチは筒地綾女と出合った時にインキュベーターことキュウべえの姿が見えなかった。あの時、筒地綾女はキュウべえを肩に乗せて戦っていた。けれどもウチにはキュウべえの姿が見えなかった。つまりはウチには《魔法少女》となるべき資格が無いと言う宣告とも言えた。

 ただし筒地綾女の記憶からはキュウべえが筒地綾女に語った契約内容には語られていない何かがある事を筒地綾女は感じ取っていた事を確認していた。

(それはどうにも筒地綾女に関わる事柄の様でもあった)

 ウチは《魔法少女》になりたかった。けれどもウチにはなる資格が無い。ウチはこれまで味わった事の無い葛藤を味わっていた。

 どんなに願っても決して叶わない願い。叶わなければ叶わない程、ウチは望んでいた。《魔法少女》として契約を結ぶ事を・・・。

 その為の願いは既に決まっていた。

 

 

 

 

 あれから数ヶ月・・・。

 ウチは相変わらず退屈な日常を過ごしていた。その日も退屈でウチは午後の雨の中を透明なビニール傘を翳して散歩していた。

 退屈に耐えられなくなるとウチはいつも1人で散歩をしていた。

 今日もお気に入りの自然公園を1人で歩いている。

「どうしてウチが契約出来ないんや?ウチの様に契約を望む者が出来なくてどうして中途半端な気持ちでいる奴らが契約出来るんや?ウチはルールを全て理解した上で契約をしたいと願っているのに!」

 ウチはつい声に出して不満を吐き出してしまった。そうした所でその不満が解消されないのは分かっていたけれども言わずにはいられなかった。

 その時だった。突如として日の光がウチに降り注いで来た。見上げると風の動きが生み出した偶然によって雨を降らす黒雲の間に太陽が顔を出しただけの事だった。

 傘を上げて空に視線を向けた時、ウチは見た。

 空中から音も無く流れ落ちて来た透明な鎖がまるで吸い寄せられる様にウチの元へ落ちて来る物を。思わず左手を伸ばして鎖を掴もうとした。

 けれど鎖はまるで実体を持たないかの様にウチの左手の中に消えて行った。

 ありえない現象が目の前で引き起こされてウチは戸惑った。

 戸惑いに追い討ちを掛ける様にウチの心に異質な何かが入り込む感覚が走った・・・。

 そう・・・。ウチは知っていた。この感覚は・・・。

 何らかの思いがウチの中で広がって行く。

 どす黒く暗い感情。

 余りに強烈過ぎて最初は理解出来なかった。

 でも直ぐに理解出来た。

 

 

 これは・・・。

 

 

 足元で音がしてウチはハッとした。右手で握っていた傘を落とした音でウチは正気に戻った。体が少し湿っていてウチは暫くの間、ぼんやりしていた事に気が付いた。

「何が起きたんや?ウチは一体?」

 周りには誰もおらずウチの呟きに答える人はいない筈だった。

(彩月。聞こえるかい?彩月)

 それは聞き覚えのある声だった。と言ってもウチが直接、聞いた訳じゃあない。

 その声はウチの中にある筒地綾女の記憶から聞き覚えた声でもあった。

「何処にいるの!キュウべえ!」

 ウチは周りを慌てて見渡した。そして傘を拾うと声がしたと思しき林の方向に足を向け必死に周りを見渡していた。

(僕はここにいるよ。彩月)

 そう言って近くの木の影から白くて耳の長い赤い瞳をした生物がウチの前に現れた。その生物こそが《魔法少女》との契約を結ぶ存在、キュウべえことインキュベーターだった。

「君の事は綾女が助けた時から暫く観察していたよ。君が綾女の記憶を保持している事も知っている。前は資格を持っていなかったけれど今、僕の姿が見えていると言う事は君には資格がある。理由は解らないけれど・・・。彩月。僕と契約して《魔法少女》になってよ!」

 それはウチが待ち望んでいた言葉だった。キュウべえもウチと契約を結ぶつもりでいてくれた。

「本当にウチは契約出来るんやね?《魔法少女》になれるんやね!」

 興奮するウチの言葉にキュウべえは頷いて見せた。

「そうとも。さあ彩月。君はどんな願いで僕と契約するんだい?」

 待ち望んでいた瞬間に私は喜びを隠せないでいた。

 だからウチは思っていた全てをまずキュウべえに話す必要を感じた。

「ウチはずっと待っていたんやで。キュウべえ。ウチはずっと契約をして《魔法少女》になりたかった。ウチは《魔法少女》のルールを全て理解してる。《魔法少女》がいずれ《魔女》となる事も知ってる。だからこそウチはこの命をウチが存在する宇宙の為に使いたい。だからウチは他者の因果律や魔法を奪いたい!他人の因果や魔法を奪ってウチは宇宙に貢献する最大の《魔女》となりたい!それがウチの願いや!インキュベーター!」

 ウチが全ての思いをインキュベーターに言い放った時、ウチの体に衝撃が走った。

 それは筒地綾女の記憶からも体験したのと同じ衝撃だった。体の中から命が飛び出して行く衝撃。ウチの左胸から紫色に光り輝く物が飛び出して来た。

「受け取って!それが新しい彩月の魂だよ!」

 キュウべえの言葉を受けて私は光り輝く物に手を伸ばした。

 必死さは無かった。

 特別な動きはいらない。

 ただいつもの様に焦る事無く物を取る為に伸ばした。

 握り締めた瞬間にウチの体を紫色の光が包み込んだ。

 紫色の光はウチの姿を変えて行く。

 着ていた服が黒いフリルのついたドレスに変わり右目には宝石の様な物が被さった。

 そして頭にも何か飾りが付いた見たいだがそれを見る事は出来なかった。出来ない筈だった。

 けれどもウチには見えていた。何故か解らないがウチには自分の姿をまるで他人を見つめるかの様に認識する事が出来た。

 ウチの頭には名前と同じサツキの華を模した華飾りが付けられ右目には宝石が眼帯の様に覆い被さっていた。

 その宝石は紫色に輝いておりウチはそれの宝石が自分のソウルジェムだと直感した。同時にウチはこの自分の姿を何処から見ているのかも理解していた。

 ウチの右目に覆い被さるソウルジェムを通してウチは目の前にあるキュウべえの目に写るウチの姿を見ていたのだ。

 それだけでは無く周囲の雨粒に光の反射で写るウチの姿をもウチには見えていた。まるで昆虫の様に多数の目を持った様である。

「どうやら彩月は光の反射によって回りに移る全ての光景を見つめられる様だね」

目の前にいるキュウべえはそう語ったがウチは始めての感覚に戸惑い思わず膝を付いてしまった。

「彩月。大丈夫かい?」

「大丈夫や。キュウべえ。初めて《魔法少女》になったものやから旨く能力を使えないのや」

 ウチはキュウべえに素直にウチの現状を答えていた。

「そう見たいだね。じゃあ僕も彩月の魔法をコントロールする手伝いをしてあげるよ」

 思った通りにキュウべえはウチにそう告げてくれた。

「良いの?そんな事をして?」

「大丈夫だよ。僕たちインキュベーターは《魔法少女》の手助けをするのが使命だからね。《魔法少女》が旨く魔法を使いこなせる様にアドバイスするのも僕らの仕事の内さ」

 感情の無いキュウべえはかつて筒地綾女に行った行動をそのままウチに行っていた。その事にウチは改めてキュウべえに感情が無いと言う事を実感していた。

「じゃあキュウべえ。アドバイスは後で」

 ウチの言葉は途中で切れた。ウチはその広い視界によってウチの様子を驚いた様に見つめる同じ年頃と思しき少女の存在に気が付いていた。

 気が付くとウチは駆け出して数歩で少女に追い付くとそのまま近くにある木に叩き付けた。少女は痛みからうめき声をあげ苦痛から顔を歪めウチを怯えた目で見つめていた。

「別に見られても構へんけどあんたでウチの魔法を試させてもらうで」

 ウチは右手を少女に向けた。そのままイメージする。自分の願った奇跡である相手の因果律を奪うイメージを!

 その瞬間、少女の顔に異変が生じた。どうやら苦痛が増した様により苦しげな表情となって行く。

 同時に少女の額から何かが飛び出てウチの右手に入った。

 手の中を見てみるとそれは鎖だった。白い色をした短い鎖だった。

 それは直ぐにウチの掌の中に消えて行った。

 同時にウチはウチの中にある因果が増幅された様な感じがしていた。

 ウチは因果が増幅された事を感じ取っていると目の前の少女はぐったりとしてそのまま倒れ込んでしまった。ウチの目には死んでしまった様に写っていた。

「どうやらこの少女は死んでいないみたいだね」

 キュウべえは少女の脇に立ち観察しながらウチに語りかけて来た。

「生きているの?どうして?」

 ウチは少女が生きている事に対して関心は無かったが何故、倒れたのかは興味があった。

「どうやら彩月の魔法で因果律を奪われた反作用で奪われた相手は生命力を著しく消耗して倒れたみたいだ。加減を間違えると恐らく死んでしまうよ」

 キュウべえの言葉にウチは考えさせられた。

 確かにウチはまだ人を殺すと言う覚悟を決めていなかった。

 けれども筒地綾女の記憶の中には間接的であれ自らの手を下したのであれ殺人の記憶があった。

 だからウチは筒地綾女の行った殺人を自分が行ったと思い違えていた。まだ殺人を行ってもいないのに覚悟を決めていたと思い違えていた。

 ウチはまだ殺人をする事への覚悟を決めていない。だからウチは内心、少女が生きている事に少しだけホッとしていた。

「因果律を奪われた事でこの少女は契約する事が出来なくなってしまった。けれどその分、彩月の因果は増えている。君の魔法は極めて興味深いよ。彩月」

 キュウべえの言葉にウチは目の前に意識を戻した。少女が生きているのならここに長居するのはまずい。

「キュウべえ。ウチへのアドバイスは自宅で行って貰っても良い?」

「勿論だよ。それが僕の仕事だからね」

 ウチの言葉に答えたキュウべえはウチの肩に乗っかって来た。それを見るとウチは《魔法少女》に変身した際に落とした傘を拾い上げ《魔法少女》としての変身を解くイメージを抱いた。

 イメージ通りにウチは元の私服へと戻り左の掌にはソウルジェムが変化した銀色の指輪が光っていた。

「これから楽しくなりそうや」

 ウチはとても楽しい気分を抱いていた。

 こんな楽しい気分は久しぶりや。

 

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